「永い言い訳」西川美和監督“チャンスがあったら韓国の小説を映画化してみたい”

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「永い言い訳」の西川美和監督はエスプレッソを飲んだ。ブラックのセーターとコーヒーの色が妙に調和をなす。最近、桂洞(ケドン) 付近のカフェで西川美和監督と会った。「かもめ食堂」のポスターと「ジョゼと虎と魚たち」の絵が掛かっている。日本の映画監督をインタビューするには、最適の場所だった。

―早稲田大学の文学部出身だそうですが、大学時代はどうでしたか?

西川美和:遊んでばかりでした(笑) 本をたくさん読んで、写真を撮っていました。入学する時には日本文学の影響をたくさん受けました。子供時代から今まで持続的に影響を受けた作家を1人選ぶとしたら、太宰治です。「人間失格」が有名ですが、この小説は彼の作品の中で1番暗いです。ですが、ある短編はたった一文で笑わせるんです。コミカルな作品が多く、読者を魅了させる。笑いが多いけれど、最後の一文で泣かせる彼の小説が好きです。私の映画のオープニングシーンとエンディングシーンは全部太宰治から影響を受けました。

(「永い言い訳」のオープニングシーンで、妻は夫の髪の毛を切って外出しながら「後片付けを頼むよ」と話す。この映画は妻を失った後、夫が自身の人生を最初から復習する物語だ。)

―韓国文学にも関心が多いと聞きましたが。

西川美和:イ・チャンドン監督の小説「鹿川には糞が多い」が好きです。最近ではハン・ガインさんの「菜食主義者」が印象深かったです。日本で韓国文学はそんなに知られていません。私も最近勧められて少しずつ読み始めました。西洋文学とは異なり、韓国文学は親しみが感じられます。チャンスがあったら韓国小説を映画化してみたいです。

(「永い言い訳」は有名作家である衣笠幸夫(本木雅弘) が、妻の死を通じて悲しみをちゃんと感じることができなかったが、同じ状況に見舞われた大宮陽一(竹原ピストル) 家族に出会い、人生の大事な価値を理解していく物語だ。)

―衣笠幸夫は自身が写っていない大宮陽一家族と亡くなった妻の写真をプレゼントとしてもらいますが、彼が写真をもらうシーンは今後、大宮陽一家族といつも一緒にいるという意志であり、写真に自身がいなかったことに対する反省を意味しているのでしょうか?

西川美和:そのように考えてくれてとても嬉しいです。それ以上の解釈はないと思います。衣笠幸夫は自身が円の中心になるべきだと思っている人物です。大宮陽一家族との間で自身は存在していないが、もうその事実を受け入れ、幸せを感じる。とても小さい成長です。

―直接脚本を書いて、演出する。取材と想像力の割合はどれぐらいですか?

西川美和:各作品ごとに違います。「永い言い訳」は取材の割合が少ない方でした(この映画は東日本大震災後、突然別れ、喪失の痛みを経験した人たちの話がモチーフとなった)。劇中、衣笠幸夫が自身と同じ状況に見舞われた大宮陽一の家で暮らしますが、これは私が直接取材した部分です。私は結婚していないので、子供を育てたことがありません。子供がいる友達の家で数日一緒に暮らしました。ある子供は「あの人はなぜ、私たちと一緒に寝るの?」と聞いてきました(笑) 映画の中の衣笠幸夫のように自転車にも乗りました。実際に子供を追うため、全力を尽くしてペダルを踏みました。一緒に暮らしたら、愛情が湧いてきて、突然何か起こったら、この子たちを守るべきだと思いました。子供たちを取材したことを除くと、殆ど想像力で書きました。一方「ディア・ドクター」は取材の割合が多かったです。実際にお医者さんに密着して、医者と病院の世界に対するディテールを学びました。

―西川さんはいつも人間の心を見つめ、勉強する。あなたにとって人間とは何ですか?

西川美和:それを知らないから、映画を作っているんだと思います。人に対して知るどころか、自分自身に対してもよく知りません。人間を一言で表現すると「よく知らない存在」です。例えばデビュー作「蛇イチゴ」と「ゆれる」は全部私の夢がモチーフとなっています。夢の中でいつも窮地に追い込まれる。私がやりたくない行動をしたりする。普段ならやりたくない人間の行動をする。目覚めると「私はあんな行動をする人だったのか」と驚く。私は良い人になりたい。しかし状況が変わると、なりたくない人になる。いつも「私の理想とする人になれるのか」と思っています。

―映画で“他者”が登場しますが、衣笠幸夫が自身の中の他者に会うことだと解釈することができますが、どうでしょうか?

西川美和:このような解釈は初めて聞きました。これからはインタビューでこのように答えることにします(笑) それも他人に会ってから発見することになるんですね。

―前作に比べて変化があったように感じますが。

西川美和:そうですね。私はリズム感が生きている音楽を主に使ってきました。しかしこの映画では弦楽器中心の落ち着いた雰囲気で変化を与えました。日本の有名なジャズバイオリニストである中西俊博さんと初めて一緒に作業しました。

―次期作の計画はありますか?

西川美和:「永い言い訳」は個人的な話です。私のことがそのまま露出されています。私から遠くなりたいです。それで他の作家の小説を脚色する計画をしています。計画通りになったら、デビュー以来初めて他の人の原案を映画化することになるでしょう。

―暇な時には何をしていますか?

西川美和:スポーツが好きです。特に野球が好きです。衣笠幸夫の名前は、広島東洋カープの伝説的な選手の名前からとっています。野球の他にもすべてのスポーツが好きです。世界大会の決勝戦は全部観ています(笑) スポーツを観る理由は、映画とどんな関係もないからです。その時間は、映画に対して何も考えず、気楽に休むことができるのです。

記者 : クァク・ミョンドン、写真 : 映画社JINJIN