「僕らの青春白書」イ・ジョンソク“今最もホットな俳優ではなく、完全な俳優として認められたい”

10asia |

イ・ジョンソクといえば思い浮かぶイメージ、または先入観といえば何があるだろうか。ある日突然現れたスター、マネジメント戦略により成功を収めた俳優、ドラマの勢いに乗って名声を得ようとする若者。これらは全て間違いである。俳優の道を歩むようになるまで、たくさんの紆余曲折を経てきたイ・ジョンソクは、自らの力で役を獲得しようと努力し、チャンスを掴んでここまで走ってきた。ドラマ「ゆれながら咲く花」と「君の声が聞こえる」で人気を集めた後、安定した道ではなく、挑戦することに大胆に身を投じた。イ・ジョンソクの従来のイメージを覆し、脅かす映画「僕らの青春白書」がその証拠だ。「僕、情けないです!」と全身で表現している「僕らの青春白書」のジュンギルを見ていると、本当に私たちが知っているイ・ジョンソクなのかと疑問に思うほどだ。「僕らの青春白書」にあまり興味をもてなかったとしても、イ・ジョンソクという俳優に再び注目しなければならない理由がこの映画にはある。

―「僕らの青春白書」のジュンギル役はこれまで演じてきた役とは全く違う雰囲気のキャラクターだ。そういう面で初めは期待と同時に不安もあったと思うが、どの感情が最も演技に役立ったのか?

イ・ジョンソク:期待と不安、両方とも役に立ったと思う。最初はジュンギルを演じることがとても怖かった。慣れていないジャンルだし、演じたことのない雰囲気のキャラクターだったので不安もあった。僕のことを知っている人たちが違和感や反感を持ってしまうかもしれないと思い、撮影の最初の頃は常に緊張していた。

―違和感や反感。では、世間が考えるイ・ジョンソクのイメージはどんなものだと思っているのか?

イ・ジョンソク:ドラマ「君の声が聞こえる」のイメージで僕を記憶している人が多いと思う。あのドラマの余韻をまだ感じている方々にとっては、驚いてしまうかもしれない役だと思った。実は、所属事務所もそうだし周りからも反対意見が多かった。安定したレールがあるのに、何故あえて冒険しようとするのかと強く反対された。さらにはデビュー時から一緒に仕事をしてきたスタイリストにも反対された。僕のことを心から大切にしてくれている人なのでよく相談にものってもらっているが、そのスタイリストさえ「本当に出演して大丈夫なの?」と心配した。

―多くの反対を押し切って出演を決めた理由は?

イ・ジョンソク:若いから(笑) まだ若いうちに色んな役を演じてみるべきだと思った。これまでの役とは異なる役を演じてみたいという気持ちも大きかった。そんな時、80年代が舞台で忠清道(チュンチョンド)の方言を話す田舎の物語「僕らの青春白書」のシナリオを見て、これなら確実にイメージチェンジできると感じた。

―映画が完成した今、自分の挑戦について自己評価すると?

イ・ジョンソク:技術試写会の時に初めて完成した映画を見た。普段から技術試写会はスタッフたちも自分のパートをチェックすることに忙しい。でも、いくら忙しかったとしても反応があまりにもなかったので「僕は何か間違えたんだろうか」と不安になった。しかもこれはコメディ映画なのに! だけど、その後のマスコミ試写会の時は思ったより反応が良くて驚いた。何より嬉しかったのはスタイリストの言葉だった。映画を見たスタイリストから「わあ、ジョンソク凄いね。素晴らしい!」と言われ、とても嬉しくて胸がいっぱいになった。

―映画の中で徹底的にイメージの崩れるキャラクターを演じているが、撮影する中で自分が想像していた姿と、実際に映画で見た時との違いは大きいのか?

イ・ジョンソク:最初から徹底的にイメージを壊そうと決意して撮影に臨んだ作品だから、どうすればもっと情けなく見えるだろうかとたくさん悩んだ。でも、いざ映画を見てみると「ああ、あのシーンではもっとやってもよかったのに」と残念に思うシーンもたくさんあった。本能的に自分の身を守ってしまったみたいだ。勇気が足りなかった。

―テコンドーの有段者だから殴られるよりは格好よく相手を殴る方が慣れていると思うが、予想外なことにリアルに上手く殴られていた(笑)

イ・ジョンソク:わざと大げさに演じようとした。鼻の穴と口もより大きく開いた! 僕はとても内向的な性格だからそうしなければならないと思った。キム・ヨングァン兄さんが上手く殴ってくれたおかげで、良いリアクションができたというのもある。殴られた時、気分が悪くなったことは一度もない。ただ、ヨングァン兄さんがとても申し訳なさそうにしていたり、スタッフたちも「大丈夫?」と心配そうに僕を見るので、周囲の視線のせいで悲惨に思った。「どうか僕に同情しないで! スルーしてくれ!」と言った覚えがある(笑)

