「怒った画家」ユ・ジュンサン“ノーギャラでの出演、会社からもうやめてと言われる(笑)”

TVREPORT |

俳優ユ・ジュンサンの歩みはいつも予測不可能だ。週末ドラマで国民の婿として愛されるも、いつそんなことがあったかのように汗にびっしょりぬれた顔でカーテンコールに立ったり、「カンヌ国際映画祭」のレッドカーペットを歩いたり、突然歌手として熱唱を披露したりする。

同年代の俳優の中でもっとも多彩なフィルモグラフィーを積み重ねたユ・ジュンサンが再び大胆な変身に挑戦した。韓国で今月18日に公開された映画「怒った画家」(監督:チョン・ギュファン、制作:トリフィルム)で冷たい世界を描く画家であり、犯罪者を審判する天使を演じたユ・ジュンサンは前作のSBS「風の便りに聞きましたけど!?」のハン・ジョンホを完璧に消す熱演でスクリーンを埋め尽くす。

「怒った画家」は悪魔のような殺人犯を追う画家とドライバーの追って追われるアクションを描いた映画だ。「タウン」3部作(「アニマルタウン」「ダンスタウン」「モーツァルトタウン」)、「不倫の時代」「重さ」「ママボーイ」などで海外から演出力が認められたチョン・ギュファン監督がメガホンを取った。

映画は1度、制限上映可判定を受けたほど、臓器摘出シーン、強度の高いベッドシーンなど、大胆な内容で観客を衝撃に陥れる。ユ・ジュンサンは熱い暴力のエネルギーに満ちたこの映画で、静的な内面演技とアドレナリン湧き出る爆発的なアクション演技で記憶に残る名場面を作り出した。

ホン・サンス監督の作品ならびに、昨年イ・グァングク監督の「夢より夢占い」にノーギャランティーで出演するなど、低予算独立映画(配給会社を通さず、制作者が直接映画館に売り込む映画)に立て続けに出演した彼は「怒った画家」では制作費の支援も惜しまなかった。エストニアロケーション撮影費を支援した彼は「会社からもう芸術映画はやめてほしいと言われた」と冗談っぽく話しながらも、「商業映画では決して出来ない物語を見せてくれる独立映画が僕によってよりたくさんの観客に届けばと思う」と俳優としての所信を伝えた。

「ある瞬間から商業映画では監督が本当に話したいことを話せなくなりました。チョン・ギュファン監督ですか?商業映画では絶対こんな映画は作れません。誰が投資しますか。僕を通して少しでも多くの観客が僕たちの映画を見てくれればという気持ちが大きいです。もちろん『怒った画家』は好き嫌いが分かれる映画であるのは確かですが、こんな映画が好きな方がきっといると思います」

以下はユ・ジュンサンとの一問一答である。

―映画を見た感想は。

ユ・ジュンサン:まだ見ていない。元々僕の映画をマスコミ向け試写会のときは見ない。一人で映画館に行って、観客と一緒に見る方だ。

―1回、制限上映可判定を受けた。

ユ・ジュンサン:情事シーンも激しく、腹をかききったり、強烈な場面が多いじゃないか。

―撮影も大変だったと思うが。

ユ・ジュンサン:本当に驚いた。どれだけ驚いたことか。美術チームであまりにもリアルに準備してすごく怖かった。もう、その内臓…。

―シナリオで描かれた内容より実際の撮影がハードだったのか?

ユ・ジュンサン:それは違う。すべて把握してから演技をしたが、実際目の前にして驚いた。監督の前作を見て“わ、そこまでやるべきなのか。俳優たちはどうやって演じたのか”と思ったが、いざやってみて驚いた。

―怖いものをあまり見られないのか。

ユ・ジュンサン:ホラー映画、いきなり何かが飛び出てくるやつは絶対見られない。魂が飛んでいきそうで、見て倒れそうだ。

―そんなに怖がりで撮影はどうやったのか。もちろんホラー映画ではないが。

ユ・ジュンサン:ハ・ジウォンさんと撮った「友引忌」(監督:アン・ビョンギ、2000)の時の話だが、僕はホラー映画であることを知らずに撮影した。撮影現場が本当に楽しかったから。試写会のとき映画を見て、本当に死ぬかと思った。

写真=映画「怒った画家」スチール
―ホラー映画の出演オファーが来たら、絶対しないのでは?

ユ・ジュンサン:あ、しないしない。

―「怒った画家」は制作費や規模の面で現場に余裕はあまりなかったと思うが。

ユ・ジュンサン:合計26回ぐらい撮影したと思う。とても少ない回数であるが、余裕のある雰囲気で撮影した。スタッフが監督と長く働いてきた方たちだったので、ちゃくちゃくと動いた。シーンごとに監督が求める完成度が出てくるまで、いつまでも待って撮った。正直不安ではあった。でもどうにか撮影は出来た。不思議だった。

―制作費を支援したそうだが。

ユ・ジュンサン:映画の内容のため、エストニアでの撮影が必要だったが、行く費用がないのだ。監督、僕、マネージャーなど5人だけ行って撮ってきた。監督がカメラを持って撮影しながら「レディー、アクション」と叫んで。

