「最後まで行く」イ・ソンギュン“あざが沢山できたし、肋骨にひびも…全力疾走したアクションシーン”

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※この記事には映画のストーリーに関する内容が含まれています。

母親の葬儀の日、緊急連絡を受け警察署に向かった刑事コ・ゴンスは、妻からの離婚通知と突然の内偵捜査、そして交通事故まで相次ぐ“不幸”に見舞われる。一つ解決したと思えばまた別の事件が起こり、コ・ゴンスを身動きできないようにする。映画「最後まで行く」(監督:キム・ソンフン、制作:AD406多細胞クラブ、配給:SHOWBOX)は、相次いで起こる事件・事故から逃れようとあくせくするコ・ゴンスを見る面白さがある。

特にコ・ゴンス役を演じたイ・ソンギュンは、これまでとは異なる姿で物語をリードした。映画の序盤はイ・ソンギュンのワンマンショーに近い。今回だけは他の誰よりも彼が一番目立っていた。また、何よりもイ・ソンギュンはコ・ゴンスを窮地に追い込むパク・チャンミン役のチョ・ジヌンとファンタスティックな“男性同士”の完璧な相性で息ぴったりの演技を見せた。彼特有の甘い声は聞くことができなかったが、それ以上の魅力で人々を虜にする。

―まずはカンヌ国際映画祭に招待されたこと、おめでとうございます。これでベネチア、ベルリン、そしてカンヌまで世界3大映画祭をすべて経験したことになる。今回カンヌには行かなかったが、感想を聞きたい。(インタビューは映画公開前に行われた)

イ・ソンギュン:映画祭への参加は重要なことではないと思っている。映画祭のために作られた映画でもなかったし、公開前に思わぬプレゼントを頂いた気分だ。最初はカンヌ国際映画祭に出品すると言われて驚いたが、監督週間部門(Director's Fortnight)に招待されたと聞いて更に驚いた。私たちの作品が認められて嬉しい。

―「最後まで行く」は映画らしい映画だ。映画的な要素がかなりあるが、映画に出演した俳優として映画を見た感想は?

イ・ソンギュン:テンポやリズム感は最初の計画通りに上手く表現できた。そして撮影現場でも「映画の現場らしい」とよく言われていた。すべての現場で皆が一緒に働いているが、今回はもう少し有機的にぴったり合致した現場だった。先ほど「映画らしい映画」と言っていたが、本当に嬉しい言葉だ。映画らしいシーンがたくさんあるのでそう見えたのかもしれない。それに、皆が一つになって作ったという感じが非常に大きかった。

―1つの事件から始まり、次から次へと展開されるストーリーが素晴らしかった。シナリオを見た時もそう感じたのか。

イ・ソンギュン:初めてシナリオを見た時、極度に窮地に追い込まれる話だったが、窮地に追い込まれる緊張感と、その緊張感から起こる笑いが本当に面白かった。シナリオ通りに撮影することができれば、これまでの韓国映画にはない不思議な作品ができるだろうと思った。

―しかし、シナリオ通りに映画が出来上がれば良いが、そうならないケースも多い。そのことは誰よりも分かっていると思うが、撮影では先ほど述べていたような期待は満たされたのか。

イ・ソンギュン:ますます信頼が高まっていった。俳優同士の呼吸と監督と俳優の呼吸が有機的にぴったり合致した。でも、最初から息が合っていたわけではない。撮影が進むにつれ、信頼関係を築いていった。そして積極的に参加する中で良い兆しがたくさん見えてきた。コ・ゴンスとパク・チャンミンが出会う貯水池のシーンは撮影の中盤くらいに撮られたシーンだが、その時から様々な面で安定し始めた。

