「TENリターン」モンスターたちの物語を作る人:SPECIAL INTERVIEW

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※この記事にはドラマ「TENリターン」の結末に関する内容が含まれています。

長い間韓国の全国民に愛されたMBC「捜査班長」(1970~1989)。OCN「TENリターン」がそれに続くとなった時、正直期待よりは不安の方が大きかった。「さあ?果たして?」それほど、「捜査班長」が残した影が濃くもあったし、何よりその間アメリカCBSの「CSI:科学捜査班」を初め、「Xファイル」「キャッスル ~ミステリー作家は事件がお好き」「BONES-骨は語る-」「クリミナル・マインド」「THE MENTALIST メンタ リストの捜査ファイル」など、感心させられる多くの推理刑事のシリーズものが溢れていたからだ。「捜査班長」が与えた胸を打つ人間味、アメリカドラマの練り上げられた展開と緊張感溢れる演出、そして魅力的なキャラクターたち。果たして視聴者たちの肥えた目と耳を満足させられるだろうか?しかし、2011年11月「TEN」の放送がスタートした日、私は妙な感動で胸がいっぱいになった。韓国のドラマが、ここまで発展したのだ。隠れた人材が、これほど多かったのだと。やはり、韓国の若者たちだ!そして、イ・スンヨン監督に悪い気がした。MBCドラマネット「別巡検(ピョルスンゴム)」ですでに実力を証明した彼を信じず、疑いの目を向けていたと。そこで、「TENリターン」が大詰めを迎えているイ・スンヨン監督に会いに行った。直接謝罪し、色々な質問をするために。

参加者:イ・スンヨン監督、キム・ドンヒョンプロデューサー、チョン・ソクヒコラムニスト

―最終回まで2話残っていますが、表情が明るいですね。スッキリしているのですか?「TEN」には笑顔がないじゃないですか。それでも笑ってらっしゃるので。

イ・スンヨン:私が大変がって苦悩するほど、事がうまくいきませんでした。それで、いいように、いいように考えています。シーズン2が始まって、責任が重かったので。期待する方がいらっしゃったからです。余裕に見えますか?実は、7キロほど痩せました(笑) 人々が「TEN」の監督だというと、皆変な人だろうと思うんです(笑) 変は変ですが、でも几帳面な勉強虫みたいなタイプです。

―几帳面なのは本当でしょうね。エピソード一つ一つに多くのことが絡んでいて、単純犯罪ではないですよね。

イ・スンヨン:最近はそのせいで、自分が作った罠にはめられているような気もします。何も知らなかった時は直感的で即興的にやっていました。実は、最初「別巡検」を作る時は、アメリカドラマについてあまり知りませんでした。それで、「CSI:科学捜査班」を数話見て、「これより面白ければいいんだな?」と思ったりもしました(笑) でも、勉強してみると、それがなかなか難しかったです。推理では、Who、How、Whyが重要だというじゃないですか。科学捜査隊の場合は、犯人を捕まえること(Who)が1次元的な面白さで、どうやって(How)が2番目の面白い要素となります。3番目が理由(Why)、そこに脚本家たちの世の中を見据える視線をどのように溶け込ませるかも悩みました。時代の差はありますが、「捜査班長」を基準点にもしました。

―視聴者が予想できない方向へ進もうとする意図もありますよね?

イ・スンヨン:そういう面もあります。そのため繰り返されるパターンができてしまったのではないか、感情や他の部分の完成度を見逃しているのではないかと心配になったりもします。しかし、1度くらい考えてみる価値のある感情、関係について表現してみるのが、「TEN」のスピリットだと思っています。

―画像、撮影技法も一般的とはいえませんね。映画のワンシーンのような美しい空、絵に変わる画像、また記憶に残ったのは、被害者の母親が絶叫するシーンでした。あれはどういう技法ですか?

イ・スンヨン:“ストップモーション”ですか?ですが、どれほど楽しんでいるかが重要だと思います。とりあえず、私は楽しいです。あ、ソン・ギョンテとヨ・ジフン(チュ・サンウク)が対峙した橋のシーンも、台本ではヒノキの森でした。ところが、ヒノキの森が見つからないんです。そうしているうちに素敵な橋を見つけて、CGチームを連れて行き、もしかしてこの橋を切ることはできるかと聞いてみたら、可能だと。それで、切りました。後で郡役所では、「どうして橋が切れたんだろう?」と思ったそうです(笑) 数人が集まってそのようにアイデアを出して、そして解決しています。

―皆さん、楽しんでらっしゃるんですね。
イ・スンヨン:そうです。俳優たちも楽しんでいます。脚本家が気を悪くしない程度に、台詞も変えたりしています(笑) 夜明けになるまで深い話をしながら。