―前作「君に泳げ!」ではイ・ジョンソクの甘い部分だけを取り出したような役を演じた。イ・ジョンソクの10代のファンにとっては嬉しかったかもしれないが、演じる側としてはあまり面白くなかったと思う。逆に、今回の映画は「私のジョンソク兄さんが壊れてしまった!」と叫ぶファンもいるかもしれないが、役者としては非常に楽しめただろうと思う。ファンが望む自分と自分が望む自分のギャップをよく見極めることも必要だと感じる。

イ・ジョンソク:そう。ファンにとっては僕が情けない役を演じてイメージが崩れてしまうのは嫌かもしれない。特に若いファンはよく心が揺れるから。でも、僕が意欲と勇気を出して演じた役だから、ファンたちも気に入ってくれると思う。違うかな?(笑)

―「君の声が聞こえる」以前のイ・ジョンソクと、その後のイ・ジョンソクは全く別の俳優のようだ。その時期に演技面で飛躍的な成長を遂げたと思うが、個人的にはそれが「君の声が聞こえる」より先に撮影した映画「観相師」の影響のような気がする。

イ・ジョンソク:それは鋭い。実は「観相師」はとても悩んで撮影に入った作品だ。最初、ハン・ジェリム監督から映画「ハナ~奇跡の46日間~」のチェ・ギョンソプのような雰囲気で演じてほしいと言われ、同じようなキャラクターを望まれるならあえて僕が出演する必要があるだろうかと思った。でも、立派な先輩方と共演できるチャンスだし、僕のフィルモグラフィーに残したい作品だったので出演を決めた。綺羅星のような先輩方と共演した経験はその後の僕に大きく役立った。

―そういう意味で、公開時期が惜しかったと思う。撮影は「君の声が聞こえる」より先だったが、「観相師」の公開はドラマの放送後だった。

イ・ジョンソク:「君の声が聞こえる」のパク・スハは僕が経験したことのない、どんな感情なのか分からない感情を表現しなければならない役だった。高校生の時と記憶を失った時、記憶を取り戻した後大人になった時の感情が全て異なるので、演じるのは難しかった。でも、実力が足りなくてもスハを一生懸命演じながら、演技面で大きく成長したと感じた。「僕の演技、これまでの作品よりも上手くなったな」と思ったくらいだ……

―「観相師」が公開した。

イ・ジョンソク:ハハ。完成した映画を見て本当に汗をたくさんかいた。「観相師」の時は先輩たちの強烈なオーラに緊張とプレッシャーを感じながら撮影した。自分がこの作品に迷惑をかけてはいけないと思い、一生懸命に演じたが、まさかあんなにも下手だったなんて……。映画で自分が登場する度に話の流れが切れているような気がした。「最悪だ。どうしよう。上手くいくはずだった映画に僕が迷惑をかけてしまった」と思い、とても恥ずかしくなった。でも、不思議なことに「観相師」が900万人の観客を動員したにもかかわらず、僕に関する話はあまり出なかった。それは正直、僕の存在がそれほど弱いものだったという意味だ。自分を責めるしかなかった。

―他のインタビューを見た時も感じたが、自分の演技をかなり冷静に判断するタイプのようだ。

イ・ジョンソク:200%! 200%把握している。良い反応も悪い反応も受け入れようと努力している。「観相師」の公開がちょうど「僕らの青春白書」を撮影している時だったが、「観相師」を見てあまりにも大きな衝撃を受けてジュンギルというキャラクターがまた怖くなってしまった。トラウマになって感情表現に没頭することがとても大変だった。

―今はトラウマから抜け出したのか?

イ・ジョンソク:幸いにも撮影しながら抜け出すことができた。

―多くのインタビューで愛情欠乏症候群にかかっていると言っているが、その原因について考えたことはあるのか?

イ・ジョンソク:さあ、一人暮らしが長いからかな。僕自身は孤独という感情がとても好きだ。何かを思い浮かべるようにする点が気に入って、感性的に作り出す孤独を楽しむ部分が僕の中にある。だから一人で部屋の中に引きこもり、その感情をわざと呼び起こすこともある。

―人々の目にはそれが愛情不足だと映ったのかもしれない。

イ・ジョンソク:そう思う。孤独がまるで僕の体の一部のようにもう慣れてしまっていたので気付かなかったが、それ自体がある意味愛情不足なのかもしれない。周りの人たちは僕にはとても愛嬌があると言うが、それも何かが不足しているから出てくる愛嬌なのかもしれない。

―ジュンギルは眼差しや呼吸だけで女子生徒たちを魅了してしまう洪城(ホンソン)農業高校伝説のプレーボーイだ。プレーボーイにしてはホダン(しっかりしているように見えて抜けている人)だが(笑) プレーボーイにとって最も重要な要素は何だと思うか?