―ほとんどノーギャランティーでの出演ではないか。会社(NAMOO ACTORS)と妻(ホン・ウニ)が良く思わなさそうだ。

ユ・ジュンサン:会社でもうやめて欲しいと(笑) 妻はほぼ諦めた。むしろ賛同してくれている。会社も難しいとは言ってもある程度理解してくれるようだ。

―残忍な方法で犯罪者を殺していく。画家が善人だと思ったのか、悪役だと思ったのか。

ユ・ジュンサン:最初キャラクターについて設定するときから、天使だと思って演じた。もちろん、混乱するところもあったが、監督と最初から確実にキャラクターを決めて撮影に入った。天使が悪を罰する内容であるため、撮影の間ずっと粛然としていた。

―鍛え上げられた筋肉も披露した。

ユ・ジュンサン:監督が筋肉をつけて欲しいと言わない限り、筋肉は絶対作らない。なぜなら、あまりにも大変だから。今回も監督が筋肉をつけようと話し、その身体を維持するために大変な思いをした。晩ご飯は絶えず、鶏の胸肉、野菜だけ食べた。撮影現場も粛然としているのに、修道者のような食事をしていたので、キャラクターの感情を維持しやすいところはあった。

―それなりに(?)後ろ姿の露出もあった。

ユ・ジュンサン:(ムン)ジョンウォンに比べるとまあ。ジョンウォンの露出シーンにもびっくりした。シナリオにはそんなに詳しく書かれていなかった。

―映画「タクシードライバー」(監督:マーティン・スコセッシ、1976)でロバート・デ・ニーロが演じたトラビスを思い出した。

ユ・ジュンサン:「タクシードライバー」を念頭において演じたわけではないが、考えてみると色々と似ているところがある。天使が繰り広げる殺人、しかもその殺人が非情に残忍だし。その点が観客に上手く伝わるか、とても悩んだ。

―リアルなアクションも印象的だった。

ユ・ジュンサン:武術は2ヶ月ほど練習した。お金ももらえないのに、なぜそんなにがんばったのか(一同爆笑) 僕もがんばったが、他の俳優、スタッフもすごかった。人間の限界を見せる感情のシーンを本当に惜しまず演じていた。

―ムン・ジョンウォンとの共演はどうだったのか。所属事務所の後輩でもある。

ユ・ジュンサン:ミュージカルで先に共演した。キャスティング過程で監督がムン・ジョンウォンのことを話したので、本当に驚いた。「どうやってその子を見つけましたか?」と聞き返した。隠れている宝石のような人だ。韓国ではなかなか見られないエキゾチックなルックスを持っている。独歩的な人だ。それで僕がうちの会社(NAMOO ACTORS)に推薦した(笑) キム・ジョンド代表が「ジュンサン、もういい加減にして」というので、「いや、いい俳優の推薦もできませんか?」と話した(一同爆笑) 僕が推薦して逃した俳優が多いから。ハハ。

―「1泊2日」のキム・ジュヒョク、ムン・グニョンだけを見ても会社がとても家族的な雰囲気のようだ。

ユ・ジュンサン:NAMOO ACTORSの代表は僕のロードマネージャーから始めた方たちだ。無名時代、ドラマスケジュールが一つしかないときから一緒だった。(ムン)グニョンもそうだが、僕もNAMOO ACTORSが作られるときから一緒だった俳優だ。他の会社に行こうとしたらKBS 2TV「棚ぼたのあなた」が終わって出なければならなかった。あの時、あちこちで契約金をたくさんあげるから一緒に働こうと話した会社が多かった。プハハ。

―ミュージカルにドラマ、映画まで活動のスペクトルが非常に広い。

ユ・ジュンサン:まずミュージカルは1年前にスケジュールが確定するため、いくら良いドラマ、映画でも公演スケジュールが合わなければできない。おかげで会社では気が気じゃない。SBS「風の便りに聞きましたけど!?」はちょうど休む時期と合ったので出演することになった。幸い、良い作品をぴったりの時期にやってきた。

―特に映画の中でも商業映画から独立映画まで様々なジャンルで活動している。作品を選ぶ基準があるのか。

ユ・ジュンサン:ある瞬間から商業映画で監督たちが話したいことを言えなくなった。チョン・ギュファン監督も商業映画のジャンルの中ではこんな映画は作れない。誰が快く投資をするのか。「夢より夢占い」もそうだし、ホン・サンス監督の映画もそうだ。僕を通してこのような作品が少しでも多くの作品が観客に見てもらえればと思う。

―俳優としてヒット、視聴率を考えずにはいられないと思うが。

ユ・ジュンサン:“ダメなら仕方ない”と思っている。もちろん人間なので、まったくヒットすることについて気を使わないわけには行かないが、そこばかりにのめりこんでいると本当に苦しい。本当に疲れる。ヒットを気にしだした瞬間、作品の元々の意図は損なわれる。その場合、いくら1000万人以上の観客を動員したとしてもあまり良くは見えない。幸い、僕が参加した作品の中にはそんな場合がほとんどない。アン・パンソクプロデューサー、カン・ウソク監督も視聴率や、観客動員数、興行について一言も言ったことがない。

―「怒った画家」はユ・ジュンサンのフィルモグラフィーの中でどんな意味を持つようになるのか。

ユ・ジュンサン:みんなギャランティーをたくさんもらって参加したわけでもないのに、作品のために飛び込む勇気がすごかった。どんなに残忍でも、どんな露出でも、監督が求めるシーンのためにみんな体当たりで臨んだ。それだけ監督の映画だけが持つ魅力があるということだろう。スタッフ、俳優たちを見て申し訳ないながらもがんばろうと思った。「怒った画家」はそんな刺激になった作品だ。

記者 : キム・スジョン、写真 : イ・ソンファ