【アルバムレビュー】LENA PARKが“希望”を歌う
OhmyStar |
LENA PARK、8枚目のフルアルバム「Parallax」レビュー
アーティストLENA PARK(パク・ジョンヒョン)は、2011年MBC週末バラエティ番組「私は歌手だ」で音楽人生の節目を迎えた。以前から既に彼女は優れたボーカリストだったが、今のように老若男女に知られ好かれる、いわば知名度の高い歌手ではなかった。しかしLENA PARKは「私は歌手だ」で自分の真価を見せ、今も多くの人が当時彼女が披露した最高のステージを覚えており、また語っている。「私は歌手だ」以降コンサートとテレビ出演などで忙しかった彼女が、最近8枚目のフルアルバム「Parallax」を発表した。
今回のアルバムには全11曲の新曲が収録されたが、ジャンル的にはスタンダードポップ、R&B、フォーク、エレクトロニカ、ロックなど多彩なカラーのサウンドが味わえる。LENA PARKは音楽的に多様な分野の曲を卓越に歌いこなす当代のボーカリストの名に相応しく、彼女ならではの豊かな感性と表現力を最大化させた歌を聞かせてくれる。
「そうすれば良いの」は、人生に疲れた人たちに希望を伝える曲だ。「幸せになっていくのもいい」「待ち望んだ夢を生きるの」「「笑いは笑いで、愛は愛で受け入れればいい」など、口に出すほど胸を打つ歌詞と美しいメロディー、温かい感性がぐっと押し寄せてくるLENA PARKの歌声が大きな感動を与える。
トロンボーン、ホルン、オーボエ、クラリネット、フルートなどが使われたクラシカルなサウンドは、1990年代を制したホイットニー・ヒューストンやセリーヌ・ディオンが歌った、過去のスタンダードポップスの名曲を連想させる。
「実感」は、にわかに訪れた覚醒に関する曲だ。「実際に私の中に私自身はいない。あなたを探しに行きたい」「実際に私の手は何も掴んでいない。あなたを掴みたかったのに」などの歌詞が、その覚醒のスタートでありゴールでもある。
LENA PARKの感覚的なR&Bの唱法からは、悲しさと情熱が一緒に感じられるが、そのため「悲しくても大丈夫」「いつかは会える」という歌詞からは、俗にいう「私はまだ死んでいない」という決起が感じられる。ワールドミュージックとダブステップ、R&Bとストリングスサウンドなどが混在した、ダイナミックな編曲が輝く曲だ。
「都市伝説」は、失恋したある女性の切ない姿を盛り込んだ曲。一時は王子様のように、天使のように見えた彼は、いつからか化け物のように、悪魔のように急変してしまった。語り手が恋人との楽しかった頃を称して、童話や伝説と命名した以上、二人の関係はもう既に取り返しのつかない段階に至っているように見える。
「それほど古い話でもないようなのに」「私でなければあなたは誰にでも関心を寄せる」などの歌詞からは、寂しさと虚しさが漂ってくるが、軽快でクールなロックサウンドと明るく健康なLENA PARKの歌声は、彼女の物語を悲劇でなく“回復”のストーリーにしてくれる。
「ごめんね」は、愛した男に別れを告げた女の歌だ。別れの原因は、一時自分の目をくらましたその男の嘘。しかし語り手は、自分が彼に捧げた愛まで否定することはしない。「愛はただ旅行みたいだった」「私が誰なのかを思い出せればいいの。それでいいの」など、語り手の淡々とした自己省察と回復への意志が盛り込まれた歌詞が印象に残る。
「ごめんね、もうあなたを許せない」で始まるフレーズは、美しいメロディーとLENA PARKの心に響く唱法、ピアノとドラム、ストリングス、コーラスなどが相まって壮大なサウンドを作り、強烈な魅力をアピールしている。メキシコの人気グループ「Camila」が2009年発表した「Mientes」をリメイクした曲だ。
「Raindrops」は、にわか雨を見ながら満喫した解放感を表現した、エレクトロニック・ダンス曲。蒸し暑い夏の街で、にわか雨に打たれながら友達と笑い騒いだ思い出があるなら、あるいはそのような青春の姿を借用したCMや青春映画のワンシーンを思い出すことができるなら、この曲の雰囲気を理解できると思う。
バンド「Mongoose」のmon9が作り出した綺麗なエレクトロニックサウンドに、力を抜いてぴょんぴょん弾ける雨粒の感じを表現したようなLENA PARKの歌声からは、暑さのせいで息が詰まりそうだったある夏の日、にわか雨の直後に都心で感じられるすがすがしい感じがする。
「そう急がないで…」は恋人たちの別れの曲だ。しかし、語り手である女は心の中で「私はさようならなんて言えない」と思っている。彼女の考えでは「別れは二人でするもの」と思っているからだ。「私は目で写真を撮ります」「私の手が覚えている、温かいその顔」「間違えたことのない、あなたの選択を信じることにします」など、別れを前にした彼女の、彼への深い愛と信頼が感じられる歌詞が素晴らしい。
ストリングスとブラス、ギター、ベースなどが創り出すサウンドは、クールで豊かな雰囲気を出しているが、特に事細かにLENA PARKのボーカルに直接反応するかのように続くブラスサウンドは、聞き手の心まで暖かく癒してくれる。