イ・ジョンソク:自信じゃないかな? ジュンギルにも目の前にいる女の子を無条件に誘惑できるという正体不明の自信があるじゃないか。「勇気ある者が美人を得る」という言葉の延長だと思う。そうでしょ、お姉さん?

―(周りを見回して)誰のこと? 私? ハハ。イ・ジョンソクの愛嬌というのは、正にこういうことだ。お姉さんと呼ばれてびっくりした。

イ・ジョンソク:ハハ。それじゃ、普段は何と呼ばれるの?

―記者さん? 同い年であれば○○さん?

イ・ジョンソク:僕は○○さんと呼ぶ方がもっとぎこちないし呼びにくい。

―普通は初めて会った人に“お姉さん”と呼ぶ方がぎこちなく感じる。

イ・ジョンソク:あ、僕が変なんだ(一同笑) 相手がとても童顔で僕より年下に見えたとしても初めて会う人はお姉さんと呼ぶ。その方が自然だし慣れている。

―好感を持っている女性もお姉さんと呼ぶのか? それとも、そのような相手には呼び方が変わるのか?

イ・ジョンソク:うーん、特に変わらないと思う。

―まあ、とにかくお姉さんと呼ばれて気分は悪くはない(笑) 「僕らの青春白書」は忠清道の田舎で繰り広げられる物語だ。そんなジュンギルと違ってイ・ジョンソクは韓国で教育熱の高い江南(カンナム)で高校時代を過ごしたため、当時両親は息子に高い期待を抱いていたと思うが?

イ・ジョンソク:幸運にも母は勉強よりやりたいことをやるべきだという教育観を持っている。だから僕が演技がしたいと話したら、父に内緒で演技教室に通わせてくれた。父は最初、「勉強したくないから演技がしたいと言っているんだ」と反対したが、今は誰よりも誇りに思ってくれている。

―“今最もホットな男”と呼ばれる息子が誇らしいだろう。

イ・ジョンソク:今、本当に最もホットな男はキム・ウビンだと思う!(笑) だけど、“最もホット”といっても最終的には過ぎ去っていくものじゃないか。単語自体が持つ意味を考えると喜んでばかりはいられない。最もホットな俳優ではなく、完全な俳優として認められたい。それは簡単なことではないだろうが、もっと頑張るしかないと思う。

―俳優として決して短くはない無名時代があった。どう聞こえるか分からないが、俳優イ・ジョンソクには“ある日突然現れたスター”という印象がある。

イ・ジョンソク:そう。フィルモグラフィーを見たら着実にキャリアを積み上げてここまできているのに、変に“寝て起きたらスターになっていた”というイメージがある。

―悔しくないのか?
イ・ジョンソク:悔しいというより、それだけ自分の魅力をアピールできなかったということだと思う。短編映画や短編ドラマ、普通のドラマにも出たし、本当に色んな挑戦をしてきたのに、いきなり現れたスターというイメージがあるのは、それだけ僕が目立たなかったということだろう。

―自分のことを過小評価する癖があるようだ。

イ・ジョンソク:僕が自分の短所を話すと、「君はどうしてそんなに自信がないの?」と人々は言う。でも、実は自分に自信があるから自分の短所を話している。短所を直す自信があってこそ話すのだから。実際、作品を終える度に短所を一つずつ直してきたと思っている。そして、短所を話すもう一つの理由は、相手が「君はあれがおかしいし、これはあまり良くない」と話す前に先に自分から言ってしまおうという意図もある。

―20代半ばなのに、既にとても人気がある。この時点で改めて考えみよう。今、最も警戒しなければならないことは何だと思うのか?

