ユンナ、韓国で逆走ヒット!古家正亨と語るこれまでの活動「皆さんの人生の挿入歌になりたい」 ― Vol.2

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この2023年度は日本でドラマ『冬のソナタ』がNHKのBSで放送され、大ヒットし、韓流ブームが興ってから20年という節目。20年という歩みを業界の内側の立場から見つめてきた僕自身が、そんな20年を振り返って、この先の10年、20年を見据え、今伝えたいこと、残しておきたい言葉を、この連載で伝えていければと思っています。

そんな韓流20周年振り返り企画第1弾として、来年日本デビュー20周年を迎えるシンガーソングライターのユンナさんへのインタビューをたっぷりお届けしていきたいと思います。

先日、8年ぶりに来日を果たし、初のファンミーティングを日本で開催したユンナさん。昨年リリースした「Event Horizon」が記録的な大ヒットとなって、さらにはBTS(防弾少年団)のRMさんとのコラボ曲「WINTER FLOWER(feat.RM)」を介して、彼女のことを知ったというARMYも多いのではないでしょうか?

韓国デビューに先駆け、いち早く日本でデビュー。その後韓国に帰国して、本国でもデビュー。それ以降多くのヒット曲を生み出してきた彼女ですが、今回は、デビュー当時から彼女と仕事をしてきた私、古家が、じっくり、たっぷり、デビュー当時のことから、RMさんとのコラボの話、さらにはヒット曲「Event Horizon」のこぼれ話に至るまで、幅広くお話を聞かせてもらいましたので、ぜひお楽しみください!

Vol.1 ― ユンナ、古家正亨との出会いは19年前!日本で16歳でデビュー「あの時の情熱が今も自分を支える力」



ヒット曲「Event Horizon」は済州島の風景

古家:デビュー当初は、提供してもらった曲をメインに活動していたと思います。でも、ここ数年は、ご自身でもずっと曲も書いていたし、最新のヒット曲「Event Horizon」も作詞・作曲されていますけど、タイトル曲(活動曲)を決めるにあたって、自分が書いた曲と、他の人から提供してもらった曲っていうのは、どういう感じで決めるんですか?

ユンナ:そうですね……難しいですね。事務所の方々に選んでくださいっていうときもあるけど、今回のアルバムは、本当に純粋に音楽と向き合ったというか、「“アーティスト・ユンナ”としての考えを、ちゃんと聞かせるようなアルバムにしましょう」っていう話をして、タイトル曲を決めた感じですね。

古家:つまり、自分の作った曲だけに絞らず、そのアルバムのコンセプトに合わせて決めている感じかな?

ユンナ:そうですね。

古家:曲作りって、スタジオにこもって作るタイプなの? それとも、何か、なんとなく思いついて……。

ユンナ:私の場合は、完全に曲はこもって作るタイプです。長く座ってれば、座るほどよく出てくる(笑)。

古家:へえ、そうなんだ。「締め切り! お願い!」って、それで追い込まれて作っていくタイプ?

ユンナ:そうですね、何曲も作って、それで許可もらってっていう感じですけど、でも最近は、やっぱり座ったまんまでは、全然書けないこともあって……今回の「Event Horizon」の場合も済州島に行って書いたんですね。

古家:へぇ、済州島ですか……。

ユンナ:なんか、ずっと、じっとしていると、考えも固まってしまうというか。なので、ずっと動いて、新たな風景を見ていると、ちょっと違う、新しい考えが出てきたりするから、曲作りにはいいと思うんです。

古家:あの曲から見える風景は済州島だったんですね。

ユンナ:はい、済州島の夕日を見て……。すごく綺麗でしたね。走らせていた車を止めて、一瞬降りて、ずっと眺めていたんですけれど、周りを見ると、みんな車から降りたり、そこに立ち止まって、同じ夕日を見ていたんですね。そのときの空気感が、みんなその風景に対して「何かを感じている」と思ったんです。一日の最後のシーンに対して、すごくHOLY(聖なる)なものを感じて、それを歌詞にしたためた感じ。自分が書いたっていうより、その夕日に著作権を与えられたら、たぶん、20、30%ぐらいは……。

古家:夕日、結構持ってくねぇ(笑)。今、話が出ていましたが、2022年3月に韓国でリリースされた6枚目のアルバムのリパッケージ盤に当たる『END THEORY~FINAL EDITION』に収録されたタイトル曲がその「Event Horizon」なわけですが、僕、正直に聞きたいんですけれど、これ、リパッケージ盤じゃないですか。元々、リパッケージを出すつもりで、この曲を用意していたんですか?

