「王の涙」チョ・ジョンソク“撮影はハードだった…雨に打たれなかったヒョンビンが羨ましい”

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写真=ロッテエンターテインメント
弱い少年がいた。拉致同然で秘密組織に連れてこられ、死の危機に怯えながら一日一日を過ごした。むしろ死んだ方が楽かもしれない状況だった。しかし、少年はそれを乗り越え、硬い鎧を身に着けた。中身は弱いままだが、生き残るためには硬い鎧を着て生きていかなければならなかった。そうして彼は殺し屋として育てられた。これは映画「王の涙-イ・サンの決断-」のウルス(チョ・ジョンソク)の人生だ。

「王の涙-イ・サンの決断-」でウルスは小さい頃からクァンベク(チョ・ジェヒョン)の秘密組織で暗殺のためだけに育てられた。その後、朝鮮最高の殺し屋に成長し、一度受けた依頼は完璧に処理した。クァンベクから離れて新しい人生を生きてみたいと思ったが、彼から離れるためには成功したとしても生きていけない任務を果たさなければならなかった。その任務とは正祖(朝鮮王朝の第22代目の王、ヒョンビン)を暗殺することだった。もしかすると、ウルスがクァンベクから逃げ出せる唯一の方法は死のみだったかもしれない。

小さいウルスが生きてこられた理由はガプス(チョン・ジェヨン)の存在であった。自分に“ウルス”と名前を付けてくれ、自分を助けるために内官となって宮廷に入った。それがウルスを大人になるまで生きてこられるようにした原動力だった。“ガプスの記憶”と“ガプスのもつ強さと精神力”は憧れの対象であり、それらはウルスが死なずに生きてこられた理由だった。

以後、大人になって殺し屋となったウルスは、ウォルへ(チョン・ウンチェ)に出会い、恋に落ちた。ウルスにとってウォルへは希望の光だった。正祖暗殺の命令に逆らえばウォルへまで危機に晒されてしまう、クァンベクから逃げ出したいというのもあったが、ウォルへを守りたいとも思った。

ウルス役を演じたチョ・ジョンソクは「正祖の暗殺はウルスにとって希望のようなものだった。ウルスのように暗い過去を持つ人物ほど希望を強く求める。正祖の暗殺後は死を覚悟したが、それでも一筋の希望の光は諦めなかったと思う」と語った。結局、ウルスにとって正祖の暗殺は、そうすることで状況が変わるかもしれないという最後の希望だったのだ。

今まで真面目で優しいイメージを見せてきたチョ・ジョンソクは、人間味のない殺し屋役を通じて冒険を敢行した。イメージチェンジを意識していたわけではないが、結果的に彼のもう一つのイメージを作り出したことは確かだ。「人間ではないと思った」というチョ・ジョンソクの言葉通り、ウルスは箸で人を殺しても何事もなかったかのようにお酒を飲めるような人物だ。

映画「建築学概論」以降、ずっとチョ・ジョンソクについて回っていた修飾語が“ナプトゥク(映画の役名)”だ。キャラクター自体が強烈だったというのもあるが、ミュージカル俳優として有名だったチョ・ジョンソクという俳優を世間に知らしめたためだ。以後、ドラマとスクリーンを行き来しながら様々な役を演じてきたが、依然として「ナプトゥクという修飾語に負担を感じることはないのか」という質問を受ける。これに対しチョ・ジョンソクはいつも「ナプトゥク役で僕のことを世間に知ってもらえたのだから、負担はないし有り難いと思っている」と一様に答えている。

ナプトゥクというキャラクターは強烈だったが、作品ごとにチョ・ジョンソクは自分の役を完璧に演じきっている。これは彼特有の真面目さゆえかもしれないし、彼の役に対する姿勢によるものかもしれない。彼は「なるべくプレッシャーを感じないようにしている。プレッシャーを感じると、自分の実力以下の力しか出せないと思う。与えられた役を一生懸命に演じ、その役に最善を尽くすだけだ」と語った。

ウルスは悪役のようで悪役でない人物だ。冷酷な殺し屋として育てられただけで、本性が冷たいわけではないという意味である。これまでのイメージとのギャップも大きかった上に、そのギャップによる違和感が生じる恐れもあった。「シミを付けるメイクを施され、初めは本当に戸惑った。でもそれがウルスの生きてきた人生で、ウルスの歴史を見せられると思ったら、戸惑う気持ちなどなくなった」と話した。観客が感じる違和感に対するプレッシャーはなかった。

これと共にチョ・ジョンソクに与えられた課題はウルスの感情だった。ウルスは中々感情を表に出さない人物だが、ウルスの本心をチョ・ジョンソクだけは知っておく必要があった。自分一人だけで解決できる内面の演技が必要で、感情を表に出さなくても観客がそれを感じられるように演じなければならなかった。

チョ・ジョンソクが説明するウルスは「感情表現はあまりしないが、一番弱い部分に触れられると揺れてしまう人物」だ。そのようなギャップを表現するために彼は努力した。普通の日常を送っている人には分からない感情だった。

撮影は本当にハードだった。チョ・ジョンソクは「尊賢閣(ジョンヒョンガク)は何故こんなにも入るのが大変なのか」思うほどであったと言う。これは、尊賢閣に入るまでの撮影の苦痛を端的に表現したものだ。尊賢閣の入口で雨に打たれるシーンだけで1ヶ月かかり、寒さのため体を温めて再度撮影に臨むことの繰り返しだった。「全ての俳優とスタッフたちが寒さと戦った」と言うほどだった。

チョ・ジョンソクは正祖役を務めたヒョンビンが羨ましかった。キャラクターではなく、尊賢閣の中で雨に打たれず、直接対決するシーンを撮影する時さえ雨に打たれなかったヒョンビンが羨ましかったという可愛い文句だった。どのくらい寒かったのかという質問に、彼は何も言わずに表情で全てを語り、「最善を尽くしただけだ」と一言でまとめた。

イ・ジェギュ監督はウルス役にチョ・ジョンソクを抜擢した理由として“少年の感性”を挙げた。ウルスは弱い子供で、生きるために硬い鎧を身に着けた子供だった。その鎧が破壊された時、その弱い部分が表に出なければならなかった。チョ・ジョンソクにはそんな少年のような感性があった。チョ・ジョンソクも「少年の感性は持っていると思う。正確にどういったものを指すのかは分からないけれど、やんちゃな部分も弱い部分も持っているし、心も優しい。その全てを指しているのだと思う」と語った。

最近チョ・ジョンソクは女優シン・ミナと共演した映画「私の愛、私の花嫁」の撮影を終えた。もう休んでもいいだろうが、彼はミュージカル「ブラッド・ブラザーズ」の準備で忙しい日々を送っている。「幸せな毎日だ。実家、故郷に帰ってきた気分だ。本当に楽しみながら準備している。休みたいとは思わない」

チョ・ジョンソクの活躍は当分の間続くだろう。ウルスが去れば「ブラッド・ブラザーズ」が来るし、下半期には映画「私の愛、私の花嫁」が待っているのだから。

記者 : イ・ウンジ