チョン・イル「蜘蛛女のキス」で女装の同性愛者を演じた感想を明かす“美しく見えるよう6kg減量”
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写真=STUDIO 252
俳優のチョン・イルが、約5年ぶりとなる舞台出演の感想を語った。ソウル鐘路(チョンノ)区のあるカフェでは最近、「蜘蛛女のキス」に出演したチョン・イルへのインタビューが行われた。
「蜘蛛女のキス」はアルゼンチンの作家マヌエル・プレイグによる小説を原作とした舞台で、理念と思想が全く異なるモリーナとバレンティンが監獄で出会い、互いを受け入れていく過程の中で芽生える人間愛を描いている。チョン・イルは同作で自らを女性と信じて疑わない同性愛者モリーナを熱演し、「エレファントソング」以降約5年ぶりに舞台に復帰した。
今回の出演に関してチョン・イルは「以前からたまに舞台のオファーはあったのですが、一気に3本の作品の提案が来たタイミングで『蜘蛛女のキス』を選びました。普段から仲良くさせていただいているチョン・ムンソンさんが以前バレンティンを演じていて、彼が『3本指に入る作品なので、必ずやってほしい』と言うので……難しくて大変なキャラクターでしたが、彼の話を信じていたことと、原作の持つ力と魅力に惹かれて出演を決めました」と振り返った。
写真=レッド&ブルー
いざ出演することになってからは、相当な困難があったようだ。チョン・イルは「演劇は最も大変なジャンルだと思いますし、演劇というジャンルをやる過程で、基本スキルを整えていくのだと感じます。モリーナ役は、映画やドラマではなかなか演じることができないキャラクターだと思いました。既存のチョン・イルのイメージから脱却したいという意欲で、挑戦を決めました」と語る。
彼はさらに、「地獄を行ったり来たりした気分です。舞台の準備期間は2ヶ月半ほどでしたが、かなりの脚色の後に結局『原作のとおりにやろう』という話になって……役者側の準備期間は実質1ヶ月半というところでしたね。バレンティン役のパク・ジョンボクさんは前回のシーズンも経験していたので、たくさん手助けしていただきました。モリーナのキャラクターをどのように魅せるのか、とても苦心していた記憶があります」と振り返った。
劇中に登場する映画作品については、あえて観なかったという。彼は「『蜘蛛女のキス』自体の映画や小説には目を通しましたが、セリフの中で出てくる映画はわざと観ませんでした。観てしまうと自分が想像して説明するという部分で制約がかかりそうで、自由に表現したかったんです」とし、「戯曲自体も原作者が書いたものなので、直訳本も読んでみました。ただ、その後は演出家が脚色した部分にのみ集中して、セリフを少しずつ変えながら自分なりのモリーナを作ろうと努力しました」と伝えた。
また、役作りに関してはこう語っている。
「モリーナは自分が女性だと思い込んで生きていく人物なので、ガラスのように繊細なキャラクターに設定しました。恋愛ではなく違うレベルの愛だと思ったので、母性愛に近いキャラクターを表現したかったんです」
外見的な面でも、かなりの研究を重ねたようだ。
チョン・イルは「声のトーンを高くして、ジェスチャーや歩き方まで細かいディテールを決めました」と語り、「キャラクターを分析するときに参考にしていたのは、『リリーのすべて』で主人公を演じたエディ・レッドメインさん、『さらば、わが愛/覇王別姫』のレスリー・チャンさんです」と具体的に説明した。
さらには、「6kgほど減量して、毎日トレーニングをしています」とも。「筋肉量が増えて、体脂肪を落としつつ体重は維持しています。多くの知人が舞台を観に来てくれたのですが、『顔がすごく痩せた』と言われました。スタイリストの方たちも『ドラマのときもこういう顔で出なきゃ』と言っていました。モリーナの美貌はこんな風に維持しているんです」とストイックな一面を見せた。
普段の生活でも、モリーナのように振る舞うことがあるという。
チョン・イルは「公演終わりに知人と話すときなんかは、モリーナのような行動が出てしまいます。翌日になるとそれが少しずつなくなってくるという感じで……キャラクターから抜け出すのに時間を要するので、仕方ないことだとは思っています」と説明し、「運動を取り入れながら自己管理をするのはデビューしてから初めてのことだと思います。ドラマのときは撮影前にそういった自己管理を終えておいて、撮影が始まるとほとんど調整できないので。ダイエットに励んで、モリーナの美貌を維持するために頑張っています」と伝えた。
