「ゴールデンタイム」が提供した“ファンタジー”とは…シーズン2を期待したい

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視聴者が期待するファンタジーから脱皮して、大きな響きのファンタジーを披露したことに盛大な拍手を送りたい

ドラマには視聴者のファンタジーを代わりに満足させてくれる機能がある。現実の中では成し遂げにくいことや完全に不可能な状況、たとえば完璧な条件の人と偶然のきっかけで恋に落ちるなど、現実では起こりにくいことを描いて、ドラマは視聴者に満足感を与える。

ところが「ゴールデンタイム」というメディカルドラマは、視聴者のファンタジーを満たすどころか、正反対の路線を繰り広げた。イ・ミヌ(イ・ソンギュン)とカン・ジェイン(ファン・ジョンウム)、チェ・イニョク(イ・ソンミン)とシン・ウナ(ソン・ソンミ)はカップルにならず、視聴者がロマンスのファンタジーを夢見れるようにしなかった。

最後の放送で、シン・ウナはお互いの異なる価値観に耐えられず、結婚を考えて付き合っていた男性と別れる。こうなると、血が飛び交い、消毒用アルコールが臭う病院で、同僚愛以上の絆が形成されたチェ・イニョクと付き合うロマンスが描かれそうなタイミングだが、「ゴールデンタイム」は二人をロマンスで結ばない。深い同僚愛以上に発展させないのだ。

男女のキャラクターをロマンスというファンタジーで結ばないパターンは、ソウルに行くイ・ミヌとカン・ジェインにも同じく当てはまる。逆にロマンスのファンタジーは他のカップルに適用された。

理事長のカン・デジェ(チャン・ヨン)が病を克服して劇的に回復するファンタジー、離婚届を提出したカン・デジェ理事長とパク・グムニョ(ソヌ・ヨンニョ)が、ロマンスを通じて再びよりを戻すというファンタジーだ。視聴者がロマンスのファンタジーを期待したイ・ミヌとカン・ジェイン、あるいはチェ・イニョクとシン・ウナではなく、あえて他の人物をロマンスで結ばせる。

「ゴールデンタイム」がファンタジーを破る部分は、ロマンスのファンタジーを満たさないという点の他にも存在する。チェ・イニョクというキャラクターは“白衣のマクガイバー(1990年代、アメリカで放送された冒険活劇ドラマの主人公)”だ、どんなタイプの緊急な患者が運ばれてきても、彼ならではのノウハウと迅速な判断力で、患者の命を救う。患者が治療できなくなったり、死んでしまうという医者としては怖い瞬間がきても、チェ・イニョクはいつもその場から逃げず、勇敢に立ち向かう。

ところが、セジュン病院の医療システムは、チェ・イニョクとは正反対だ。出前の仕事をしながら寄付をすることで有名なキム・ウス氏をモデルにしたキャラクター“出前の天使”のパク・ウォングクが、大統領表彰まで受けたことを知った外科科長のキム・ミンジュン(オム・ヒョソプ)が直接彼を治療することは、キム・ミンジュンがどれだけ打算的な人物であるかを見せる。

逆に、交通事故で全身の骨が折れて運ばれてきた青少年の患者は、セジュン病院で手術をする医者がいないという理由で他の病院に移動されるうち、救急車の中で死んでしまう。実利にはすごく敏感に反応するが、患者に責任を負うべき危急な状況では知らない振りをする。

医療の業績は見せびらかそうとするが、責任を負うことには利己的なシステムに対して、視聴者はチェ・イニョクという医療型のヒーローを通じて変化を期待するが、「ゴールデンタイム」はこのような視聴者の期待を破る。

あえて、チェ・イニョクが科長たちにおとしめられる姿を演出し、“苦難を受ける義人”の典型を見せることで、視聴者のファンタジーを終わらせる。個人がシステムを変えるという「カクシタル」タイプの“一人型ヒーロー”のドラマではなく、ヒーローがシステムから否定されるアイロニー(皮肉の意)を見せる。


現実的感覚に相応しい、洗練されたファンタジーを提供する

シニカルに見ると、「ゴールデンタイム」は、視聴者のファンタジーへのニーズ、重症外傷センターの足りない現実を、“成果至上主義”に明け暮れている病院という白い巨塔を軽蔑し続けたドラマでもある。

だが、果たして「ゴールデンタイム」は視聴者のファンタジーを破り、否定することだけに集中したドラマだったのか。ある面ではファンタジーを満たせる、いや、現実的な感覚で、より洗練されたファンタジーを提供したとみるのが妥当である。

重症外傷センターの設立は台無しになったが、消防防災庁とのMOU締結によって、救急患者の移送は従来の救急患者の移送システムより革新的になったのが事実だ。イ・ミヌが劇的にセジュン病院外科の研修医に合格することを期待するようにしたが、イ・ミヌに対して「大きな魚は大きな水で泳ぐべきだ」と話したチェ・イニョクの教えは、視聴者に大きな響きを残した。

「中間レベルの手術を10回するより、(ソウルに行って)大手術を1回したほうがいい」とイ・ミヌにアドバイスするチェ・イニョクは、人間的な情だけで見ると、イ・ミヌを隣にいさせたほうがよかった。だが、彼はイ・ミヌの将来のために、ソウルに行くことを勧める。

イ・ミヌに対して、ソウルで研修医として勤務することで「大きな器になれ」という師匠の最後の教えだ。米国ドラマに字幕を入れることが趣味だった“白衣の怠け者”が、真の医者として生まれ変わるファンタジーを「ゴールデンタイム」が満たしてくれたのも事実だ。

重症外傷センター設立の夢は、消防ヘリコプターというファンタジーで満たし、年取ったインターンの精神的成長ストーリーというファンタジーの他、「ゴールデンタイム」はもう一つのファンタジーを提供する。チェ・イニョクとイ・ミヌが汗を流して劇的に命を救った患者たちの姿を最後の放送のラストシーンを通じて見せたのだ。

最後のシーンのうち、イ・ミヌがベッドに貼り付けたポラロイド写真を1枚ずつ剥がしながら、過ぎた日々の思い出に幸せな表情を見せる姿とオーバーラップされるシーンがもう一つある。セジュン病院の救急室を経た患者たちがどのように回復したかを見せるシーンだ。

“散弾銃カップル”はラブラブモードで豆腐を仲良く分けて食べ、寄付天使のキム・ウス氏をモデルにしたパク・ウォングク患者は無事に退院して、中華料理屋の出前をしながら誠実に暮らしている。イ・ミヌが開腹した妊婦が生きて退院することになれば、イ・ミヌがどれだけ有頂天になるのかと、キム・ミンジュン科長が毒舌を飛ばした妊婦だった女性は、子供とともに幸せな夢を見る。チェ・イニョクとイ・ミヌが救急室や手術室で流した汗が、決して無駄なものではなかったことを見せるファンタジーだ。

視聴者の期待とは違うファンタジー展開、たとえば、一人の情熱的な医者のおかげでセジュン病院のシステムがガラリと変わるなどの視聴者のファンタジーには結局応えなかったが、もっとも大事な患者に対しては、視聴者に大きな響きを残すファンタジーを提供する「ゴールデンタイム」によって、月火ドラマの視聴者が幸せだったのは事実だ。「ゴールデンタイム」シーズン2のための100万人署名キャンペーンにでも乗り出したい。

記者 : パク・ジョンファン