最近の韓国ドラマ…代理復讐による“形を変えた癒し”?

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写真=KBS

「蒼のピアニスト」と「メイクイーン」「優しい男」の題材は全て“復讐”…危険な社会を反映

「紳士の品格」や「太陽を抱く月」のスイートなロマンスが抜けた穴を、葛藤が埋め始めたのか。最近葛藤という題材が韓国ドラマ市場で好まれている。「いとしのソヨン」では、父イ・サムジェ(チョン・ホジン)を憎悪する娘イ・ソヨン(イ・ボヨン)が、父娘間の葛藤を描いている。

「優しい男」のソ・ウンギ(ムン・チェウォン)とハン・ジェヒ(パク・シヨン)の二人は継母と葛藤を起こしており、ハン・ジェヒとカン・マル(ソン・ジュンギ)も葛藤の真っ只中にいるのは同じだ。「カクシタル」「棚ぼたのあなた」が抜けた場所を埋めるドラマ後続作は今、どれもキャラクター間の葛藤で成り立つドラマだ。

それだけではない「シンイ-信義-」には恭愍王(コンミンワン:リュ・ドクファン)とキチョル(ユ・オソン)、またはチェ・ヨン(イ・ミンホ)とキチョルの葛藤が存在している。「蒼のピアニスト」は、チェ・ヨンラン(チェ・シラ)とユ・ジホ(チュ・ジフン)、そしてユ・ジホとユ・イナ(チ・チャンウク)の葛藤を描いている。

今後の葛藤を予告するドラマもある。「メイクイーン」はこれからチャン・ドヒョン(イ・ドクファ)会長とチョン・ヘジュ(ハン・ジヘ)またはチャン・ドヒョンとカン・サン(キム・ジェウォン)の葛藤を予告している。敵がいたり、可愛くないキャラクターがいたりしてもキャラクター間の葛藤は浮き彫りにしないドラマもあるが、今現在お茶の間を占領するドラマは、半分以上が葛藤で成り立っているといっても過言ではないくらいだ。

葛藤を糧にする最近のドラマの題材の中で、“復讐”という題材は愛されるテーマであることに間違いない。ドラマの復讐列伝を見れば、代表的な復讐の叙事を描くドラマは「優しい男」だ。偶発的な殺人を犯したハン・ジェヒに代わって6年間刑務所に入っていたカン・マルのもとへ返ってきたのは、ハン・ジェヒの変わらぬ愛ではなく、拝金主義とヒューマニズムを取り替えた変心だった。カン・マルの6年の刑務所生活は、まともな職場にも就けなくさせる現代版の“スカーレット・レター”となっている。

カン・マルが医科大学から除籍されてから、ハンサムなルックスを使って女を騙す事になったのは、全てハン・ジェヒに端を発する“スカーレット・レター”のためだ。ハン・ジェヒへのカン・マルの復讐が「優しい男」の物語を牽引する力になるのは明らかである。

写真=MBC
「メイクイーン」は、父の世代の罪悪を後代でやり返す物語だ。「メイクイーン」の第1話で、チョン・ヘジュの父はチャン・ドヒョン会長に殺害されるだけでなく、妻までチャン・ドヒョンに奪われてしまう。

ユン・ジョンウ(イ・フン)は兄、つまりチョン・ヘジュの実の父が残した手紙を幼いチョン・ヘジュに見せる。その手紙には、娘への父の愛情が満ち溢れていた。チョン・ヘジュはその手紙が、自分の実の父が残した手紙という事も知らず、その内容に感動して涙を流す。後に父の仇がチャン・ドヒョン会長だという事実を知るとき、チョン・ヘジュが繰り広げる復讐劇が予告されている。

チャン・ドヒョンに復讐したいと思っているのはチョン・ヘジュ一人ではない。チャン・ドヒョンはずる賢い手でカン・デピョン(コ・インボム)会長が育てた事業を我が物にする。臥薪嘗胆の思い出、彼の孫のカン・サンは海外留学して業界最高の実力者になり、チャン・ドヒョンの前に現れる。祖父の仇をどのような形で孫が打つかという、チャン・ドヒョンへのカン・サンの復讐も予告されている。

「蒼のピアニスト」もやはり、凄まじい復讐劇が展開される。自身を見えない手で拘束するチェ・ヨンランとユ・イナ母子に復讐するため、さらに父を火災で死ぬように放置した継母チェ・ヨンランの正体にユ・ジホが気づくときには、父に代わってチェ・ヨンランに復讐するユ・ジホの血戦が予告されている。

写真=SBS
実は復讐という題材は、韓国ではドラマよりは映画のほうで先に愛用されていた。パク・チャヌク監督の復讐三部作の話を持ちださずとも、「悪魔を見た」や「ビー・デビル」などの映画で復讐は愛用された題材だった。この題材は、20世紀よりも特に21世紀に入って映画で愛され始めた。

ドラマ「蒼のピアニスト」と「メイクイーン」「優しい男」の中で復讐という題材が共通で好まれているということは、韓国の社会が安定している社会ではなく、不安な社会であることを証明している。社会学者ウルリッヒ・ベックは、「危険社会」という概念を取り上げた。

彼が言及した社会の中の危険には、資本主義社会の否定的な派生物である所得の二極化現象、人間が社会メカニズムの中で部品として取り扱われる、いつでも交換可能な部品に転落する人間疎外現象も含まれる。二極化が進み、人間疎外化現象が増加する韓国社会において、だれかに怒りを表出したい心理は増幅されがちなのだ。

最近一連のドラマに出てくる復讐の愛好現象は、「危険社会」に直面した韓国社会に蔓延した怒りを、ドラマの中の復讐を通じて発散しようとする、“形を変えた癒し”となっている。反対に、韓国社会が危険社会に直面していないなら、このように復讐が大きな反響を起こすことはなかったかも知れない。

記者 : パク・ジョンファン