My name is ジョンギゴ「誰も知らないように心を溶かす“スウィート”な曲」

10asia |

一瞬、驚いた。歌詞の作業プロセスを話していたジョンギゴが、EP「pathfinder」の収録曲である「DLNM」(Don't leave me now!)の一小節を歌った。アルバムを聞いている間中、体に絡みつく切なくセクシーなその歌声に感心したはずなのに、彼が歌った短い歌に改めて驚いたのは、インタビューの中で、“歌う時とはまったく違う、少しトーンの低い”日常の声で話す彼に馴染んでいたためだった。唇と後頭部の間、もしくは首と胸の間のどこかから流れ出るその不思議な声は、「20代にはゲームばかりやっていて、ネットカフェで徹夜するのが日課」だったため、自分よりファンのほうが心待ちにしていたアルバムを10年ぶりに出しても、「特に感傷に浸るわけでもなく、“あ、出たんだ”と思った」と淡々と話す男の声とはまったく違った。ジョンギゴは最初の甘いテイストから最後の甘酸っぱくほろ苦いテイストまで、すべてを詰め込んだ彼の音楽のように、予想よりももっと様々な顔を持つ人物だった。ここ10年間、ヒップホップシーンで広く名を知られ、卓越したボーカリストとしての技量はもちろん、作詞やプロデュース、アートディレクションまで担当し、個性を見せてくれた「pathfinder」は、このおおらかな男がゆっくりと重ねてきた時間の強さをそのまま証明してくれる。

どっしりとした甘さ、繊細な調和

例えば、彼の音楽はまるでオペラケーキ(生地とガナッシュクリームやモカシロップを何層も重ねたチョコレートケーキ)のようだ。タイトル曲「誰も知らないように」は大衆的ではあるが、珍しいメロディーとジョンギゴ独特のボーカルだけでも十分魅力的である。しかし、よく聞いていると、一番下のビートの上にグルーヴを作る効果音とメロディーが重なり、その上にボーカルとコーラスが繊細にのせられていることが分かる。その一つ一つが生きているだけでなく、一緒に組み合わさって素晴らしい調和を成すこの曲は、丹念に積み上げた層が合わさって味わいを生み出すチョコレートケーキに似ている。また、これは「楽譜も読めないし、楽器もうまく弾けないけれど」天性の感覚で全体的な絵を描くことができ、「僕が話すことをよく分かってくれ、僕よりうまく表現する人々」と協力して最高の結果を作り出すジョンギゴの方法とも似ている。ジョンギゴは「できないと考えたことは一度もない」が、「できそうではあるけれどやったことがなく心配になり始めた」29歳から、ゆっくりだが誠実に、世界に向けて自分ならではの結果を出した。そして、「僕にもやりたいことがあるけれど、それが一人で部屋で歌うことではない以上、聞く人にも伝わるのが大事」ということを本能的に知っているこの男が作った、どっしりとして“スウィート”な“おいしい歌”が、今、人々の耳と心をそっと溶かしている。

スピーカー、ヘッドセット協賛=DMAC
My name is
ジョンギゴ。本名はコ・ジョンギ。

EPが10年ぶりに出て、両親が非常に喜んだ。
子どもの頃から歌を歌ってきたけれど、ソロミニアルバムが出る前まで、両親は僕が何をやっているのか具体的に知らなかった。分かる時が来たら自然に分かるようになるだろうと思ってあえて説明しなかった。でも両親は僕が音楽をやることに一度も反対しなかった。いつも僕のことを信じて、全面的に支援してくれた。

本当は2010年にフルアルバムを出す予定だったが
世の中のことって思い通りにいかないから。その年の2月に偶然“家の前のライブ”ということを始めた。上水洞(サンスドン)カフェの小道を歩いている時、小規模ライブが行われているのを見た。それが面白く見えて、行き付けのカフェの社長にライブをやりたいと話し、音楽をやる友達を集めて本当に気軽にライブを始めた。

それが口コミで広がり、“家の前のカーニバル”になった。
公演企画に関する知識がまったくなかったけれど、やりながら学んだ。そのためにアルバム制作をする時間がなかったけれど、無駄な時間だったとは思わない。それまでに出会った人の2倍以上の人に出会い、公演に関するアイデアもたくさん学んだ。

だから、僕の公演も平凡にしたくはない。
今もバンドと一緒に公演をしているし、何より場所を重要に思っている。公演そのものだけでなく、全体的な雰囲気を伝えて残すことができ、「あの人がやる公演は少し違うんだ」ということを観客に認識させたいから、会場の選定にはうるさい方だ。

「your body」や「DLMN」のような曲も
このくらいなら人々が受け入れられると思った。ここ10年間、ヒップホップシーンで歌いながら僕が培ったイメージの中で、このくらいは十分可能だと思った。

「誰も知らないように」をタイトル曲にしたのは
より多くの方々が好きそうな接点を探す傾向がある。そうしたとは、本当は言いたくないけれど、大衆性を考えて仕方なくタイトル曲にしたわけではない。僕が好きなことの中で、比較的少数の人が好きなことより、たくさんの人が好きになれることをやったという違いがあるだけだ。

今はDVDを見るのが、
趣味のひとつだ。映画館に行ったりもするけれど、それは横断歩道を一つ渡ればすぐに着くほど近いから行くだけで、基本的には家で一人で遊ぶのが一番好きだ。最近は家の1階にブックカフェができて、そこに行って本を読んだり歌詞を書いたりする。

一番好きな映画は
「エターナル・サンシャイン」と「リービング・ラスベガス」だ。両方ともDVDとBlu-rayを持っていて、何度も繰り返し見た。特に「エターナル・サンシャイン」は歌詞を書いたりする時、全般的な感性に影響を与えるので僕の音楽という木を育てる土壌のような存在だ。

「pathfinder」というタイトル通り
僕は今、道を探していく過程にいる。10年前、僕の音楽を聞いてファンになった方々は、僕が変わったと感じるかもしれない。でも、これが僕の最後のアルバムではないから、もう少し待っていてほしい。今まで僕が好きでしていたことはもちろん、また少し違う感じの好きなことをやってみるプロセスだから。今年末にリリースする予定のフルアルバムでは、より多くのものを多彩に見せることができると思う。

記者 : キム・ヒジュ、写真 : チェ・ギウォン、編集 : イ・ジヘ、翻訳 : ナ・ウンジョン