ホ・ジノ監督が語る韓国映画が愛される理由…ハン・ソッキュとチェ・ミンシクの20年ぶりの共演「世宗大王 星を追う者たち」いよいよ日本公開

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朝鮮王朝が明国の影響下にあった時代を舞台に、ハングルを創製したことも知られる賢王・世宗と、天才科学者チョン・ヨンシルの身分を超えた特別な絆を描いた「世宗大王 星を追う者たち」。監督は「八月のクリスマス」「四月の雪」「ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女」の名匠ホ・ジノが担当した。

ハン・ソッキュとチェ・ミンシクが「シュリ」以来20年ぶりに共演したことでも話題を呼んだ本作。抒情的映画の名手と言われるホ・ジノ監督が、この歴史ロマンに込めた思いとは?

――監督と長年交流があるハン・ソッキュさんとチェ・ミンシクさんが本作で20年ぶりに共演されましたね。

ホ・ジノ:ハン・ソッキュさんとはかなり前に一緒に映画を撮ったことがあり、チェ・ミンシクさんとは今回が初めてでした。2人をひとつの映画の中で観られることにときめきを感じました。しかもお2人は長年交流があり兄弟のような間柄だったので、とても嬉しかったですね。


史実をもとに描かれた2人の絆「映画の出発点は…」

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――身分差がある世宗とチャン・ヨンシルがお互いを大事に思うのが印象的でした。特に世宗の部屋で人工的な星空を作り出すシーンはホ・ジノ監督らしい、光を生かした美しい場面でした。あのシーンに込めた思いは?

ホ・ジノ:あのシーンは2人が距離を縮めていく場面です。王が望めば星すらも取りに行ってしまうチャン・ヨンシルの忠誠心と天才的な面、王が星を見たいと言えば、それをあのような方法で叶えられるヨンシルの能力を示したいと思いました。この瞬間、世宗とチャン・ヨンシルは同じ夢を成し遂げられるという思いを抱くようになったのではないでしょうか。2人が身分を超えて友人になっていく、その過程をあのシーンで描き出したかったのです。

――史実をもとに2人の絆を描いていますが、物語を作る上で重視した点は?

ホ・ジノ:世宗に比べるとチャン・ヨンシルに関する記録はあまり多くありません。残っているものの一つに「世宗実録」があるのですが、そこにはチャン・ヨンシルのことが「内官のように身近において話をしていた」と記されていました。2人はとても親しかったようです。2人は朝鮮独自の時を作っていった間柄でもありました。この映画の中に出てくる輿の事件はあまり大きな事件ではなかったかもしれませんが、その事件によって世宗は杖刑(じょうけい)を下しチャン・ヨンシルを追い出します。輿の事件がなぜそのような結果に至ってしまったのかと思ったとき、その裏側に何か違う物語があったのではないか? と考えたことが、この映画の出発点になりました。歴史的な事実を元に、想像力をめぐらせて物語を作っていったのです。

――監督はこれまで脚本を兼ねることがほとんどでしたが、今回監督に専念された理由は?

ホ・ジノ:本作は「ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女」の制作会社が製作しています。10年ぐらい前に「世宗大王」のシナリオの初稿をプロデューサーから受け取り、とても興味深く読みました。私はそのときすでに「ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女」や他の作品を作る準備をしていて、その中でオファーをいただいたわけです。世宗とチャン・ヨンシルの隠された物語という点にとても関心を持ち、ほとんどシナリオが完成されている状態で私が合流することになったのです。

――プロデューサーからこの作品の提案を受けたとき「果たして自分にできるだろうか」と悩んだそうですが。

ホ・ジノ:ずいぶん昔のことなのではっきりと覚えてないのですが、当初の脚本は、歴史的史実に比重を置いたミステリー的なものでした。それが途中から世宗とチャン・ヨンシルの友情を軸においた映画に変わっていきました。友情はこれまで私が描いてきた情緒や感情という題材に繋がるので、これならできるのではないか、と思うようになりました。


「八月のクリスマス」の2人の姿が思い起こされて…

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――単なる男同士の友情物語とは趣が違いましたが、描いていく上でこだわったところは?

ホ・ジノ:ハン・ソッキュさん、チェ・ミンシクさんとご一緒できるということが決まったとき、長い時間をかけて撮影前にシナリオについて話し合いました。そのときにハン・ソッキュさんが「世宗は王様だけれども非常に孤独だったと思う。自分の理解者、夢を共に実現できる相手が現れたとき、きっとそこには友情が芽生えたであろう」と言われたんですね。まさに天才同士の出会いだと。私もその話を聞いたとき、これは王と家臣の関係を超えた同志、または友人の関係だと思ったのです。この関係をハン・ソッキュさんが映画の中で韓国語で「ポッ」=「友」という言葉で表現しています。ハン・ソッキュさんがセリフを作った部分なんですが、その言葉がまさに2人の関係を表していると思いました。私自身もそれを映画の中で表現したかったのです。

――2人の関係はとても深く、命さえも懸ける究極の“ブロマンス”だと思ったのですが、それについて監督はどう思われますか?