「切迫感を持っている人が好きです」

―人材発掘の鬼才というあだ名が付けられました。「別巡検」から「TENリターン」に至るまで、リュ・スンリョンさんを初め多くのスターを誕生させましたが。

イ・スンヨン:人材の発掘ですか。才能ではなくて、これは本当に天からの授かりものです。本当に、運がいいだけです。ただ私は、切迫感を持っている人が好きです。少し崖っぷちに立っているような?リュ・スンリョンさんだけ見ても、当時映画では「聖なる系譜」など、重みのある助演でした。小さくても自分が羽ばたける舞台を望んでいた時で、私たちはスターよりは物語の完成度や演技力、俳優の情熱の方が重要だったので。そのようなニーズがお互いに合ったのです。また、「別巡検1」に出演したキム・ソンオさんも記憶に残っています。

―そうです。映画「アジョシ」とSBSドラマ「シークレット・ガーデン」が同時期でしたが、二つは正反対の役柄だったんですよね。

イ・スンヨン:そんな演技、簡単ではありません。「別巡検1」の犯罪者プロファイラー役で3人断って、撮影まで二日となった時キム・ソンオさんに会いました。最初のシーンだけ見て決めました。

―若い覇気のある熱血刑事、パク・ミンホ役のチェ・ウシクさんもどこで見つけられたのか気になっていました。

イ・スンヨン:チェ・ウシクさんは、私が見つけました。「別巡検3」の時、1シーンの端役があったんですが、彼が本当に生きている演技を見せてくれたんです。「ほお、上手いな」と思って終わったんですが、彼、撮影が終わっても帰らずに、撮影現場をうろついていました。そして、彼には周りを明るくする長所がありました。非常に印象に残ったんですが、その後でMBC「チャクペ~相棒~」で主人公の少年時代を演じていました。調べてみると、当時も子役の端役の面接に行って、その役柄を演じることになったそうです。「TEN」があまりにも暗い雰囲気なので、末っ子くらいはそれを相殺させられる人物であって欲しいと思って、ウシクさんを呼びました。でも、ほとんどの人に反対されました。あまりにも高校生っぽいと。私が言い張ったんですが、後でほめられたケースです。明るいだけでなく、深い眼差しも持っていて、期待できる俳優です。見守ってください。

―キム・サンホさんも「TEN」で真価を発揮しています。
イ・スンヨン:ペク・ドシク刑事の場合、元々の設定は定年退職を目前にしている刑事でした。最もやりたかったのは結婚で、最もやりたくないのは“警察ごと”である人物です。キム・サンホさんは2、3番目の順位くらいでしたが、読み合わせの日この俳優が崖っぷちに立っていることが感じられました。台本を渡して1週間しか経ってないのに、ペク・ドシク刑事について私よりよく知っているのです。その日そこで決めました。でも、テレビで見るよりはるかに若くてエネルギーに満ちた方でした。それで、年齢をぐっと下げたんです。ペク・ドシク刑事は台本に加えて、役者が多くの部分を作り出したと思います。

「現場で俳優たちが作っていく部分が大きいです」

―私は、チョ・アンさんも意外なキャスティングだと思いましたし、チュ・サンウクさんも「ジャイアント」で印象的ではあったんですが、本部長や室長の役が多かったので、首をかしげたものです。

イ・スンヨン:私は、チュ・サンウクさんが数年内に演技で大成功すると信じています。シーズン1の最初の打ち合わせの時、鋭いながらも余裕のあるクールな人物であって欲しい、「空から降る一億の星」の木村拓哉のような感じであって欲しいと話したら、彼は明石家さんまの中年の刑事の演技の方が好きだと言いました。そんな演技がしたいと。実が脚本家も私も俳優も、ヨ・ジフンを理解することがだんだん難しくなっています。7年間で人生が破壊され、一人を追いかけているじゃないですか。追いかけている時までは基準点でもできるのに、捕まえてからの虚無感、それは私達には到底分かるはずがないんです。多分チュ・サンウクさん、演じるのは難しいと思います。チョ・アンさんは、欲張りにも演技が上手くさらにかわいい女優を探していたんですが、私のイメージにぴったりでしたのでキャスティングしました。キャスティングが上手かったというよりは、現場で俳優たちが作っていく部分が大きいです。私たちは皆で一緒に作っています。

―ユン・ジヘさんの演技もよかったですし、視覚障がい者の歌手を演じたイ・ヒジンさんの演技も良かったです。

イ・スンヨン:ユン・ジヘさん上手いですよね?あ、イ・ヒジンさんは、現場でも絶賛されていました。密閉された空間で3~4日撮影したのですが、体調も悪かったそうです。それにもかかわらず集中力を維持していました。最初は私も先入観が少しあったんですが、後から聞こえてくる話を聞いてさらに関心を持ちました。

―制作陣も俳優たちも、誇りを感じていると思います。最後までこれだけは守りぬきたい、という部分はありますか?

