「オフィスの女王」ハム・ヨンフンプロデューサー、私たちの現実を映し出しています:SPECIAL INTERVIEW

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財閥家や王室だけに関心が集中しているドラマ業界に、会社員、しかも本部長や室長ではなく非正規雇用の社員が主人公のドラマが登場した。KBS 2TV月火ドラマ「オフィスの女王」だ。水木ドラマの激しい競争が月火ドラマの競争にまで繋がっている中、平凡な人々のストーリーで果たして関心を集められるのだろうかと疑問を感じたが、第1話から話題沸騰だ。“取扱説明書”付きのいわゆるスーパー派遣社員ミス・キム(キム・ヘス)の活躍が目覚ましく、くるくるパーマと呼ばれ始めている俳優オ・ジホの変身も新鮮だ。しかし、一方ではなぜまた日本ドラマのリメイクなのかという非難の声もある。そうだ。なぜ日本のドラマをまた?「ドラマスペシャル」で名を知らしめたユン・ナンジュン脚本家と、KBSで単発ドラマ復活の火付け役をしてきたハム・ヨンフンプロデューサー(以下PD)が企画した作品ということだが、だとすれば何か理由があるのではないだろうか。ハム・ヨンフンPDに会って制作の過程について聞いてみた。

―最近のドラマを見ると呆れてしまう時がたくさんあるじゃないですか。ドロドロなドラマが大半です。そんな中でのリメイク版ではありますが、“派遣社員”という平凡な題材を選んだきっかけとは何なのでしょうか。

ハム・ヨンフンPD:スタートはかなり前からでした。2007年「いいかげんな興信所」を終え、新人の脚本家たちとともに単発ドラマを企画して脚本を書く会を開いてきました。そこでユン・ナンジュン脚本家に会いました。確か2009年だったと思います。単発ドラマの形式で「帰ってきて、ミス・キム」を書かれていて、それがぱっと目に入りました。しかし、それでドラマを作りたいと話したら、ダメだと言われました。日本のドラマを練習がてらに脚色しただけだということでした。それで一旦諦めていましたが、その後単発ドラマを復活させるための様々な努力があったじゃないですか。幸い単発ドラマが復活し、ユン・ナンジュン脚本家の台本で「偉大なケ・チュンビン」を始め3本が放送されました。そのおかげでユン・ナンジュン脚本家は脚本家としての能力を認められました。僕はその時まであの脚本に対する愛着があり、捨てられていませんでした。

―だからついに版権を買われたわけですね。

ハム・ヨンフンPD:幸い競争に勝って版権を獲得し、ドラマ化が出来るようになりました(笑) 社会的な意味もありますが、とにかく面白かったです。ミス・キムというキャラクターが新鮮でしたし、何よりドラマ全般に流れるヒューマニズムが気に入りました。

―原作は全10話で1話が45分の長さでした。全16話の70分に増やすことで、内容が退屈になったり緊張感がなくなる可能性がありますが、そのためにラブストーリーを入れたのか、本来の意味を失っているのではないかという声もあります。

ハム・ヨンフンPD:はい。原作に比べると内容がほぼ2倍になります。増えた部分の一部が恋愛になっている所もあります。しかしミス・キムの過去について、原作より深いところまで掘り下げる予定ですし、他の登場人物の個人的なストーリーも扱うようになります。枠は日本のものですが、韓国のサラリーマンの現実がリアルに反映されています。

―ラブストーリーに関しても否定的な反応があることはご存知ですか?

ハム・ヨンフンPD:僕もメディアの記事を読んでモニタリングもしていますが、半々だと思います。原作にはないラブストーリーによって原作の意味が失われるという意見には、そうですね、作る側としては生かしたい部分です。ただ、心配されている方々がご指摘されているように、ラブストーリーがこのドラマの趣旨を損なわないように努力しなければいけないと思っています。ただ男女が集まると恋が芽生えたりするものですので、そういった軽い意味で受け取っていただければと思います。

―クム・ビンナ(チョン・ヘビン)は新しい人物設定ですが、原作の幹部レベルの女性社員が新入社員に変わったようですが、この人物は必要なのでしょうか。ケ・ギョンウ(2AM チョグォン)の役割が分かれている感じもありますし、悪役なのかも曖昧ですね。

ハム・ヨンフンPD:このドラマに悪役はいません。ドラマのファンやレビューを書く方々や記者の方々は、これまで見てきた基準でドラマを見ているため悪役だろうと思っているようです。正社員に対するストーリーはチャン・ギュジク(オ・ジホ)とム・ジョンハン(イ・ヒジュン)が披露し、新入社員のストーリーについてはチョン・ジュリ(チョン・ユミ)と状況が真逆にあるクム・ビンナを配置することになったのです。もう少し見ていただくと分かると思いますが、悪役ではないと思います。恋愛において邪魔になったりハードルになる可能性はありますが。

―悪いことはしないで欲しいですね!