―初めて仕事を共にした監督だが、監督への信頼は最初からあったのか。

イ・ソンギュン:初めて監督に会い台本について説明された時、(僕が考えていたイメージ)と大きな違いはなかった。何よりもシナリオがしっかりしていたので、その信頼を基に集まった関係だった。また、コミュニケーションを取る時、監督は注意深く意見を聞いてくださる。長い間準備をしていると独断で判断しがちになるが、そんなことはなく相手の話をよく聞いてくださった。それだけではなく、中間で上手く取りまとめてくださった。以上のような理由からお互いの意見がよく通じる現場になったのだと思う。つまり、監督が船長の役目をしてくださったということだ。全てがスムーズに進み、それを実感して更に信頼関係が深まった。それからは俳優たち自ら何かを準備してくるようになったほどだ。

―監督はどんな方なのか。

イ・ソンギュン:落ち着いていて、判断が早い。受け入れることはすぐに受け入れ、見逃してはいけないものもはっきりしている。僕たちを本当に上手くリードしてくれた。

―これまでイ・ソンギュンは自分が目立つよりも相手を引き立たせることに優れていると評価されてきた。しかし、今回は誰よりもイ・ソンギュンが一番輝いていた。

イ・ソンギュン:それは役によって違うと思う。(人を引き立たせる)優れた能力は分からないし、おそらくポジションの違いだろう。ハハ。サッカーでもシュートしなければならない選手がいるように、俳優にもそれぞれ役割がある。例えば、「僕の妻のすべて」でリュ・スンリョンはマッチョな男性を極端に表現しなければならなかったし、僕は滑稽でありながらも男性たちが共感できるようリアルに表現しなければならなかった。また、今回は最初から最後まで僕が引っ張っていかなければならないというプレシャーもあった。チョ・ジヌンが登場するまではワンマンショーをしているように演じなければならない。また、切迫した状況で感情をどう表現するか、チョ・ジヌンとどうやり取りするのかたくさん考え、お互いの演技を何度もモニタリングした。

―コ・ゴンス役を演じた時、悪人だと思いながら演じたのか。腐敗警官にも関わらず、彼に同化されて応援するようになった。

イ・ソンギュン:悪人とは思わなかった。ある程度不正はしているが、コ・ゴンスだけが犯したことではなく、会計を務めただけだったので、特に悪役というわけではなかった。ただ、応援したくなるとしては、彼があまりにも窮地に追い込まれたからだと思う。だから同情するのかもしれない。正しくないことをして人を殺したりもするが、それもやむなしと思われるような状況が続く。

―一方で、気の毒で可哀そうに思える感情をベースにしていた。

イ・ソンギュン:今回の映画ではそうするしかなかった。もしあのような状況でかっこつけていたら、誰が演じてもリアルではない。刑事物でジャンル物の主人公だからといって、かっこつけるのは嫌だった。アクションシーンでも監督が望む“無茶苦茶な喧嘩”が正しいと思った。特に遺体安置所では緊張感と笑いを同時に演出しなければならなかったので、少し物足りないマクガイバー(1990年代、アメリカで放送された冒険活劇ドラマの主人公)を演じたかった。切羽詰まっているのにどこか滑稽な彼の行動を見て、観客が緊張しながらも笑うしかない状況を作ることがポイントだった。

―コ・ゴンスは立て続けに窮地に追い込まれ、その状況に合った感情をそのまま表現した。そのような面では感情を掴むことが他の映画に比べて簡単だったと思う。

イ・ソンギュン:それは違う。この映画は母親の葬儀から始まるが、そこでの感情表現がポイントだった。事件が立て続けに起こるので、最初の事件をどの程度の感情で表現するのかが重要だった。そうすることで次の事件を有機的に繋ぐことができるからだ。良くない状況だからと言って過度に神経質になったり罪悪感を感じると、その後に繋げづらくなると思った。だから緊張感を保ちつつ少し緩めて表現する必要があった。また、相手俳優と共演するわけでなく、一人で演じなければならなかったので更に複雑だった。「火車」の時も一人で物語を辿っていく話だったが、その時も同じことを感じた。感情に没頭し過ぎると観客の方が疲れてしまうこともあり得ると思った。だから監督とたくさん話し合ったし、同じような感情を表現する場合でも少しずつ変化を加えようと一生懸命考えた。

