ヨングァン、ジェイン、イヌ 運命の糸は誰に？
韓国内で国民的大ヒットドラマとなった「製パン王キム・タック」の監督と脚本家というゴールデンコンビが再びタッグを組んで描くシンデレラストーリー。と聞けば、逆境を乗り越えて幸せを手にする定番のストーリーが頭に浮かぶ。しかも、ヒロインは社長令嬢。あれ？ 設定は、「キム・タック」を少々マイナーチェンジしただけじゃん……なんて意地悪な見方もしたくなる。だが、ドラマは蓋を開けるまではわからない。確かにシンデレラストーリーだが、王子様や魔法使いの助けなどアテにせず、自分の幸せは自分でつかむ。タフで今どきのシンデレラなのだ。
幼馴なじみだったイヌ(左)、ジェイン(右)
ドラマは9歳の誕生日パーティーの日に社長令嬢のジェインが、お抱え運転手の息子ヨングァンと出会ったことから始まる。副社長の息子イヌにけしかけられて、やったこともない野球をやるハメになったヨングァンは人生初の野球でホームランをかっ飛ばし、そのウィニングボールをジェインにプレゼント。二人の間にほのかな恋心が芽生えるが、それもつかの間。その夜、ジェインの父・ユン社長は交通事故で亡くなり、病院に向かう途中で母と共に事故に遭い、発見された時には母は昏睡状態、ジェインは記憶喪失に。それをいいことに、会社の乗っ取りを企んだ副社長ソ・ジェンミンの陰謀によって、ジェインは孤児として施設に捨てられてしまう。
孤児院に引き取られるジェイン
いきなり天国から地獄へ突き落されたジェイン。17年後、施設から自立した彼女は准看護師として病院で働く毎日。インケンな看護部長にイビられながらも決してメゲずに、雑用も笑顔でこなす。そんな彼女が勤める病院に、プロ野球選手になったヨングァンとイヌが負傷して運び込まれたことから、3人の人生が再び交錯する。記憶喪失のまま、誰もあの時のジェインと思わず、再会した彼らのドラマは新たにステージに。
17年後…病院での運命の再会
というわけで、そこからジェインを中心に親の因果が子に報い…的な展開を見せるのだが、話の要素には、出生の秘密に裏切りと陰謀、家族愛に復讐劇と韓国ドラマのヒットに欠かせないお約束な要素が盛り込まれた上に、3人の胸キュンな恋模様も描かれる。実に欲張りな内容。加えて波瀾万丈ドラマ特有の泥臭さがあるかと思えば、ジェインの父親の事故をめぐる一連の話はサスペンスタッチで描かれ、はたまた、ジェインの前に現れた不思議な老人とのおとぎ話のようなファンタジックなシーンなどもあり、一体、このドラマはどこに向かってるんだか？ とツッコミたくもなる。
新会長ソ・ジェミョン(左)、室長ソ・ミョンチョル(右)
だが、少々強引な展開も全てチャラ、毎回、さわやかな後味にしてくれるのが、超ポジティブ娘、ジェインのキャラクターだ。何不自由ない社長令嬢に生まれながら、突然の悲劇と不幸の連続、さらに試練に次ぐ試練に見舞われ、普通ならグレるよ。さもなきゃ誰かのせいにして当然だ。なのに、ネガティブな発想は皆無。恐るべき立ち直りの速さと、「ばっしゃー！(＝よっしゃー！の意)」の気合一発でイジメも仕打ちも乗り越える。明るく演じるパク・ミニョンもハマり役だ。とくに、彼女のはじけるような笑顔を見てると、こちらまで元気百倍の気持ちに。気付けば、思わず一緒に「ばっしゃー！」と言いたくなる。
ジェインはどんな困難にも負けない！！
ジェインを見守る二人の男も対照的なキャラで楽しませてくれる。チョン・ジョンミョン演じるヨングァンは負けん気や責任感だけは人一倍強く、男気たっぷり。彼がジェインを慰めるために、自慢のククスを作るシーンに妄想たくましくしたくなるファンもいるだろう。一方、プロ野球のスター選手で、我がままな御曹司イヌに扮したイ・ジャンウ。序盤こそ、イヤミな役だが、実は心に深い傷を負い、ジェインとの出会いによって、固く閉ざしていた心を開く。強がっているクセに、ナイーブな一面を覗かせ、終盤に行くほど男としての変貌を見せる姿も魅力的。二人のイケメンに心つかまれること間違いなしっ！
ジェインを夫の愛人の娘と誤解するヨングァンの母(左)
私が個人的にハマったのは、波乱万丈なジェインの人生を彩った脇キャラたちだ。演じるのは韓国ドラマや映画でお馴染みの顔ぶれ。とくに、最大の悪役ソ・ジェンミン演じるソン・チャンミンがほぼ毎回、凄まじい鬼の形相をして怒り狂う。血管がブチ切れるんじゃないかと心配になるほどの熱演、だんだん怖いもの見たさでクセになった(笑) ヨングァンの母に扮したチェ・ミョンギルは、ジェインを逆恨みしてブツブツ。短気だけど根はいいオバちゃんぶりも見ものだし、ジェンミンの懐刀の室長役パク・ソンウンも蛇のような目で怪しい存在感を放つ。ほか、短いシーンでもしっかり味を残す名優たちも見逃せない。
ジェインの味方！コデ商事営業チーム最強の4人組！
というわけで、パク・ミニョンら若手のフレッシュな魅力と、ベテラン陣が演じる濃厚かつ、強烈なキャラに怒涛のような展開のドラマ。料理でいえば、こってり味やら、とびきり激辛だったり、ホロ苦かったりなどあれこれと楽しんだ後に、口に残るのはさっばり、さわやか……といった感じ。うーん、それって結局、どんな料理……。もとい、どんなドラマなの、と気になったあなた。そりゃ、もう観るしかないってことなのだ。
文：前田かおり(映画・海外ドラマ ライター)
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