イ・ジョンソク:人気を得るようになってから色んな話が聞こえてくる。その中には「人が変わった」という話もあるようだが、僕は本当に変わったのだろうか? 実はよく分からない。自分では以前のままなのに、周りがそういう目で見ているのかもしれないし、本当に変わったのに自分が気付いていないのかもしれない。でも、一つだけ自分でも自覚していることがある。以前は言って良いことと悪いことを区別せず、自分の全てを打ち明けるタイプだったし、相手が記者でも構うことなく正直に話していた。でも、その点については最近気をつけている。

―俳優が思っていること全てを正直に話すことは社会では難しい。しかしインタビューをする記者の立場にとっては綺麗ごとだけを並べる俳優を残念に思ったりもする。

イ・ジョンソク:そうだと思う。

―だからイ・ジョンソクには用心深くなったとしても、素直さは失わないでほしい。ここで過去の話をしてみよう。ソウルファッションウィークの“最年少モデル”として有名だった。16歳という若さで華やかなランウェイを闊歩した。ランウェイでスポットライトを浴びていると、まるで自分が偉い人になったかのような気がすると思うが。

イ・ジョンソク:グラビアで写真を撮ることと、ランウェイで写真を撮られることは明らかに違う。ランウェイでカメラのフラッシュを浴びることを銃に打たれることに例えたモデルがいるが、その表現がぴったりだ。本当にわくわくする。モデルの活動はそれなりに楽しかった。社会に早く出たことで学んだことも多いと思う。例えば処世術とか(笑) もしかしたら僕の愛嬌もその頃の癖なのかもしれない。27~28歳のモデルのお兄さんたちにとって僕はまだ子供のようじゃないか。集団の末っ子として常に可愛がられていたので自然に愛嬌が出てきたんだと思う。

―早くにデビューしたため、“将来は上手くいくだろう”という期待もあったと思う。

イ・ジョンソク:期待していた。本当にスムーズに上手くいくと思っていた。実は最初に事務所に入った時、モデルではなく俳優をやらせてくれると思っていた。僕はカン・ドンウォンさんが大好きだが、事務所から「カン・ドンウォンを見てみなさい。モデル出身の俳優としてのメリットがとてもあるじゃない」と言われてモデルの仕事をさせられた。そして俳優の夢を抱いて入った二番目の事務所は歌手をやらせようとした。今のことろが三番目となる事務所だが、ここでは最初の2~3年間は放置された。そのような一連の過程を経験し、喪失感が大きかった。だからその分、成長も早かった。その時に抑えてきた感情が噴出したのが昨年だ。僕の意思とは関係なく休まなければならなかった時期を思い出し、作品が一つ終わっても休まずに次の撮影現場に向かった。まだ十分な実力もなかったのに作品を2つずつこなした。

―先ほど、「観相師」はフィルモグラフィーに残したくて選んだと話した。今回「僕らの青春白書」もフィルモグラフィーに必ず必要な作品だと思って出演したという話を聞いたが、将来の計画を具体的に立てているようだ。

イ・ジョンソク:「イ・ジョンソクにはこんな役は演じられないだろう?」と監督から言われた時、「僕、こんな役もやりました!」と見せられる作品をたくさんこなしておきたい。そのためには色んな役のイメージが必要だと思う。

―演技に対する意欲が非常に強いようだ。

イ・ジョンソク:もの凄く意欲があるのに、人々は分かってくれない。

―いつかは分かってくれると思う。話が変わるが、実際に恋愛する時はどんなタイプなのか? ジュンギルのように色んな女性に魅力を感じるタイプ? それとも一人だけを想い続ける純情派タイプ?

イ・ジョンソク:実は愛という感情が本当に存在するのかどうか、まだよく分からない。でも僕が本当に愛せる人ができたら。ほかの女性は目に入らないだろうと思う。詳しく説明することはできないが、数年間、心が痛いことを考えると、僕は一人の女性だけを想い続けるタイプのようだ。誰かを愛することが怖いとも思う。例えば、新しい人に出会って恋をして、幸せな思い出をたくさん作っても、別れたらまた心が痛むじゃないか。その過程を再び経験することを考えると怖くなる。

―本当の恋をしたことがあるのか?

イ・ジョンソク:さっきも愛という感情が本当に存在するかどうかよく分からないと言ったが、とても辛かったし、今も心が痛むことを考えると……それが恋だったんだと思う。

―心が痛むのも恋だから。さて、最後の質問だ。イ・ジョンソクは今、血沸く青春をしているのか?

イ・ジョンソク:もちろん。絶えず新たなことに挑戦するということ自体が血沸く青春をしている証拠だ。

―今後の血沸く計画は?

イ・ジョンソク:今悩んでいる。俳優として演技の幅を広げるべきか、それとも得意な分野を探した方が良いのか。それが未だによく分からない。とりあえず「僕らの青春白書」の反応を見て、人々の意見をしっかり聞こうと思っている。多くの人が違うと言っていることに僕が意地を張るのも違うと思うから。もちろん、周りの反応に振り回されてはいけないということもよく分かっている。

記者 : ・編集 : チョン・シウ、写真 : ク・ヘジョン、翻訳 : ナ・ウンジョン