チュ・サンウクの「ファンタスティック」な駆けっこ

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※この記事にはドラマのストーリーに関する内容が含まれています。

“宇宙大スター”と呼ばれる俳優だが、演技はできない。見栄を張るのが日課のリュ・ヘソン(チュ・サンウク)が、昔愛した女イ・ソへ(キム・ヒョンジュ)と再び向き合う。余命宣告を受けたイ・ソへの傍でリュ・ヘソンは明るく笑った。目の中には誰より深い悲しみが込められていた。

JTBC「ファンタスティック」(脚本:イ・ソンウン、演出:チョ・ナムグク)で、他人を羨ましいと思うこともなかったリュ・ヘソンは、愛する人、死、人生について悩み、成長した。一つの作品の中で平然とした姿と深い感性を描き出したチュ・サンウクは、自身が演じたリュ・ヘソンについて「2度と出会えないキャラクター」と別れを惜しむと共に愛着を示した。

チュ・サンウクは18年間演技をしているが、疲れたり大変だと思ったりする時間はないという。代わりにできる年齢で、さらに新鮮で多様な演技を見せたいと話した。冷めない演技への情熱を見せる彼から、リュ・ヘソンを越えて、無数の“人生キャラクター”が誕生しそうな予感がする。

―「ファンタスティック」がハッピーエンドで終わった。

チュ・サンウク:とても軽快なエンディングだったと思う。劇中、ソへ(キム・ヒョンジュ)は死なず、生きていた。誰もが望むエンディングではないだろうか。もちろん16話がとても短く感じられた。全16話のドラマには出演してきたが、どの作品より「ファンタスティック」が一番名残惜しかった。

―視聴者としても名残惜しかった。俳優皆が役に溶け込んでいるような印象を受けた。

チュ・サンウク:予想はしていたが、ドラマが後半に向かうにつれて、もっと役に入り込んでいった。俳優全員、そのキャラクターになったように演技をした。演じる立場として、気が楽だった。もちろん最後のウユニ塩湖のシーンは、4次元空間に立っているかのように違和感があった。もっともらしく合成するのかと思っていたのに……(笑)

―チュ・サンウクさんが演じたリュ・ヘソンは、特に色んな感情を表現しなければならないキャラクターだった。大変ではなかったか?

チュ・サンウク:演技が下手なトップスターを演じなければならなかった。手を抜けば下手な芝居になるだろうと思っていたが、それが面白くないといけなかったので大変だった。幸いにも、楽しく見てくださったので良かった。演技自体が大変だったというより、演技を通して視聴者を笑わせなければならないというのが大変だった。コミカルな演技をする俳優は本当にすごい。

―コミカルながらも真剣なロマンス演技が輝いた。リュ・ヘソンは愛において“直進男”だったが、チュ・サンウクさんの実際の恋愛スタイルはどうなのか?

チュ・サンウク:ロマンスにおいて直進する部分は、僕もリュ・ヘソンに似ている。多くの男がそうではないだろうか? だが、リュ・ヘソンは彼女を“ソへ姫”と呼んで愛嬌を振りまくじゃないか。僕は少し無愛想な方だ。

―「ファンタスティック」のチュ・サンウクさんの演技を見て「あれはアドリブだな」と思うシーンが多かった。

チュ・サンウク:それならそれはアドリブのはずだ(笑) 最初は一つ二つ挟みながら監督の顔色を見た。大丈夫なようだったので、回を重ねる毎にアドリブを増やした。チョ・ジェユン兄さんとずっとアドリブをやっていると、最後には監督に「使わないからやめろ」と言われた。

―具体的にどんなシーンがチュ・サンウクさんのアドリブで誕生したのか?

チュ・サンウク:ドラマの後半でキム・サンウク(ジス)と会うシーンがある。僕はそこで「いい名前だね。チュ・サンウクでも良かったかも」と言った。そう言いながら、いたずらのように見えるかもと思って心配したが、オンエアされた。

―一緒にアドリブを考えるなど、チョ・ジェユンさんとはドラマの中だけでなく現実でも息が合ったようだ。

チュ・サンウク:劇中ではかけがえのない兄弟の間柄なので、実際に仲良くしていれば楽だろうと思ったが、それを知って兄さんの方から寄って来てくれて、冗談もたくさん言い合った。すごく早く親しくなった。アドリブも、最初は難しいけれど、一度やったら終わりがなかった。そのうち僕たち自身が「もうこれぐらいにしよう」と言った。何よりチョ・ジェユンという俳優は、本当に演技が上手い俳優だということを改めて悟った。主導するキャラクターではないにもかかわらず、立っているシーンや一言でも悩みながら相談していた。おかげで僕たちの“相性”が上手く活かされた。次の作品でも、自分を必ず推薦してくれと言っていた(笑)