イ・スンヨン:全般的にもそうですが、「ウウンド殺人事件」は「殺人の追憶」をオマージュしました。「殺人の追憶」自体が韓国型の刑事ものでもありますし、ユーモアを失っていないので。それで私たちも、1話で最低何回以上は笑わせなければと思いながら作っています。最初から最後まで緊張感の高い映画やドラマを見ると、私も頭が痛くなるので。

―テープ殺人事件の最後に、ヨ・ジフンはナム・イェリが縛られているのに助けず犯人を追いかけるじゃないですか。その部分について、悩んだことでしょう。

イ・スンヨン:シーズン1の最後に、すでにそのシーンがありました。まとまっていないエンディングを案内しておいたんです。そのシーンについて意見が分かれますが、演出者の限界があったようです。説得力ある形で作るかという問題がありました。それで、高速撮影をしました。ヨ・ジフンは、7年ぶりに会ったF、ソン・ギョンテ(パク・ビョンウン)を見て涙を流しますので。よそ見している間に逃げられましたが、すぐ追いかけずに悩みます。でも、後ろからペク・ドシク(キム・サンホ)がついて来る音が聞こえたので追いかけることができたんです。本当に短い間の状況ですが、拡大された部分を視聴者に認知されたようです。

―とにかく、普通の主人公ならば女性から助けるものでしょう。

イ・スンヨン:助けるべきでしたね。元々のデザインでは、“ストップモーション”を使おうとしました。周りは止まっていて、ヨ・ジフンがその短い瞬間、7年間走ってきた人生の破片や絶叫などが交差して悩む、それから停止が解けてFを追いかけさせようと思いました。でも、過剰だと思って変えました。

―それでは、Fはまた登場しますね?

イ・スンヨン:私たちが思っていたよりFの存在感が大きくなって、私たちも当惑しています。苦痛が運命になってしまったヨ・ジフン、そしてその人が自分を見て笑っているけれど嘘をついているということを知るしかない、天刑の苦痛を抱えるナム・イェリ、刑事生活から抜け出し安全に結婚に安着したがるペク・ドシク、この人達がどのような方式で自分の幸せを探していくか、これが「TEN」がスタートした理由ですが、時間が流れてFは誰で、彼を捕まえたかどうかがあまりにも大きな案件になってしまったんです。実は、Fってforeverだと思いました。人間の歴史が続く限り、犯罪もまた続きますので。それで、Fはforever、と変奏しようと思いました。でも、Fに対する疲れもあるようです。まあ、最後の締めはFがしなければなりませんね。

―本当に丁寧に作業なさるんですね。キム・ドンヒョン制作プロデューサー、このように几帳面な監督と働いていたら、大変なこともあるでしょう。

キム・ドンヒョン:「TEN」という世界の総責任者は、イ・スンヨン監督です。でも、放送局の立場からは、編集の方向や物語の流れ、キャスティングの好き嫌いで対立するしかありません。ほとんどの場合は、権力によって放送局の方が決定権を握るケースが多いです。シーズン1が激しくぶつかった結果物ならば、シーズン2はお互いに演出の長所と放送局ができる役割について学んだうえで始めていると思います。今は出来る限り演出が本来の役割を上手く果たせるように、支えています。

イ・スンヨン:実際シーズン1の時はぶつかる面も結構多かったです。それでも私を信じて任せてくれた部分の方が多いです。でも後で、「あの時あの言葉は聞いておくんだった」と思ったことも多かったです(笑)

―もしシリーズものとして続けるならば、監督をしっかりと捕まえていなければならないじゃないですか。

キム・ドンヒョン:もちろんです。監督だけが頼りなので。

イ・スンヨン:引きますね、こんな雰囲気(笑)

―監督が新しい技法で撮影したいと言ったら、積極的にサポートしますか?

キム・ドンヒョン:常に反対する立場ですね(笑) 工程上難しいですし、問題になる場合もあるので。でも、シーズン2ではほとんどなかったと思います。

「テレビのヌーヴェル・ヴァーグになりたいです」

イ・スンヨン:私は運がいいんです。他のところではこの経歴でこれほどのお金は使えません(笑) スタッフが、映画スタッフ半分にドラマスタッフ半分なので、映画のようにもドラマのようにも感じられます。映画にしようと提案されたこともあります(笑) 可能性が見えるみたいです。

キム・ドンヒョン:シーズンの最後を控えている状況ですが、余裕あるように見える監督の姿、実は嘘だということを私は知っています(笑) わざと心を空にしたようです。

イ・スンヨン:実は、朝までは少し大変だったんです(笑) 世に出しても恥ずかしくないドラマを作りたいので。視聴者は正しいコンテンツを見る権利を持っているじゃないですか。粗雑なものやおかしいものではない、面白く意味のあるものを作ることが基本だという考え方で頑張っていますが、締めくくりの瞬間がくると物足りなさが残りますね。それでも、一定の部分を認めてくれる方がいるのが、非常に大きな力になります。私たち皆成功して、テレビのヌーヴェル・ヴァーグになれるといいですね。

エピローグ
「TENリターン」の最初のエピソード(第1、第2話)のサブタイトルは、「Understand」だった。「理解した!」または、「理解できる?」このドラマは本当に、ビックリマークとはてなマークの間を行き来させるドラマだ。理解したかと思えばまた理解できないし。1話1話、残り少なくなるのを惜しみながら見守ったが、いつの間にか2話だけしか残っていない。どのような締めくくりになっても、制作陣と俳優たちに惜しまぬ拍手を送りたい。心から。

文:コラムニスト チョン・ソクヒ

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記者 : チョン・ソクヒ、写真 : OCN、スタジオS、チョン・ジュヨン