Vol.1 ― 映画「後宮の秘密」ファン・ヒョンギュ室長が語る扮装の秘密

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映画「後宮の秘密」のビジュアルは、この人々から生まれた!

以前、女優ハ・ジウォンが「その服を着て、剣を手にした瞬間、本当に戦士になったように森を飛び回った」と言ったことがある。それだけに俳優がキャラクターになりきるとき、観客もそのキャラクターに入り込めるようにするのが扮装の役割である。

最近公開されて、大ヒット上映中の「後宮の秘密」はかなり強烈だった。俳優たちの演技と監督の演出力も素晴らしかったが、ビジュアルも強烈だったためだ。ファヨン(チョ・ヨジョン)の姿が優雅に見えて、ソンウォン大君(キム・ドンウク)がそれだけ哀れに感じられたのは、身に付けている装飾品やヘアスタイルのビジュアルと調和を成して、彼らの感情が最大限に表現されたためだろう。

映画「後宮の秘密」の扮装を担当したファン・ヒョンギュ室長とキム・ジョンジャチーム長に会ってみた。韓国の映画界で最も長い経歴を持つ扮装チームだという。特に、17年間扮装の分野で実力を積んできたファン・ヒョンギュ室長は、映画界では知る人ぞ知るベテランだ。キム・ジョンジャチーム長も扮装実務を担当し、ノウハウを蓄積してきた。

監督や俳優ではなく、映画に携わるスタッフから聞く話は新鮮だ。「後宮の秘密」の立役者であるファン・ヒョンギュ室長とキム・ジョンジャチーム長の話は、2回にわたって掲載する。彼らが伝える映画の話、そして扮装に対する哲学と価値観の話だ。映画を輝かせる彼らの話から、映画への別の観点を得られる。


「後宮の秘密」シナリオ、最初は断ったけど挑戦……“なぜ?”

ファン・ヒョンギュ室長は、ぺ・チャンホ、クァク・ジギュン、イ・ミョンセ、イ・チャンドン監督など、韓国の巨匠と仕事をしてきた。それだけ実力のあるチームであったため、正統の宮中時代劇を掲げた「後宮の秘密」が彼らを必要としたのは、ある意味必然のことだった。

「『後宮』台本を昨年6月に頂いたのですが、最初は断りました。正統派の古典がやりたくて、きちんと考証を行いたいと常に思っていたのですが、(この作品では)完璧にできないと思ったからです。宮中時代劇であり、単調さもあるようでした。やってもやらなくても悩みの種だと思いました(笑)

ところが10月にまた連絡が来ました。そして『後宮』に合流することになり、そのあとすぐ2週間後にクランクインしました。時間がとても足りなかったですね。1週間は資料収集だけをしました。プレゼンする際に2つの案を提示しました。考証に従う方向と、自由にする方向でした」

映画「後宮の秘密」に登場する主要人物は、設定ではあるが、時代的背景は高麗末から朝鮮時代初期だった。これによって扮装も高麗、朝鮮、また中国の元まで範囲が広まった。ファン・ヒョンギュ室長は当時、キム・デスン監督に徹底した考証をすると自信ありげに話したが、現実的な問題が立ちはだかっていた。時間がなく、当時の装飾品や物品を入手するのが容易ではなかったためだ。

「まず当時、テストをするために、小道具への考証が問題でした。朝鮮王の即位式の際、中国から『7翟冠』を贈ったと言いますが、それを入手するのも大変でした。放送局で作ったとも言われていましたが、それも問題なのは、私が資料で見たものと『7翟冠』の模様が全然違ったんです。私たちに与えられた時間も足りない状況で、当時感じたのは“古典はぴんとこない。オープンマインドでいこう”ということでした」


人物を生かすのが重要……「考証への偏見に解明したかった」

ファン・ヒョンギュ室長は「時間がなかったため、かえって悩む時間が短く、果敢な決定をした」と当時を振り返った。当時の扮装チームとしては、登場人物を自然に表現しながら、人物のキャラクターを生かす考えだった。

宮中時代劇で、当時の悲劇を集約する映画であるだけに、主要人物以外は目立たないようにしようと思いました。大臣とか、尚宮、内人まで、色を帯びないようにし、装飾品もなくしました。その代わり、主助演だけを目立つようにする方向性でした。映画を見ながら、人物図が自然に形成されたらいいなと思ったんです」

斬新な発想だったが、これによる批判も映画公開後に受けた。考証そのものが不足しているという指摘だった。時代背景がはっきりせず、仮想の人物だとしても、男性の服を大妃(パク・ジヨン)が着たなど、些細な指摘があった。

