“韓国ロックの伝説”キム・チャンワン&“世界的エンジニア”アドリアン・ホール、互いに魅了された出会い

10asia |

写真=KT&Gサンサンマダン
昨年11月、キム・チャンワンとアドリアン・ホール(Adrian Hall)は前日にお酒をたくさん飲んだのか真っ赤な顔でソレ村のカフェに現れた。彼らは11月21日から27日までKT&Gサンサンマダン(想像広場)春川(チュンチョン)にあるライブスタジオで、今年リリース予定のキム・チャンワンバンドの新しいフルアルバム(タイトル未定)を録音した。作業の最終日、キム・チャンワンはアドリアン・ホールを家に招待し、茅台酒(中国特産の蒸留酒)とウイスキーを一緒に飲んだ。お互いの顔を合わせて笑う2人の姿は、まるでおじさんと甥のように仲良く見えた。

韓国のロック界を代表するレジェンドと世界最高のエンジニアの出会いは、KT&Gサンサンマダンが世界のトップクラスのアーティストたちと一緒に作業してきたアドリアン・ホールを招待し、韓国のアーティストのアルバム作業を支援する「アート・オブ・レコーディング」プロジェクトを通じて実現された。作業を終えたばかりの2人は非常に高い満足度を見せた。キム・チャンワンは「アドリアン・ホールと一緒に作業することになったのは本当に幸運だ」と話した。

「1977年にバンドのサヌリム(SANULLIM)の1stアルバムを2トラックレコーダーで録音した後、マルチレコーディングやデジタルレコーディングなどを経験したが、毎回限界を感じました。それで、ロックの本場である英米のスタジオでレコーディングするという夢を持っていましたが、今回アドリアン・ホールとの作業でその夢を叶えることができました。彼のおかげで、新しい音楽の世界が開かれました」(キム・チャンワン)

イギリス生まれのアドリアン・ホールは、世界最高のスタジオの一つに挙げられるアメリカ・メトロポリススタジオのハウスエンジニア出身で、ブリトニー・スピアーズ(Britney Spears)、アリシア・キーズ(Alicia Keys)、ブラック・アイド・ピーズ(BLACK EYED PEAS)、シャキーラ(Shakira)、ロビー・ウィリアムズ(Robbie Williams)などのスターたちと作業を行ってきた。その他にも、多数のインディーズロックバンドと共に実験的な作業を行っている。キム・チャンワンバンドと作業する直前までは、自身が昨年レコーディングしたデペッシュ・モード(Depeche Mode)がベルリンで行ったライブDVDの作業をちょうど終えたばかりだった。

アドリアン・ホールはサヌリムの音楽を聞いて衝撃を受けた。彼は韓国から送られてきたサヌリム、キム・チャンワンバンドの音楽を聞いた後、興味が生まれてYouTubeで昔の映像を探して見たという。

「すごく強い個性が感じられる音楽でした。韓国スタイルのロックだったが、僕にとってはそれほど難しく感じられなかったです。素晴らしい音楽は常に通じますから!1960~1970年代のクラシックロック、もしくはパンクロックのエネルギーが感じられました」(アドリアン・ホール)

キム・チャンワンはアドリアン・ホールとの作業を「ロックの歴史に溺れたような感じだった」と話した。

「僕たちは所詮ロックの辺境にいると思いました。韓国はロックが持ち込まれた文化だからです。でも、今回アドリアン・ホールと一緒に作業をしながら、その本質にさらに近付くことができました。韓国味噌の味は韓国人が一番よく知っているように、アドリアン・ホールはロックの本場から来ただけに、ロックの質感について正確に理解していました。それで、僕たちがしようとする音楽的な意図をすぐに理解してくれました。僕たちはただ演奏だけをすれば良かったのです」(キム・チャンワン)

アドリアン・ホールも韓国ロックの魅力に魅了された。ニューアルバムでキム・チャンワンは、サヌリムの名曲「我が心に絨毯を敷いて」にコムンゴ(玄琴:琴の1種で朝鮮の伝統楽器)やヘグム(奚琴:韓国民俗楽器で小型の二弦楽器)などの韓国の伝統楽器を加えて新しくアレンジした。この作業には最近、世界的に脚光を浴びている韓国のフュージョン国楽グループJAMBINAIが参加した。アドリアン・ホールは生まれて初めてコムンゴやヘグムという楽器に接した。

「中国の二胡(伝統的擦弦楽器)を見たことはあるが、東洋の楽器を使ってレコーディングをしたのは今回が初めてです。でも、あまり難しくないと感じました。JAMBINAIのコムンゴとヘグムは非常に現代的な音を出して、ロックに似合う重さを持っていたからです。そのおかげで、西洋のロックとは異なるサウンドを出すことができました」(アドリアン・ホール)

この曲を事前に聞いてみたら、キム・チャンワンバンド特有の荒いロックと韓国の伝統楽器が密接に調和を成していた。

「これまでにもあった曲ようにロックと韓国の伝統音楽を単にミックスした作業ではなく、伝統楽器でロックサウンドをより強く出してみようと努力しました。前例のない作業なので、どんな曲が出来るのか僕たちもとても気になりました」(キム・チャンワン)

特に、アドリアン・ホールはキム・チャンワンの歌詞にも大きな魅力を感じた。キム・チャンワンは彼が曲のイメージを理解できるように、歌詞を英語に翻訳して見せた。

「歌詞が本当にユニークでした。何かを象徴する歌詞で、普通の音楽ではないということにすぐ気付きました」(アドリアン・ホール)

アドリアン・ホールは「キム・チャンワンの曲はアメリカのミュージシャン、ルー・リード(Lou Reed)やトム・ウェイツ(Tom Waits)を思い浮かばせる」と付け加えた。

アドリアン・ホールはキム・チャンワンと作業しながら、韓国の酒文化をきちんと体験した。作業期間中、彼らは午前から夜までレコーディング作業を行って、夜明けには必ずお酒を飲んだという。アドリアン・ホールは「韓国に来る前、知り合いから『韓国人は東洋のアイルランド人』と聞いたことがあります。それは事実だった」と言って笑った。キム・チャンワンは「アドリアンが韓国人っぽくなった」と一緒に笑った。酒に関して話を交わしている途中、キム・チャンワンが突然メモ用紙を探して、キム・サンベ詩人の「昼酒」という詩を英語に翻訳して書いた。アドリアン・ホールはそれを見て「とても素敵だ。芸術である」と親指を立てて見せた。

2人が音楽で交わしたコミュニケーションが盛り込まれたキム・チャンワンバンドのニューアルバムは、2015年初めにリリースされる予定だ。

「真のコミュニケーションというのは、言語で行われるものだけではありません。ミュージシャン同士は音楽で通じますから。以心伝心のように言葉がなくても通じるもの。それが本当のミュージシャン同士の出会いです」(キム・チャンワン)

記者 : クォン・ソクジョン、翻訳 : ナ・ウンジョン