Vol.1 ― ソン・ヘギョ 「この瞬間、愛があれば愛の方へ、仕事がしたければ仕事に突き進む」

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※この記事は2008年当時のものです。

「秋の童話」「ホテリアー」「フルハウス」。恋愛ドラマのヒロイン、ソン・ヘギョ。もしくは明るくて凛々しいソン・ヘギョ。私たちはよく“ソン・ヘギョ”という名前からこうしたイメージを思い浮かべる。それはソン・ヘギョが、スターではあるが典型的なジャンルの中で動く俳優として覚えられているからでもあった。しかし、ソン・ヘギョはある時点から変わり始めた。彼女は映画「ファン・ジニ」に出演し、自身が全てを先導する映画を経験し、独立映画「Fetish」で、その年ごろの女性スターが歩かなかった道へ進み始めた。「彼らが生きる世界」は、そんなソン・ヘギョの新しい試みに傍点を打つことになるかもしれないターニングポイントだ。「彼らが生きる世界」で、彼女は悲劇やコメディではない日常の人々とドラマの制作現場の中に入り込んだ。彼女はなぜドラマの中のヒロインの代わりに、そのドラマを撮る監督の現実の中に入り込んだのか。ビール一杯を添えてソン・ヘギョに質問を投げかけた。

―「彼らが生きる世界」を楽しく観ている。周りの人々があなたとヒョンビンが一緒にいるシーンを見て、恋愛したいと言っていた。

ソン・ヘギョ:そうですか?(笑) でも、いざ一緒に撮ってみると、ヒョンビンさんは「若くてきれいな時は他の男性俳優と撮って、今になって自分と撮るのか」といじめてくる。ハハ(笑) もちろん冗談で、経験を積み重ねて以前より相手役の俳優とより早く親しくなって、演じる時もそういう雰囲気が出るみたい。

―相手役の俳優とはすぐ親しくなるのか。

ソン・ヘギョ:以前はそれができなかった。「秋の童話」を撮る時は、ウォンビンさんとは撮影期間中ずっと「こんにちは」のひと言しか話せなかった。今は同じ事務所に所属していて、その時のことを話すとお互い笑ってしまう。年をとると人に近づく方法を身につけていくみたい。

「今は演技そのものに対する悩みが大きすぎる」

―「彼らが生きる世界」の先輩俳優たちとは仲良くなったか。

ソン・ヘギョ:ユン・ヨジョンさんの場合は、映画「ファン・ジニ」でも共演して仲良くしている。さすがに出演している方々が皆さんすごい方じゃないか。現場はみな大先輩ばかりだったけど、その方々にとっては私が主役なので、私に何かを話すことに慎重になるようだ。でも、その方々が言葉にしなくても得ることは多い。この前、演技で悩んでいたら、ペ・ジョンオクさんが、ご自身も「嘘 ~偽りの愛~」の時は5話まで苦労していたけれど、誰かが通りすがりにポンと軽く叩いて、セリフが降り注ぐくらい覚えるしかないと言ってくださった。そして、今は辛くて人に悪口を言われても、ドラマが終わった後は大きく成長しているはずだと思う。そのお言葉から力をもらった。

―チュ・ジュニョンを演じてどんなことを悩んだのか。

ソン・ヘギョ:私が普段使わない言葉が多いからか、台本があらかじめできあがっていても難しい。初めて台本をもらったときは、日常生活でよく使われている言葉がセリフとして書かれていたので口癖になると思ったけれど、掘り下げれば掘り下げるほど難しくなった。どう理解するかによって意味がまったく変わってしまうから。

―ジオ(ヒョンビン)と純愛について話す時、それが怒っているのか、駄々をこねているのか微妙なラインな時がある。それを見ていると、役者として、あの感情をどんな思いで表現しているのか気になった。

ソン・ヘギョ:これは本当に大変。私が今までやったドラマは悲しいシーン、泣くばかりのシーンなどに分かれていたけれど、このドラマはひとつのシーンに苛立ったり、悲しんだりすることが全部盛り込まれている。言い訳のように聞こえるかも知れないけれど、本当にやってみないと分からない(笑) 監督がたくさん手伝ってくれる。

―脚本家のノ・ヒギョン氏の作品は、観る人もいつの間にか悩ませることがある。あなたもそうなのか。

ソン・ヘギョ:今は演技そのものに対する悩みが大きすぎる。その前までは、この状況ならこの演技という形式があったけれど、今回は、この人を愛したからと言ってただ愛してると表現できないから、以前とは違う形式になってしまう。そのために台本をさらに多く見るようになる。そしたら、ジュニョンはその瞬間自分がやりたいことを果敢に選ぶキャラクターだと思い、悩むよりは、私がその瞬間に望むことは何かを考える。この瞬間この男を愛してると思ったら、その方向へ突き進む。仕事がしたければ仕事に突き進む。

「リュ・スンボムと『フルハウス』が、演技に欲を出すようになったきっかけ」

―10代からスターだったが、ジュニョンの行動の仕方や周りの人々との対話は理解できたのか。

ソン・ヘギョ:恋愛においては理解できる。恋愛は誰でもするものだから。でも、職場の上司との関係はよく理解できない時がある。そういうときは監督に聞く。そうすると、監督が感覚を修正してくれるときもある。なぜ変えるのかと聞いたら、私たちにも難しい時があるのに、若い人たちにはもっと難しいかもしれないと答えてくれた。理解できないときもあるけれど、そうやって質問を繰り返して学んでいく。

