キム・スヒョン「『太陽を抱く月』は大切です。僕をひざまづかせてくれたので」

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MBC「太陽を抱く月」のハードな撮影の日々が終わるや否や、新たに追加されたスケジュールに少し疲れているようにも見えたが、それでも相変わらずその年齢より若く見える顔でにっこりと笑うキム・スヒョン。そんな彼と会うと、多くの女性の心を奪った俳優という事実が何だか少し意外に感じた。敬語と友達口調の間、真面目だけど硬直した顔と、リラックスした自然な動作の間、キム・スヒョンはその境目に立っていた。インタビューの間、キム・スヒョンの顔は、適切な言葉を選んでそれを自分の中でまとめて表現しようとする意志と、そんなことなど関係なく思うままに話したいことを話す、という意思の間で、少し緊張していた。しかし、写真の撮影が始まったら、首をかしげたりズボンを触ったりしながら少し落ち着いたように見えた。「僕は野心家です」と、サラリと言ってのけた22歳のキム・スヒョンは、「会社と相談してみます」と冗談を言う25歳の男になった。作品の力ではなく俳優の力で視聴率を引っ張り、彼をスターの座に就かせたフォンを演じ、あるものを得てあるものを失ったようだ。しかし、それは誰にでもあって当然と言える、成長の結果である。すべての成長がそうであるように、彼のそんな姿は立派だが、一方、少し惜しくも思えた。


「『太陽を抱く月』を通して新たな方向を見せることができた」

例えば、ものすごく難しくややこしい試験があるとしよう。その試験のため、かなり頑張って準備したのに、いざ試験を受けたら思ったより簡単だったとしたら?結果的に良い結果を出して褒められたからそれでいいだろうか?それとも、何だか少し虚しい気持ちになるだろうか?「太陽を抱く月」の最終回でフォンの笑顔を見ながらふとそんな疑問がよぎった。以前、キム・スヒョンがそうであったように、幼いフォンを演じたヨ・ジングはただの子役でなく見事なまでの解釈で独立したキャラクターを演じた。そして、キム・スヒョンはそのバトンを受け取り、大人のフォンとして初めて物語に登場した時、視聴者は彼がたくさんの準備をしたということに気付くこととなった。王であると同時に、一人の男としてのイ・フォン。最も高い位に位置するが、自分の座に相応しい権力を手に入れることができず、物事の成り行きを適切に分析してもそれを利用したり状況を動かすにはまだ若すぎる王。子どもの頃の大きな心の傷がトラウマになり、そのため、ときにはヒステリックで攻撃的な面を見せることもある、まだ大人になりきれていない幼児性をもうまく見せていた。しかし、ストーリーが進むにつれ、キム・スヒョンのイ・フォンは徐々にロマンスの道具として捉えられ、彼は準備した様々な顔を十分に見せるチャンスを失った。

「準備をして試験を受けると言えば、入試のことを思い出します。試験や面接の準備をして、質問への答えとかも一生懸命に考えて行ったのに、教授は僕が気に入らなかったみたいで、準備したものを見せる余地があまりなく、その時は気分があまりよくありませんでした。面接室から出た時、虚しくなりました。『太陽を抱く月』もドラマが進むにつれ、色々な出来事が発生し、ドラマが一週間放送できなかったこともあって少し急いで終わった感じがするし、急に方向を変えたという感じもしました。しかし、それが残念だとは言えません。“『太陽を抱く月』のため準備したのに、それを表すことができなかった”という思いより、新たな方向を見せることができたという思いが強いので。まあ、そんなに深く考えたりはしませんでした」


「フォンは『蒼天航路』の曹操を参考にした」

キム・スヒョンはその年代の俳優の中でも安定的な演技力が認められていた。そんな彼にとって初めての時代劇であり、主演作品でもある「太陽を抱く月」のフォン役はまさにチャンスであり、チャレンジでもあった。ファンタジー、恋愛、時代劇の中の仮想の王。先輩たちが以前演じた王とは違うため、先輩たちの演技を参考することはできなかったが、比べられる不安もなかった。しかし、原作という避けられない大きな太陽があった。幸いにも、はっきりとした発声、低く真面目だが若者らしい凛とした声、そして、細かいが最も重要である、単語と単語の間を離して読むことまで、時代劇のセリフ回しの基本を押さえた彼の初めての演技は期待以上のものだった。

