「蜜の味」キム・ガンウ「“あいつ、演技に狂ってる”と言われてみたい」

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前日の撮影のため、1時間30分しか寝られなかったというキム・ガンウ(34)は疲れたような目でインタビューをこなしていた。カンヌ映画祭への招待を祝われる挨拶にも飽きているようだった。キム・ガンウには今、カンヌよりも睡眠不足が切実な問題のようだ。

お金を前に目の色を変えるチュ・ヨンジャクなのかが疑わしいほど、二人のキャラクターはまったく異なった。「蜜の味 テイスト オブ マネー」(監督:イム・サンス、制作:フィルムパマル)のチュ・ヨンジャクから抜け出す前に「サイコメトリー」(監督:クォン・ホヨン)のヤン・チュンドンに変身していたのだ。「忙しいのもいいですが、どことなく疲れています」という彼に、「旬」という名札をつけてあげたくなった。


チュ・ヨンジャクはそれなりに能力のある人物

「蜜の味 テイスト オブ マネー」は公開前から反響がすごい。もちろん、キム・ガンウとユン・ヨジョンの大胆なベッドシーンが一役買っているが、それだけではない。俳優たちのキャラクターが生き生きとしていること、そしてイム・サンス監督らしく、お金によって人間がどこまで汚くなることができるかをシニカルな目線で描いたことで、観客の注目を浴びているのだ。

キム・ガンウは韓国最上流階級であるペク家に勤める忠実な秘書で、裏のビジネスとお金の取引を担当する人物だ。ペク・ユンシク、ユン・ヨジョン、キム・ヒョジンの間でストーリーを引っ張っていく中心人物となる。

何かとプレッシャーがあるはずだが、「楽しかった。楽だった」と話す彼は、一体どこからその自信が出てくるのだろうか。

「イム・サンス監督の映画はテーマが強烈で、難しく感じることもあります。多くの方が心配してくれました。ですが、撮影をしながら僕はむしろ気楽でした。伝えようとするメッセージがはっきりしているから。お金の味を知っていくチュ・ヨンジャク。僕はこんなのが好きです。無駄がなく、クールですから」

この男、映画に対する自信が天にも届きそうな勢いだ。それだけ、監督を信頼しており、俳優たちの演技の息もぴったりだった。自信満々な彼が急に思い出したシーンがあったのか、膝をたたいた。

「最初は監督の表現方法がタフで、ストレートなので驚きましたね。でも、それも僕のスタイルに合いました。僕もそれが楽ですし、好きです。言わないで胸に溜めているとムカムカするじゃないですか。ですが、ユン・ヨジョンさんが心配してくださったので、ユン・ヨジョンさんの前では傷ついた振りをしました(笑)」

ユン・ヨジョンの話が出ると顔がパッと明るくなった。インタビューの間、疲れているようだったが、母のようなユン・ヨジョンの名前だけで笑顔になった。

彼は「『ハハハ』で初めてお会いしたユン・ヨジョンさんが本当に好きです。あのようなサバサバした性格は、好きですね。僕の母方の親戚がユン・ヨジョンさんのような性格で、だからか親しみを感じました。ユン・ヨジョンさんも僕のことを息子のように考え、心配もしてくれました。そして僕は母にするように、甘えたかったんです」と自慢していた。

こう話しながら目を輝かせるキム・ガンウの姿からピュアな少年を感じた。こんなにピュアなキム・ガンウが、お金の味を覚え堕落していくチュ・ヨンジャクを演じたことが信じられない。疑う記者に、怒り気味に彼は話した。

「チュ・ヨンジャクはお金に狂った人物ではありません。すごく良いとまではいかなくとも、平凡な家庭で生まれ、いい学校を卒業しました。それなりに能力のある人間です。最初からペク・グムオクに身体を売るような奴ではありませんでした。皆、チュ・ヨンジャクを誤解しているようですね。おそらく映画を見たら分かると思います」


ヒット作に恵まれなかったが、今回をチャンスに

2002年「コースト・ガード」でデビューし、今年でデビュー10周年となった。これまで着実に映画やドラマに出演してきたが、まだ観客にとって“グッとくる俳優”ではない。

キム・ガンウは「そうですね。自分で考えてみてもヒット作には恵まれていません。それなりに頑張ってきましたが」と考え込んだ。

「でも、人生は自分の思うようにいかないじゃないですか。そう思うことにしています。“なぜ僕だけダメなんだろう”と考えているのでは、時間がもったいないですね。そんな心配をしているより、演技の勉強をしているほうが、成功に近づくと思います。欲がないわけではないですが、そんな面では楽に考えることにしています」

淡々と話す彼に「『蜜の味 テイスト オブ マネー』が人生のターニングポイントになるのでは?」と話すと、待ってましたとばかりに、「そう、それですね」と豪快に笑った。

「本当に頑張りました。この映画で観客にキム・ガンウという名前をはっきり知らせたいですね。これまで水面下で頑張って泳いでいたので、これからはイルカのようにジャンプしたいですね」

キム・ガンウは「蜜の味 テイスト オブ マネー」を通して覚悟を決めたようだった。何か大きなことをやってやるという野望を持っていた。彼の自信もこの志から出てきたものだった。

彼は目を輝かせながら「とにかく頑張らないと。本当に一生懸命にやって、“あいつ、演技に狂ってる”と言われてみたいですね。今回の『蜜の味 テイスト オブ マネー』でそう言われてみたいです」と野望をあらわにした。

デビュー10年目、やりたい役はすべて演じてみたキム・ガンウは先輩の背中を見て学んでいると感謝を伝えた。自身も40年、50年を演技に捧げたいという気持ちを口にしていた。

彼は「蜜の味 テイスト オブ マネー」では、やられるだけのラグジュアリーなチュ・ヨンジャクだったと話しながら、今撮影中の「サイコメトリー」ではひたすら殴り続ける不良を演じ、間逆の人生を生きることが出来る幸せも一緒に語った。

「『蜜の味 テイスト オブ マネー』は個人的にも十分に準備した作品で、これまでと違うキム・ガンウをお見せするために頑張りました。ひと味違う、新鮮なキム・ガンウを見ていただきたいと思います。面白いじゃないですか、そんな変身も」

記者 : チョ・ジヨン 写真 : ムン・スジ