シン・ミナをよく知りもしないくせに

10asia |

長い間シン・ミナは大衆の目に神秘主義の女優として刻印されてきた。目に見えない保護膜を貼っているような女優、毎晩深い山奥の小さな泉の水を空輸して飲んでいそうな女優というイメージだった。テレビCMの中に登場する数多くの“シン・ミナの分身”が、彼女をより非現実的な存在に作り上げることに一役買ったのも事実だ。そのため、シン・ミナが芸術映画を主に手がけてきたチャン・リュル監督の映画「慶州(キョンジュ)」に出演することを決めた時、人々は驚愕した。そして、化粧気のないすっぴんでスクリーンに登場する彼女を見て、さらに驚いた。その中にはCMスターのシン・ミナではなく、本物のシン・ミナの顔があった。そして、シン・ミナは「私の愛、私の花嫁」で再び日常での姿を見せてくれた。これはシン・ミナの変化なのだろうか? いや、違う。私たちが彼女について知らなかっただけで、シン・ミナはシン・ミナだ。このインタビューにはシン・ミナの本当の味を見極められるであろう糸口がある。

―映画に対する反応が非常に良い。

シン・ミナ:たくさんの人に楽しく見ていただけたようで嬉しい。とても多くの観客に愛された原作なので、プレッシャーがあったのも事実だ。特に私の場合、当代のアイコンである故チェ・ジンシル先輩の空白を埋めなければならなかったので、相当なプレッシャーだった。比較を避けられない状況だからだ。けれど、原作そのままの感じよりも、今の時代に合わせて変化したミヨンを表現しようと努力した。

―プレッシャーがあったと話したが、それでも役者として挑戦するだけの価値があると感じたから、出演を決心したんだと思う。

シン・ミナ:ミヨンに共感できる部分があったからだと思う。原作のミヨンは専業主婦だけど、今回は働くキャラクターとして登場する。仕事で自己恥辱感を抱く部分など、現代を生きる女性が共感できる部分が多いと思った。これまでに演じたことのないキャラクターや感情だったので、挑戦してみたいという意欲が生まれた。そして、新婚夫婦を題材にしてはいるけれど、最終的には愛の物語だ。男性にも十分魅力を感じていただける部分があると思う。

―「私の愛、私の花嫁」はあえて言うならば結婚を支持する側の映画だ。映画の撮影後、結婚について前向きに変わったと言っていたが、もしオム・ジョンファ主演の「結婚は狂気の沙汰」やマイケル・ダグラスとキャスリーン・ターナー主演の「ローズ家の戦争」のように、結婚の支離滅裂さを見せる映画に出演したとすれば、どうなったと思うか?

シン・ミナ:ハハ。私は結婚について全く考えずに生きてきた。でも、この映画に出演して、初めて頼れる人がそばにいたら幸せじゃないかなと考えてみた。そんな意味で結婚したいと話しただけだ。もし極めて現実的な結婚の物語を描く映画を撮影したら、考えがまた変わったかもしれない。

―映画で新婚の役を演じるのは「キッチン~3人のレシピ~」に続き、2回目だ。新婚1年目の「私の愛、私の花嫁」のミヨンが、ある日偶然立ち寄ったギャラリーで「キッチン」のドゥレ(チュ・ジフン)という男に出会ったらどうなると思う? (「キッチン」で結婚1年目のモレ(シン・ミナ)は、ドゥレに出会って危険な恋に落ちる)

シン・ミナ:ハハハ。心に淫らな悪魔が生まれるかも? でも、あまりにも違うキャラクターなので、想像がつかない。うーん…… 「私の愛、私の花嫁」に「女性の初恋とは、初めて付き合った人ではなく、今付き合っている人の第一印象だ」という台詞がある。ミヨンは結局、ドゥレから今付き合っているヨンミン(チョ・ジョンソク)の姿を探すと思う。

―しかし、チュ・ジフンからチョ・ジョンソクのどんな姿を?

シン・ミナ:いえ、チョ・ジョンソクさんも負けないぐらい素敵です!(一同笑)

―(笑) ラブコメディのカギは主人公である男女の化学作用だが、そんな面でチョ・ジョンソクととてもよく似合っていた。

シン・ミナ:チョ・ジョンソクさんとは性格がよく合った。性質も似ていた。何と言うか、性格に緩い部分があるけれど、ただ緩いばかりじゃないと言う感じ? チョ・ジョンソクさんはとても真面目な人だけど、その中にウィットがある。それが大きな魅力だと思う。だから、コミカルな演技をありふれた感じではなく、彼独自の感じで面白く表現する。

―シン・ミナの性質についてもう少し具体的に説明してほしい。

シン・ミナ:私は「良いものは良い」と考える主義だ(笑) どうせなら楽しく働こうとするタイプだ。だから、心根が善良な人が好きだ。そんな人たちと仕事する時は、何かを特に頑張らなくても、それ自体が幸せだから。

―今まで多くの男性俳優と共演してきた。作品に入ったら、監督の影響を多く受ける方なのか? それとも、相手俳優から影響を受ける方なのか?

