危機に陥った私を助けてくれるのは誰か…映画「ヒマラヤ」イ・ソクフン監督が問う

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2015年、“山岳人精神”を証明したイ・ソクフン監督

“コメディー専門の監督”と話しかけると、イ・ソクフン監督は自ら腹黒いと打ち明けた。いきなりこれはどういうことだろうか。ひどく真剣な表情に落ち着いた口調で自分の考えを伝える彼がこれまで作ってきた作品をとりあえず振り返ってみよう。昨年ヒットした「パイレーツ」をはじめ、「ダンシング・クィーン」(2012)と「放課後の屋上」(2005)など、全て愉快なコメディー映画一色である。

「真剣に見える人がコメディーをやるから腹黒いわけです。全く意図がなさそうに見えるのに、いきなり飛ばすわけだから」最近、ソウル三清洞(サムチョンドン)のあるカフェで会った彼が説明を加えた。

奇抜な発想のコメディで商業映画界に足を踏み入れた彼は、結婚してからは生活型コメディを披露しながら活動範囲を広げてきた。しかし、今年の年末は少し違う。お笑いは相当抑えた、感動の実話を手に帰って来た。映画「ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~」のことである。

写真=CJエンターテインメント

コメディの監督が、感動の実話で乗り出す

「ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~」は、2012年頃から本格的な映画化の話が始まった。既に2005年、故パク・ムテク隊員の遺体を収容するために集まったヒューマン遠征隊の物語がドキュメンタリー化され、これを制作会社のJKフィルムが映画化したいと乗り出した。制作会社は、当時遠征隊の隊長だったオム・ホンギルさんを何度も訪ね、辛うじて説得に成功した。故人の十周忌となる2015年、そのようにして映画は誕生した。

イ・ソクフン監督は「心の中では自信がなかったし、それで断ろうかとためらった。もし『パイレーツ』をやっていないならば、考えすら及ばなかったと思う」と本音を打ち明けた。その上「一方では、このような感動的な物語をうまく作れるかも疑問だった」と当時の悩みを表した。

「(ドキュメンタリーとして制作されているだけに) 皆知っている物語で、予想可能だからさらに難しそうだと思った。絶対『俺を泣かせてみろ!』という気持ちで来る観客の方もいらっしゃるはずなのに……だからと言って、闇雲に映画をただの涙系のものにしたり、コミカル要素をさらに入れることもできなかった。そのように刺激的に作って、映画がヒットするとしても、遺族の方々を大きく傷付けることになれば、これを作った甲斐がなくなると思った。他人の苦痛を金稼ぎに利用するという話が、最も堪え難そうだった。故パク・ムテク隊員の息子さんは中学生だが、この映画がもしかすると父のもう一つの姿になるかも知れないのではないか。そのような信頼を裏切りたくはなかった。撮影現場に遺族の方も何度もいらしたし、涙を流す方もいらっしゃった。それだけに、山岳人と家族の皆さんに恥じないものを作りたかった」

そこで、現実性の担保が重要になった。実際の海抜8000メートルまで登ることはできなかったが、少なくとも高さ4000メートルの所に撮影所を作り、専門山岳人の助言を受け入れた。俳優たちが自ら装備を担いで崖を登り、山登りで使う単語と口調を直してもらいながら、違和感をできるだけ減らそうと務めた。その中でもイ・ソクフン監督は「その高さでは5メートル歩くだけでも時間が結構かかる。映画的な想像力が必要な部分は、ある程度折衝点を探そうとした」と付け加えた。


「俺を泣かせてみろ!」という観客と、目を凝らしている遺族の間で

これまで不毛の地も同然だった山岳映画をなぜ選択したのだろうか。もちろん12年前、「氷雨」という映画があることはあった。しかしその映画は、アラスカ・アシアック山へ登る途中で遭難する人たちのロマンス映画という点で大きな違いがある。この映画に触れながらイ・ソクフン監督は「技術力が足りなかった時代に、あまりにも先を行った作品」と話した。

「偶然にも、うちの作品に参加したキム・テソン撮影監督が、『氷雨』の撮影助手だった。当時を振り返り、ノウハウを積んできたのでは。最初はそのことは知らなかった。彼が特殊戦司令部出身で『バトル・オーシャン/海上決戦』や『神弓 KAMIYUMI』で体を惜しまなかったという噂を聞いてお招きしただけであって(笑)

『ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~』を作ったのは、当然観客の皆さんに共感していただけると信じているからだ。普遍性があると期待しているが、もちろん心配はある。全ての物を金銭的な価値に換算する世の中になっているので。セウォル号の引き揚げにもこれくらいお金がかかると計算するし、どうしてするのかと反対もするし。そのような気持ちなら『ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~』が理解できないかもしれない。

無謀に見え、無価値に見えても、一人ひとりを大事にする心が重要だと思う。最近私たちは、あまりにも効率と経済的な面だけ勘定して、まるでそれが良いことのように包装するが、映画を通じて振り返るきっかけになって欲しい。子供の頃は皆義理と友情を重視したのに、生きているとそれを諦めがちだ。そのような本来の価値をうまく維持する方たちが、山岳人だと思った」

自身の意図に触れながらも、イ・ソクフン監督は警戒した。「一歩間違って、『ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~』があまりにも教訓的過ぎるのではないかと、できるだけ注意した。気まずい涙ではなく、どこか深いところから共感できる涙であって欲しい」と期待を示した。


犠牲について

イ・ソクフン監督もやはり、自分自信に尋ねた。持っているものを放り出し、義理または愛のために自身を投じることができるか。彼は「私もやはり、危機から助けるべき誰かが思い浮かぶ。躊躇わずに乗り出すと思う」と答えた。

世の中にはお金に換算できない、数多くの犠牲が存在してきた。戦争とテロ、または自然災害でしばしば人は、面識もない他人のために快く命を懸けたり、助けの手を差し伸べてきた。「それが、人間の力ではないだろうか」とイ・ソクフン監督が話した。「陳腐だと捉えることもできるヒューマン遠征隊の物語が偉大な理由がそこにある」と。

その偉大な物語を通じてイ・ソクフン監督がより一層成長する機会を迎えたようだ。韓国芸術総合学校出身で、同門たちが奥深い作品を撮っている時、反対に軽い商業映画でアプローチした彼だ。「持ち前の感覚があるわけではない。ニール・サイモン作家のシナリオを耽読しながらコメディ感覚を身につけてきたし、自然にコメディ映画をやって来た」と彼は謙遜したが、彼もやはり進化すべきタイミングであることを直感していた。日常系の物語で感動を与える監督が韓国にそれほど多くないだけに、彼の次の歩みが早くから期待される。

記者 : イ・ソンピル、写真 : イ・ジョンミン、編集 : イ・ビョンハン