LOVELYZ、グループ活動終了への思い…「個性と感性」新しい価値を生み出したガールズグループ ― 古家正亨コラム

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久々の連載です! お元気でいらっしゃいますか? MCの古家正亨です。2年間に渡り、新型コロナウイルスの影響で、韓国スターが来日できない状況が続く中ではありますが、BTS(防弾少年団)やBLACKPINKといったワールドスター達の人気を中心に、ここ日本でも相変わらずの人気を誇るK-POPですが、その一方で、今年5月22日にはGFRIEND(여자친구)が6年間の活動に終止符を打つなど、これまでシーンを牽引してきたスター達との別れも現実問題として存在します。

そして、僕がデビュー当時から応援してきたガールズグループがまた1つ、11月にその活動を終えようとしています。2014年11月のデビューの8人組ガールズグループ「LOVELYZ」です。

そもそも所属事務所のWoollim Entertainment(以下Woollim)には、ロックバンドのNELLやK-HIP HOP界のレジェンド的存在でもあるEPIK HIGHが所属していたこともあり、彼女たちの先輩にあたる2010年デビューのINFINITEがデビューした当初も、当時のK-POPの主流だったフックソング的なサウンドよりも、80年代から90年代の洋楽やJ-POPを意識した音楽作りが印象的で、よりメロディーを重視したところが新鮮でした。それはプロデューサーだったハン・ジェホとキム・スンスからなるSweetuneの功績も大きかったと思いますが、Woollimのイ・ジュンヨプ代表の的確な判断がINFINITEを成功に導いたといっていいでしょう。

そんなWoollimが送り出した初のガールズグループがLOVELYZだったんですね。当時も少女時代やApinkといった清純さを売りにデビューしたいわゆる清純ドル系のガールズグループは存在しましたが、彼女たちにはそこに“神秘性”がありました。その“神秘性”の根源にあったのは、シンガーソングライターであり音楽プロデューサーであり、日本ではバラエティ番組のMCの印象の強いユン・サン(윤상)の存在です。

ユン・サンといえば、87年に作曲家としてデビュー後、韓国歌謡界の伝説的女性歌手で日本でも活躍していたカン・スジ(スージー・カン)の代表曲「紫色の香り(보라빛향기)」(1990年)を提供するなど活躍。90年にはシンガーソングライターとしてデビューを果たした韓国を代表するアーティストで、その切ない歌謡的なメロディーとシンコペーションを多用したリズム、特有のシンセサウンドは、特有の清涼感と懐かしさを与えてくれます。そんな彼がデビュー後初めて女性アイドルグループをプロデュースするということでも韓国では注目されたのです。

写真=Woollimエンターテインメント
すでに実績を作り上げたベテランのシンガーソングライターがアイドルグループのプロデュースを手掛けることはそれまで韓国ではほとんどなく、しかも長くK-POPを聴いてきた人であれば「あのユン・サンが!」という驚きをもって迎えられたのは言うまでもありません。ところが彼は単独でLOVELYZをプロデュースするのではなくDAVINK、Spacecowboy、East4Aという当時、韓国のエレクトロニカ音楽シーンで活躍していたプロデューサーたちを迎え、音楽クリエイターチームOnePiece(1piece)を結成し、彼女たちの楽曲を作曲・プロデュースすることにしたわけです。ですから、LOVELYZの曲は、単なる懐かしさだけでなく、それをしっかり今風の音に解釈しながら、独特の清純さを表現することに成功したわけです。デビュー先行シングルとして発表した「昨日のようにグットナイト」というバラード曲は、まさにそんなユン・サンらしさを今風(2014年当時)に解釈された曲と言えるんじゃないでしょうか。

デビュー前からメンバーがソロで楽曲を先行リリースしていたこともあり、それらがコンパイルされたフルアルバム(「Girls' Invasion」)でデビューとなったことも、シングル先行デビューが多かった当時のアイドルシーンを考えると、韓国で「信じて聴くLOVELYZ」という形容があった程、やはりパフォーマンスではなく楽曲重視のグループであったと言えるのではないでしょうか。

