Vol.2 ― チョン・イル 「雲のように人気が消えた時、演技への欲が出た」

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―作品が後半に入り、イルジメが達人になって余裕のある姿を見せると言うお話ですが、ご自身の演技は最近どうですか?

チョン・イル:少し安定したと思います。実は昨日、キム・ジャジョム役のパク・グンヒョンさんと一緒に演技をするシーンがありましたが、ものすごく演技がうまい上に厳しい方だと聞いていたので、前からそのシーンがかなり心配でした。ずいぶん前に台本が出たため、そのシーンは2ヶ月前から練習して、「思いっきりハイキック!」の時に、演技を教えてくださったイ・スンジェさんの所を訪ねて、お願いして教わったりもしました。でも、昨日はパク・グンヒョンさんがとても優しく接してくれて、リハーサルだけで50回くらい合わせることができました。グニョンさんがひとつひとつ細かく教えてくれたし、僕がNGを出しても「大丈夫だからもう一度やってみて」と励ましてくれて、本当にありがたかったです。


「撮影現場に行ったら、視聴率は忘れます」

―「思いっきりハイキック!」でのユノのイメージのせいか、遊ぶことが好きそうに見えますが、実際は努力派に近いんですね。

チョン・イル:撮影に入ったら、演技だけに集中するタイプです。そうすることで、終わってから後悔や心残りがないから。仕事が与えられた時はそれに夢中になってやるのが好きです。

―「美賊イルジメ伝」に出演してみて、少し変わったことはありますか?

チョン・イル:演技をどんなふうにすればいいか、わかるようになったと思います。僕の演技がうまくなったということではなく、演技というものがどんなものであるか、どのように表現すればいいかを考えるようになりました。以前は台本を見てセリフだけ完璧に覚えればいいと思ってましたが、それがすべてではないことが分かりました。それより、その役柄になりきることがもっと重要なんです。そのため、セリフひと言を覚えるより、ひとつのシーンでどのポイントが最も重要なのかを把握しなければならないんです。

実を言うと、「美賊イルジメ伝」の序盤はすべてをうまくやろうと張り切って、セリフひと言ごとに力を入れていました。しかし昨日、グニョンさんが「そうすると、セリフや感情がわかりづらくなる。一番重要な言葉だけにポイントをしぼれば、役柄がより自然に見えるはずだ」とアドバイスしてくれました。また、セリフのスピード感がなくなると、若い感じがあまりしないし、ルーズに見えてしまうかもしれないから、そうしない方がいいという話もしてくれました。このように、イ・スンジェさんやパク・グンヒョンさんに俳優対俳優として教わることは、ファン・インレ監督と俳優の間で学べることと違う部分だと思います。

―演技以外も、主演俳優として視聴率に対する負担は感じますか?

チョン・イル:そういうのはないです。放送前から7ヶ月間、すでに撮影していたから、視聴率に関しては忘れていました。なので初放送の視聴率が思ったより高くてビックリしたし、負担を感じたのは視聴率より僕の演技に直さなくてならない部分が多く見えたことでした。初放送の後、監督に電話したら「視聴率が高いからといって肩に力が入ったり、低いからといって落ち込んだりしないで。僕たちは僕たちなりに頑張ればいいんだ。僕たちが楽しんだら、良い作品を作ることができるから」と言ってくれました。だから最近、視聴率があまり高くなくても撮影現場に行ったらそのことはすぐ忘れてしまいます。

―ファン・インレ監督に初めて会った時、話したことも人気に関する話だったと聞きましたが。

チョン・イル:「思いっきりハイキック!」が終わってから、人気というものがまるで雲が一気に消えるようになくなるのを見て、少し落ち込んだり色んなことを考えたりしました。でも、その作品が終わった後、引き続き仕事をする代わりに休みの時間を取ったのは、僕の選択だったから、「どうせ人気というものは上がる時もあれば、下がる時もある」と思うことにしたんです。なので監督に、「もう人気に未練を持つ態度は捨てようとしています。作品が良くて僕がうまく演じることができたら、人気はもう一度上がる日が来ると思っていますから」と言いました。



「ミンホには『花より男子』(KBS)のものすごい人気を楽しんでと話しました」

―今考えて見ると、「思いっきりハイキック!」の放送当時、チョン・イルさんの人気は本当にすごかったですが、それはどんな記憶として頭に残っていますか?

チョン・イル:まるで夢のようです(笑)「思いっきりハイキック!」の時は撮影が忙しすぎて予定も多く、その人気を感じることがなかなかできませんでした。僕が、人気があるんだと思ったのは、ご飯を食べに行ったら人々が僕に気づいてくれた時や、「どれだけ大変なら」のプロモーションビデオの撮影で天安(チョンアン)に行った時、十字路が人々でぎっしりになったことくらいです。しかし、あまりにも忙しかったから、そんな状況を味わう余裕なんか持てず、人々は僕が好きなのか、それとも「思いっきりハイキック!」のユノが好きなのかに関しても少し混乱がありました。もちろん、そういう人気を一度経験したことは本当に良かったと思いますが、惜しいと思ったりはしません。

―親友であり、「花より男子 ~Boys Over Flowers~」に出演しているイ・ミンホさんが今味わっている爆発的な人気が、その時のチョン・イルさんの人気と似ていると思えます。先に経験した先輩としてイ・ミンホさんにどんな話をしましたか?

