「ローラーコースター」チェ・ギュファン“東京で会ったハ・ジョンウと一杯交わしながらオファーを受けた”

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公開を目前にした映画「ローラーコースター」のPR活動に忙しいチェ・ギュファンと映画の都、釜山(プサン)の海雲台(ヘウンデ)で会った。今回の作品について彼の説明と、演出を担当した監督であり友人でもあるハ・ジョンウとの共同作業、そして俳優チェ・ギュファンの演技論について話を聞いた。

「パパラッチ役のチェ・ギュファン…迷惑な乗客」

―まずは今回の作品「ローラーコースター」での役柄について説明してほしい。

チェ・ギュファン:劇中で韓流スターのマ・ジュンギュ(チョン・ギョンホ)は、日本で映画「悪口マン」がヒットし、日本で悪口を学ぶことが流行するなどして一躍スターとなるが、様々なスキャンダルのために迷走するはめになる。そんな彼が羽田空港から金浦(キムポ)空港まで飛行機に乗って移動する間に起こる一連のドタバタ劇が描かれた映画だが、マ・ジュンギュは機内で様々な乗務員と乗客に出くわす。そして僕はその中の一人、シナリオでは“スーツの男”とされるキム・ヒョンギ記者という役を演じた。

―記者役か?

チェ・ギュファン:そうだ。パパラッチの芸能担当記者で、常にスクープのために芸能人の隙を突いて記事を捏造する。映画の中ではマ・ジュンギュの妊娠説をまき散らす張本人として彼を窮地に追い込む。

―映画ではどんなキャラクターに扮しているのか気になる。

チェ・ギュファン:最初は機内サービスなどで乗務員に迷惑をかけさせる。一般的に“迷惑な客”と呼ばれる客だ。少し前に話題となったラーメン常務事件(大企業役員が機内食のラーメンに難癖をつけ乗務員を暴行した事件)などで、客の立場を利用して無理なサービスを要求する人が非難を受けたことがあったが、実際に国内線で機内食は提供されないのにお腹が空いたと言ってのり巻きを要求した乗客がいたそうだ。

―あらら、それは本当か?

チェ・ギュファン:離陸の前にお腹が空いたと言ってのり巻きを要求したそうだ。そんな実例なども演技の参考にした。

―では、一言で言えば迷惑な客の役なのか?

チェ・ギュファン:そうだ。自分の正体がバレた後、パパラッチ行為に対して言い訳するなど卑屈な態度も見せたりする。乗務員やマ・ジュンギュに迷惑をかける“迷惑な客”だと言って間違いない。あ、実際の僕は絶対にそんな性格ではない(笑)


「友人かつ演技の先生であるハ・ジョンウの提案に…不意打ちを食らった気がした」

―ハ・ジョンウ監督とは大学の同期だと聞いた。その関係がキャスティングに影響を及ぼしたと言えるのか。

チェ・ギュファン:僕たちは中央(チュンアン)大学演劇学科1997年入学の同期生だ。若い頃からお互いに映画について沢山話を交わした。日頃から良い映画があればお互いに勧め合うなど、多くの情報や意見を交わしてきた。入学したその年に、ハ・ジョンウと語学研修でニューヨークへ一緒に行ったことがあるが、その時ニューヨークのリンカーンセンターの前でタバコを吸いながらこんな会話を交わしたことがある。「僕たち、いつか映画でまたこの場所に戻って来よう。僕たちだけの新しい時代を切り開こう」今考えると子供じみた約束だが、今実際にハ・ジョンウがその夢を叶えたことを考えるとすごい人だと思う。

―ハ・ジョンウ監督もチェ・ギュファンも、はじめは二世役者として話題になったと聞いたが。

チェ・ギュファン:そうだ。ハ・ジョンウも僕も、最初は父親のお陰で名前が認知された。そのような共通点もあり大学時代からお互いの境遇に共感し、親交を深めた。大学時代には、「ゴドーを待ちながら」で僕がウラディミール役でハ・ジョンウがポッツォ役を、「オセロ」ではハ・ジョンウがオセロ役で僕がイアーゴー役を演じるなど、演技活動も着実に続けていた。あ、それから僕が演出した演劇「ガラスの動物園」にハ・ジョンウが出演したこともある。

―おお!では当時はチェ・ギュファンが演出を担当し、ハ・ジョンウ監督が演技をしたというわけだ。

チェ・ギュファン:今は当時と役割が逆になり、ハ・ジョンウが監督の映画に僕が出演している。大学卒業後、2002年に「マドレーヌ」という映画で僕たちは最初のデビューを一緒に果たした。ハ・ジョンウはシン・ミナさんの元カレ役、僕はチョ・インソンさんの友人役を演じた。

これまで一貫して演劇や映画などで助け合いながら仕事をして来たが、僕が日本に演技の勉強をしに行っていたことがあり、その時にハ・ジョンウと偶然東京で会って一杯交わしたことがある。そこでハ・ジョンウが初めて映画演出の話を具体的に持ち出した。一緒に飲みながら是非一緒にやろうと約束し、実現した作品が「ローラーコースター」だ。

―それでは、俳優チェ・ギュファンから見た監督ハ・ジョンウはどんな人物なのか?