ユンナ:アルバムを出すと決めて、結構、何十曲も作ったんですね。で、事務所側は「勿体ないから、この中で、何曲か収録したら、リパッケージ盤で出せばいいんじゃない?」って言われて……。でも「いや、ちょっと、もっといいのを書けるかもしれない」っていう気持ちになったんですね。その気持ちに乗ってしまって「私、新しく書きます」って言ってしまったんですよ。締め切りをどうするの? っていう感じでした。というのも、3週間くらいで、3曲仕上げなくちゃいけない状態になったんですよ。そこで「もう、どうしようもないな。一応、動きましょうか?」っていう思いで、自由な気持ちで済州島に向かったわけです。

古家:元々、ストックはあったんですね。

ユンナ:そうなんです。
 

韓国で逆走ヒット「気づけばどんどん順位が上がっていって…」

古家:そして、書き直した曲の、その内の1曲が、この曲だったわけですね。これが、いわゆる韓国で逆走ヒットと言われる、リリースされて時間が経ってヒットしたわけじゃないですか? でも、僕、何となく、そのリリースされた後に、この曲のイントロを聞いた瞬間、爆発的ではないかもしれないけど直感で「売れるんじゃないかなぁ?」って思いましたけどね。あるじゃないですか、聞いた瞬間、なにか確信の持てるものがある時って……。でも、不思議なのが、なぜ逆走ヒットになったのかっていうことですよね。メディアが伝えるその理由って、かなり抽象的でしたけど。

ユンナ:その理由が、大学祭ってよく言われていますけど、私も未だに理解ができないんです。ただ、自分で自分なりに分析すると、パフォーマンスが特別良いとか、曲がすごいとかは、当然ですが(笑)、パンデミックの時期が終わって、今までずっと中止されてきた公演が、また再開し始めたじゃないですか。でも、大学祭なんて、新入生たちは大学祭を一度も経験せず、3年生になっちゃっているわけです。だから、「ここで思いっきり楽しみたい」っていう気持ちが強かったと思いますし、そこに出演する様々なアーティストに対して、いろいろと事前に勉強をしたんじゃないかと思うんですね。だって、その段階では決して売れているアーティストっていうわけではなかったんですよ。でも、「そこまでみんな知ってるか?」っていうくらい、みんな私の歌のことを知って、歌っていたんですね。

古家:へえ~、すごいですね。

ユンナ:お互い、「すごく会いたかったんだね?」「音楽を楽しみたかったんだね?」っていうのが、ステージにいて伝わってきましたね。

古家:だからこそ、その大学祭で歌ったパフォーマンスが話題になって、その良さが口コミでどんどん広がっていって、気づけば、どんどんチャートで順位が上がっていって……。今も配信チャートでTOP10に入っていますよね?

ユンナ:私、トップ・アーティストです!

古家:そうですよ! 自分が書いた曲の中では一番のヒットになりますか?

ユンナ:そうですね、ここまでのヒットはなかったです。著作権料、ありがとうございますです(笑)。あ、夕日さん(笑)。一番嬉しいのは、自分のヒット曲が増えたっていうのもあるけど、それよりもファンの方々が「いやぁ、ユンナはできる子だったよ!」みたいな、「信じていたんだ! もう1回、その力を見せてくれるって」っていう風に思ってもらえることの方がうれしいですね。それが、すごく自分の自信感につながっていて、自分のエネルギーに変えて、今過ごしているっていうその姿が、一番、私にとっては大切なこのヒットの成果だと思います。

古家:僕も、このヒットってすごくうれしかったですし、ユンナさんが「どんな気持ちなんだろう?」って、すごく聞きたかったんです。もうすぐデビュー20年じゃないですか。デビュー20年ぐらいで、自分で書いた曲が、最大のヒットになることって、なかなか難しいですよ。日本でも、実現するのは難しいですから。

ユンナ:そうですよね。

古家:だから、この時期にこういうヒットが生まれるって、すごいモチベーションをあげてくれるんじゃないですか?

ユンナ:いや、もう必死でやっていかないと。でも、うん、モチベーションは上がりますよね。
 

8年ぶりの来日「曲もヒットして、日本行きたいって(笑)」

古家:そんな中、来日しました。8年ぶりです。ズバリ聞きます。今回、来ようと思ったのはやっぱり、この曲のヒットもあったし……。

ユンナ:はい。

古家:だから今回、このタイミングって感じですか?

ユンナ:でも、もう、日本で売れたいっていう気持ちは……正直ないです。

古家:重みある言葉ですね。

ユンナ:「もっと愛をください! 応援してください!」なんて言えないですよ。だって、もう8年も売れてなかったし、来ていなかったですし、日本に。どちらかって言うと、申し訳ない気持ちが大きいです。日本でずっと待ってくださっている、長い間応援してくださっているファンの方々に「絶対に一回は挨拶したい」って思っていましたけれど……。やっぱり、それが今っていうのは、今なら、ちょっと、アーティストとしてクラスが上がってきちゃったから、事務所に言えるじゃないですか、言いやすいじゃないですか。日本行きたいって(笑)。

古家:(笑)。

ユンナ:「大きなお金にはならないけど、行ってくるわ!」「みんなで行って、美味しいのを食べてくるよ!」「ちょっと、クレジットカード、お願いします~」って(笑)。

古家:だよね。なるほどね。少しは言えると。それだけのヒットになっているし。

ユンナ:ライブではなく、初めてファンミーティングという形にしたのも、ここに至るまで、どうだったのかも含めて、お話しさせてもらって、最近はこんな曲も歌っているよっていう、そういうやり取りができるといいなと思ったからなんです。正直に言うと、やっぱりライブでちゃんとした、考えてるパフォーマンスをやるための舞台を作るっていうのは、いろんな努力もいるし、いろんな利害関係も入ってくるし、考えていたより、しょぼかったりすると、ちょっと残念じゃないですか。でも、ファンミーティングであれば、ちょっとそういうプレッシャーを置いて、共感できる時間が作れると思ったんです。