ハム・ヨンフンPD:はい。悪いことはしないと思います(笑)

「キャスティングに恵まれました」

―キム・ヘスさんのキャスティングはまさに神の一手です。最高のキャラクター、最高の女優ですね。

ハム・ヨンフンPD:韓国でミス・キム役をこなせる役者が何人いるだろうかと考えてみると、数人いるかどうかです。黙っていても存在感がありカリスマ性のある女優が必要でした。貫禄も感じられなければいけませんし、キム・ヘスさんが熱烈な反応を見せてくれて有難かったです。ミニシリーズ(毎週連続で2日間に2話ずつ放送されるドラマ)のキャスティングは本当に大変ですが、キャスティングにおいては恵まれたと思います。

―原作より一歩前進したキャラクターが作られました。

ハム・ヨンフンPD:原作の大前春子というキャラクターとユン・ナンジュン脚本家が考えるミス・キムはやや異なる所があります。雑務に関しては特にそうです。原作では雑務はしません。しかし、ミス・キムは卓越した能力を多く持っていますが、雑務にも長けています。時間が余れば、休まず何でもやる、雑務もつまらないと思わない人物です。


「本当にやりたい話はチョン・ジュリについてです」

―そうですね。もっと実力を発揮すればいいのに、なぜ雑務をするのかなと疑問に思っていました。しかし、本当の主人公はチョン・ユミさんが演じるチョン・ジュリじゃないですか。ナレーションを担当して原作より存在感が大きくなりましたが、制作陣の期待が感じられます。

ハム・ヨンフンPD:実は韓国でミス・キムがどのように受け止められるかが一番心配でした。ともすると、無表情に言葉遣いも荒っぽいし、プライドだけが高く好感を得られない可能性もあったためです。そこで、そもそもなぜこのような企画が可能だったかについて考えてみました。チョン・ジュリのためにこのドラマが作られたのです。ほとんどの平凡な若者たちは、チョン・ジュリと似たり寄ったりの生き方をしているためです。若者の失業や派遣社員の問題も深刻です。果たして派遣社員が正社員になる可能性があるか、或いは正社員になることは良いことばかりなのかを考えた時、ミス・キムというスーパーキャラクターで興味をそそると同時に、実際に話したいのはチョン・ジュリについてなのです。

―原作でも質問を投げかけただけで、解答は示しませんでした。

ハム・ヨンフンPD:ドラマがある社会問題に対して解答を示すことは難しいことです。かえってそれは傲慢なことかと思います。このドラマを見ながら自身をミス・キムと比較する人もいると思いますが、チョン・ジュリを見て夢や希望を持って頑張ろうと思ってほしいです。

―チョン・ユミさんが久しぶりに地上波ドラマに参加することになりましたが、「偉大なケ・チュンビン」の縁だったのでしょうか。

ハム・ヨンフンPD:キャスティングをする側としてはチョン・ユミさんが視聴者にアピールできないと思う可能性もありますし、チョン・ユミさんとしてはやりたくない役をオファーされたと思ったかもしれません。しかし、私たちはミス・キムに比べて非常に現実的な人物が必要でしたし、チョン・ユミがぴったりだと思いました。チョン・ユミさん本人もこのドラマや役柄を好きになってくれました。チョン・ユミさんは楽しいことが好きなようです(笑) キム・ヘスさんがミス・キムで安心した部分もありますし。

―リメイク版の場合、普通は似たような人物をキャスティングしますが、全体的に全く異なるカラーのキャスティングです。

ハム・ヨンフンPD:役柄についてそれぞれ異なる思いでキャスティングしましたが、ム・ジョンハンはインパクトがない役柄のように感じました。優しいばかりの人物ではないですが。魅力がないと思われがちで。しかし、イ・ヒジュンさんが“生”の演技をする方なので、役柄的には弱そうに見えるけど、補完すれば同等にいけると思いました。それが予想通りになったわけです。

―オ・ジホさん、役柄が強烈すぎて今後は“くるくるパーマ”しか思い出せなくなりそうです。

ハム・ヨンフンPD:(笑) オ・ジホさんが演じた役柄の中で一番強烈な役柄ではあります。オ・ジホさんは実は一番最後に加わりました。それでも速いスピードで適応しています。普段話す時もチャン・ギュジクのように話します。ドラマを熱心に見てくださる方は、題材そのものの重さについて評価してくださったり、他の人はあまり言えない話をミス・キムが話す時には痛快だと思われたりもしますが、作る側としては気軽に見ていただく方々の事も考慮しています。正社員の代表と派遣社員の代表が一戦を交える時、どれだけ興味津々なのか、そこに商業的な成敗がかかっていると思います。
―アイドルメンバーをキャスティングしたのが意外でした。

