「王になった男」イ・ビョンホンが考える“本当のリーダー”とは?
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骨の髄まで“役者”のイ・ビョンホンが見た「王になった男」
映画のプロモーションが大詰めを迎え、少々疲れた様子だった。韓国で映画の公開日(13日)を控え、2週間にわたるインタビューや舞台挨拶をこなすスケジュールは、トップ俳優のイ・ビョンホンにとっても過酷だっただろう。ハリウッドのアクション映画「REDリターンズ」の撮影のため「王になった男」の公開直前に出国しなければならなかったので、タイトなスケジュールだった。きちんとした食事がとれず、最近では空いた時間にのり巻きなどを食べながら過ごしたそうだが、イ・ビョンホンの筋肉は衰えていなかった。本当のプロとはこういうものだろうか。
映画に対する彼独特の愛情が感じられた。マスコミ試写会で好評だったためでもあるだろうが、初の時代劇で、それも一人二役だったので特別だったのだろう。
聞いてみると彼の名字の李(イ)は全州(チョンジュ)李氏だった。由緒ある王家の血筋に対して、記者の名字は仁川(インチョン)李氏だ。彼に「王になった男」に登場するホ・ギュンと同じ血筋だと家柄を持ち出した。約400年の歳月を越えて出会った光海君とホ・ギュンの組み合わせだと言おうかとも思ったが、じっと我慢した。由緒ある家柄は、軽々しい行動をとってはいけないから。
人間イ・ビョンホンは?威厳のある光海より、お茶目でいきいきとしたハソン
イ・ビョンホンは映画「王になった男」の準備をしながら、自分なりに歴史を勉強したという。彼が見た光海君(クァンヘグン)の時代は“悲しい歴史”だった。朝鮮時代において、燕山君(ヨンサングン)と共に暴君として記録された半人前の王だったが、彼の政治と外交力は後世、再評価された部分もあった。「記録では暴君ですが、素晴らしい業績もあります。相反していると思いませんか? 映画で光海が身を隠している間、彼と似たハソン(イ・ビョンホンの一人二役)が15日間で宮殿で行ったことが、実際の歴史に記録されている光海君の業績です。二人の人物を合わせたのが実際の光海ということです。映画では、光海を演じるときはむしろ暴君としての面を強調し、ハソンはその中で遊ばせました」
普段のイ・ビョンホンは光海よりもハソンに近いという。彼のお茶目で愉快な姿から、人々に笑いを与えた道化師ハソンを連想できるようだった。そのためか、彼の知人はハソンよりは光海を演じているときのほうがかっこよかったと言ったそうだ。
「王になった男」はリーダーについての映画…ファンタジーと現実の共存がもたらす妙な快感
俳優イ・ビョンホンが考える「王になった男」はリーダーについての映画だった。民は絶望し、宮殿ではあらゆる中傷が飛び交っていた状況。政治と社会が動揺しているときには、リーダーの考えと行動がさらに重要になる。「ある意味では、この映画はファンタジーと言えると思います。ハソンが王のふりをしていた15日間がファンタジーです。彼の姿を通じて、観客もまた感情移入し、理想の王を見るようになると思います。しかし理想と現実が違うということを映画は見せます。当時の朝鮮時代を見ながら、私たちは現実を覆す痛快な革命を求めると思いますが、そのように変えてしまうのは歴史を歪めることになるでしょう。
それでも、この映画で見逃せないのは、望ましいリーダーシップについて考えることができるという点です。チョ内官(チョン・グァン)がハソンに言う言葉は正しいと思います。
チョ内官が、王であるなら誰かを個人的な感情で哀れんだり、それに左右される政治をしてはいけないと言うじゃないですか。チョ内官の話が理にかなっているなら、ハソンは王になってはいけない人物です。
ハソンが持っている良い価値や考えも重要ですが、時には迅速な判断と、些細なことを犠牲にしてでも決定する決断力も必要なのがリーダーです。映画を見て寂しい思いもするかもしれませんが、光海がハソンのしたことに気づくシーンでは、きっと自分に対して悟ったことがあると思います。現在の恥ずかしい姿、以前の自分との誓いと理想を思い出すでしょう。観客がそのシーンで、そのようなリーダーの姿を発見できればと思います」
自分の過ちを恥じる心。羞恥心を覚える心もまた、イ・ビョンホンが考えるリーダーの姿だった。反省があれば、その後はより良くなるという期待、そのようなリーダーの姿はイ・ビョンホンが「王になった男」を見る観点であり、重要なポイントだ。
デビューから21年の役者としての人生…「マンネリ化しないように気をつけている」
俳優イ・ビョンホンは演技一筋に歩んできた。21年間、彼は比較的浮き沈みのない安定した演技で人々から認められてきた。演技において信頼できる俳優として位置づけられたのである。今回の「王になった男」で見せた一人二役は、イ・ビョンホンが今まで見せた演技の中でも屈指の名演技だった。デビュー初期とは違って、イ・ビョンホンはここ5年間、アクションとファンタジーの要素が強いキャラクターを演じた。「バンジージャンプする」「甘い人生」のように、人間性溢れるキャラクターは、最近では見られない。そういった映画を撮りたいと思うはずだが、これから披露する作品もまた「REDリターンズ」「G.I.ジョー バック2リベンジ」など、アクションとSFの要素が強い映画ばかりだ。
「基本的に、新しいことに挑戦してみようと誓ったりすることはありません。ただ、漠然と『マンネリ化しないように』『慣れてしまわないように』とは思っています。同じ言葉のように聞こえるかもしれませんが、新しい挑戦というよりは、堂々巡りをしたくないという感覚と言うか。
たとえば、僕はずっと演技を続けてきたので、怒る演技、悲しむ演技、恋に落ちる演技など、様々な演技をしてきました。毎回、作品ごとにそのような感情は出ますが、そのたびに同じ感覚で演じようとは思いません。その作品、そのキャラクターに入り込んだ時に感じる感情で演じます。
ありのままの僕をカメラの前でさらけ出すと、今まで僕が見ることができなかった感情や表情が出る場合があります。もちろんテクニックとしてする場合もあります。違う映画なのに、似たような感情が感じられる時がありますが、『テクニックで演じたのかな?』と思った時がマンネリ化している時だと思います。そのような時は正直言ってキツイです」
表に現れる分かりやすい変化よりは、俳優としての些細な発展と変化を求めているようだ。そのため、意図的に特定のキャラクターやジャンルの台本を選んだりはしないという。作品の中で遊ぶ感覚。自然にキャラクターが出てきて、ひとしきりよく遊んだと感じる時が、イ・ビョンホン自らが最も満足する時だという。彼は骨の髄まで“役者”だった。
記者 : イ・ジョンミン、イ・ソンピル、写真 : イ・ジョンミン