ただ、そんな彼女たちも最初から成功を収めたわけではありませんでした。有らぬ疑惑でメンバーのソ・ジスさんが、デビューのショーケースの舞台とプロモーション活動にまともに参加できなかったことはかなり大きな痛手でした。でもそんなジスさんが復帰し、本格的に活動に参加できた2015年発表の1stミニアルバム『Lovelyz8』は、僕が思うに彼女たちのベスト作品だったと思います。タイトル曲の「Ah-Choo」のレトロポップとしての完成度の高さはもちろんですが、収録曲すべてが大衆性と作家性を見事に両立していて、どの曲も聴き応えのある作品に仕上がっていました(ただ個人的には両親に内緒で彼氏と出かける旅行をテーマにした1stフルアルバム収録曲の「秘密旅行」が一番好きですね)。

日本でも定期的にコンサートやイベントを開催し、プロモーション来日も行っていましたが、日本人にも受け入れられやすいメロディーを持つ彼女たちの楽曲は、もっと日本でも評価されても良かったのではないかと思います。これはメディアにいる人間の一人として、残念なことですし、もっとその魅力を紹介してあげれば良かったと後悔しています。

写真=Woollimエンターテインメント
ベイビーソウル、ユ・ジエ、ソ・ジス、イ・ミジュ、Kei、JIN、リュ・スジョン、ジョン・イェインという個性的で実力あるメンバーは、それぞれがそれぞれの得意とする領域でも活動。ソロ歌手として、ミュージカル俳優として、バラエティタレントとしても活躍してきましたが、改めてその名が知られることになったのは、2019年にMnetで放送されたガールズグループ6組によるカムバックバトル番組『Queendom』だったのではないでしょうか。バトルとしてはどうしても結果を求められるため、そういう意味では(最終的には)残念な結果に終わってしまいましたが、同時に彼女たちの楽曲の良さが再評価されたこと、そしてその曲の世界観を彼女たちが実に巧みに表現していたということが分かっただけでも、この番組に参加した意味はあったのではないでしょうか。

僕が一緒にお仕事をさせてもらって感じた彼女たちのイメージは、メンバーそれぞれが全く違った個性と感性を持っていて、それがグループとして絶妙な価値と空気感を生みだしていたということです。個性と感性のぶつかり合いは、時に摩擦を生みます。でも、それによって、予期しなかった新しい価値を生み出すことも可能です。LOVELYZはそういった過程を経て、彼女たちにしか出せなかった価値をしっかり出せたからこそ、7年間、多くの人から熱い支持を得てきたのではないでしょうか。

これからそれぞれが新しい道を歩むことになりますが、彼女たちが残してくれたLOVELYZ印の音楽的財産はこれからも多くのK-POPファンに曲とともに、聴き継がれ、語り継がれていくのではないでしょうか。

古家正亨×Kstyleコラム Vol.13

古家正亨(ふるやまさゆき)

ラジオDJ・テレビVJ・MC
上智大学大学院文学研究科新聞学専攻博士前期課程修了。2000年から韓国音楽を中心に、韓国の大衆文化をあらゆるメディアを通じて紹介。昨年までは年平均200回以上の韓流、K-POP関連のイベント等のMCとしても活躍している。

現在もラジオでは、NHK R1「古家正亨のPOP☆A」(毎週土曜日14:05~)、NORTH WAVE「Colors Of Korea」(土曜11:00~)、CROSS FM「これ韓~これであなたも韓国通~」(土曜18:30~)、Mnet「MタメBANG!」(隔週日曜20:30~他)、配信では韓国文化院YouTubeチャンネル「Kエンタメ・ラボ~古家正亨の韓流研究所」や韓国大使館YouTubeチャンネル「韓ON」といった番組を通じて日本から韓流、K–POP関連の情報を伝えている。
YouTubeチャンネル「ふるやのへや」では妻でアーティストのMina Furuya(ホミン)と共に料理やカルチャーなどの情報を発信中。

Twitter:@furuyamasayuki0

記者 : Kstyle編集部