【コラム】「ドラマの帝王」現実は厳しく理想が遠い今、没落の危機 ― カン・ミョンソク

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映画監督で脚本家のチャン・ハンジュンが手掛けたSBS「ドラマの帝王」は、前作であるSBS「サイン」と同じ人物構図の中で別の話をする。「サイン」は、国立科学捜査研究所のアウトサイダーであるユン・ジフン(パク・シニャン)と、組織の首長イ・ミョンハン(チョン・グァンリョル)が、「ドラマの帝王」には新人作家のイ・ゴウンと劇中ドラマ「京城の朝」を制作するアンソニー・キム(キム・ミョンミン)がいる。だが「サイン」がひたすら真実だけ追求するユン・ジフンを中心に置いたことと違って、「ドラマの帝王」はドラマのためなら手段を選ばないアンソニー・キムの話を描いている。彼は、大手制作会社の帝国エンターテインメントに在職していた時、会長(パク・グンヒョン)の指示でロビー資金を設け、脚本家を騙して無理なPPL(Product Placement:テレビ番組や映画に特定会社の商品を小道具として登場させること)を入れた。

謎の死を巡る真実を追跡するユン・ジフンは、自身を犠牲にする覚悟と勇気さえあれば真実のために歩いていくことができた。一方、アンソニー・キムは、幼い頃慰めになったドラマがきっかけで制作者になり、制作に必要な資本と編成を勝ち取るために策略を巡らす。制作費をまかなうためには無理なこともしなければならず、制作陣を苛酷に追い詰めたりしなければならない。犯罪に対する真実は一つだが、良いドラマに対する答えは決まっていない。アウトサイダーは自身の道だけを追及するが、リーダーは全ての状況と立場を考慮する。「ドラマの帝王」は、「サイン」より日常的な舞台で、より複雑で答えのない問題を解いていく。

「ドラマの帝王」は勝負どころを逃した

「ドラマの帝王」が序盤に見せた魅力は、この地点から始まる。手段を選ばないアンソニー・キムの制作方法が彼を没落させ、再起の希望である「京城の朝」を書いたイ・ゴウンは、視聴者らを幸せにするためには方法も正すべきだと主張する。アンソニー・キムは、自身との約束を守るために帝国エンターテインメントとの契約も拒んだイ・ゴウンを見ながら、もっぱら自身の考えを貫こうとした「京城の朝」を、原案を尊重する方向に気が変わった。イ・ゴウンがアンソニー・キムを通じてドラマの現実を知り、より客観的な目で台本を書いて人々を満足させることは、「ドラマの帝王」が一番言いたいことだろう。理想は現実を知り、現実は理想を忘れない。そして、より良い現実が始まる。

だが、アンソニー・キムは、「京城の朝」の編成と関連し、ドラマ局長(ユン・ジュサン)に賄賂を渡し、新しい局長であるナム・ウンヒョン(クォン・ヘヒョ)に放送局の上層部を通じて圧力を加える。また、制作費が必要になって帝国エンターテインメントの会長の金を騙し取る。この地点で「ドラマの帝王」は、「京城の朝」の制作現実と重なる。「京城の朝」がヒットのためにラブストーリーが必要であることと同様に、「ドラマの帝王」は面白さを与えるためにアンソニー・キムを引き続き危機に追い込み、時には正しくない方法で危機を克服させるようにする。彼が策略を巡らして危機から抜け出す瞬間が、「ドラマの帝王」では一番面白い。アンソニー・キムの方法はより現実的で、より痛快な印象がするかもしれない。だが、イ・ゴウンを通じて語る理想ではない。「ドラマの帝王」は、ある時点でアンソニー・キムの手段を代替できる新しいドラマ制作法に対する答えを出す方向に向かっていくべきだった。それが「ドラマの帝王」の勝負所であり、理想が現実のものになる瞬間になるだろう。

それにも関わらず、いいドラマを作るためには…

しかし「ドラマの帝王」は、第14話まで答えを出すことを保留にする。代わりにドラマをより面白くするアンソニー・キムにもっと重きを置く。互角に対抗したアンソニー・キムとイ・ゴウンの関係は、アンソニー・キムが盗作問題から台本作成まで引き続きイ・ゴウンにアドバイスをすることで、師弟のような関係に変わる。作品でアンソニー・キムの魅力は高まるが、現実と理想の間で葛藤し、代案を模索するドラマの大筋は弱くなった。代わりにアンソニー・キムを巡って危機と解決が繰り返される。アンソニー・キムとイ・ゴウンがそれぞれ制作費と盗作問題で悩む時、彼らは対話した人々の話から何かを思い出し、解決策を見出す。現実と理想の間でより良い答えを探すことからくるドラマの内的変化は消えてしまい、似たような構成でエピソードの内容だけが変わる。「京城の朝」がヒットに成功したとしても、「ドラマの帝王」の視聴者に感動を与えにくい理由はそこにある。「京城の朝」の成功は「ドラマの帝王」が現実にぶつかって勝ち取った結果ではなく、制作陣がストーリー展開のために作り出した理想的な状況であるだけだ。

それでアンソニー・キムが次第に温かい人に変わっていくことは、理想的な結果だとは言えない。誰も信じないと言った彼は、今イ・ゴウンを信じ、自身に真心を込めて接してくれる職員たちから感動を受け、涙を流す。だが、彼は外では依然として戦争をしているように生きていく。イ・ゴウンの理想は、アンソニー・キムの影響力があってこそ実現でき、彼の影響力は自ら「三国志」の戦争にたとえた策略を巡らした戦争を通して拡大する。人を躊躇せず投げ捨てる帝国エンターテインメントの代わりに、自分の味方を考えてあげるアンソニー・キムの影響力が大きくなることも良いことだろう。だが、世の中が公正なルールの通じない戦場であることに変わりはない。

「サイン」でユン・ジフンは死を覚悟し、全ての人に真実を知らせた。だが「ドラマの帝王」は、ユン・ジフンが作り上げた世界上では、より良い世界に対する答えを出す代わりに、彼らだけの世界をより温かくすることに留まる。これは、逆説的にドラマの現実なのかもしれない。理想を語ることは簡単だ。だが、現実は難しい。現実を変えることはもっと難しい。だが、それにも関わらずその道を歩んでいくしかない。より良いドラマを作るためには。

文:コラムニスト カン・ミョンソク

「NAVERコラム - カン・ミョンソク編 -」では、今話題の人物にクローズアップし、コラムニストのカン・ミョンソク氏が執筆。韓国で注目が集まっている人物や出来事についてお届けします。

記者 : カン・ミョンソク