ハム・ヨンフンPD:2AMのチョグォンさんがバラエティ番組やシットコム(シチュエーションコメディ:一話完結で連続放映されるコメディドラマ)に出演したのを見ましたが、面白そうだなと思いました。もちろん、アイドルが加わってわざと出演分を増やすこともできますが、そうはしていません。基本的にメインとなるのはオフィスですから。みんなが主人公のドラマです。最近はみんな、出社する気持ちで撮影現場に来るそうです。

「演出よりは企画に集中しています」

―監督ご自分で演出された作品を紹介してください。「いいかげんな興信所」は知っています。私もそのドラマをとても楽しく見させていただいたので。

ハム・ヨンフンPD:ありがとうございます。僕が初めてメインの演出を務めた作品です。謙遜な視聴率を記録したドラマになってしまって(笑) それ以降はミニシリーズはしませんでした。2008年に単発ドラマがなくなり、単発ドラマを復活させる仕事をしました。2010年に復活して、2010年から2011年半ばまで単発ドラマのプロデューサーをやりました。演出よりもプロデューサーの業務により集中しています。

―監督のこだわり(?)のおかげでこのドラマが出来上がるようになったんですね。

ハム・ヨンフンPD:そう言われると恥ずかしいです(笑) 脚本家がいなければ、このドラマはなかったでしょう。

「新しい試みや研究開発のためには単発ドラマが必要です」

―最初から脚本家たちがこんな題材で書けたら良かったんですけどね

ハム・ヨンフンPD:そうですね。そうなるためにはもっとすそ野を広くして、新しい試みに対するバックアップが必要です。しかし、今のドラマ業界にはそういう雰囲気がありません。地上波3局に単発ドラマがある放送局がKBSしかありません。新人脚本家を育てたり、新しい試みや研究開発をするためには単発ドラマが必要です。また、単発ドラマ固有の役割があると思います。すべてのドラマをミニシリーズで作る必要はありません。小さいストーリーでも十分に意味があって感動を与えられるエピソードがあります。しかし、2年間視聴者にお見せするチャンスがなかったのです。ドラマプロデューサーたちの努力によって単発ドラマを維持できるようになって幸いだと思ってはいますが、そのようなすそ野が広がってこそ、商業化一辺倒、競争一辺倒、広告販売一辺倒の流れに揺さぶりをかけられると思います。既に人気が証明されている日本ドラマのリメイクを通じて、小さな題材でもいくらでも競争力があることを証明できれば、脚本家たちにも実験的な試みが出来るチャンスが生まれてくると思います。

―仕事をしながら非正規雇用の大変さをたくさん目にしたと思いますが。

ハム・ヨンフンPD:実はテレビ局で働く人のほとんどが非正規雇用です。脚本家はほとんどがそうです。うちのドラマの現場も正社員はプロデューサーの僕、演出のチョン・チャングン、ノ・サンフンプロデューサー、カメラ監督一人、全部で4人しかいません。残りは全部非正規雇用です。僕自身が正社員なので怖い部分でもあります。非正規雇用と正規雇用の間の対立がメインとなるドラマですが、その状況を見ながら正社員が撮影する非正規雇用のドラマだと思われるのではないかと。

―いいドラマを作るための隠された努力をたくさんされていますよね。

ハム・ヨンフンPD:当然プロデューサーがやるべきことです。しかし、知り尽くしているつもりでも作る瞬間ドラマがダメになります。歳を取るほどよく知っていると考えてはいけません。自分では面白くて、いいストーリーだと思って作るでしょうが、受け入れる人々がどう受け入れるかのほうが大事です。作る人と見る人の間で信頼が必要だと思いました。徐々に私たちが笑って騒ぐだけのドラマをやっているわけではないことを知ってもらえると思いましたが、早くから関心を見せていただいて幸いだと思っています。期待に及ばないといけないので、心配もあります。

―実際にお会いして話し合うとすっきりします。さらに信頼できますし。これからもいい作品をたくさん作ってください。そして、新人の脚本家たちにもたくさんのチャンスを作ってください。

ハム・ヨンフンPD:もちろんです。そうします。

文:コラムニスト チョン・ソクヒ

「NAVER スペシャルインタビュー」では、今話題の人物にコラムニストのチョン・ソクヒさんがインタビューを実施。韓国で一番ホットな人物の本音をお届けします。

記者 : チョン・ソクヒ、写真 : KBS