「ソウォン」イ・ジュンイク監督“幸せに生きることが最高の復讐である”

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温かい感性を持ったイ・ジュンイク監督が、一番苛酷な場所で咲いた最も心温まる話「ソウォン 願い」で帰ってきた。

映画「平壌城 Battlefield Heroes」の後、暫定的に引退を宣言したイ・ジュンイク監督は、性暴力の被害者とその家族の物語を扱った辛くて難しい作品を復帰作に選び、「ソウォン 願い」に監督としてキャスティングされた。

イ・ジュンイク監督に白羽の矢が立った時、簡単にやってみるとは言いにくかったかもしれない。しかし、イ・ジュンイク監督は正面突破を選んだ。そして自分が持つ特有の温かい感性で、温かい色彩の映画を作り出した。

「“上手く作ったり、下手に作ったりすること”が重要な作品ではない」と話すイ・ジュンイク監督だが、実に上手く作ったという称賛が出てきてもおかしくない作品だった。往々にして正面から眺めることさえ困難な現実を、感動的に描いて見せた。

そして、彼が何度も強調した謙遜して一歩下がった姿勢で、数え切れないほど存在するソウォンの家族を覗いてみた。「思い上がった態度を捨てようとした」というイ・ジュンイク監督の言葉のように謙遜し、映画の中は優しい配慮に満ち溢れていた。現場でも何度も涙を流したというイ・ジュンイク監督に会って、映画に対するさらに深い話を交わした。

以下は、イ・ジュンイク監督との一問一答である。

―映画の試写会後、拍手が起こった。

イ・ジュンイク監督:気分が良いというよりは安堵した。「ソウォン 願い」は懸念が多い作品だった。シナリオを見た関係者さえ気まずい映画をどのように作ろうかととても心配した。拍手がたくさん出たことについて、幸いだと思った。“安堵”という表現が最も適切なようだ。

―復帰作に「ソウォン 願い」を選んだ理由はあるのか?

イ・ジュンイク監督:「ソウォン 願い」は、素材は気まずいが、テーマは安らぐようにしたかった。テーマのために選んだ作品である。素材に対する反感は多いが、テーマに共感したり同意したりすれば、素材に対する気まずさを超えることができる。すべての苦しみの中で、最もひどい苦しみだと思う。当事者や被害者の家族たちにとって、死よりもひどい苦しみである。苦しみの前で挫折するのか打ち勝つのかは本人の選択と意志による。

ソウォンの家族は、苦しみに負けなかった。このような苦しみを背負うことで家庭がバラバラになったり、2次、3次被害がずっと続いたら、苦しみに負けることになる。しかし、ソウォンの家族は願いを叶えた。悲しみを受ける前の日常へと戻った。彼らは日常に戻るために、ぎりぎりの綱渡りをしながら日常へと戻ってきたのだ。どんなに素晴らしいことか分からない。「幸せに生きることが最高の復讐だ」という言葉は名言だと思う。苦しみに打ち勝ったということが最大の復讐である、そういったことを話したかった。

―観客も大変だが、撮影現場ではもっと大変だったようだ。

イ・ジュンイク監督:本当に心身共に消耗する現場だった。映画を見る人たちは、インタビューを通じて泣く心情を理解することだろう。撮影を行った9ヶ月間、感情を維持し続けると、誰かがぽんと触れただけで涙が出てくるのだ。ソル・ギョングの涙を我慢した演技は、本当に大変な演技だ。現場で私の目をきちんと見ることができなかったほどだ。見ると涙が溢れてくるから。現場にいる俳優とスタッフ全員が「カット」という声を聞くと涙を流した。

―演出においても、配慮をたくさんしたことが感じられる。

イ・ジュンイク監督:“児童性暴力”という単語がシナリオに出てくると、カメラでさっと通りすぎる。避けたい、気まずいキーワードだ。映画の中で、ニュースのシーンに一度だけ出てくる。刺激的なセリフやシーンが全くない。そういったことでさえ第2、第3の被害を生み出すかも知れないからだ。意図的に避けた。

―演出の他に気を遣ったことは?

イ・ジュンイク監督:興行についての話をしないようにしている。怒ったこともある。どうすれば興行について考えるというのか。撮影中、思い上がった姿を見せないように努めた。順位、興行、金儲けを考えることは恥知らずな態度だ。商売をするための映画ではないし、映画を上手く作るのも重要なことではない。そんなことを論じる前に、この話に結びついた大勢の被害者の家族に対し、筋の通った態度を保たなければならなかった。

―ソウォン役を演じた子役俳優イレのキャスティングの背景が気になる。

イ・ジュンイク監督:私も監督としてキャスティングされた作品だ。私が監督として合流する前に、オーディションで落ちた子供がイレだったが、オーディション時のイレの映像を私が見てキャスティングするようになった。

―イレの演技をどうやって引き出したのか?

イ・ジュンイク監督:私が引き出したのではなく、子供が全てやったことだ。イレの母親はとても頭の良い方で、イレは母親を信じていた。子役と息を合わせる時はその母親と多くの話をしなければならず、子供は母親と意志疎通をしなければならない。第3者が入った瞬間、混乱する。

―撮影とは別に、撮影現場でイレはどんな子供だったのか?

イ・ジュンイク監督:本当によく遊ぶ。8歳の女の子の天真爛漫さがあり、とても明るくて純粋だ。だから自然に演技が出来たのだ。汚れたところがなく、きれいに育った。汚れたところがないから、「これは演技だもんね」と話して撮影が終わると、「きゃはは」と笑いながらよく遊んだ。“子供は大人の父である”いう言葉を改めて学んだ。

―この作品を通じて成し遂げたいものがあるのか?

イ・ジュンイク監督:気まずいし、避けたい素材でもあり、事件である。だからといって避けて覆って隠すことが、私たちが彼らを尊重することになるのか、もう一度考えてみることだ。彼らへの傲慢な同情は正しくない。思いやりの視線が良いのではないかという提案をするだけだ。この映画は、良い答えを求めるのではなく、良い質問を投げかけているのだ。

記者 : イ・ウンジ、写真 : ユ・ジニョン