【ドラマレビュー】「清潭洞アリス」ムン・グニョンが拭った“3放世代”の涙

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写真=SBS

「清潭洞アリス」セギョン……現実的なシンデレラ入門記

今月1日から放送がスタートしたSBSドラマ「清潭洞(チョンダムドン)アリス」。最初は、在り来たりなシンデレラファンタジードラマだと思った。更にドラマが始まる前に、PR記事に書かれたドラマの中のムン・グニョンが演じるキャラクターハン・セギョンの資質は素晴らしかった。美術を学ぶ者としてエリートコースを歩んでおり、フランス語も堪能な才媛だからだ。

しかし、いくら名門女子大を卒業していても、海外留学経験者が溢れるファッション業界で、国内派のセギョンの肩身は狭いばかりだった。就職活動で何回も失敗したセギョンは、素晴らしい資質にも関わらず、あるファッション業界に契約社員として入る。それも高校時代にセギョンのライバルで、美貌と恋愛のテクニックを駆使し、今や“清潭洞の奥様”となったソ・ユンジュ(ソ・イヒョン)が、セギョンをいびるためにわざと採用したという。

ここまで来ると「女性は良いところに嫁に行くのが一番」という、昔の人の言葉が合っているように感じられる。今の状況だけを見ると、何でも自分の力でこなしてきたしっかりものの“キャンディ(漫画キャンディ・キャンディの主人公、お転婆で、元気に困難を乗り越えるキャラクター)”セギョンより、男性の力に頼ることをなんとも思わない“テンジャンニョ”(虚栄心に満ちており、金持ちのように生活している女性)であるユンジュのほうが、遥かに成功しているからだ。これは、我々が住んでいる現実でもありえる。

しかし清潭洞への嫁入りは、誰にでもできることではない。「清潭洞アリス」で白馬の王子として登場したチャ・スンジョ(パク・シフ)は、自身と同じ財閥3世で出世を図る、虚栄心に浮かれた女性を毛嫌いする。彼がここまで“テンジャンニョ”を嫌悪するようになったのは、今や“清潭洞の奥様”となったユンジュのせいだ。過去に清潭洞のお嬢様ではなかったユンジュを愛していたスンジョは、両親が反対するにも関わらず、ユンジュと結婚するために莫大な財産までを諦めた。しかし、ユンジュから返ってきたのは、別れの言葉だった。そう、ユンジュはスンジョではなく、スンジョのお金と家柄を愛していたのだ!

それからスンジョは恋を信じない。自身に近づいてくる女性は、みんなユンジュのように、金目当てで近づいてくる人だと思い込むのがスンジョだ。そこでスンジョは交通事故で初めてセギョンに会ったとき、お高い奥様ユンジュの用事でブランド物のショッピングに来ていたセギョンを“テンジャンニョ”だと誤解した。そしてその後、能力も無いのになぜブランド物に執着するのかと皮肉を言う。

しかしセギョンは、ブランド物、贅沢、虚栄とはかけ離れた女性である。セギョンは、彼女と同じく大変な状況にある彼氏から別れを告げられた。金持ちの家でない以上、難しい大学受験で勝ち抜き、やっとの思いで大学に入学したときから、学費ローンの利子に苦しみ、就職も上手く行かず、結婚や出産どころか、恋愛までも諦めるのが現在の“88万ウォン世代”(88万ウォン(約6万円)世代:韓国で平均給与額が88万ウォンである大卒の非正規雇用者を示す)と呼ばれる“3放世代”(お金がなく恋愛、結婚、出産の3つを放棄した世代)の現況だからである。

「清潭洞アリス」のムン・グニョン、結婚、出産、恋愛まで諦めざるを得ない“88万ウォン世代”

結局彼女の事情を知る由も無いスンジョに皮肉を言われたセギョンは、悔しくて涙まで流す。ブランド物も自由に持てない現実をどうしろと言うのかと!

厳しい環境にも関わらず「努力すれば何でもできる」という希望の下、ブランド物には脇目も振らず、頑張って生きてきたのに、返ってきたのは彼氏の別れの言葉と、元祖“テンジャンニョ”のお使い、更には“テンジャンニョ”に誤解される。ここまで来ると“テンジャンニョ”たちとは違い、自らの力で成功すると思っていたセギョンさえも、“玉の輿に乗る”と宣言してもおかしくないだろう。

「清潭洞アリス」のセギョンは、今までのシンデレラの恩恵を受けたヒロインとは違う。韓国のシンデレラたちは、自ら“清潭洞の奥様”になろうと考えたことも無い、純粋なキャラクターだった。ただ、乳液を塗っただけで輝く顔とは違い、無能で、周りに迷惑ばかりをかける。更には、お金も無いのに、身に付ける服は全部ブランド物である。

SBS「シークレット・ガーデン」のキル・ライム(ハ・ジウォン)が数多くの韓国のシンデレラのうち、もっとも元気でアイデンティティがはっきりしていたが、同じ女性の目から見てもカッコよかったキル・ライムとは違い「清潭洞アリス」のハン・セギョンは、今の時代を生きる20代の女性の典型的な自画像である。大学登録金ローンの利子は滞納しているのに、就職が難しいので恋愛すら思い切りできず、契約社員としての就職先もなく、プライドを捨て卑屈にならざるを得ないのが2012年の韓国の青春の現況だからだ。

人よりお金が優先される世界。生まれつきの厳しい環境に挫折せず、元気に生きてきたが、返ってくるのはお金がなく、留学ができず、職場で見る目が無いと無視される絶望から、結局スンジョのような男性があんなにも毛嫌いする“玉の輿”が夢の“テンジャンニョ(?)”となったセギョンを責めることはできるだろうか。

それでも、一方でセギョンは、表は純粋なふりをして、実は出世を夢見るシンデレラとは違うような気がする。単純に、気難しい清潭洞の坊ちゃまスンジョとの結婚で終わらないということだ。

そうでなければ、序盤は清潭洞嫁入りプロジェクトで派手に包んだものの、中身でセギョンと同じ状況である大変な青春を慰められないからである。実はユンジュとセギョンのように、清潭洞に入る機会を持つ“88万ウォン世代”“3放世代”は、それほど多くないからだ。本当に「清潭洞アリス」のタイトル通り、新自由主義の恩恵の温床である清潭洞で屈することなく生きるアリスが、俗物のような人たちにハイキックを飛ばしてくれることを願うだけである!

記者 : クォン・ジンギョン