「南営洞1985」キム・ジュンギ“自分の実力を試したくてオーディションを受けた”

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ネクタイが嫌いで選んだ役者の道

誤解しないでほしい。ソン・ジュンギ(27)ではなく、キム・ジュンギ(33)だ。だからと言って、失望する必要もない。即断は禁物だ。優しいオオカミ、ソン・ジュンギほどのビジュアルではないが、見れば見るほど深みのあるコムタン(牛肉と内臓などを煮こんだスープ)のような魅力を持っている俳優だ。これまでは一般人のようなオーラの持ち主だったが、これからは「南営洞(ナミョンドン)1985」をきっかけに輝くライジングスターになるだろう。目を大きく開けて見守りたい。彼は第2のチョ・ジョンソクになるかもしれないから。

映画「南営洞1985」(監督:チョン・ジヨン、制作:アウラピクチャーズ)でイ係長役を演じたキム・ジュンギ。彼に関する情報が知りたくてポータルサイトで彼の名を検索してみたが、どういうことだろうか? 1966年生まれのキム・ジュンギしかヒットしない。「もしかして?」と思い、同名異人を検索したら、2ページ目に彼の顔が出てきた。この男は、いったい誰なのだろうか?

「僕の友達も僕を検索してみるとキム・ジュンギ先輩しか出てこないと愚痴をこぼします。1966年生まれではなく、1979年生まれのキム・ジュンギです。これまでは小劇場で小規模のミュージカルだけに出演してきたので、人々にはあまり知られていませんでした。僕は知れば知るほど面白い人なんです。まだ独身で、恋人とは最近別れました。そろそろ結婚しなければならない年ですね(笑)」

最初から役者を志していたわけではなかった。キム・ジュンギは大邱(テグ)で経済学を専攻していた平凡な学生だった。軍隊で将来について悩んだ結果、興味のない経済学をこれからも勉強し続けるということは意味がないと判断し、演技を選んだという。

キム・ジュンギは「なぜか小さい頃からミュージカルや演劇を見るのが好きでした。理由はよく分かりませんが、公演があると聞くとお小遣いを貯めて見に行ったりしました。軍隊で『もしかしたらこれが僕の道ではないだろうか』という気がして、除隊後学校も諦め、とりあえず上京しました。今考えても、怖いもの知らずの青春でしたね」と当時を振り返った。


外見のせいで「折れた矢」のオーディションで落ちる?

演技を学びたいという一心で上京し、明知(ミョンジ)大学に入学したキム・ジュンギは、その後演技の本当の喜びを知るようになった。23歳。血気盛んな若いエネルギーがあるからこそ可能なことだった。

キム・ジュンギは2006年にミュージカル「パルレ」でデビューし、その後「地下鉄1号線」(2006年)、「時間に」(2008年)、「Shoeshine Boy」(2009年)、「スノードロップ2」(2010年)、「クイズバンク」(2011年)など様々なミュージカルと演劇に出演し、着実に演技を学んだ。薄給の演劇俳優としての生活に少しずつ疲れを感じ始めた頃、映画に挑戦した。

2009年、キム・ジュンギは映画「願い(Wish)」(監督:イ・ソンハン)でスクリーンデビューを果たした。認知度を上げることには失敗したが、演劇とは違う楽しさがあり、活力を得たという。キム・ジュンギの人生に“諦め”という文字はなかった。演技への情熱を取り戻したキム・ジュンギは心機一転し、最終的にはチャンスを手にした。

映画への情熱に燃えていたキム・ジュンギは、偶然キャスティングディレクターの目に留まった。彼の公演を見て好感を持ったキャスティングディレクターはキム・ジュンギにいくつかのオーディションを紹介し、その中にはチョン・ジヨン監督の「折れた矢」のオーディションもあったという。

「『折れた矢』のオーディションを受けました。役はキム・ギョンホ(アン・ソンギ)教授が監獄にいた時に、ダンスを教える役でした。あの時はカメラテストだけを受けましたが、見事に落ちました。実際、あまり期待もしていませんでしたし。僕みたいな新人が、チョン・ジヨン監督の作品に出られるわけがないでしょう? 本当に有難いことに、そのキャスティングディレクターの方が『南営洞1985』のオーディションも提案してくれました。今回はチョン・ジヨン監督が自らオーディションを審査するということでした。それを聞くと、自分の実力を試したいという気持ちがどんどん湧いてきました」

