「それだけが、僕の世界」イ・ビョンホン“惰性になった瞬間、新しいものを見せられないと思います”

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写真=BHエンターテインメント
「演技には慣れません。長く演技をしても、新たな作品に出会えば未だにプレッシャーも感じるし、緊張もします。だからずっと発展し続けて新たな姿をお見せできると思います」

17日に韓国で公開される映画「それだけが、僕の世界」で、全盛期を過ぎたボクシング選手役で現実味溢れるコミカル演技を見せる俳優イ・ビョンホンの言葉だ。彼は「たくさんの作品をしても形態と種類が違うだけであって、悩みの大きさはいつも同じだ」と話した。

「それだけが、僕の世界」は、拳だけで生活してきたチョハ(イ・ビョンホン)とサヴァン症候群を患っている弟のジンテ(パク・ジョンミン)が、人生で初めて出会い、繰り広げられるストーリーを描いた映画だ。イ・ビョンホンが演じたチョハは、一時期は東洋チャンピオンまでのし上がったが、今は全てを失い、スパーリングパートナー、チラシ配りのアルバイトで生計をつなぐ人物だ。離れて暮らしていた母親インスク(ユン・ヨジョン)と偶然出会い、一つの家で暮らしながら、初めて出会った弟と苦楽を共にする。

「チョハは小さい頃、両親に捨てられた寂しい人物です。でも彼の感情を極端に表現したくはありませんでした。胸の深いところにトラウマがあるけれど、うわべでは独りだという事実に慣れてしまった人物だと思いました」

イ・ビョンホンは限りなく弾ける。乱雑に切ったヘアスタイルにジャージとスリッパという装いが基本だ。見栄を張ってリングの上でKOで敗れ、女子高生と幼稚な口喧嘩をしたりもする。不利になる度、神経質に悪態をつく姿までも笑える。イ・ビョンホンは監督、俳優たちと意見を交わし、より面白いシーンを作るために力を尽くしたという。アドリブで誕生したシーンも多い。

「笑わせるのが面白かったです。シナリオを見て研究し、カメラの前でいろんなことに挑戦できました。欲を出せば一線を越えることもあります。たくさんの観客が許すことのできる、最も客観的な線を探すために悩みました」

1991年にKBSの公開採用タレントとしてデビューしたイ・ビョンホンは、これまで休みなく作品に出演し、フィルモグラフィー(出演作)を増やしてきた。最近では濃い色彩の「インサイダーズ/内部者たち」(2015)「マスター」(2016)「天命の城」(2017)などで強烈な演技を見せてくれた。そんな彼が重いイメージを脱ぎ、人間味溢れるキャラクターで戻ってきたという点は「それだけが、僕の世界」の観戦ポイントとして挙げられる。

「極端な状況に置かれたキャラクターを演じる時には、想像に頼らなければならない部分が多く、自信がなくなります。その反面、今回の映画のように現実にあり得るキャラクターを演じる時には自信が持てます」

イ・ビョンホンは後輩パク・ジョンミンと兄弟役で共演した。いがみ合う二人の譲らない熱演が面白さを加えた。パク・ジョンミンの話を出すとイ・ビョンホンは「本当に良い俳優が出てきた」と非常に喜んだ。

「映画は一人だけ上手いからといって成り立つのではありません。皆が与えられた役割を上手くこなしてこそ相乗効果が生まれます。ですから重要な役割を新人が演じれば、先輩としては心配になるのは当然です。しかしジョンミンが演じるのを見て、心配が消えました。後輩や新人という考えには全くなりませんでした。むしろ私がもっと上手く演じなければという思いが生まれました」

サヴァン症候群の話は韓国国内外の映画でよく扱われた素材だ。個性の強い家族のメンバーが段々互いに心を開き、家族愛として帰結するストーリーが古くさく感じられるかもしれない。それにも関わらず、イ・ビョンホンはストーリーの力を信じたと話した。

「映画には“コード”というものが存在する他ありません。重要なのはどんな人々のどんなストーリーが“コード”の中に溶け込むのかということです。笑いと悲しみが共存するストーリーが愛され続けるのは、その中に込められた感動の色と深さが違うからです。そんな点から『それだけが、僕の世界』は観客に良いメッセージを投げかけられると思いました」

イ・ビョンホンは「それだけが、僕の世界」を通して、演技で変奏を試みた。今年下半期に放送予定のtvNドラマ「ミスター・サンシャイン」への出演も確定した。久しぶりのドラマ出演だ。イ・ビョンホンが挑戦を止めない理由とは何か。

「惰性へと怠けた瞬間、新しいものを見せられないと思います。フィルモグラフィーを増やすために戦略的に作品を選んでいるというよりは、自分の心を動かすシナリオの力を信じています。偏見が入れば良い作品を逃すこともあるので、白紙状態でシナリオを読み、良い作品を見つけようとしています」

記者 : ヒョン・ジミン、翻訳 : 浅野わかな