―唯一の“男×男カップル”が際立って見えた。劇中ホン・ジュンギ(キム・テフン)とも兄、弟と呼んでいなかったか。

チュ・サンウク:最初はホン・ジュンギとリュ・ヘソンが親しくなるとは思いもしてなかった。合わなそうだった二人が互いに嫉妬しながらも親しくなる様子が面白かった。

―そのようなホン・ジュンギが死んでしまう。胸が痛かっただろう。

チュ・サンウク:撮影の途中でホン・ジュンギが死ぬという話を聞いた。その話を聞いた時も「回想シーンで出てくれば、ギャラはもらえるね」と冗談を言った。また、ホン・ジュンギがパーティーで歌を歌うシーンがあるが、本当に鳥肌が立った。病院で泣いたシーンよりもパーティーのシーンが最も胸が痛かった。それでも実際に死んだのではないので大丈夫だ(笑)

―“well-dying(幸せな最期)”を描く作品だった。演じる立場として、死ぬということについて考えてみたりはしなかったか?

チュ・サンウク:全く。幼い頃、軽く「僕が死んだら誰が涙を流すか」と考えてみたことはあるが、“well-dying”について考えたことはなかった。記者さんもそんな考えしないでよ。健康に悪い。楽しく明るいことだけ考えよう。劇中、ホン・ジュンギがパーティー葬式をする姿を見て、すごいと思った。愛する人と別れる状況がきても、ホン・ジュンギのように笑うことができるだろうか? 僕は分からない。

―それでは逆に、未来に対する考えは?

チュ・サンウク:それもまた心配しないほうだ。生きていくに当たり、未来のために貯蓄して悩むのも重要だが、それよりは一日一日を楽しく生きようと努力する。ただ流れに身を任せ、自然に生きるほうが僕には合うようだ。

―楽しく生きるために牛のように働くのか? 軍を除隊後、絶えず作品を披露している。

チュ・サンウク:除隊後、新たに始める気持ちが大きかった。時間はずっと流れて、僕が作品ができる時間は決まっているように思った。どんな役でも演じる適正年齢があるので、時間に追われながらずっと作品に出演してきたことは事実だ。ある程度経ったので余裕が出てきた。だけど、休もうと思っても、新しい作品が入ってくればまたすることになる。作品に対する欲が出てくるせいで。

―演じたい役があれば飛び込むということか?

チュ・サンウク:その通りだ。前作「華麗な誘惑」ではやや暗い演技をしたので、明るくて新鮮な演技への漠然とした渇望があって、「ファンタスティック」のリュ・ヘソンという役が与えられたのだ。休みたい気持ちが消えた。そうだな、室長というトラウマのせいかもしれない。室長専門俳優というそのイメージから脱するために(笑)

―そうやって頑張って18年間演技をしている。歩いてきた道に満足しているか?

チュ・サンウク:紆余曲折の末、18年も流れた。昔は「絶対上手くいかなければならない」という考えしかなかった。疲れて大変だなんてありやしない、前だけ見て行くんだ。周りを見る余裕もなかったし。ちょっとウソになるが、1年365日撮影しかしてない。そうやってここまできた。本当に馬鹿だった。だけど、そんなに仕事をして、自分にとって毒になったのか薬になったのかは分からない。僕はそうやって脇目も振らず走ってきた。

―それでもまた挑戦したい分野はあるか?

チュ・サンウク:大河、時代劇。もちろんジャンルを決めているのではない。ただ色んなキャラクターを演じたい。以前から時代劇の王様役をしてみたかったが、誰も僕を呼んでくれない。

―「ファンタスティック」最終回で時代劇の台本読み合わせ稽古のシーンがあった。

チュ・サンウク:本当に難しかったシーンだ。下手な芝居をするのはある程度良くなったが、ある瞬間真剣な感情表現をしなければならなかった。僕は真面目な演技をしているのに、視聴者に「なんだ、なんでずっと下手な芝居をしているんだ」と言われたらと思い、心配が上回った。

―悩みや不安が多かったキャラクターとももうお別れだ。

チュ・サンウク:2度とできない役だった。一つの作品の中で、このように多彩な感情を演じるということは容易ではなかった。“演技ができないトップスター”という役にも二度と会わないのではないだろうか。そうだな、また指名してくれるとありがたい(笑)

記者 : ヒョン・ジミン、写真 : チョ・ジュンウォン、翻訳 : 前田康代