「新しき世界」ファン・ジョンミン、これ以上のヤクザ演技はない

OSEN |


ファン・ジョンミン、どんな役割でも難なくこなせる、ヤクザが最も似合う

「将軍の息子」と「シュリ」に脇役として出演し、映画を少しだけ味わったファン・ジョンミン(43)が、本格的な映画俳優となったのは2001年「ワイキキ・ブラザーズ」を通じてだ。そして彼は2002年、観客動員には惨敗したものの、映画マニアの間では好評を受けた「ロードムービー」で主演を務め、実力派スターの誕生を予告している。

ボサボサの髪に不精髭、少しだけたれた目じりは、お人よしに見えるものの、どこか深い影が感じられる。人知れぬ事情を抱き、男に恋する孤独な魂を持つデシクを、新人俳優ファン・ジョンミンは、見事に演じきった。

そのようにしてファン・ジョンミンは、モノクロのスクリーンのようにラフなイメージで、確実に自身の存在感を映画関係者にアピールしてから、徐々に成長していった。

ファン・ジョンミンといえば、観客は「ダンシング・クィーン」(2012)の、純粋ながら情熱的なソウル市長ファン・ジョンミン、「生き残るための3つの取引」(2010)の、出世と生存のためになりふり構わない広域捜査隊の刑事チェ・チョルギ、「ユア・マイ・サンシャイン」(2005)の、純粋な恋に魂までかけた素朴な田舎の青年ソクジュンなどのイメージを思い浮かべるだろうが、少し詳しい人ならば、「ロードムービー」のデシクと、助演で出演し、短いが強烈なインパクトを与えた「甘い人生」のペク社長を忘れられないだろう。

彼はどんなジャンルでどんなキャラクターを演じても見事に演じてみせる実力派俳優だが、特に孤独な魂(デシク)やヤクザ(ペク社長)が良く似合う。

「甘い人生」でエリートヤクザのソヌ(イ・ビョンホン)を無視し、警戒していたペク社長は、いざソヌの手で殺される危機に瀕すると、どこまでも卑屈になる。彼だけが演じられるキャラクターで、彼が演じたからこそ輝いた人物だった。「いや、まあ、世の中ってそんなもんじゃないか」とソヌに哀願しながら生き残ろうとする彼を、観客はイ・ビョンホンほど忘れられず「あの俳優は誰だ」と、劇場を後にしながら振り返ったりした。

そんな彼が、今回は思いきりヤクザになった。韓国で21日から公開される映画「新しき世界」で、彼は韓国最大の企業型ヤクザグループ、ゴールドムーンのナンバー2チョン・チョン役を演じ、21世紀のヤクザのモデルを提示する。

「新しき世界」はイ・ジョンジェ、チェ・ミンシク、ファン・ジョンミンなど、1人でも1本の映画をリードできるトップレベルの主演俳優が集まり、期待されている作品だ。更にチェ・ミンシクとファン・ジョンミンは、演技の実力においてはその分野の最高レベルで、イ・ジョンジェは1995年ドラマ「砂時計」でスターになったが、その後ドラマよりは映画に集中しているという面で嬉しい。

映画のクレジットはイ・ジョンジェ、チェ・ミンシク、ファン・ジョンミンの順だが、誰が主演と言えないほど、3人の割合は張り詰めた緊張感を維持する。彼らが発する男性性と強い個性が完成する映画自体が主演だ。

警察庁捜査企画課のカン課長(チェ・ミンシク)は、8年前に新人警察イ・ジャソン(イ・ジョンジェ)に極秘の任務を任せる。それは、成長期にあるゴールドムーンに新任組員として潜り込むことだ。

ジャソンは同じ麗水(ヨス)出身で組織で未来が有望な中間ボスのチョン・チョンと、組織の仕事を率先して処理しながら一緒に成長して行く中で、チョン・チョンの絶対的な信任を背に、組織でナンバー2になるに至る。

しかしジャソンは葛藤する。この任務を終わらせてくれると言っていたカン課長は、終わらせるどころか、更に多くの任務を与え、自身さえも信じられないのか、他の警察を組織に潜り込ませたものの、彼に誰なのかは教えない。しかしジャソンは、自身が騙しているチョン・チョンには、男の強い友情と限りない信頼を感じる。そこで彼は悩み、葛藤する中で、自身も知らない間にヤクザになっていく。

カン課長とジャソンの間にあるチョン・チョンを演じるファン・ジョンミンは、まるで演技の教科書で、ヤクザキャラクターのモデルを提示しているかのようだ。

暑さによる汗のせいで、監督が仕方なくそのまま使ったとする、俳優たちの無修正の顔のクローズアップのシーンは、特に組織のボス、ファン・ジョンミンのシーンで、更に力を発揮する。顔の凸凹がそのまま映ったコントラストは、チョン・チョンという人物のキャラクターを完璧に活かしてくれる。それはファン・ジョンミンがチョン・チョンを演じたためだ。