チェ・ギュファン:ハ・ジョンウは大変な映画マニアで、見ていない映画がほとんど無いと言って良いほど沢山の映画を見ている。そして大学時代から映画の演出を着実に勉強してきた。今回の作品もただ俳優の趣味や関心のみで話題になっているのではなく、作品の完成度から絶賛されていると聞いている。

―俳優としてのハ・ジョンウ、監督としてのハ・ジョンウを語ると?

チェ・ギュファン:そのどちらにしてもハ・ジョンウはあまり変わらない。俳優としてのハ・ジョンウは慎重で細かく、繊細な努力派の俳優だ。自分が演じる役の為に映画の準備を徹底することで有名だが、そのような姿勢が映画の演出にもそのまま現れている。完璧な準備と努力、それがハ・ジョンウだ。

それから、彼は役者出身だから俳優の心理をよく理解でき、色んな演技の方法を提案してくれる。面白いエピソードが一つある。僕の最初のテイクは乗務員と機内食の件で言い争うシーンだったが、演技が自然に出来なかった。実は僕はカメラの前に立つと不安になるなど、他の役者に比べて演技する時に緊張してしまう。

数回にわたるリテイクの後も中々OKサインが出ず、ハ・ジョンウとタバコを吸いながら話をした。その時、ハ・ジョンウからこんな提案をされた「一度、馬鹿になって演じてみては」そして僕はその提案を受け入れ、たどたどしい口調や顔をしかめた表情など色んな馬鹿をバージョン違いで演じた。事前に説明を聞いていなかったスタッフは慌てていたし、相手役のキム・ジェファも驚いていた。

それでもキム・ジェファは僕の大学の後輩で共演したこともあるので、瞬発力を発揮して僕の演技を受け入れてくれた。そして、お互いの感性が通じ合いキム・ジェファは涙まで流した。その後ハ・ジョンウから「それではもう一度また元のバージョンでやってみよう」と言われ、もう一度元のシナリオ通りに演じると、本当に自然な演技が出来た。それは僕にとって本当に特異な経験だったし楽しかった。

正直、最初それを提案された時は不意打ちを食らったような気持ちだった。ハ・ジョンウは俳優でなく監督としても、演技に対し天才的な方法論を駆使して役者たちに提示してくれていると思う。僕たちは練習する期間を他の映画に比べると長く取っていた方だが、実際に練習する際、ハ・ジョンウがジェームズ・ディーンの逸話について話してくれたことがある。ジェームズ・ディーンは撮影時、緊張し過ぎるタイプだったため、自らズボンを下げて撮影現場で放尿したことがあったそうだ。そこで、僕たちもジェームズ・ディーンと同じようなことを試みた。

―ええ?撮影現場で放尿したのか?

チェ・ギュファン:そうだ(笑) 練習の時だけだが俳優同士で練習する時は裸で演技をした。もちろん、女優やスタッフたちには僕たちのそのような姿を見せていない。本当にこういった体験はハ・ジョンウが俳優出身だからこそ実現したのだと思う。これはハ・ジョンウが他の監督と差別化を図れる部分だ。

―友人としてのハ・ジョンウはどうなのか?

チェ・ギュファン:ハ・ジョンウといえば、韓国では現在トップクラスの俳優だ。「スター、ハ・ジョンウ」「大勢(テセ:「ホットな」の意)ハ・ジョンウ」などと呼ばれ、同期としても非常に誇らしいし、そんな彼のことを常に応援している。友人キム・ソンフン(ハ・ジョンウの本名)であり、最高の役者かつ今や監督でもあるハ・ジョンウを見ていると、学生時代に演技をしながら自分で考えた理論や価値観を全て実践しているように見える。「ああ、彼は正しかった。自らそれを証明して見せたな」という気持ちだ。

ハ・ジョンウが人々から好かれていることも感じられる。俳優ハ・ジョンウは僕の鏡だ。演技の先生であり、パートナー、カウンセラーでもある。昨日も一緒に飲みながら色々と助言してくれた。「ギュファン、君の演技が上手いことは知っている。でも映像は君が経験した演劇やドラマとは違う。萎縮するな、トラウマを乗り越えろ」というような話だった。

―ハ・ジョンウ監督の話ばかりになってしまったが、最後に、大学時代の彼はどのような感じだったのか?

