「ヨンガシ」“父親”の役目は誰にでも務まるものではない

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写真=CJエンターテインメント

“疑似父親”の役目を果たすとき、実の家族の命が危うくなる。

パニック映画「ヨンガシ 変種増殖」は、様々な観点から分析できる作品だ。スクリーンの中ですぐに分析できる要素を、映画館を出たその場で数えてみても、少なくとも三つ以上の観点から分析できる。映画が公開されると、レビューが記事としての斬新さを失いがちであるため、今回はまだどのメディアも分析していない“父親”という観点から見てみる。

映画の主人公ジェヒョク(キム・ミョンミン)は、製薬会社の営業マンだ。ご存知の通り、営業マンは家を出る前に、自分のプライドを布団と一緒にしまってから出社しなければならない。自分を抑え、何でも差し出す態度で相手に接し、身を粉にして働いて契約を取るしかない。

薬品を継続して購入してもらうためには、常にキム院長(ソン・ヨンチャン)の機嫌を取らなければならない。そのため、ジェヒョクはキム院長の家族に雑用をさせられる。営業職という職業の特性である。遊園地でキム院長の家族がアトラクションを楽しむ間、ジェヒョクは彼らの荷物を持って待たなければならず、時には写真も撮らなくてはならない。

ところが、ジェヒョクの実の息子が遊園地に行きたいとねだると叱りつける。皮肉なことに、キム院長の家族に対しては尽くすが、実の息子は遊園地にも連れて行かない。映画の序盤では、ジェヒョクは家長としての、また、父親としての“職務”を放棄している。

ジェヒョクが父親の役目を務めるようになるのは、息子と娘がヨンガシ 変種増殖に感染してからだ。ヨンガシ 変種増殖に感染するまでは父親としての役目を果たすというより、面倒くさがり、役目を放棄した振る舞いをしているが、家族の生死がかかった問題が発生してからは、父親に徹するようになる。この映画の家族主義は、ヨンガシ 変種増殖という“災難”に見舞われて初めて現れる。

しかし、ジェヒョクが“疑似父親”の役目を果たすとき、実の息子への父親としての役目は危機にさらされる。彼が“疑似父親”になったのは、苦労して手に入れた治療薬の“ウィンダジョル”(映画に登場する唯一の駆虫薬)を、ヨンガシ 変種増殖で死んでいく知らない子供に手渡した場面である。百万ウォンを払って手に入れたウィンダジョルは、ジェヒョクの家族を救うだけの分量しかなく、感染者全員を救うことはできない。

だが、ジェヒョクは、この貴重なウィンダジョルを、死んでいく子供がかわいそうだという理由だけで、その子の母親に手渡し、その上、自分の息子や娘、妻に飲ませる分も他の感染者の家族に奪われてしまう。知らない子供も救いたいという“疑似父親”の役目のために、実の父親としての役目をまっとうできなくなってしまうのだ。

ジェヒョクが父親としての役目を果たせない事態は、彼が他の家族に接するときに起こる。最初は父親としての役目を果たしていない彼が、災難に見舞われて初めてその役目を果たすが、ヨンガシ 変種増殖という災難が家族主義へジェヒョクを向かわせるきっかけとなっているのだ。

その上、生半可な温情主義でジェヒョクが知らない子供の命まで救おうと“疑似父親”になる瞬間、実の息子と娘、そして妻の命は危機にさらされる。これは、父親ジェヒョクが“疑似父親”として実の家族から目を離した隙に、家族を救うことができるタイミングを逃してしまうという皮肉を示している。

記者 : パク・ジョンファン