「実際、フォンが初めてセリフを言う時までかなり時間がかかりました。遅いと思えるくらいで、制作発表会の時までフォンとして一言も話したことがなかったんです。そんなに時間をたくさんかけながら、かなり悩んでストレスも感じ、いざ何かを言った時、失望されるのではないかと怖くなったりもしました。『まだかな、まだかな』と思いながら少し混乱もあって多少時間がかかりましたが、ゆっくりと着実にキャラクターを作り出すことができたと思います。仮想の王だから参考にできる人物を見つけ出すことができなかったんです。当時「根の深い木~世宗(セジョン)大王の誓い~」(SBS)が放送されていて熱心に見ましたが、ハン・ソッキュ先輩がそれに出ていたじゃないですか。先輩を見ていたら非常に夢中になり、そのおかげでドラマもとても面白く見ることができました。でも、見た後に思ったのは『僕にはああやって演技をすることはできない』と言うことでした。僕なんかが真似をすることもできないし、しようとしてもできるものでもないし。それで、原作だけに集中しようと思ったりもしましたが、それを他に伝え表現しなきゃならない立場だから原作だけには頼れない、と思いました。どうしようと悩んでいるとき、ふと『蒼天航路』という漫画を思い出したんです。三国志の話ですが、曹操を主人公に脚色してある漫画です。若い曹操が持つ考え方や政治の行い方とかが、時には賢く鋭く、時には限りなく純粋なフォンの魅力と似ていて、とても参考になりました」


「以前は怖いものなんかなかった」

4年前、あるドラマの制作発表会で突然、泣き声が聞こえた。有名なスターが出演するドラマでもなく、特に注目されていたわけでもない青春ドラマだったため、少しゆったりした雰囲気が漂った室内の空気が、その声で一瞬にして変わった。当時「ジャングルフィッシュ」(KBS)のハン・ジェタ役で初めて主演を演じた21歳のキム・スヒョンは“15種類のバージョン”を準備し、それを監督の前で堂々と見せたが、カメラで撮られた自分の姿を見て自分があまりにも恥ずかしく情けなく感じて、泣いてしまったという。実際、キム・スヒョンとのインタビューを期待したのは、今の彼が最も人気が高い人物だからではない。誰より自分自身に厳しい基準を立て「すみません。頑張ります」と繰り返しながら泣きそうだった、その時の彼の姿が今も残っているかが知りたくなったからだ。

「『太陽を抱く月』を演じる間、数多くの困難にぶつかり挫折しそうにもなりましたが、こんなことは本当に久しぶりでした。特に放送があった次の日は、モニタリングをしてとても落ち込んでいました。残念に思えることがあまりにも多くて。実際、フォンを演じるということは、男らしさを表現できる最もいいチャンスじゃないですか。王として人々を心理的に締めたり緩めたりしながら人の動きを先に読み取り、先輩たちである臣下たちを操ったり掌握したりするべきだったのに、そうするためには僕が俳優として持つエネルギーがまだ足りないということを痛感しました。逆に、僕が圧倒されたこともあるし。以前は、キャラクターを表現するために様々なことを考えましたが、その時には怖いものなんかなかったからそれができたんだと思います。そして、今はそんなふうにはできない気がします。どんなものでも少し分かるようになったら、その中に怖さが生まれるから。ある意味ではその時が幸せかもしれないと思います。今の自分に怖いと感じるものがあるのも、僕が目指している演技に近寄ったからではないかと思えて胸がいっぱいになったりもするし。まあ、怖いと思ったせいで、最初はセリフをひと言も言えなかったりもしましたけどね。かなりのストレスで、撮影途中にこんなに挫折しそうになった作品は初めてだから、本当に目の前が真っ暗でした。だから、僕にとってこの作品はより大切に思えるんです。僕をこんなにひざまづかせてくれたから(笑)」


「人間として、より魅力的な人になりたい」

「太陽を抱く月」は驚くべき視聴率を記録したが、作品の完成度が視聴率と比例したとは思いにくい。キャスティングへの非難から非常にあわただしい撮影現場、ストライキによる放送中止まで、様々な悪状況が重なったが、キム・スヒョンがいたからこそ、作品に対する不満にも関わらず彼の顔を見るためにドラマを見た視聴者たちがいた。作品の欠点までカバーする力。それが“スター”の力である。キム・スヒョンは2010年「ドリームハイ」(KBS)のソン・サムドンを通して充分な可能性を証明し、世間にその名を知らしめることとなった「太陽を抱く月」のフォンを通して、ようやくただの演技派俳優ではなく“スター”の座まで上ることとなった。それは、彼が担うべき責任がより大きくなったという意味でもある。