―アクション演技に挑戦しても良いと思うが、今回の映画ではたくさん殴られていた。

イ・ソンギュン:僕も殴るシーンがある。ハハ。昨年の夏、チョン・マンシク兄さんから「おい!男性俳優の中で『群盗:民乱の時代』『パイレーツ』『バトル・オーシャン/海上決戦』のうち、どれにも出演していない俳優はない」と言われた。だから「僕は出ていない。イ・ソンギュン以外は皆出ている」と言って笑いを誘った。実は「群盗」の予告映像を見るだけで羨ましくなる。ハハ。

―アクションに対するロマンはあるのか?

イ・ソンギュン:かっこいい作品に出演してみたい。そんな作品からオファーが来たら出演すると思う。

―ところで、イ・ソンギュンがあんなに小柄な体格だとは知らなかった。チョ・ジヌンと2人で立っている姿を見たら……。ハハ。

イ・ソンギュン:実際に殴ったり殴られたりするので、衣装の中にプロテクターのようなものを付けていた。それでジヌンの体がより大きく見えたのだと思う。

―体の大きいチョ・ジヌンと対峙するアクションが多いが、難しくなかったのか?

イ・ソンギュン:あざがたくさんできたし、肋骨にひびも入った。もちろん、台本に非常に細かく描写されていたので覚悟は十分していた。トイレで対決するシーンは思ったより簡単で、12時間で撮影を終えた。そのシーンは台本では本当に痛そうに描かれていたが、ほとんどのシーンを代役なしで演じなければならなかった。また、マンションのシーンは4日間にわたって撮影した。でも、そのシーンはほぼ最後の撮影だったので、ジヌンとまるで決戦に向けて全力疾走するような感じがして気持ち良かった。最後まで全力疾走して到着した後、相手と抱き合った感じだった。

―チョ・ジヌンとは初めての共演だったが、実際に共演してみて彼はどんな俳優だったのか?

イ・ソンギュン:元々チョ・ジヌンという俳優がとても好きだった。彼は偉大な役者だと思う。ジヌンにも話したが、彼はまるで巧みな4番打者のようだ。また、ある記者さんがジヌンのことを「熊のようなビジュアルなのに、蛇のように演じる」と表現していたが、その表現がぴったりだと思う。彼は本当にその両面を持っている。素晴らしい俳優だ。

―女優とロマンスを演じる時と男性俳優と共演する時とでは演技も違ってくると思う。

イ・ソンギュン:まず、女優と共演する時はより繊細な感情が表現されると思うし、監督もそれを要求する。だからより集中するようになる。一方、男性俳優と共演する時はより大きなエネルギーをやり取りする。そうすることで思いもよらなかったものが出てくる。「僕の妻のすべて」でスンリョン兄さんと共演した時も、そのようなことをたくさん感じた。エネルギーのやり取りの中でまた別のものが生じるのは本当に楽しい。ジヌンとの共演もそうだった。

―いくつかのインタビューで見たが、今回はヒットへの期待も大きいようだ。

イ・ソンギュン:上手くいったら良いなと思う。撮影を始めた時から負担が大きかった作品だ。最初から最後まで大部分を僕がリードしなければならなくて、ジヌンが登場するまではその責任を僕一人で負わなければならなかった。従来の映画よりも負担が大きかったこともあり、モチベーションにもなった。だから他の作品よりも特別な感情がある。また、今回の作業はチームの雰囲気も良く、良い人たちをたくさん得ることができたと思う。かと言って浮かれているわけではない。ただ望みが一つあるとしたら、「僕の妻のすべて」の時もその前作だった「火車」よりも上手くいけば良いなと思っていたように、今回も同じだ。「僕の妻のすべて」より上手くいったら良いなと思う。

記者 : ファン・ソンウン、写真 : ペン・ヒョンジュン