シン・ミナ:両方から影響を受ける。撮影する時は撮影現場の雰囲気がとても重要だけど、もしそれが気に入らないと、撮影の間ずっと大変にならざるを得ない。だから私は自分で「私が好きな雰囲気だ」と催眠をかけることもある。でも「私の愛、私の花嫁」はそうする必要がないほど、とても雰囲気が良かった。

―今まで撮影現場の雰囲気とヒットは比例してきたのか?

シン・ミナ:違う場合も多かった(笑) ヒットするかどうかは本当に私たちがどうにかできる領域ではないと思う。それは神の領域だ。

―今回の映画を撮影しながら、結婚について色々考えたと思う。結婚の良いと感じる点と、やはり結婚は大変と思う部分についてそれぞれ話してほしい。

シン・ミナ:良い点は一生の私の味方ができるということかな? もちろん、喧嘩する夫婦も多いけれど、とにかく同じ方向を見て歩ける人ができるというのはいいと思う。悪い点は一人だけの時間がなくなることだ。人は一人でいたい時があるじゃないか。私は特に一人でいる時間が好きなタイプだ。だから、何かを約束して一生続けなければならない結婚に対する負担がなくはない。

―周りに結婚している友達は多いのか?

シン・ミナ:あまりいない。珍しいケースだ。私の年齢になると、結婚している人が多いものだけど、不思議と私の周りには結婚していない人がほとんどだ。チョ・ジョンソクさんは結婚している友達が多くてアドバイスをたくさんもらったと聞いた。

―恋愛であれ、結婚であれ、倦怠期はやってくる。そのため、恋愛や結婚で一番重要なのは“義理”と話す人もいる。シン・ミナは結婚、もしくは恋愛で最も重要なのは何だと思うか?

シン・ミナ:尊重だと思う。お互いのことを尊重し合えば、衝突しても上手く解決できると思う。二人だけの楽しみも重要だ。一緒にいたら、何をやっても面白い人がいるじゃないか。友達のようで、尊重もできる人に出会ったら幸せになると思う。

―今年、映画「慶州」と「私の愛、私の花嫁」が公開されたが、2009年の「10億」以来、スクリーンに戻ってくるまで非常に長い時間がかかった。

シン・ミナ:私も考えていなかった部分だ。実は時間がこんなに早く流れていたというのも気付かなかった。2本のドラマに連続で出演して、スクリーンに戻ってくる時間が延ばされたのもある。

―休んでいる間、多くのシナリオが入ってきただろう。

シン・ミナ:たくさんのシナリオを読んだけれど、上手くいかなかった。中には似たようなキャラクターの映画も多かった。そうするうちに時間が自然に流れた。

―カムバック作品がチャン・リュル監督の「慶州」ということに色んな面で驚いた。でも、「慶州」を見ながら、カメラの前にいるシン・ミナがとても気楽に見えるという印象を受けた。それはチャン・リュル監督の演出スタイルのおかげかなと思ったが、「私の愛、私の花嫁」でも同じ印象だった。シン・ミナ自身がカメラの前で自由になったんだなと思った。

シン・ミナ:そう感じていただけたなら、休んでいた時間が私にとって無駄な時間ではなかったようだ。何か特別なきっかけがあったわけではない。年齢の影響かもしれないし、悩んだ結果かもしれない。でも正直なところ、心構えは20代の時も今も大きく変わっていない。歩んできた全てのことが全て経験になって余裕ができたような気もする。まだよく分からない。

―自分でもカメラの前で気楽になったと感じるのか?

シン・ミナ:気楽に演じられたと思う。撮影現場で意見もたくさん出した。20代の時も演技に対する悩みはあったが、撮影現場で積極的に意見を出して参加し始めたのは最近のことだ。たぶん女優としてではなく、シン・ミナという一人の人間として気持ちが楽になったのが大きく影響したと思う。昔は決めておいた目標に到達できないと苦しんだ。でも、女優ではなく、自分自身に集中したら、かえって仕事をもっと楽しめるようになった。肩の荷を下ろしたような感じがする。それはまた違う意味で貪欲かもしれないけど、一般的な貪欲さとは違うと思う。

―作品に対する欲もあると思うが。

シン・ミナ:「この作品を通じて私の人生は変わるはずだ!」と思うことはない。私はただ作品を楽しんで共感できるぐらいがちょうどいいと思う。自分自身に「面白い? 満足できる?」と聞いた時、「うん、面白い!」と答えられるぐらいが私が考える幸せの基準だ。

―今後もその考えは変わらないだろうか?

シン・ミナ:それは分からない。変わることもあるかもしれない。これからどんな経験をするか知らないから。新しいことを感じたら、その時は考えが変わることもあると思う。

―「慶州」で見せてくれたコン・ユンヒというキャラクターはとても魅力的だった。掴めるようで掴めない曖昧さがある女性! 最近、色んなインタビューで神秘主義から抜け出したいと話していたが、「慶州」を見ながら女優が必ず神秘主義を破る必要はないと思った。

シン・ミナ:「慶州」のコン・ユンヒは事情を持ったキャラクターだから、その神秘的なところが魅力的だったと思う。一方、私の場合は、女優だからと隠す神秘主義だったと思う。私も神秘主義が必ず悪いとは思っていないけれど、不本意ながら作られた神秘主義は避けるべきだと考えている。例えば、CMやグラビア撮影で見せたイメージなどを通じて作られたイメージがあるが、これからは時期的にもう少し気楽な姿を見せる時だと思う。

―大衆が見るシン・ミナと実際のシン・ミナはギャップが大きいと感じるか?