「とりあえず、今は『太陽を抱く月』でもらった課題を終わらせるつもりです。撮影の間、もっと自分自身を磨く時間が必要だと思いましたし、今やるべきことが分からないわけではないから良かったと思います。実を言うと、今は演技の実力よりは人間として、より魅力的な人になりたいです。たくさんの方々から支えてもらって高い所に上ったら、逆に視野が狭くなったりすることもあるじゃないですか。でも、僕はこの状況を利用して視野を広めるように、なるべくたくさんの作品で、出演を検討してみようと思っています。まだ、自分を振り返ってみる時間が与えられておらず、走り続けている状況ですが、時間があったら早くまとめてみたいです。“今の僕に合う役”とか“僕ができる演技“みたいな線は引かないようにしようと思っています。できるだけ多くの作品と思いっきりぶつかり合いたいような気持ちもありますし。挑戦…「あしたのジョー」みたいに?ハハハ」


「留まる場所を探し中」

スターのもう一つの宿命は人々と適切な距離を維持することである。これからキム・スヒョンを知りたいと思う人はどんどん増えていくはずだ。テレビやスクリーンではもちろん、プライベートの顔まで見たがる人々により、望んでもいない瞬間までも人々に暴かれるかもしれない。皆から一挙手一投足にまで渡って注目される宮の中の王のように。キム・スヒョンが以前“見習いたい俳優”として名を挙げたチャン・グンソクは、キム・スヒョンに向けて「早く来い!そして僕を追い越してほしい、刺激を受けたいから」と言った。チャン・グンソクはどんなに多くの人々が見ていても自分自身に正直な姿で生きることを最優先にする俳優だ。そんな彼の姿に対する評価は人それぞれだが、少なくとも彼が興味深い存在であることは確かである。その点「俳優の生活において、野心が大きく作用すると思う」と正直に話したキム・スヒョンも、これからの歩みが気になる。スターとして有名になればなるほど、謙虚な態度が美徳とされる韓国で、過去よりはるかに多い人々が見守っている道の上に立ったキム・スヒョンはどのような覚悟をしているのだろう。

「実はその方向についてはまだ決めていないんです。やりたいものはあります。綱渡りのように、境目をうまーく(笑) まだ、何が良くて何が良くないか、ハッキリとした区別ができていないため、その部分は会社と相談してみます(笑) 実を言うと、今の段階ではキム・スヒョンという人間を人の前に出すには少し恥ずかしく思えたり、怖かったりもするんです。俳優だけで知られている今の状況がイヤでもないし。しかし、もうすぐすべてのことが知られるのではないでしょうか?さあ、どうなるか。今はよく分かりません。まだ世の中に合わせていると思いますが、僕が留まる場所を探し中です」


「左利きで癖毛のAB型である自分が今も好き」

インタビュー時、キム・スヒョンが特に笑ったのは、記者が「以前“左利きで癖毛のAB型”である自分が好きと言ったことがありますよね。他の人とは少し違う自分が好きという意味だったと思いますが、今も同じですか?」と聞いた時だった。彼はまるで幼かった頃の日記帳を読んでみた時のように照れた顔で笑い「はい。好きです。なぜかと言うと、自分勝手な面を持っているからです」と答えた。その笑顔にインタビューの間、少しずつ溜まっていた残念な気持ちが少し軽くなった。過去のキム・スヒョンは、まだ削られていない原石独特の滑らかな魅力がある印象だった。角ばった部分が地面にぶつかって出すような愉快な音が、予想もしなかった瞬間に聴こえてくる楽しさがあった。しかし「太陽を抱く月」の驚異的な成功の後「自分を振り返ってみる時間が与えられていなかった」ためか、彼の動きは以前より少し重くなったように見えた。境界線の上に立っているものは美しい。その危うさは見ている人を限りなく魅了する。女心を引きつけた男性スターたちの共通点が歳と関係なく依然として持つ“少年っぽさ”であるように。いきなり成長した男の身体にまだ成長中の少年の顔を持つこの25歳の若者に人々が魅了されたのも、彼が境界の上に立っているからだ。“綱渡り”をしたいと言う彼にぜひ今を楽しんでほしい。もうしばらく危うい状態のまま、未完の不安な歩みで綱の上を、軽く“自分勝手”に歩いていてほしいものだ。

記者 : キム・ヒジュ、写真:チェ・ギウォン、編集:イ・ジヘ、翻訳:ナ・ウンジョン