チョン・チョンは一言で言えば、純粋な人間らしさと、残酷な出世欲を両方とも持っている人物だ。8年前から刀と角材を振り回しながら、現場で死活と苦楽を共にしたジャソンが、彼にとっては唯一な拠り所であり、義理だ。そのため、中国出張から帰ってくるときは、ジャソンへの土産を忘れない。

しかし、それは本物ではなく、偽物だ。それではジャソンをなめているとの意味だろうか。違う。自身が身につけるブランド物のサングラスも偽物だ。それだけ純朴だという意味だ。

入国の際に清潔感あふれるスーツで決め、精一杯おしゃれしたものの、紳士のファッションを完成させるピカピカに磨かれた靴の代わりに裸足にスリッパを履く。これはいくらおしゃれをしても、ヤクザは無粋なヤクザでしかないという意味だ。そして人ごみであふれる空港の待合室で、その足で組織の部下を蹴る。本当にヤクザの役がよく似合う。

そして慈悲の無さを少しでも隠すためか、ジャソンを呼ぶときに訛りの変わりに「おい、ブラザー」と英語を使う。やはり、よく似合う。

しかし、彼の反対側のキャラクターは性格が悪く残忍だ。気に入らないからといって、組員に彼の先輩の組員を殴るように命令する。だらしなく、悪意を持っているという意味だ。更に彼は、自身を利用しようとするカン課長に従うふりをして、むしろ巨額で彼を買収しようとする。カン課長がこれを拒むと彼は組織内に潜り込んでいるもう1人の警察を探し出し、一言も話さず酷く暴行して殺す。血も涙もないという表現がぴったりだ。

チョン・チョンは軽くコミカルなキャラクターだが、その裏には誰よりも冷たい冷静さと冷徹さを持っている人物だ。複数の組からなる連合組織ゴールドムーンで生き残ることを越えて、新しいトップになるために誰よりも賢い頭を活用し、速やかに判断して行動に移すキャラクターだ。

頭の悪いヤクザのようだが、実際の仕事に関しては誰よりも賢く、しっかり判断する彼だ。

組のボスが事故で亡くなり、トップの座が空席となった状況で、カン課長の本格的な「作戦」が繰り広げられ、1番目にチョン・チョンの最も強力なライバルで後継者の第二候補だったイ・ジュング(パク・ソンウン)が拘束される。当然イ・ジュングは自身の不正を漏らした裏切り者にチョン・チョンを指名するが、堂々とイ・ジュングの面会に行く。

怒り奮闘するイ・ジュングの前で、淡々と自分はそのようなヤクザではないとしながら、自身に反発するとそれに相応する代価を払わせると語るチョン・チョンの表情は、ある意味では純朴に見えるが、その中からは深く、悲壮な覚悟が感じられる。

また組織のブレインが全て集まった緊急理事会でイ・ジュングに「久しぶりに先輩の方々と食事でも」と提案し、彼に「我々は一緒に食事をするほどの仲ではないだろう」と言われ、気まずく作る表情からも、複雑で微妙だが、決して近づけないカリスマ性が感じられる。この全てがファン・ジョンミンにだけできる演技だ。

ヤクザは多くの市民を脅かし、庶民の血を吸う社会の病で悪人であることは確かだ。しかし「新しき世界」でカン課長がそうであったように、ヤクザは根絶できない、切り出すとそこにまた化膿が出来る不治の病だ。不幸だがそれは、この社会の理不尽さと一部高位層の欲を満たす周辺に寄生する寄生虫であることが事実だ。いくら駆虫剤を撒いても、永遠に撲滅できない。

一方では、一部社会指導層の合法を装った不正と暴力が、ヤクザより強力で恐ろしくなり、ヤクザが戯画化され、その弊害が水増しされる場合もあり、更には一部の青少年の間では美化されたりもする。

そのためか、ヤクザ映画は面白い。この社会が100%透明にならない限り、消えないであろう影のひとつがヤクザで、従ってヤクザ映画は東西古今を通して観客から人気を得てきた。

観客に深い印象を与える映画の中のヤクザはやはり「俺がお前の下っ端か?」「いい加減にしろ、もう十分だろうが」のチャン・ドンゴンのはずで、またその映画「友へ チング」でチャン・ドンゴンと演技対決を繰り広げたユ・オソンだろう。そして「卑劣な街」で主人公チョ・インソンの右手だが、結局は彼を裏切る役割を演じ、最近「26年」でやはりヤクザのキャラクターを見事に演じたチン・グがいる。

しかし何と言っても、ヤクザ役が最も似合い、幅広いキャラクターを一全部演じられる俳優はファン・ジョンミンだ。「新しき世界」が楽しみな理由は、貫禄のチェ・ミンシクとセクシーなヤクザキャラクターのイ・ジョンジェもいるが、やはり、彼でないと誰にも出来ないユニークなキャラクターを作るファン・ジョンミンがいるからではないだろうか。

記者 : ユ・ジンモ