チョン・イル:人気が出たら以前考えてもなかったことが起こったりしますが、ミンホが「こんな時はどうすればいいの?」という細かいことを聞いてくる時があります。でもほとんどが「思いっきりハイキック!」の時、僕がミンホに質問したことと同じことです(笑) 僕は彼にただ今を楽しんでと言っています。そして、「君のすべての行動に人々が注目しているから、何でも気をつけてやった方がいい」とも話しました。もちろん、ミンホはすでにうまくやっていると思いますが。

今は友達としてミンホを祝ってあげたいし、これからもお互いを見ながら刺激を受けて、切磋琢磨し合う仲間になりたいと思います。何より、大変なことがあった時、話が通じる友達がいることが非常に心強いですね。

―俳優として有名になってから、得たものと失ったものがあるとしたら?

チョン・イル:「思いっきりハイキック!」の時は失ったものがいくつかあると思いました。プライベートの時間がないことや、外を自由に歩けないことなどがそれです。しかし、今はそんなふうに考えないことにしました。こんなふうに生きているのは、僕が選んだ道だから。だから、もう失ったなんて思っていません。

―俳優としての自分の弱点は何だと思いますか?

チョン・イル:以前は発音だと思っていました。「思いっきりハイキック!」の時、発音があまり良くなくて、直そうとたくさん努力しました。今も少し気がかりな部分はありますが、以前よりは良くなったと思っています。今は様々な表情ができるようになりたいです。実際、イルジメという人物は顔の表情の変化があまりない方ですが、“冷たく見つめる”というひとつの設定からも様々な感情を微妙に表す必要があるので。結局、演技というものも心の底から本当にそう思うことが重要ですが、それを表現する技術を身につけることも必要です。だから、表情や目つきにおいてさらに感情を込めて伝えたいと思います。とは言え、“カリスマ性”を持つためには、どうやら、もう少し歳を取らなくてならないと思いますが(笑)



「演技において適当ということはないと思います、本当に」

―逆に、演技に役立つような生まれつきの才能があって嬉しい、と思うことはありますか?(笑)

チョン・イル:それは…ないと思います。演技は何かのひとつがうまいかうまくないかで評価されるものではなく、役を演じる時、その人物になりすまして総合的にうまく表現することができるかが大事ですから。演技において適当ということはないと思う、本当に。

―これまで人生の中で、一番大変だったことは?

チョン・イル:色々あったと思いますが、それを胸の中に閉まっておいたりはしないタイプです。その当時は目の前が真っ暗になり、人生の中で最も大変であるように思えますが、時が過ぎれば別に大した問題ではなかったと思えることが多いです。ただ、「作品に出演する時は出演するから大変で、しない時はしないから大変」みたいな。そんなもんだと思います(笑)

―では、仕事をしながら、何かを恐れたり寂しいと思ったことはありますか?

チョン・イル:あります。「思いっきりハイキック!」の時もそうだったし、今もそうです。撮影中にもスランプ陥ったり、とても寂しくなる時があります。しかし、そういうのは結局、時間が解決してくれるんだと思います。時間の流れの間に、きっとターニングポイントがあるので。もしなかったら、探し出せばいいし。この頃、少し落ち込んでいましたが、昨日、グニョンさんと演技の練習をしてから、また気分が良くなりました。そんなふうにストレスを解消しようと努力しています。

―2年前、「思いっきりハイキック!」のユノの時に比べて、今は本人に関して、または将来に感じてもう少しはっきり見えるものはありますか?

チョン・イル:はっきり見えているかどうかはわかりませんが、仕事においての態度に少し余裕ができたと思います。以前は作品を選ぶ時も焦ったりして、いざ目の前に置かれたものが気に入らなかったらやらなかったりしたけど、仕事に関してはもう少し慎重に決めようと思っています。また、作品の選択においても、僕の気持ちを最優先すべきだと思います。僕が100%やりたいと思っていない仕事は、良い結果を出せないから。「美賊イルジメ伝」は僕が本当にやりたいと思った作品だったから、その分頑張ることができたんです。

―では時間が経った後、自分にとって「美賊イルジメ伝」がどんな作品として残ると思いますか?

チョン・イル:たくさんのことに目覚めさせてくれた作品です。俳優としても、人間としても。

記者 : チェ・ジウン、写真 : チェ・ギウォン、編集 : イ・ジヘ、翻訳 : ナ・ウンジョン、スタイリスト : カン・ユンジュ