シン・ミナ:大衆が私を見る視線が神秘だとすれば、ギャップは大きいと思う。私はすごく気楽なことを追求する人だ。気楽な人が好きで、相手も私に気楽さを感じてほしい。だから、そんな風に思っているなら、大きなギャップがあると思う。

―そんな意味で、久しぶりに出演したバラエティ番組は神秘主義を抜け出すことに役立ったと思う。

シン・ミナ:大衆との意思疎通は私にとって重要だ。「ランニングマン」に出演する前は「気楽な姿を見せよう!」という自信があった。でも、いざとなったら上手くできなかった。カメラが多すぎてなれない感じだったし、どんなポイントでどのような答えをすればいいのか分からなくて焦った。バラエティ番組はセンスが必要だと改めて感じた。

―“シーンスティラー”(シーン泥棒:出演シーンを自分のものにする俳優のこと)がバラエティ番組に強いと言うじゃないか。それでは、演技ではどうなのか?

シン・ミナ:演技にもそんなことがある。聡明な俳優は緻密に計算してどのシーンも自分のものにすると言うけれど、私はそれが上手くできない。でも、果たしてそれがいいことなのかという気もする。とにかくどのシーンにも主人公がいるから、その時はその俳優を尊重しなければならないと思う。それが映画を全体的に見た時にいい感じでも、あまりにも計算的にはなりたくない。

―1998年にファッション雑誌「KIKI」の1期専属モデルとしてデビューした。ハイティーンのファッション誌が創刊され始めた当時にデビューしたモデルには、イ・ヨウォン、ペ・ドゥナ、キム・ミニ、コン・ヒョジンなど、今ではスターになった女優が多い。偶然にしては興味深い。

シン・ミナ:本当だ。もう15年も経った。結果的に私は運が良かったと思う。彼女たちと同じ時期にデビューしたおかげで、救われた部分が多い。私たちの間では言葉にしなくても通じ合える、共感する部分がある。不思議だけど面白いことだ。

―最初の夢は女優ではなかったと聞いた。

シン・ミナ:本当に何も考えていなかった(笑) ただ、雑誌に私の顔が載ったらいいなという好奇心だけだった。ファッションに関心を持つにも若すぎた。性格や自我がまだ決まる前にこの仕事を始めたから、なおさらだった。一緒にデビューした女優の中でも私が特に幼かった。当時、お姉さんたちはそれでも高校3年生や大学生だったから、先輩のような感じがあった。でも今は一緒に歩いているようで、不思議な感じがする。

―それでは、いつ頃自分は女優だと自覚したのか?

シン・ミナ:これはある意味、私の埋められない穴かもしれないが、20代前半に女優として自覚するようになったと思っていた。でも、今になって振り返ってみたら、その時は本当に幼かった気がする。そして、たぶん40代になって今を振り返っても、また似たようなことを考えるだろう。一生この穴を持って生きていくと思う。

―デビュー初期、ある映画雑誌のインタビューで、“好きなもの7つの”と“嫌いなもの7つ”を挙げたことがある。

シン・ミナ:あ! 思い出せそうな気がする。ハハハ。嫌いなものの中に、たぶん“R&B音楽”もあったと思う…… (記者が手帳に書いてきたリストを確認しながら優しい声で読み上げる)「好きなもの7つ-音楽、家族や周りの人々、バックパック旅行(特にフランス!)、ショッピング、映画、アコーディオン、スケート」「嫌いなもの7つ-虫、黄砂、無礼な態度、R&B、交通渋滞、暑さと寒さ、反則」。ハハハ。わー、今でも似たような感じだ。この時、バックパック旅行を挙げながら「特にフランス」と言ったのは、当時ヨーロッパの芸術映画にハマっていたからだ。今もそんな映画が好きだ。

―それでは、カムバック作品に「慶州」を選んだのは、全く意外なことではなく、むしろ今になって自分が望むものを見つけたようだ。

シン・ミナ:要するに、20代で出演した作品は、あまり私がやってみたかった雰囲気の作品ではなかった。R&Bの場合はとても大衆的な音楽だと思って少しひねくれただけだし(笑) 当時、「R&Bの歌手たちが嫌がるかな?」と思いながら話した記憶がある。

―そういえば、フランス女優のような感じがする。

シン・ミナ:私が望むことだ。20代の目標がそれだったのに……(笑) でも、現実と理想はあまりにも違うし、私の力量もまだまだ足りない。

―近いうちに、シン・ミナがフランス女優のように出てくる作品に出会えそうな予感がする。

シン・ミナ:考えただけでも嬉しい(笑)

記者 : チョン・シウ、写真:ク・ヘジョン、翻訳:ナ・ウンジョン