「考証に対する批判はあるはずなので、釈明したい気持ちもありました。監督には申し訳ないけど、私の判断で、道はこれしかなかったんです。完璧な考証が100なら普通80程度まで実現すると無理がないと言われています。

でも、私たちは30程度で考証を行ったと言えます。だからフュージョンだというけど、正統派でいくよりは、オープンにしていってもいいと思いました。それが正解かどうか私も分かりません。だから、映画への残念な気持ちがあるので、今後、正統派の時代劇できちんと徹底的な考証をしてみたいですね」

考証に想像力をつけたということだろう。例えば、大妃の扮装は男性がよく着る服飾ではあるが、垂簾聴政(スリョムチョンジョン:幼い王に代わって大妃や大王大妃が摂政を執ること)して、大臣たちや王を超える威厳を見せるためには、十分にそのような謹厳な衣装を着ることもあり得るのではないか?と、各人物の小道具やヘアスタイルも、このような想像をベースにして、多くの部分をオープンマインドで適用したのだった。

「解釈の差ですね。当時の宮中の人々が髪を必ずちゃんと縛ったと思いますか?辛いときなどは、ゆるくしていたかも知れません。そこから生じる空きスペースがあると思って、自由に活用したんです」


「後宮の秘密」主要キャストに盛り込んだことは?……ファヨンとソンウォン大君には痛みがあった

ファン・ヒョンギュ室長は人物別に例を挙げて、それぞれのキャラクターにおいて強調した部分を説明した。特に主人公のファヨンは、軽く見えず、優雅に美しい感じを与えようとした。それと同時にチョ・ヨジョンが持っている優雅さを生かそうとした。

「ヨジョンさんは『春香秘伝 The Servant 房子伝』に出演していた時、本当に美しかったんです。色合いをなくして、シンプルにいこうと思いました。人物の緩さと端然さを同時に表現したかったんです。髪をなぜ縛っていないのかとおっしゃる方もいたけど、その部分が緩さからくる優雅さでした。中殿(王妃)になった後は髪の毛をキレイにアップしているから。アクセサリーも色を使わず、パールだけにしました。

ヨジョンさんも『春香秘伝 The Servant 房子伝』の後に成熟しましたし、撮影の間、いつも優雅さがありました。一緒に働く人々まで楽しくするほどでした。露出シーンでも品がある感じっていうか。韓国語で『アルムダプタ(美しい)』は『アップダ(痛む)』からきたと言われています。ファヨンが痛みを経験して、それを乗り越えていくキャラクターですが、その感じを生かしたかったんです。

ソンウォン大君はまず童顔ですね。劇中ではファヨンのことが大好きなマザコンだけど、身体は筋肉質で男らしいです。ソンウォン大君は他の人に比べて、髪のまげが高い位置にあります。テレビドラマの時代劇を見ると、考証に忠実なのはわかるけど、まげをいつも同じ位置にしなければならないということはないと思います。朝鮮時代の絵を見ると、高い位置にある場合もあるし(笑)」

ソンウォン大君のまげの模様はあえて正しく表現せず、子供と男性の感じを同時に表現した。半分くらい出されている彼の額は、混乱を感じるキャラクターをより忠実に表現することに役立った。ファン・ヒョンギュ室長の表現を借りると、“空きスペース”の感じだった。


大妃は想像力そのもの……クォン・ユ、クムオクは瞬間のインパクト!

クォン・ユ(キム・ミンジュン)は、「男性的内官」だった。男らしさが生きている人物で、元々ひげがよく似合う俳優からひげを無くすだけで、内官を表現できると思った。また顎に傷跡を入れて、足りなく見える感じを埋めたという。

また、後宮になるクムオク(チョ・ウンジ)は、ファヨンとの入浴シーンが会心の瞬間だった。「普段はお手伝いをする人物が、その瞬間だけは美しく見えるようにしたかった」というのがファン・ヒョンギュ室長の説明だった。

大妃は制作チームの想像力が最も多く働いた人物だった。ファン・ヒョンギュ室長は「大妃は末期のファヨンの姿でもある」と話し、「ヘアスタイルを通じて、紗帽(サモ:昔の官服を着る時にかぶる、黒い紗で作った管理職の帽子)の角を表現したかった」と意図を伝えた。

「エジプトの女王や、ペルシャでも、女性がひげを付けていた時期があったそうです。女性ですけど、権威を表すためです。『後宮』を通じて、そんな髪型をすることは過剰な感じもありましたが、諦めたくなかったんです。一つの象徴を表現したい気持ちでした」

記者 : イ・ソンピル