古家:なるほど。確かにライブだとカロリーも高いし、バンドでやんなきゃいけないかなぁとかね、考えちゃうよね、いろいろと。それは、去年、韓国でコンサートをやったじゃないですか。その影響もありますよね? ソウルのハンドボール競技場でやった、あのライブ。

ユンナ:本当に多くの方々が来てくださいました。スタンディングで。会場全てをスタンディング席にして。

古家:多分、韓国の女性アーティストで、あの会場で、スタンディングでやったのは、初めてじゃないですか?

ユンナ:そうですね、結構ロックだったんですよ。2日間、やりました!

古家:合わせて1万人以上動員したわけですね?

ユンナ:はい、すごく嬉しかったです。私と同年代の方々が、頑張って立っているから、私も頑張らないとって。みんなで一緒に歌って……とにかくファンの皆さんの気合がすごかったです。もうしばらく、こんな規模のステージがなくても、頑張って音楽をやっていける力になりそうです。
 

「皆さんの人生の挿入歌になりたい」夢を語る

古家:じゃ、これからアーティストとして、今更目標っていうわけじゃないんだけれども、どういう方向を目指していきたいって気持ちですか?

ユンナ:昔からの私の夢なんですけど、きっとこれは、私の人生が終わるまで完了しないと、できたとは言えないかもしれません。自分の歌が、聞いてくださる方々の人生において、“主人公”になれるような、そういう歌を歌い続けられたらいいなと思いますし、私の歌が、皆さんの“人生の挿入歌”になれたらいいなぁと思います。

古家:いい言葉ですね! “人生の挿入歌”かぁ。これからもそんな素敵な歌を、絶対作り続けて、届けてくれると思いますが、聞いたところによると、ライブアルバムを作るって? でも、ライブアルバムって言っても、ライブの音を収録してリリースするのではなくって、一発録りというか、アンプラグドっぽくやるって感じでしょ?

ユンナ:そうなんです。結構苦労しましたね。パンデミックのときに、ずっと公演がキャンセルされて、そのセットリストがもったいないねってなったんです。それで、「みんなで収録みんなで収録しましょう」ってなって……レコーディングしたんですね。ブースを分けずにみんな同じスタジオに入って、「せーの」で収録しているので、修正もできないし、プロのセッションの方々もみんな緊張してて、良い緊張感の中で楽しく作りました。

古家:昔は、みんなそうやってレコーディングしていたんだけど、最近はもう、それこそ全部コンピュータ使って簡単にできちゃうから、逆に言うと貴重だよね、これ。

ユンナ:とても貴重で、もうできないんじゃないですか? こんなすごいメンバーを集めるのも。今、みんなも忙しいだろうし……。あんな時期があったから、みんな時間を出して、そこに努力を注いで、集中してっていうのができたと思います。

古家:しかも、韓国のセッションの人たちの技術って、レベル高いよね? なんか、グルーヴ感がすごいあるじゃないすか、韓国のセッションミュージシャンって。

ユンナ:ちょっとアメリカ的ですよね?

古家:アメリカっぽいよね、特に、ベースとドラムがね! わかるわかる。そういう空気がちゃんと感じられるアルバムになりそうですね。ならばせっかくだから、その音源、ハイレゾでも配信してほしいなぁ。息遣いまで感じたいわ。

ユンナ:古家さんから、事務所に伝えてください。

古家:ハイレゾでも、聞きたいなぁ~。

ユンナ:それ、事務所へのお願いじゃないですよね?


古家正亨×Kstyleコラム Vol.22

古家正亨(ふるやまさゆき)

ラジオDJ・テレビVJ・MC
上智大学大学院文学研究科新聞学専攻博士前期課程修了。2000年から韓国音楽を中心に、韓国の大衆文化をあらゆるメディアを通じて紹介。昨年までは年平均200回以上の韓流、K-POP関連のイベント等のMCとしても活躍している。

現在もラジオでは、ニッポン放送「古家正亨 K TRACKS」(日曜21:10~)、FM NORTH WAVE「Colors Of Korea」(日曜11:00~)、テレビ愛知「古家正亨の韓流クラス」(隔週水曜 深夜0時~)、BSフジ「MUSIC LIST~OSTってなに~」(毎週日曜20:30~)、配信では韓国文化院YouTubeチャンネル「Kエンタメ・ラボ~古家正亨の韓流研究所」といった番組を通じて日本から韓流、K–POP関連の情報を伝えている。

自身のYouTubeチャンネル「ふるやのへや」では妻でアーティストのMina Furuya(ホミン)と共に料理やカルチャーなどの情報を発信中。

自身の歩みを記した初のエッセイ『K-POPバックステージパス』(イーストプレス刊)を昨年末発売。

Twitter:@furuyamasayuki0

記者 : Kstyle編集部