【映画レビュー】「ソウォン」イ・ジュンイク監督は優れた語り手であり道化師

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1999年に「シュリ」が韓国映画の興行の歴史に新たな記録を刻み、韓国商業映画の新時代を切り開いてから数多くの韓国映画が公開されたが、ジャンル化に成功することはできなかった。しかし、暴力団ジャンルだけは例外だった。暴力団ジャンルの中でもノワールとコメディという二つの流れは、依然として韓国映画に大きな影響を及ぼしている。おそらく、法で解決するよりも拳を使った方が早いと感じる社会的な雰囲気と、とにかく笑いたいという願いが複合的に働いた結果が暴力団ジャンルの寿命を延ばしているのかも知れない。

ジャンル化に成功したもう一つはスリラーだ。理由のない殺人や、残酷な殺害方法など、社会で急増しているサイコパス現象を積極的に反映した忠武路(チュンムロ:韓国の映画界の代名詞)は「チェイサー」をはじめ、数多くのスリラーを量産して「哀しき獣」でジャンルの頂点に立った。その後、殺人鬼が残酷に被害者を殺害するという展開は、加害者に対し復讐の牙をむく被害者(とその家族)に重点が移動し、「母なる復讐」「公正な社会(Azooma)」のような映画を生み出した。

また、己の正義を実現する被害者の視線からではなく、加害者の立場から見る「棘の花(Fatal)」のような違う視線でアプローチをする映画も登場し始めた。児童性的虐待を題材にしたイ・ジュンイク監督の新作「ソウォン 願い」も、これまでの映画とは違う視線に立っている作品だ。


復讐と目新しさに流れがちな題材…希望で満たす

2008年、犯人チョ・ドゥスンが8歳の女の子を強姦し、被害者の女の子を障がい者にしたことで社会的に怒りを誘発した“チョ・ドゥスン事件”を直接引用した「ソウォン 願い」は、少なくとも映画を見る前までは、今まで登場したその他のスリラー映画とあまり違わないだろうと思わせた。1千万人の観客を動員した「王の男」、音楽3部作として呼ばれる「ラジオスター」「楽しい人生」「あなたは遠いところに」やファクション(事実(Fact)と虚構(Fiction)とを織り交ぜた作品)で現実を批判した「黄山ヶ原(ファンサンボル)」「平壌城 Battlefield Heroes」のような、普通ではない足取りを見せてきたイ・ジュンイク監督がなぜチョ・ドゥスン事件のような社会的影響力の強い題材に足を踏み入れたのか疑問に思えた。みんなが憤りを覚える事件を描写することで人々を怒らせ、その怒りの勢いに便乗しようとしているのかと疑った。

しかし、イ・ジュンイク監督は被害者が経験した事件の過程や被害者家族の怒りの爆発よりも、被害者が再び世の中と向き合えるように立ち上がる、人生への意志に注目した。もちろん、「ソウォン 願い」は現実を告発する姿勢を忘れたりはしない。容疑者を緊急逮捕するために被害者がどうするべきか、公権力の不注意により身元が露出されてマスコミから受ける2次被害とはどういうものか、裁判の過程で証人として出席するということがどういう意味なのか、そして軽すぎる処罰まで、一つ一つ語って行く。

映画でソウォン(イレ)の相談役を担当した小児精神科専門医ジョンソク(キム・ヘスク)は、ソウォンの父親ドンフン(ソル・ギョング)と母親のミヒ(オム・ジウォン)に対し、時間が経つと子供が変わってしまうかも知れないので、体の治療と一緒に心の治療も必要だとアドバイスする。何の罪もない幼くて優しいソウォンは母に“あのこと”が恥ずかしくて学校に通えるかどうか分からないと言う。そんなソウォンが再び学校に通えるように変わる姿を見せながら、映画はソウォンが背負っている心の荷物を一つ一つ降ろしてくれる。

口にすることも憚られる児童性的虐待事件を、韓国社会で話題となっている“ヒーリング”で解いていく「ソウォン 願い」は、イ・ジュンイク監督のしっかりとした演出力があるからこそ可能だった。下手すると社会告発をする映画に流れる恐れや、そうでなければまた新たなタイプの復讐のエネルギーに満ちていたかも知れない話を、イ・ジュンイク監督は持ち前の楽観的で希望的なタッチで調整された童話のように映画を展開させる。


「ソウォン 願い」での発見は子役イレ…まだ荒削りだが率直

傷ついたソウォンが父親から遠ざかろうとし、そんなソウォンに近づくために着ぐるみを着て心のドアを開くために努力する父親ソル・ギョングの姿は、涙なしでは見られない童話だ。これはイ・ジュンイク監督が今までに自分の映画で見せてきた純粋な心に、社会に対する責任の意識が一緒に投影された童話だからこそ、その本心が感じられる。

また、映画「あいつの声」でよく似たキャラクターを演じ、その時は力の入りすぎた演技だけを見せていたソル・ギョングだが、「ソウォン 願い」では確かに変わった姿を見せる。しばらくの間、物足りない演技を見せていた彼が「ザ・タワー 超高層ビル大火災」「監視者たち」「ザ・スパイ シークレット・ライズ」で入りすぎていた力を抜き、周りの俳優に溶け込む演技を見せたことが偶然ではなかったことを証明してみせた。だからこそ、オム・ジウォン、キム・サンホ、ラ・ミランのような俳優たちの演技が目立つのだ。

「ソウォン 願い」での最高の発見は、断然イレという子役俳優だ。近頃の“演技の神童”と呼ばれる他の子役たちの演技は確かに優れているものの、何か機械的でわざとらしい印象を拭い切れなかったが、彼らとは違ってイレはまだ十分に手入れされず、荒削りな面はあるがその本心が感じられる。「冬の小鳥」のキム・セロン以来、実にびっくりするほどの子役俳優が現れたといっても過言ではない。

「何故生まれてきたのだろう」と聞き返すソウォンに生きなければならない理由を聞かせて、ソウォンが他の人から「あなたは本当に生まれてきてよかった」という希望のメッセージを伝えられるように変える「ソウォン 願い」からは、イ・ジュンイク監督の暖かさが感じられる。笑いと涙を一緒に作り上げることのできるイ・ジュンイク監督は、今の時代の優れた語り手であり道化師だ。これからは商業映画から引退するなどの軽率なことは絶対に言わず、自身だけの映画を作ることに邁進してほしいと心から願う。

記者 : イ・ハクフ、写真 : (株)フィルムモメンタム、ロッテエンターテインメント