モリーナと正反対の人物として描かれたバレンティンの魅力については、「序盤の部分では僕が見ても理解できない部分があります」と一言。「生真面目な面があって、社会主義者として狂っているキャラクターなので、息苦しい気持ちを覚えながらも抱きしめてあげたいと感じます。最後まで自分の思想を粘り強く信じるところが魅力的だと思います。また、子供のような純粋さを持っているところも魅力です。人間は完璧ではないので、モリーナの“満たしてあげたい”という感情が愛なのではと思いました」と説明した。
バレンティンとのスキンシップについては口づけのシーンに言及し、「僕からではなくてバレンティンのほうから近づいてキスをするのですが、舞台のあいだ僕は女性なのでバレンティンがしっかりリードしてくれたように思います」と照れた様子で振り返った。
チョン・イルは以前演じた類似キャラクターとの違いについても触れ、「以前の作品では同性愛者というだけだったので、今回は自分を女性と信じるキャラクターという点でアプローチそのものが異なっていました。より女性らしく見せなければと思い、繊細さをうまく表現しようと心掛けました」と語った。
このような努力の甲斐あって、舞台ではチョン・イルではなくモリーナとして見る観客の姿もあったという。
「1幕は6章、2幕は3章で構成されているのですが、『1人の女性が見えてくる』というレビューを見かけました」と切り出した彼は、「一緒に仕事したことのある監督も舞台を観に来てくれたのですが、チョン・イルではなくモリーナに見えると言ってくれました。女性として見てくださっているということが、1番嬉しい反応でした」と満足感を表した。
モリーナというキャラクターに対する思いについては、こう語っている。
「60年代に外では逼迫されて人間としての扱いを受けなかった人物が、自分を地獄から救い出してくれたバレンティンに抱くどうしようもなく切実な愛……それをどのように表現できるのか、たくさん悩みました。モリーナの愛は、僕が母親から感じた愛です。生きているなかで一度もそれほどの愛を感じたことがないというほどの愛です。そのような人に出会えたら結婚しようと思うほどの愛です」
チョン・イルはさらに、「前半はモリーナを見ながら『なぜ、こんなにも馬鹿みたいに自分を犠牲にするのか』と思ったんです。しかし、自分が実際にモリーナになってみると理解が出来ました」と続け、「母はもともと僕が出ている作品はドキドキハラハラするから観ないと話していたのですが、今回の舞台は観てくれました。僕の演技に対する評価は厳しいですが、『よくやったね』と言ってくれて、モリーナになっていたと評価してくれました。とても綺麗な女性が立っていると……モリーナもまた、母親の話をよくする人物です。それで演じるたびに母親を思い出すんです。そういった面も、表現をうまくできた要因なのではないかと思います」と自身の母とのエピソードも語った。
彼が「蜘蛛女のキス」を通じて伝えたいことは、“愛の意味”だという。
「愛がどのような意味を持つか、考えさせられると思います。愛は幸せなことだけではなくて、ときには犠牲も必要で、ときには慰められて……周りについて考えてみるきっかけになる作品だと思います」
最後にチョン・イルは、「再び『蜘蛛女のキス』に出演する機会が訪れても、僕はモリーナをやると思います」と一言。「序盤に演技するときは、バレンティンがとても素敵に見えて、周りの人たちも『どうしてバレンティン役をやらなかったの?』と言っていました。ただ、僕はバレンティンに対してまだ理解できない部分があるので、次もモリーナをやるんじゃないかなと思っています」と説明し、役柄に対する愛情を表した。
その一方で、「同じ作品にまた挑戦するかはわからないですけどね……演出家や役者が変われば、同じ作品でも原点から始めなければならないですから」とも。過去に出演した「エレファントソング」にも言及し、「同じ時期にオファーが来て、やったことのある作品よりは新しいものをと思って『蜘蛛女のキス』を選択しました。ただ、『エレファントソング』は来年で初演から10周年を迎えるので、また改めてやるべきだと考えているところです」と今後の方針にも触れた。
記者 : パク・スイン