「ペースメーカー」1位だけを記憶する世の中に向けた、痛快なアッパー

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映画を見ながら応援できる対象がいるというのは、いつも楽しくて幸せなことだ。映画「ペースメーカー」(キム・ダルジュン監督、ドリームキャプチャー制作)は、“1位だけを記憶する世の中”に対する痛烈なアッパーのような、ヒューマニズム感動作だ。

優勝候補の記録短縮のために存在する隠れたナンバー2が、心構え次第でどれだけ偉大になれるのか、また、どれだけ世の中を感動させることができるのか、この映画は感情に走ることなく淡々と描いている。時に人をごまかす希望とは違い、倒れることを知らない不屈の意志と勇気がどれだけ美しいかということも、十分確認することができる。

「ペースメーカー」は形そのものはスポーツ映画であるが、受身な態度で生きている全ての人に送る応援歌だ。だから、走りに命をかけたキム・ミョンミンの顔が歪めば歪むほど、見る人の感情は激しくなり、心臓が高鳴る。いつのまにか、他人の話ではなくなるからだ。

「僕は普通のオートバイよりは速いです」と、鶏のトサカがついたヘルメットをかぶり、チキンを配達するチュ・マノ(キム・ミョンミン)は引退したマラソン選手だ。片方の足が1cm短い致命的なハンディキャップのせいで、選手時代はエースの記録更新のために30kmまで走ったペースメーカー。
一緒にマラソンをしていた幼馴染チョンス(チョ・ヒボン)の経営するチキン店の片隅にある部屋で暮らしながら、配達員の仕事をしていた彼は、パク監督(アン・ソンギ)の提案で韓国代表の有望株、ユンギ(チェ・テジュン)にロンドン五輪で金メダルを獲得させるために、再びペースメーカーとして太陵(テルン)選手村に入ることになる。

性格の悪い後輩から無視されてもマノが黙々と耐える理由は、唯一の家族である弟のためだ。実際、マノがペースメーカーになったのもたった一人の弟の学費を稼ぐためだった。ロンドン五輪に出場し、30kmを1時間28分で走ることができれば、パク監督から1億ウォン(約665万円)もらえるということになっていた。そうすれば、弟の借金をすべて返済し、兄としての役割を果たせるのだ。

紆余曲折の末、ロンドン五輪に出場したマノは計画通り30kmまで走り、試合を放棄するが、そのとき胸に火をつける人物が登場し、一度も走ったことのない残りの12.195kmを走ることになる。この映画の見せ場であるこの区間のマノは、死に物狂いで本能的に走る、病んで老衰した競走馬だ。ゴール地点まで走ったら、足が使いものにならなくなるかもしれないが、彼の両足は止まらない。肺がはじけそうな苦痛を味わい、太ももを針で刺してまで、彼は諦めず執念で走り続ける。

この映画が台本以上に良い作品になれたのは、やはりキム・ミョンミンの名演技があったためだ。今やどんな謳い文句よりも“キム・ミョンミン”という名前自体が、優れた演技力のある俳優を意味する普通名詞であり、固有名詞となった。

世界の海上戦争史の一角をなした将帥(不滅の李舜臣)、自分を壊した外科医師(白い巨塔)、コンプレックスを克服した指揮者(ベートーベン・ウィルス~愛と情熱のシンフォニー~)、死を迎えるルー・ゲーリック病患者(私の愛、私のそばに)など、ひときわ極端なキャラクターを演じてきた彼は、今回もチュ・マノという悲運のマラソンランナーを自分のスタイルで完ぺきに演じた。

不遇な状況と、頑固な性格を表現するために、入れ歯をすることも自ら提案した。自分のせいでオリンピック出場を諦めざるを得なくなった後輩に対する罪悪感もキム・ミョンミンでなければ、上手く伝わらなかったと思う。

比較的のっぺりしがちな人物相関図に、美しすぎる棒高跳びの韓国代表ユ・ジウォンとして出演したAraは、アン・ソンギ、キム・ミョンミンという2人の名役者の前でも見劣りしない演技で、自分の存在感を示した。この映画が投げかけるメッセージ「楽しく生きているか?」というマノの問いかけで、自分の目標に一歩近づくための成長ぶりを見せるキャラクターを上手く生かしている。ジウォンとマノの恋愛模様が展開されるのかとも思ったが、無理な設定をしなかったのは賢明な判断だ。女優が2時間ずっとトレーニング姿なのに、どうして輝くことができるのか不思議に思った。

当初の計画だった広州アジア大会の代わりに、ロンドン五輪を舞台にしたことでスケールがさらに大きくなり、異国の風景も映画を豊かにした。ひたすら走るだけだと思われていたマラソンにこれほど多くの科学と緻密な作戦があったという事実も大変興味深かった。ミュージカル「あなたの初恋探します」「ヘドウィグ」「スリル・ミー」を演出したキム・ダルジュン監督の映画デビュー作だ。12歳から観覧可能な「ペースメーカー」は、韓国で19日から公開される。

記者 : キム・ボムソク