キム・ジュンギは自分だけの長所とも言えるエネルギーと情熱でチョン・ジヨン監督を虜にした。後日談だが、チョン・ジヨン監督に「『折れた矢』の時はなぜ自分を選ばなかったのですか」と聞くと「カッコいい外見のせいだ」と言われたという。キム・ジュンギはそのエピソードを話す途中に恥ずかしそうに笑った。

チョン・ジヨン監督に初めて会ったという「南営洞1985」のオーディション現場について聞いた。やはりチョン・ジヨン監督のオーラに圧倒され、全身が緊張で震えていたという。


裸のパク・ウォンサンを殴ってしまい……“申し訳ない”

「その時、僕は凍っていました。怖い感じすらしましたね(笑) だけど、監督がすごく優しくしてくださって『僕は誰よりも若い』などのジョークも飛ばし、現場を明るくしてくれました。おかげで、緊張を吹き飛ばすことができました。本来はキム係長役でオーディションに応募しましたが、キム係長はプレイボーイだという設定上、カッコよくないとダメだということでした。『折れた矢』の時とは違って、あの時の僕ってカッコよくなかったのでしょうか。それとも、今回も監督の面白いいたずらだったのでしょうか?」

演劇界ではベテランだったが、カメラの前では自然に演じることができなかったというキム・ジュンギは、撮影中のミスも多かったという。演劇の舞台とは違った現場で台詞も多く、勇気を持って映画に挑戦はしたが、その分苦労もあった。

キム・ジュンギは「映画だと1、2回のリハーサル後にすぐ撮影に入るので、焦ってしまいました。実際、大きな役ではないので気軽に撮影現場に行ったことも事実です。そのせいでチョン・ジヨン監督にたくさん叱られました。いつの間にか、カメラから見切れてしまったりもして……。大げさな演技はしたくなかったし、肩だけが少し見えるシーンだったので目立たないように演じていたら、監督が走ってきては『ジュンギ、カメラに映るようにしろ』と指摘されました。『カメラを食え!』という指導も何回も受けました」と打ち明けた。

キム・ジュンギが演じたイ係長は、公安警察の捜査当局で共産主義者を摘発するという口実のもと、いわゆる“工事”と呼ばれていた拷問をしていた南営洞対共分室の職員だ。拷問の補助及び被疑者の監視を主な業務としていた南営洞対共分室1科の警長だ。低学歴でワイルドな性格、職業へのコンプレックスが強い人物だが、キム・ジョンテ(パク・ウォンサン)に徐々に緩和され、善と悪の境界に混乱する二重的なキャラクターだ。

もちろん、簡単な役ではない。キム・ジュンギはイ係長について「単純で無知な、コンプレックスの塊」と説明し「だからこそ誰よりも優しく、純粋な人でもあります」と付け加えた。拷問官という役のために様々な資料も参照し、映画も参考したが、どこでもイ係長の姿は見つけられなかったという。

「悪質なキャラクターであることは間違いありません。でも、どこか隙だらけな面もあります。拷問を受け、弱っているキム・ジョンテに女性のことを言い出すなんて……。キム・グンテ議員の南営洞に関する手記でも、イ係長に似たような人物が少し取り上げられているそうです。詳しい描写ではないけれど、キム・グンテ議員を哀れに思っていた拷問官もいたそうです」

映画の中で酒が飲めないキム・ジョンテに無理やり酒を飲ませ、最も多く殴った人物がイ係長だ。そうでありながらも唯一、彼を哀れに思うキャラクターでもある。キム・ジュンギはイ係長がキム・ジョンテに無理やり酒を飲ませるシーンが映画のどんでん返しを予告するターニングポイントであると説明した。

「殴る演技がそこまで難しいとは思っていませんでした。パク・ウォンサン先輩が洋服でも着ていたなら保護装置でもつけることができたと思いますが、ずっと裸だったので……。本当に申し訳なかったです。僕だったら、絶対にキム・ジョンテを演じきることはできなかったと思います。釜山(プサン)国際映画祭の時、『南営洞1985』の出演者同士で打ち上げがありました。その時、キム・グンテ議員の妻であるイン・ジェクン議員も同席しましたが、すごく怒られました。『なぜあそこまで酷く殴ったのか』と恨まれましたね。映画の最後にはキム・ジョンテにパンも買ってあげるし、かばってあげたりもするんですけどね。その分、リアルな演技だったということですよね?(笑)」

記者 : チョ・ジヨン、写真 : ムン・スジ