「損害」は、思い出まで忘れると別れを告げた彼への、彼女の反応を歌った曲。歌詞の内容を見れば3曲目の「都市伝説」に近い面がある。しかし「都市伝説」の彼女がクールだったなら、「損害」の彼女は「反撃型」だ。語り手の意地と怒りは、とてつもなく荒唐無稽な裏切りによるもので、打撃感を与えるギターとキーボードの演奏はそのような彼女の心理に似ている。
LENA PARKのR&B唱法は、鋭く挑発的な雰囲気がするが、前奏と一緒に流れる彼女の声からはファムファタール(魔性の女)のような色気まで感じられる。
「Any Other Man」は、歌手LENA PARKの内面が垣間見られる、彼女の自作曲。LENA PARKは歌手として成功したキャリアと、変化への渇望、有名人として経験するアイデンティティへの悩みなどを歌詞に盛り込んだ。英語の歌詞で歌うLENA PARKのボーカルは、韓国語になっている他の曲を歌う時とはまた異なる雰囲気だが、彼女は軽快なリズムと優美なメロディーの間を自由に遊泳する。
「You Don't know Me」は、いわば金星の彼女と火星の彼の相互の不可解性について歌った曲だ。歌詞を見れば、彼女は彼の本音を聞きたがり、彼は彼女の隠れた心情を見たがる。恋愛心理で統計的に女が押しに弱く、男はビジュアルに弱い事実を反映しているように見える。
eAeonが作曲しフィーチャリングまでしているが、難解な夢の中を彷徨うような、落ち着かないエレクトロニックサウンドは、eAeonならではのカラーが浮き彫りになっている。LENA PARKの魅惑的な歌声とeAeonの心地よい歌声が創り出すアンサンブルが魅力的な曲だ。
「風の音の中にキミが」は、別れた恋人への懐かしさを歌った曲だ。歌詞は「364日よく耐えてきたけど、たった一日でもあなたが思い浮かべば」風の音と温かい日差しからも彼を見て感じることができる。そうなればすべての時間が止まり、すべての心が崩れ落ちる、という内容を盛り込んでいる。
LENA PARKのボーカルとピアノ演奏からは、悲嘆と哀愁の感情が感じられ、風の音を表現したようなエレクトロニックサウンドからは異界の印象を受ける。技巧を排除し声の「明度」と「彩度」を抑えた、観照的なLENA PARKのボーカルが異彩を放つ曲だ。
「Song For Me」は、すべてに失敗し、寂しくて疲れた語り手が自分で気持ちを持ち直す内容の曲だ。歌詞は1人称になっているが、曲の序盤では語り手の独白に共感する聴者なら、この曲を聞いて語り手のようにもう一度頑張れるかも知れない。
「小さな奇跡は自分が始めなければならない」と言うように、建設的で希望に満ちた歌詞、意志と主張が感じられるLENA PARKのボーカル、語り手の決心を祝うような壮大なオーケストラサウンドが相まって、まるでミュージカルのクライマックスのような印象を受ける曲の後半が強烈に響く。
このアルバムのタイトルは「Parallax」だ。天文学でよく使われる単語で、日本語では「視差」を示す。ある説明によると、LENA PARKはこのタイトルに「バラエティ番組に写った自分の姿と、8枚目のフルアルバムを出したアーティストとしての自分を同時に見つめる人々の視覚の違いに対する悩みを盛り込んだ」と言う。この説明によると、このような悩みは直接的にLENA PARKの自作曲「Any Other Man」に示されている。
しかし、あえてそのような説明がなくても、今回のアルバムに収録された曲はほとんどが内容的に「Parallax」というタイトルに相応しい。
結局この曲は、愛と別れという間隙が、どれほど大きな変化を創り出すか(「都市伝説」「ごめんね」「そう急がないで…」「損害」「風の音の中にキミが」)、ある覚醒前後の認識がどう変わるのか(「実感」)、恋愛に取り組む男女の精神世界がどう違うのか(「You Don't know Me」)、心構えによって人生がどれほど変わり(「そうすれば良いの」「Song For Me」)、また世の中がどれほど美しく見えるか(「Raindrops」)などを歌っているためだ。
それにも関わらず、この曲たちが歌っている“視差”を断絶的な意味で解釈するのは、面白くもないし危険なことだ。違いを把握することは、結局理解する余地があるという意味にもなり、人のことというのは大半が無常なもので、間違いを繰り返したりもするからだ。
おそらく、LENA PARKが「Any Other Man」で自分を指して「I'm just like any other man」と歌った理由はそこにあるだろう。結局このアルバムが集中しているのは“視差”でない、その違いを作った心というものなのだ。要するに、自ら幸せになるには、「小さな奇跡は自分が始めなければならない」(「Song For Me」)のような心構えが必要なのだ。
このレビューを書いたソ・ソクウォン記者は、歌手の名前でハングルを覚え、少年の頃ピアノを弾いていましたが、息子の将来を心配した母の決断で戻れぬ橋を渡り、今は平凡な一般リスナーであることに満足して暮らしている音楽愛好家です。現在は映画関連の仕事をしており、一生涯の著作家を夢見ています。―編集者
記者 : ソ・ソクウォン