―俳優と監督は一番近いが一番相反する職業だ。俳優は自分に集中し、監督は皆に気を遣うが、監督を演じることはどうなのか。

ソン・ヘギョ:ちょっと演じたくらいで監督の立場を全て理解することはできない。現場でピョ・ミンス監督にたくさんのことを聞いてみた。正直、私に監督をしろと言われたら、自分にはできないと思う。自分ひとりのことだけに集中するのも大変なのに、俳優にも、現場にも気を遣わなければならないなんてなおさらだ。

―俳優としてあなたは監督とどうやり取りするのか。駆け引きをする俳優もいるが。

ソン・ヘギョ:私は駆け引きはしない。今まで良い方々に出会って、私の演技について妥当な指摘をして頂いた。正直私は「オールイン」まで演技に関する意見もほとんど言えなかった。作品を見る視野も狭くて、「オールイン」の時は私が出るシーンだけ台本を見ていたこともある。そんな難しさを話して相談することも考えられなかったし。本来しても構わないのに、私が怖気づいて言い出せなかった。もし私がこんなことを言って、間違っていたらどうしよう? そんな風に思うことが多かった。

―あなたは演技を学んでいる最中だったが、視聴者らはトップスターになったあなたにもっと多くのものを求めた。乖離感などはなかったか。

ソン・ヘギョ:幼いころは何も分からない状況だったので、怖くなかった。相手役の俳優さんたちがすごく良い方々ばかりで、その力も大きかったし。でも、20代半ばを越えて、演技のおもしろさが分かり、欲が出るようになってから演技がだんだん難しくなってきた。演技についての話も耳に入り始めた。

―そんな欲が出た特別なきっかけがあるのか。

ソン・ヘギョ:リュ・スンボムさんと「サンシャイン・オブ・ラブ」に出演したとき、すごく楽しかった。初めて自分の声を出す女性の役でもあったし、演技のうまいリュ・スンボムという俳優とぜひ共演してみたかったし。その次に「フルハウス」でピョ・ミンス監督に会ったのだけれど、そのとき私が台本について話すと、監督が納得した部分は台本に反映してもらえることがとても楽しかった。

「やればやるほど、ノ・ヒギョンさんの脚本作品をまたやってみたい」

―そうやってあなたの作品選びが変わってきたような気がする。「ファン・ジニ」と「彼らが生きる世界」を選んだのは意外に思えた。

ソン・ヘギョ:私は自分に俳優という肩書きが自然に付くほど、何かを持っているわけではないことをわかっている。それを満たすために作品でたくさん演技を学びたかった。「ファン・ジニ」はそのキャラクターが今の私の歳ではないとやらせて頂けないとも考えた。「彼らが生きる世界」は、文字通り演技をしてみたかった。ある人々は、私がどんな道へ進むだろうと予想することもあるだろう。この子はどんな絵を思い描いているだろうと。でも、正直それはつまらない。私はもう10年以上芸能界生活を続けて来たし。それでもあまりにも足りない部分があるということを知っているから、こういう選択をするようになるようだ。

―独立映画「Fetish」も同じ理由で撮ったのか。

ソン・ヘギョ:正直、「Fetish」は「ファン・ジニ」が終わって、休みたくないから撮ったという理由もある。シナリオもすごくおもしろくて、海外のスタッフたちと一緒に撮影する経験も新鮮だった。撮ってすごく満足した。自分の演技が優れていたからではなくて、これまで私が見せてきた姿ではなかったから。そして「彼らが生きる世界」は、ピョ・ミンス監督とまた作品をやるという約束もできたし、脚本家のノ・ヒギョンさんとも常に作品をやってみたかった。ノ・ヒギョンさんのドラマをやると、俳優たちが持っている演技力が底をつくと言われているから、すごく悩んでいる。でも、やればやるほどノ・ヒギョンさんの作品をまたやってみたいと思う。今回の作品がとても気に入って、もしかしたら次のドラマを選ぶまでかなり時間がかかるかもしれないとも思った。

―ノ・ヒギョン氏とは台本について相談しているか。

ソン・ヘギョ:まだそうしたことはない。実は、私は以前まで脚本家に電話をすることはなかった。台本ができあがったら、文句なしにそれに忠実に演じなければならないと考える方だったから。脚本家さんと電話したのは今回が初めてだけれど、まだ演技の話よりはドラマが楽しかったというような話。ノ・ヒギョンさんは、私がジオに「私?チュ・ジュニョン~」と話す動画も送ってくれたし(笑)

―その時、チュ・ジュニョンのキャラクターがよく出ていた。その前は、仕事に欲があって気が強い女性と感じられたが、その場面でこの人の内面が少しずつあらわれている気がした。

ソン・ヘギョ:その場面は、私の前作が「フルハウス」だったから、またそんな感じがするかも知れないと思って心配だった。私が様々な色を出せる人ならいろいろと見せることができるだろうけど、まだそれほどの余裕がないから。それで監督に、過剰にかわいい感じがあったら指摘してほしいとも言った。

記者 : カン・ミョンソク、ペク・ウンハ、翻訳 : ハン・アルム、写真 : イ・ウォンウ、編集 : イ・ジヘ