Vol.3 ― ユ・アイン 「10年後に何かをするということより、今がもっと大切です」
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「僕は、エンディングはあまり気にしていない。多分それもエンディングというよりは一つの瞬間だと思う。どうせ取り返しがつかないことならば、楽しい人生の方が良いと思う」現在を、この瞬間を生きるということは、未来のために生きることよりも、より多くのエネルギーを必要とする。しかし、ユ・アインはこの瞬間を生きている。彼はよく笑って、興奮して震える声で話を止めなかった。彼はどの瞬間も悩んでは質問し、他人を叱責するより自分を疑う。だからこの鮮明で激しい花火が長く、消えないことを望むことは当然のことだ。自ら“最も普通な存在”と話すユ・アインは決して変えることが出来ない存在であるからだ。俳優としてはもちろん、人間としても。
―この仕事を始める前、およそ10年前の自分はどうだったと思いますか。ユ・アイン:今の僕と似ていたと思います。ダサくて平凡で、同じクラスの40~50人の中で仲良く、良く遊ぶ子供でしたが、詳しい記憶を引き出して過去を思い出してみると人間には生まれつきの性格というものがあって、簡単に変わらないんだなと思いました(笑) 14才くらいの時、道徳の時間の修行評価で書いた文を偶然見たことがあります。「僕は僕の夢をこのようにして成し遂げてみせる」という内容が書いてありましたが「何になる」ではなく「本物の幸せを探すことが人間としてやるべきことだと思う」と書いてありました。その時はひたすらそれだけを考えることが出来る時だったから、学校という社会は世の中に比べたらとても安定していて小さな社会だったんです。もちろん学校もそんなに気に入ってはなかったけど(笑)
「僕の心の奥の根を守ることが出来ているので恥ずかしくありません」
―何がそんなに気に入らなかったんですか。ユ・アイン:当然のことではないことだらけだったから。僕が選択して何かをやったことは一つもなかったのに、それが当然のことのように行われるんです。もちろん義務教育だったから、母が学校に行かせて、行かせなかったらそれもまた大変なことですから(笑) だけど考えることや思考する方法を学校で全く教えてくれないんです。文を書く時も考えます。ミニホームページに書く文は僕自身だけのためだということが1番だとしたら、Twitterは交流することが1番なので、そこから答えを探そうとして書いているのではありません。あるいは答えを探そうとしても、それを簡単に探せると思ってはいけないと思います。他人の人生に対する文を読んで一度も、5分間も悩まず「難しくて。何を言っているのか分からないよ。簡単に話してください」と言わないでほしい。見るや否や答えが出てしまったら面白いと思いますか。気軽に書いて簡単に共有される言葉だけど、それでも軽いという訳ではありません。だから少なくとも僕に関心を持って、あえて見に来てくださる方なら、簡単に答えを探して決めつけるよりは僕を通して本人の答えを探せると良いですね。誰でも自分が1番ですから。
―そうしたらとにかく14才の時に夢見た未来の自分の姿から大きく離れていませんね。
ユ・アイン:ハハ、はい。どんなことをしているかは関係ありませんが、その時持っていた僕の心の奥の何かが今まで続いているから、とても満足しています。満足だということは、より良いものを持って、良い暮らしをするのではなく、自分の心の中にあるものを守れたから、恥ずかしくないという意味です。もし、10年後、僕が数十億儲けて、アジアのあらゆる地域で活動する俳優になっていても、僕の心の中がガランと空いていたら、恥ずかしいでしょう。もちろんこんな話をするとまた何か言われますね。「オイ、先に数十億儲けてから言え。何が心の中だ!(笑)」
―それなら10年後の自分はどんな姿だったら良いと思いますか。
ユ・アイン:そうですね……、存在しないかも知れません。だけど、存在するならば……その時、僕が25才の時を振り返ってみて、恥ずかしくない存在になっているだけでも、本当に素晴らしい人間だと思います。今、僕が切実に必要とする35才の大人、僕が通り過ぎてきた道が僕と似ている子たちに一つの道になってあげることが出来る人になれたら良いですね。
「自分の空間を持っているということが重要です」
―以前、意志の疎通が出来なかったインタビューやテレビ出演のように、したくなかったことを無理してすると病気になりそうだと話したことがあります。誰でも生きながらやりたくない仕事をしていますが、このような問題にぶつかった時、特別に敏感で傷ついて苦しむ人がいるようです。年を取ることで免疫が出来たんですか、それとも今でも同じですか。ユ・アイン:相変わらず大変です。だけど前は発言には力もない子が「命令通りにすれば良いんだ」という論理に反抗したことだとしたら、今は同じ状況でも「ちょっと人気があるからって生意気な」と思われているようです。まるで“初心”を失ったかのように。そして、前からそうだったように(笑) その点でマネージャーさんといっぱいぶつかりますね。今、会社ではありがたく僕を認めて下さって、僕もやはりお互い同等に仕事をしていきたいという妥協点をたくさん探せました。それも“知名度が高くなったから”可能なことだと思います。今僕に人気があるということではなく、今回の作品をしながら会社で僕を理解してくれる幅が広くなったようなんです(笑)
