映画「I AM.」70分でよかったであろう、SM王国の過去と現在

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船頭多くして船山に登るのか。「Made in Korea」を叫び、SMという巨大な軍艦が米ニューヨーク「マディソンスクエアーガーデン」の舞台に停泊した。これこそ、船が山に登ったのではないか。(※船頭多くして船山に登る:支持する人が多くて方針の統一が図れず、物事がとんでもない方向に逸れてしまうこと)

韓国音楽業界の祖とも言われるSMエンターテインメント(以下SM)の理事カンタ、BoAを筆頭に東方神起、SUPER JUNIOR、少女時代、SHINee、f(x)などのSM所属アーティストが一堂に会した。映画を作ったというが、映画とは到底思えない。この正体は一体、何だろうか?

映画「I AM. SMTOWN LIVE WORLD TOUR IN MADISON SQUARE GARDEN」(監督:チェ・ジソン、制作:CJエンターテインメント)はSMアーティストたちの練習生時代ならびに、最近のコンサート実況を収めた5000本のテープと、ケーブルテレビMnetが保有している約5000個のアーカイブ資料をまとめて、コンサートの実況を映画化したリアルドキュメンタリーだ。

スケールもまた大きい。主演だけで32人だ。ここまで来ると、映画のスクリーンから零れ落ちるのではないかという要らない心配もしてしまう。

映画の導入部、緊張感漂う歌手たちの姿が映し出される。また、サウンドもホラー映画のように緊張感を高める。ステージ裏での姿をスローモーションでとらえ、歌手たちの表情をリアルに描いている。続いて少女時代のステージが始まった。前の出演者のフィナーレである爆竹が華麗に飛び散り、暗転されたステージを9人の少女たちが駆け抜ける。「一体なんだ?」という考えがまとまる前にステージには照明がつき、少女たちはいつのまにか完璧な隊列をなし、オーラを発散している。映画が言おうとしている方向性が明確に現れる。

「I AM.」は最初から最後まで過去と現在の姿を一気に映し出す。続く交差編集で芸能人たちがもっとも恐れるという“忘れたい過去”を暴いていく。まるで、整形疑惑を正面から突破しようとするかのように、親切に一つの画面に一緒に写す場面まである。

これにはチェ・ジンソン監督が悩んだ痕跡も見られる。過去の映像はもう新鮮ではない。SMという大型ファン層を持っている集団は、歌手たちも見たことのない過去の映像を持っており、その映像は何度繰り返して使われても飽きられないからだ。しかし、過去の練習動画に現在の姿を合成するウィットも発揮した。

細かい面白さだけではない。小学生のころから練習を始めた歌手たちのアイデンティティの混乱に対する問題も取り上げている。

東方神起のチャンミンは「自分のアイデンティティについて混乱したことがある」と悩みを吐露し、少女時代のテヨンも「キム・テヨン(本名)と少女時代のテヨンの間で混乱していた。カメラの前ではキム・テヨンではないテヨンが現れる」というインタビューを通して、これまで明かせなかった本音を語っている。また、「小学校5年生のチェ・ジンリ(ソルリの本名)です」と可愛く先輩歌手の前で紹介していたf(x)のソルリも「私が他のメンバーより出来が悪くて、迷惑をかけている気がして落ち込んだことがある」と本音を明かした。

ベールに包まれていた神秘的な彼らの封印が一気に解除される瞬間だ。針で刺しても血もにじまなさそうな鋼のアイドルたちの訴えをずっと聞いてあげたいような気がする。

それだけではない。これまで「禁句」とされてきた東方神起の問題についても言及する。チャンミンはインタビューを通して「イ・スマン代表から2人の東方神起の初ステージを見て話してくれました。『心配要らない。2人で十分』と」と言葉を濁した。ファンたちが望むところに、完全ではないが、少しは触れたといえよう。

ユニークな編集も、感動を盛り込んだストーリーもいい。何よりもサウンドがすごくいい。コンサート実況が目白押しの「I AM.」は、華麗な映像も一役買っているが、何よりも左右の耳元を刺激するリアルな音が五感を満足させてくれる。

まるで、ニューヨークマディソンスクエアーガーデンの真ん中で、海外のファンと一緒に「Genie」を歌っているような気分を味わうことができよう。

しかし、この全ては「ファン」をベースにしていることを忘れてはならない。60分が過ぎると続く思い出話と現在の比較は見る人を飽きさせ、感動もなくなるだろう。彼らの物語は116分ではなく、70分で十分だった。また、アイドルを目指す人たちに明るい青写真だけを見せているようで、どこか苦さを感じる部分まである。

細かくみると、SUPER JUNIORや少女時代の隣には、モザイクのかかった未来が不透明な練習生たちが見えるはずだ。また、ファンたちは映画を見る前に覚悟を決める必要がある。大きなスクリーンでみるアイドルたちの肌の状態と、彼女たちの過去の映像には相当な覚悟が要るかも知れない。

自分が好きだったお兄さんたちの毛穴が今とは異なり、憧れの対象だったお姉さんたちのダイエットに驚くはずだ。このような短所を克服できるなら、バックの中にペンライトを忍ばせて映画館を訪れてもいいだろう。観覧年齢制限なしで、韓国では21日から公開される。

記者 : チョ・ジヨン