「私の少女」ペ・ドゥナ、いよいよ現実という地を踏む

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女優ペ・ドゥナ(34)という名前が韓国の映画界で持つ意味は特別だ。1990年代後半、雑誌モデルとして芸能界に顔を知らせた彼女はドラマ「学校」「クァンキ」で型にはまらない演技力で関心を集め、スクリーンに舞台を移してはポン・ジュノ、パク・チャヌク監督の頼れるミューズとなり、自分だけの印章を映画のいたるところに刻んだ。ここで歩みを止めずにハリウッドへと舞台を広げた彼女はあえて“ワールドスター”という陳腐な修飾語をつけなくてもしっかり自分の役割を果たし、ペ・ドゥナという名が持つ意味に深みを持たせている。

そんな彼女が韓国で今月22日に公開される映画「私の少女」(監督:チョン・ジュリ、制作:ファインハウスフィルム)で2年ぶりに映画界に帰って来た。クローン(映画「クラウド アトラス」)、人形(映画「空気人形」)など、ここ何年間は現実世界とはかけ離れた人物を生きていた彼女は今回の作品で華麗なメイクをすべて消し、すっぴんで観客に会う。現実という地に両足でしっかり立ったペ・ドゥナの姿はそれだけでも妙な響きを伝える。

「私の少女」は暴力にさらされた14歳の少女ドヒ(キム・セロン)と自らを孤独に閉じ込めた派出所の所長ヨンナム(ペ・ドゥナ)がお互いを癒し、これを見つめる人々の無責任な偏見について加減なく伝える映画。5分で出演を決めたというペ・ドゥナはその理由として「現実的な映画への渇き」と取り上げた。

「イギリスのロンドンで映画『Jupiter Ascending』を撮影しているとき、Eメールで『私の少女』のシナリオをもらいました。シナリオを読んですぐに“やります”と返事をしました。映画的措置をたくさん広げておきながらも、メッセージを観客に強要しないところがすごく上手いと感じました。何よりもドヒというキャラクターに惹かれました。20年だけ若ければやってみたいほど惚れました(笑) 正直、当時の状況が私を煽ったところもありました。いつも非現実的なキャラクターを演じ、描いたスクリーンの前で演技をしていたので、現実的な映画に対する恋しさがありました」

ペ・ドゥナが演じたヨンナムは警察大学出身のエリートだが、個人的な事件のため人里離れた海辺の村の派出所の所長に左遷された人物だ。ヨンナムは継父のヨンハ(ソン・セビョク)に身体も心も殴られている傷だけの少女ドヒを見て、捨てられた猫を抱きしめるように心を尽くして包み込む。村で唯一ドヒに助けの手を差し伸べたヨンナムだが、彼女の真心は破滅の前兆になる。そして、その中心には人々のひどく残酷な偏見がある。

映画は最初からヨンナムとドヒの秘密を見せてくれない。徐々に積み上げた伏線は映画の半ば、パズルのようにはめられ感情の振幅をさらに大きくする。ペ・ドゥナは「浴槽のシーンでヨンナムの秘密に気付いた。あえて念頭において演じたのか」というTVレポートの質問に「気付いてもらって本当に嬉しい」と膝を打った。いつもカメラの前で自分が抱いている感情を100%見せないという彼女は映画の中で重要なシーンである浴槽のシーンでほんの少し、ヨンナムの秘密をカメラの前で見せた。

「私の少女」の視線は傷だらけのドヒの青い背中と孤独の涙をためた両目を長く見つめる。喜怒哀楽という言葉では決して表現できないドヒの感情を噛み締めて、演じきったキム・セロンについてペ・ドゥナは「私よりも大人っぽく、すでにプロフェッショナルな女優だ」と絶賛した。あわせてキム・セロンが感じたであろう精神的混乱については「監督ならびにすべての方々が徹底的な保護措置を設けた後、撮影した」と安心させた。

「実際、(キム)セロンはとても明るいです。セロンが私の隣の部屋に泊まっていましたが、夜中ずっとマネージャーのお姉さんと騒いでおしゃべりして遊んでいました。いくら感情的に大変なシーンを撮っても、撮影が終わったら子どものように枕投げをして遊んだり、『ギャグコンサート』の流行語の真似をしたりします。現場であだ名が“セロンTV”でした。本当に明るいです。セロンが偉いのが、難しいキャラクターから抜け出す方法を知っているということです。健康に育った気がします」

彼女は制作者イ・チャンドン監督について「存在だけでも頼れる人」と話した。どの制作者よりも撮影現場を頻繁に訪れたイ・チャンドン監督は映画撮影がすべて終わってからペ・ドゥナを初めて褒めた。ペ・ドゥナはそれまで心を焦がしながらイ・チャンドン監督の顔色を伺ったそうだ。

「何が気に入らないんだろうと怖かったです。それでもイ・チャンドン監督が現場に来ると甘えられるので良かったです。今回撮影現場でみんな私に“ドゥナ先輩”というので、どうにかなりそうでした。監督、プロデューサーも私と同い年なので、甘えられる人がいないのです。是枝裕和監督が現場に遊びに来て『なぜみんなこんなに若いですか?』と驚いてました(笑) プレッシャーが大きかったです」

「私の少女」は第67回カンヌ国際映画祭のある視線に公式招待された。「グエムル-漢江の怪物-」と「空気人形」に続き、カンヌ国際映画祭参加3回目となる彼女は、「映画祭はさておいて、純粋な意図で参加した作品だ。こんなにいいシナリオがダメになるのを見たくなかった。一種の使命感を持って参加したりもした。カンヌ映画祭招待の知らせを聞いてスタッフの顔を思い出し、誇らしかった」と伝えた。

彼女はインタビューの終わりごろ、自身のフィルモグラフィーをとても厳しく選び抜いて美しく積み上げていると打ち明けた。見栄えといえば見栄えかも知れないが、フィルモグラフィーだけは自分でも誇りに思うそうだ。女優としてがむしゃらに進んでいくことにおいて障害になる世の中の偏見には「彼らよりは私がいい人」という自信で、大きすぎる称賛には「それよりは足りない人」という謙遜でバランスを取るそうだ。

「次回作はハリウッド映画になりそうです。心配しないでください。すぐに終えて韓国映画に帰ってきますから。ハハ。昔は作品の中でどれくらい目立つのか、キャラクターはどれぐらい魅力的なのかをずる賢く考えていたとしたら、今は作品全体を見ます。チャンスがあればドラマにも出演したいです。毎週私の顔を見せるのです(笑)」

記者 : キム・スジョン、写真 : イ・ソンファ