悪人にも“正義”がある「追跡者」思い浮かぶのは誰?

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写真=SBS

SBS「追跡者」、“許せない者たち”が勝利するリアル世界を映す

ドラマ「追跡者 THE CHASER」(以下「追跡者」)が低血圧に良いという冗談が出まわっている。あまりにも腹が立つので、血圧が上がってしまうからだという。腹が立つ理由はおそらく、主人公のペク・ホンソク(ソン・ヒョンジュ)の奮闘に共感し、切なく感じるためだろう。権力者の電話一本で国家機構をも操ることができる、階層化された世の中で、靴の下のアリにも似たような小市民のやるせない事情が、他人事とは思えないからだ。

まるで真実と正義、善と悪がきっちり分けられているようなドラマ「追跡者」の世界が恐ろしいのは、“それぞれの正義”が存在しているためだ。単に多くの人を憤らせる“娘を失った父”ペク・ホンソクに限ってのことではない。

ひき逃げ犯PKジュン(イ・ヨンウ)はスターの座から降りたくない。30億ウォン(約2億円)を受け取り友達の娘まで殺した医師のチャンミン(チェ・ジュンヨン)は、離婚して一人で幼い娘を育てなければならず、ギャンブルで借金まで背負っている人生から逃れたかった。貧乏な床屋の息子に生まれた大統領候補カン・ドンユン(キム・サンジュン)は、父と自分のために他人を殺してでも権力を握らなくてはならず、彼を警戒する義父のソ会長(パク・グンヒョン)は娘ジウォン(キム・ソンリョン)の心が傷つかないように守り、一生育ててきたグループを息子のヨンウク(チョン・ノミン)に継がせなければならない。このように「追跡者」では、悪人と呼ばれる者たちにも正義がある。

だからだろうか。ペク・ホンソクの「お前を許さない」という言葉より、カン・ドンユンの「許すのは、力ある者にだけできること」という言葉の方が説得力を持つ。“許せない者たち”がいつも勝利する現実では、そちらの方が正解に近いので腹が立つ。相手が極悪非道な大物であるだけだったら、結局はペク・ホンソクが全てを撲滅して勝つまでの道のりがかえって容易かっただろうが、そうでないためもどかしく、ドラマチックなハッピーエンドも期待し難い。

写真=SBS
それにも関わらず、ペク・ホンソクの正義が勝利することを祈る人々の期待に応えるのは、「なぜ諦めないのか」とのカン・ドンユンの問いに対する、「父だから」というペク・ホンソクの答えだ。これは復讐劇の最もありきたりな武器でありながらも、目をそらしにくい、普遍的情緒としての力を持っている。

その力弱い父が、手強い世の中に歯向かうことができるように、毎回危機を逃れさせる設定は多少都合がいいかも知れない。しかし、これを相殺するリアリティにはしばしば舌を巻かざるを得ない。例えば、庶民に尽くす人生を掲げながら、裏では彼らを利用するカン・ドンユン、息子に経営権を違法に継がせようとしており、どんぶりを人数分頼まず1人前を2人で分けて食べるソ会長。彼らの面々から、現実の“誰か”を思い浮かばせる入念なディテールがそうだ。

12日放送されたSBS「追跡者」は11.1%(AGBニールセン・メディアリサーチ、全国基準)で、これまでで最高の視聴率をつけた。これは11日放送の視聴率10.6%より0.5%上がった数値である。MBC「光と影」は19.1%で月火ドラマ1位を占め、KBS「ビッグ~愛は奇跡~」は7.9%で「追跡者」の後を追いかけている。

記者 : イ・ヒョンジン