ホ・ジノ:ブロマンスの正確な意味が私にはよくわからないのですが(笑)、朝鮮時代にはたくさんの詩が残されています。その中には家臣が王にあてて書いた、まるで恋人に贈る恋文のような詩がたくさん残っているんです。「美しい花が咲いていると、それを摘んで王に差し上げたいと思う」とか。そういうものを見ていると、2人の関係をブロマンスというように読み取られることは、ありなのかもしれないですね。

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――「八月のクリスマス」で父子を演じたハン・ソッキュさんとシン・グさんの共演にも感動しました。起用の理由と現場での様子を教えてください。

ホ・ジノ:なかなか機会がなくシン・グさんとは20年ぶりでした。ハン・ソッキュさんもシン・グさんとは20年ぶりの映画での共演となりました。チェ・ミンシクさんとシン・グさんは「エクウス」というお芝居でチェ・ミンシクさんが20代の時に共演されています。3人ともそれぞれご縁があったわけです。この作品のキャスティングの段階で、お互いに意見交換している中でシン・グさんの名前が出たとき、ハン・ソッキュさんもチェ・ミンシクさんもとても喜んでいました。シン・グさんはもうお年が83歳なので、撮影中にセリフを間違えてしまうこともあったのですが、そんなときはとても悔しがられて、プライドが傷ついたようでした。お酒も大好きでたくさん飲まれる方ですが、翌日の撮影には正確にセリフを覚えて臨まれていました。現場では大きな柱のような存在でしたね。ハン・ソッキュさんと2人きりで向き合うシーンがあったのですが、そのときは私も「八月のクリスマス」の2人の姿が思い起こされて感慨深かったです。


韓国映画が愛される理由…大きな力になっているものとは?

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――実物大の天体観測機器を製作されていましたが、苦労された点は? 時代考証にはどのぐらい時間をかけたのでしょうか?

ホ・ジノ:この作品には科学的な話がとても多く登場します。その時代の専門家からいろんなお話を聞き、資料調査をしながら進めていきました。私は専門的な科学知識がなく、聞いても難しすぎてよくわからないので、助監督の中のそういったことに詳しい人に聞いてもらって、星座やチャギョンヌ(自撃漏)についての研究をしていきました。天文観測台は慶福宮の中の北側にあったそうですが、大きさをどうするか、随分悩みました。この天文観測台は世宗とチャン・ヨンシルが朝鮮の時間を作ろうとした夢を具現化させたものなので、具体的な形で登場することが必要だと考えたのです。当初はCGで再現しようかという話もあったのですが、やはりきちんと実物に近いものを作りたいということで、実物に近いサイズで作っていきました。空間を探すのにも苦労しました。資料を見ますと王宮の中に作られていたので、王宮の中に作りました。そのセットをつくるのに約2ヶ月かかりました。

――韓国語のタイトルは「天問 天に尋ねる」で、壮大なスケールの美しいタイトルです。このタイトルに込められた思いは?

ホ・ジノ:以前は違うタイトルでしたが、脚本を書いている途中でこのタイトルに変わりました。劇中で世宗とチャン・ヨンシルが空を見上げるシーンが出てきます。2人は「同じ空を見ている、同じ夢を見ていることが大事なんだ」と会話します。そのシーンがこのタイトルの元になりました。2人が成し遂げようとした夢、ふたりが夢見た世界を天に問う、という意味が込められているのです。

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――監督ご自身は星や天文に思い入れはありますか?

ホ・ジノ:ありません(笑)。でも撮影をしているとき、プアンのセットから見た星空がとても綺麗だったんですね。とても美しくて、そのときは「ああ、いいなあ」と思いました(笑)。

――最後の質問です。韓国映画は日本でも多くのファンに愛されています。監督が思う、韓国映画独自の魅力とは? また、監督ご自身が映画を作るときに特に意識されていることを教えてください。

ホ・ジノ:韓国映画は監督自身が企画を考えて立ち上げ、脚本を書くケースが多いんです。そのために様々な種類の映画が作られる。それが韓国映画の大きな力になっていると思います。私が映画を作る上で大切にしていることは、この映画が物語として説得力を持ちうるのか。自然なものであるか、人工的でないかどうか。ということ。そのようなことを自問し、大事にしながら映画を作っています。

取材:望月美寿

■作品情報
「世宗大王 星を追う者たち」
2020年9月4日(金)よりシネマート新宿ほか全国で順次公開

監督:ホ・ジノ
出演:ハン・ソッキュ、チェ・ミンシク、シン・グ、キム・ホンパ、ホ・ジュノ、キム・テウ

原題:천문 하늘에 묻는다(天問:空に問う)/英題:Forbidden Dream
配給:ハーク
© 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

<ストーリー>
朝鮮王朝が明国の影響下にあった時代。第4代王・世宗は、奴婢の身分だったチャン・ヨンシルの優れた才能を認め、科学者として武官に任命。豊富な科学知識と高い技術を持つヨンシルは「水時計」や「天体観測機器」を次々に発明し、それらは庶民の生活に大いに役立てられた。また、「明の従属国という立場から脱し、朝鮮の自立を成し遂げたい」という夢をもつ世宗も、朝鮮独自の文字であるハングルを創ろうとしていた。天と地ほどの身分の差を超え、特別な絆を結んでいく二人。だが朝鮮の独立を許さない明からの攻撃を恐れた臣下たちは、密かに二人を引き離そうとする。そしてある日、世宗を乗せた輿が大破する大事故が発生。輿の製作責任者であるヨンシルに疑いの目が向けられるが……。

「世宗大王 星を追う者たち」公式サイト:http://hark3.com/sejong/

記者 : Kstyle編集部