Vol.2 ― イ・ソンギュン 「ドラマチックなものは面白くない。オーバーだし」

10asia |

「父親になるとみんな同じみたいです。どんな俳優になりたいかというより、家長として家族を養わなければならないと考える点で」

いつものように響きの良い声でイ・ソンギュンが言った。こんなに穏やかな声と目つきで、いつもヒロインの傍で待ってくれていたあしながおじさんは、自分の生涯のパートナーと子供を持つ本当のおじさんになった。そして、偶然だろうが、映画「坡州(パジュ)」と「オッキの映画」、MBC「パスタ~恋が出来るまで~」などにつながる最近の出演作品でも、彼は優しく天使のようにロマンチックな男の代わりに、時には暴悪で、時には“みっともない”姿を見せてくれた。

ラブコメディ映画「くだらないロマンス」を見て嬉しくなるのは、彼の恋愛復帰作であると同時に、依然としてあしながおじさんとは程遠い一癖ある主人公を演じ、二つの領域の共通点を見せてくれるからであろう。果たして、これまでの姿は変化だろうか、それとも進化なのだろうか。もちろん、彼についての判断は観客一人一人がするものだが、本人の口から出た言葉が正しい判断に役立つこともある。このインタビューのように。

―先程、奥さんの話をされたが、ドラマの中でラブシーンを演じることは自然なことだ。しかし、結婚して子供もいるという事実が頻繁に言われると、そんな演技を見るのを少し躊躇ってしまいそうだ。

イ・ソンギュン:みんなそんなふうに言うけど、僕が秘密にしても事実だから。みんなが知っているし。あえてそのことを広めないでくれと言う必要もないし、僕が自ら騒ぐ必要もない。ただ聞いてくるから答えるだけだ。だけど、1時間もの間、映画の話をしていたのに、余談として話した家族の話だけに焦点を当てて、記事にされるのは悔しい。4日間もかけて、1日6時間、一生懸命に映画の話をしても意味がない。どうせ載せられる記事はそんな内容だから。記者の方々も注目を引かなければならないから、理解できる部分はあるけど、そういうことは余談として載せてほしい。

―それはスターになったからだと思う。俳優として作品の中の姿だけではなく、イ・ソンギュンという人が知りたいから。

イ・ソンギュン:それも当然ありがたく思っている。それも良いけど……僕たちはこんなにたくさんのことを語っているのに……(笑)


「『教授とわたし、そして映画』は周囲の人々が最も僕らしい役だと言ってくれた」

―作品を通じて定着したロマンチストというイメージに期待を受けていることはどうなのか。負担にならないのか。

イ・ソンギュン:KBS「キム・スンウの乗勝長駆(スンスンチャング)」の収録の時も似たような話をしたけど、僕はロマンチックな役をそれほどたくさんしていない。みんな「コーヒープリンス1号店」の印象が残っているからだと思う。それに、いくら違うキャラクターを演じてもドラマとは基本的に恋愛のストーリがあるじゃないか。例えば「パスタ~恋が出来るまで~」のチェ・ヒョヌクは本当はロマンチックではない人物なのに、そのストーリーには恋愛の要素があるみたいに。だからそういうイメージが定着したようだ。とにかく、僕は小さくてもリアルな映画をしたかった。

―だから「教授とわたし、そして映画」が目立つ。最近の作品の中で最も違うキャラクターを見せてくれた。

イ・ソンギュン:周囲の人々には一番僕らしい役だと言われた。お酒に酔っぱらってる人はお前だよ、みたいにね(笑)

―映画の撮影はどうだったのか。

イ・ソンギュン:「教授とわたし、そして映画」は「パスタ~恋が出来るまで~」を撮ったときと、同時期に撮影した作品。ホン・サンス監督が2ヶ月間、映画を撮ると言っていたが、僕は1週間に2日だけ時間をくださいとお願いした。それで「パスタ~恋が出来るまで~」に出演しながら撮影した。だけどこのチェ・ヒョヌクという奴が変な奴だった。だから焦ってすごく悩んでいたけど、「教授とわたし、そして映画」の現場では負担なく合流した。台本がないから(笑) 何にもなかったから悩むこともなかった。だからその2日間は休みの日みたいだった。チェ・ヒョヌクのせいで悩んたけど、2日間はただ行って、渡された台本を見て「やります」といえば撮影できるから。シーンごとに集中して撮影していったら、最終的にああいうキャラクターになっていた。

―この作品、あるいはキャラクターを通じて望んでいることはあったのか。

イ・ソンギュン:まずはホン・サンス監督の映画がかなりリアルで、僕もやはりそんなリアルな演技が好きだから、監督との相性が良い。それを演じきってこそ、後々、飾り立てられて美化された人物を演じる時に役立つ。

―「コーヒープリンス1号店」のハンソンのようにファンタジーに登場しそうな人物にもリアリティを与えている。

イ・ソンギュン:僕の容姿は負担になるほど、カッコよくて優れたビジュアルというわけではないから、どこにでも居そうな人だと考えれば良かった。だからみんなが共感してくれたんだろう。ファンタジーに見えないように。ハンソンというキャラクターは既にカッコいいのに、それを僕があえてカッコつけようとすれば、確実にプレッシャーになっただろう。また、ロマンチックな人物だと、最初から最後までロマンチックなふりをしたら変だけど、普段は気楽にして重要な場面でロマンチックに演じれば、自然とロマンチックに見える。積極的にそう見せようとするよりは、こんな人もいるんだと納得することが重要だ。

