Lucid Fall、7thアルバムを知るためのキーワード

10asia |

歌手Lucid Fall(ルシッド・フォール)が音楽を作る時、どんな気持ちになるのだろう?

12月15日に公開されたLucid Fallの7thフルアルバム「誰かのための」は異色的だった。15曲の収録曲でぎっしり詰まったフルアルバムに「青い蓮の花」という童話の本も入っている。15曲の中で童話のサウンドトラックで使われた5曲が、他の曲と有機的に繋がった。それだけではない。Lucid Fallが自ら育てた“みかん”まで販売するTVショッピングも盛況のうちに終えた。

メロディだけで深い感性を引き出した。淡白でありながらジーンとさせる歌詞もある。童話の中の主人公を見て作った童謡のような曲まで、多様な感情を行き来しているが、Lucid Fallの音楽は特有の安らぎがあって癒してくれる。異色的で温かいアルバムが誕生するまでの、Lucid Fallの作業を聞いてみた。

―2年ぶりにフルアルバムをリリースした感想は?

Lucid Fall:2年に1度はフルアルバムを出すという自分との約束がある。自分にとってアルバムは、音楽を発表することでもあるが、自分の歴史のようなものでもある。2年間、何をして生きてきたのか、音楽的に誰から影響されたのか、どんなことを考えてきたのかをまとめた個人的な歴史記録でもある。今回のアルバムは、2013年の6thアルバム以来、今年まで僕が生きてきた人生や音楽人、人間としてのLucid Fallの記録だ。

―タイトル曲として「まだ、いる」を選択した。

Lucid Fall:僕はアルバムを作る時に先にタイトル曲を決めて作ったことがない。タイトル曲がないアルバムもある。タイトル曲を決めたが、人々から関心を得られなかった時もある。今回のアルバムは、タイトル曲を比較的早めに決めた。ユ・ヒヨル、キム・ドンリュルなど、周りにいるミュージシャンたちが、この曲が一番良いとコメントしてくれた。

―音楽的にどんな部分を盛り込みたかったのか?

Lucid Fall:昔のフォークソングやイギリスのニック・ドレイク(Nick Drake)の曲を聞いていると、ギターの音は粗いが、そのような粗い音の中から感じられるおぼろげなものがある。そのような不鮮明さを盛り込みたかった。ギターの録音を何度も繰り返した。色んなギターで演奏してみた。何も考えずに聞くと、ギターの音に聞えるが、注意深く聞くと、ギターでも古いギターの音ではない特別な感じがする。

―童話の本も一緒に入っている。

Lucid Fall:原稿用紙150枚程度の中篇童話「青い蓮の花」と、その童話のために作られたサウンドトラックがある。文字というものは昔からある媒体だと思う。そのような童話のためにタイトル曲を作り、一緒にアルバムに収録すると、アニメーションを見る感じはしないけど、音楽を聞きながら本を読むとどうだろうと思い、5曲を収録した。計15曲あるが、5曲のサウンドトラックと10曲がすべて繋がっている。主人公たちが本の中から出てきて歌ったり、童話の背景になるシーンでこの歌を歌っているようで、1曲も捨てることができないアルバムだ。初めてこれを企画した時、これを本として見ているのかアルバムとして見ているのか、たくさん質問された。本でもなく、音楽でもない、Lucid Fallが作り上げた記録と成長の証として見てほしい。

―サウンド的にたくさん悩んだようだ。

Lucid Fall:前回のアルバム以降、音楽的にクオリティがさらに高くなった。音楽的な内容も重要だが、それを囲んでいる音質、編曲の部分もできる限り自分でやってみたかった。アルバムを企画する時から、テクニカルに表現できる最高の音質でやってみたかった。普段、歌謡が24bit/48kHzだが、24bit/96kHzや32bit/96kHzにした。電子楽器は演奏できないし、僕の音楽と合わないので、アコースティックな楽器を主に使った。マスタリングもDSD(ダイレクト・ストリーム・デジタル:音声をデジタル化する方式の1つ)作業をしたけど、機会があったらDSD作業物も公開したい。弦楽器と管楽器の編曲も自分でやった。アレンジ費用もかからないし(笑) 自分でやってみたかった。ブラスとフルート、そしてストリング編曲とギター演奏もできる限り自分の力でやった。バンドCommon Groundのジェインは、ファンキーなギター演奏で、韓国最高のギタリストの一人なので2曲ほどお願いした。

―今回のアルバムへの満足度は?

Lucid Fall:最高に満足している。僕はインディーズから始めた。最近、オーディション番組に出る出演者を見ると、才能が溢れている。僕はそんなに才能がある人ではない。地道にアンダーグラウンドから音楽活動をやってきた人なので、未熟な部分が多い。なのでアルバムを出すたびに、経験を積み重ねる楽しさがある。6thアルバムは僕一人でやりたいと思った初めてのアルバムだった。7thアルバムではプロデューサーとして、6thアルバムの時よりも成長した。サウンド的な面と編曲の面でも、そしてアルバムの構成や企画、そのような面で6thアルバムの時よりも確実に成長したと思っている。ミュージシャンとして、そしてプロデューサーとしても成長した。

―今回はTVショッピングでみかんと一緒にアルバム販売し、所蔵価値が高いアルバムになったようだ。デジタルシングルや音源でリリースすることよりも、アルバムを出すことにより神経を使ったようだ。

Lucid Fall:音源で公開する歌手には、それなりの理由がある。僕はまだシングルを出そうと思ったことがない。実は怖い。自分の時間をディスコグラフィーで分けていると思っているので、アルバムを続けて出す計画だ。僕はYouTubeで聞いた音楽もAmazon(オンライン通販)で購入する。それが音楽をやっている人への礼儀だと思う。CDを作ってファンに渡すために、もっと準備をしなければならないと思った。ストリーミングだけでは満足できないので、何かをしなければならないと思った。それで、童話を書いて、葉書も作り、育てたみかんも渡したかった。気持ちを全てあげたかった。本当にみかんジャムも作ろうと思った。そのような理由から、アルバムの構想を立てた。映画を家で見ることと映画館に行って見た時の気分の違い、その雰囲気の違いがある。手に持って読むことや触ることができる。音楽では、例えばストリーミングで聞いたとしても、手に何かを持っていることを感じさせるアルバムを渡したかった。

―音楽的に一番意欲を出した部分があるとしたら?

Lucid Fall:音楽的なバランスだ。誰かと会話した時、その人との会話が楽しくなければならない。ある人と会話した後、帰る時は虚しさが残る時もあり、ある人と真剣に会話をしたが、二度と会いたくない人もいる。アルバムもそうだと思う。真正性を詰め込んでも、それが重くも軽くもない中間的な位置にあり、気軽に聞くことができ、耳を傾けて歌詞を聞くこともでき、そのようなことに偏らない音楽を詰め込みたかった。欲張ったアルバムだった。結果は聞く方々が知っているだろう。

記者 : パク・スジョン、写真 : アンテナミュージック、翻訳 : チェ・ユンジョン