―そのような面で「トキメキ☆成均館スキャンダル」がユ・アインという俳優に残したことの中で、一つは自由ではないかと思います。
ユ・アイン:はい、僕にとっては最も重要なことです。20才くらいの時、僕が一番多く口にした単語は青春よりも自由でした。ソウルに上京して、20才になるまで仕事をしながら生活した3年間、自由に対する渇望があまりにも大きかったので、その後は本当に熱心に捜し求めました。社会人になった人々の自由というものは自分の中のものをどれくらいコントロール出来るかによって決まることだと思っています。「トキメキ☆成均館スキャンダル」に出演する前まで、僕が10個の中で5つだけコントロール出来ていたとしたら、今は6つをコントロール出来るようになったと思います。それは僕にとって重要なことをもう一つさらにコントロール出来るという自由ですね。
―自分が自分でいられるという自由、その時間と空間を重要に思っているなら、今暮らしている家は自分にとってどんな場所ですか。
ユ・アイン:家自体は平凡です。どんな家なのかが重要ではなく、僕の空間があるということが重要ですね。同じ空間はすぐ飽きてしまうので、1年に1回引っ越します。本当に面倒なことです(笑) 以前と変わったのは、この頃は友達がよく行き来して、何日も泊まったりします。必ず自分を隔離して一人になってこそ自分のことをやれるのではなく、一緒にいても自分のしたいことをやれるようになりました。少なくとも親しい人にはそれくらい気を休めることが出来るようになりました。
―幼い時、父親が厳しくよく対立して、演技をすることも反対されたという話をしたことがあります。ひょっとして時間が経ってお互いを理解する幅が広くなりましたか。
ユ・アイン:ほとんどの場合、息子にとって父親は本当に不都合な存在です。その上、慶尚道(キョンサンド)の「ご飯食べた。寝る」(慶尚道の方言)という(笑) 尊敬語を使う関係ではまだ難しいです。だけど、お互いにたくさんのことを見せて理解することが出来るようになりました。僕もみんなのように家庭の不和を経験したのに、今は父を心から許して、受け入れることが出来るようになりました。
「激しい愛情表現は…… 狂ってしまいそうです」
―ミニホームページに書いた文の中で家の近所のコンビニのおばさんの親切と好意を喜んで受け入れることが出来なかったが、店が閉店してから後悔したという話が記憶に残ります。人々の好意や有名人への賛辞に対して依然としてぎこちないという気がしました。ユ・アイン:はい、やっぱりぎこちないですね(笑) この頃ドラマを見ている人が多いから、そうだと思うけど、耐えられませんね!もちろん俳優として芸能人として嬉しくて、いい気分になる時もあります。食堂のおばさんたちが来て「サインして下さい。娘が好きなんです」と言われると、とても幸せでありがたい。だけど、それ以上はダメです。「アインさん、カッコいい!」ということも聞き慣れてないし「面白かったです」くらいなら良いです。「女性が集まったら君のことしか話さないよ」このような話を聞くと耐えられないですね。何と答えれば良いのか分からないし「ありがとうございます」と言うのもなんだし、そうでなかったら図々しく「カッコいいですからね」と言うべきなのか。とにかく激しい表現は僕には無理です。僕は俳優としてだけではなく、愛に対しても、僕の彼女にもそういう点では、少し拒否反応をする人なので少しぎこちなさが……あります。
―これから、そのようなぎこちなさがもっと増えると思いますが。
ユ・アイン:僕のプライベートを尊重してもらいたいのではなく、尊重しなくても僕は自分のプライベートを守って行く人だから。僕の私生活なのに他人が尊重しようがしまいが……(笑) 実は僕、外にもかなり気軽に出歩く人で、帽子も被らず明洞(ミョンドン)に行くような人なのに、これからはそういうことがもっと大変になると思います。気楽になれたら良いのですが。だけど、こんなことが言えること自体がありがたいことで、嬉しいことだと思います。
―最後の質問です。「俺たちの明日」でジョンデがギス(キム・ビョンソク)に「兄さんが考えている一番遠い未来はいつなのか」と聞きましたね。アインさんが考えている一番遠い未来はいつですか。
ユ・アイン:兄さんが話したように、本当に明日だと思います。いつまでも僕が存在するわけではありません。毎日毎日そのようなこと考えて生きていたことがあります。「死にたい」という訳ではなく、ただ寝ながら「明日、目を開かなくても良い。明日、起きてこの世を見なくてもひどく悲しいと思わない」と、考えた時期がありました。絶望の時期でしたね。その時間を無事に乗り越えました。とにかく今生きているから(笑) 無事に乗り越えて目を開いて、今日もまた、この世に存在しているけど、明日、僕が存在しないかもしれないから。だから、今日が、この時間が最も大切で、10年後に何をするのかというより、僕が今この仕事をしていることが大切なのです。その時間を、その時期を乗り越えて……それが分かるようになりました。
記者 : チェ・ジウン、写真:チェ・ギウォン、編集:イ・ジヘ、翻訳:チェ・ユンジョン