―あまりドラマチックな演技は好きではないのか。

イ・ソンギュン:たとえチェ・ヒョヌクがカッとなるキャラクターだったとしても、わざと感情を引き出して大げさに演じるのは良くない。感情的であることは……つまらない。オーバーだし。好みの問題だと思うけど、僕は音楽でも熱唱しすぎる歌手はちょっと聞き苦しく感じる。力抜いて歌う人の方が共感できるし聞きやすい。昔は熱唱することが、歌が本当に上手いことだと思っていたけど、今はそんなふうには感じられない。演技も以前は感情的なものが素晴らしいと思っていたけど、今は何であんなふうに演じるんだろうと思う。


「今よりもっと演技がうまくなって、ずっと続けていきたい」

―そんな風に振れ幅が大きくない役を演じているせいで、演技に変化がないと勘違いをされることもある。例えば「コーヒープリンス1号店」のハンソンと「マイスウィートソウル」のヨンスは大いに違う人物だが、その中でも人間が誰しも持っている共通の部分を演技で表現しているから。

イ・ソンギュン:「チェイサー」のハ・ジョンウのような殺人犯を演じることが、演技の変化だと思うことはおかしい。どの役もまったく同じであるはずがないのに。殺人犯のような役をやらないことは、変化がないことなんだろうか。僕が望んでロマンチストだと呼ばれるようになったわけではないのに、「コーヒープリンス1号店」がうまくいってからは、他の役が埋もれてしまう。だからそんなことを気にするのはやめようと思うんだけど、最近よくこの話を言われるので、一度何かを演じるべきだと考えている。強烈な役を。僕に与えられたことの中で僕がするべきことを探してやればいいことだけど。

―本当にまったく違うキャラクターを演じる予定はないのか。

イ・ソンギュン:それはある。チェ・ヒョヌクを演じた時、最初はかなり大変だった。あんなに撮影シーンの分量が多くて、重要な役は初めてだったし、どうすれば良いのか分からないほど、具体化できなかった。役に納得すれば表現することができるけど、それがあまりにも難しくて、神経質になっていた。だけど終わったら、それが自分のものになっていた。台本を見たら僕になぜ渡された役なのか、僕に何を望んでいるのか、すぐ分かる台本がある。だけど、僕に望んでいることは何だろうと思うものもある。それでも役が気に入ったら、やってみるべきだということを学んだ作品が「パスタ~恋が出来るまで~」だ。失敗しても僕が俳優をもう少し長く、うまくやっていくには、このような過程を恐れずにやるべきだと思った。そうすれば、経験が積めて、より長く演技を続けていけると思う。

―それならば「ケチなロマンス」の台本を見た時はどうだったのか。得たいものはあったのか。

イ・ソンギュン:僕に望んでいるものは明確なキャラクターだった。実際「坡州(パジュ)」や「教授とわたし、そして映画」のような演技をする時など、もっと気が楽な時がある。落ち着いていて開放的な演技だ。ロマンチックな演技が気楽で簡単に見えるけど、人物が若干浮ついていて、逆に大変な時もある。だけどそういう映画を撮った後は、次の映画でハツラツとしたコメディがやりたくなる。そんな時にこの作品を渡されたのだ。それに、いつまでこのようなロマンチック映画が撮れるんだろうかとも思った。子を持つ父になったのに……(笑) このような映画もいつまでも入ってくるわけではないので選んだ。

―年齢的な焦りはないのか。

イ・ソンギュン:若い時には切り札が必要だと思ったけれど、年を取ってからも必要な切り札はあまりない。焦りではない。焦ったら解決するという問題ではない。先ほど話したように怖がらず挑戦しているうちに、何かが現れると思う。来年が大変だと思う。このように挑戦をしてみる時期だから。今回パク・チュンフン先輩と「逮捕王」というブラックコメディ映画で刑事として共演するけど、どうしたらいいのかよく分からないので、かなり大変な映画になると思う。

―それでもやってみようという信念はあるのか。

イ・ソンギュン:失敗しても最悪の場合「こういうことはやめよう」ということを学べると思う。

―それが経験だと思うが、かえって新人の時の方が、失うものがなくて怖くなかったかもしれない。興行成績を上げなければならないというプレッシャーがあると、挑戦することが難しいと思う。

イ・ソンギュン:僕は責任…興行…そんなものを考えられるような人間ではない(笑) ソン・ガンホ先輩、キム・ユンソク先輩くらいになったら、それを考えると思う。数百人を率いる俳優だから。ぼくの映画の中で興行がうまくいった作品はない。自由に演技するには今が最適だと思う。こんな風に長くやっていければいいけど。責任を感じながら上手くやろうとするのではなく、今よりもっと演技が上手くなるように、ずっと続けていきたい。

記者 : ウィ・グンウ、写真:イ・ジンヒョク、編集:イ・ジヘ、翻訳:チェ・ユンジョン