チェ・ギュファン:本当にいたずら好きな人だった。友達が髪を洗っていると、そっと近づいてシャンプーをかけ続けた。友達はそれに気付かずに髪をすすぎ続けたんだ(笑) また、友達たちに先生や先輩の番号でメッセージを送るなどのいたずらもよくやったしハ・ジョンウが生徒会長を務めていた頃は、開講総会をナイトクラブのような雰囲気にしてパーティを開いたこともある。その時、僕はDJを担当した。そんな感じでハ・ジョンウは常に面白く、エネルギーに満ちた人だ。

―意外だ。今のハ・ジョンウ監督からは、そんな姿は全く想像できない。

チェ・ギュファン:ハ・ジョンウはいつもお茶目で活発だが怒ると本当に怖い。一度こんなことがあった。「ローラーコースター」の練習の際、俳優たちに「自分が演じる役のセリフを五百回ずつ言え」と指示し、「五百回出来なかった者は練習室から出るな」と言った。しかし、機長役であるハン・ソンチョンが途中でこっそり抜け出してお酒を飲んでいたことがハ・ジョンウにバレた。ハ・ジョンウは食事中にスプーンを投げながらカンカンに怒った。そういう時の彼は本当に怖い。


「深刻な吃音症から対人恐怖症まで…トラウマだった」

―それでは、チェ・ギュファンの役者人生にもう少し焦点を合わせよう。さっきトラウマがあると言ったが、演技の妨げになるほどのトラウマを経験したのか?

チェ・ギュファン:僕は演技に対する情熱から学校の授業の他に、公益勤務中でもスタニスラフスキー演技院に通うなど、いつも熱心に演技の勉強を続けてきた。新しい技術を身につけて自分ならではの演技を探す過程が楽しい。大学卒業後は韓国芸術総合学校の演劇院専門士課程にも入った(終了はしていない)。また、外国語での演技に興味があったので、日本で演技学校の俳優コースに入り演技のレッスンを受けたこともある。

―演技への物凄い情熱が感じられる。自信にも満ちているようだ。

チェ・ギュファン:若い頃はそうでもなかった。大学時代、公演の際はいつも緊張していてトイレを我慢できなかったので、いつも舞台裏にペットボトルを用意して公演中に用を足したりもしていた。そしてこれはあまり知られていないが、僕は子供の頃深刻な吃音症(喋る際に、円滑に言葉を発することが困難な症状)だった。

―それは本当か?

チェ・ギュファン:本当だ。意思疎通ができないほど症状が激しかった。だから対人恐怖症にもなり、他人の前、特に大きなカメラの前で演技をすることに対し恐怖感があった。そして「マドレーヌ」では僕の登場シーンが半分くらい省略されてしまった。それは本当に総編集レベルだった。僕なりに一生懸命頑張ったが監督の目にはぎこちなく見えたのだろう。その時は本当に精神的に傷ついた。カメラの前で演技することへの恐怖心が生まれた。自分自身に満足できなかったし、その時の経験がトラウマとなった。そんな時、ハ・ジョンウが僕にくれたアドバイスは「自分自身を演じろ」だった。

ドラマのデビュー作は2004年のSBS「名家の娘ソヒ」だったが、初めてブラウン管を通して皆さんに会うことを考えると非常に緊張した。ミスが続くと、副調整室から監督がマイクにエコーエフェクトをかけ、スタッフと共演者たちがいる中でこう言った「おい、このアホ野郎があああああ。お前そんな風だとアホだぞおおおおお。しっかりしろおおおおお!」それはまるで「オズの魔法使い」のオズのように。

―それは本当に妙な感じだっただろうが、刺激にもなったと思う。ところで日本にはどういう経緯で行ったのか?

チェ・ギュファン:数年間、オファーもあまりなく何事も上手くいかなかった。だから2010年1月1日、韓国を離れた。普段から在日の朝鮮学校や、在日韓国人に興味があった。僕と親しい在日の方がいて彼が宿泊について解決してやると言ってくれたので日本行きを決意した。日本の文化と在日韓国人の世界を経験してみようと思った。それから日本語も勉強し、新たな演技の勉強も兼ねて日本行きの飛行機に乗った。

それに、韓国で上手くいかない自分に対する不満と、他人に対する敵意が芽生えていたので、「日本のアカデミー賞を受賞しよう。外国人俳優として成功しよう」と思った。日本語での演技を学ぶため、演技学校の俳優コースに入り、そこで唯一の外国人生徒になって演技のレッスンを受けた。そこで、映画「パッチギ!」でも有名な井筒和幸監督に出会い、その縁で今回韓国で公開された映画「黄金を抱いて翔べ」にも出演出来た。

日本でも韓国映画をよく見たが、ある日「悪魔を見た」を見ている時、“僕も韓国映画に出演したい”という気持ちが芽生えた。長い留学生活で両親も心配していた頃、2011年3月11日に東日本大震災が起きて、帰国した。だが状況は変わらなかった。誰も呼んではくれない。だからSBSの演技者サバイバル番組「奇跡のオーディション」に出た。惜しくも脱落したが、個人的には合宿しながら他の人達と演技に対する悩みを色々と共有し、多くの指導者に出会ってアドバイスを受けたことは僕の演技に大いに役立ったと思う。


「頂点で思いが駆け巡り、また日常に戻る…ローラーコースターのような物語」

―プライベートのチェ・ギュファンはどんな感じなのか?何か趣味はあるのか?

チェ・ギュファン:水泳、乗馬、ゴルフ、ジョギングが趣味だ。自分と向き合うスポーツが好きで、バスケやサッカーなどのチームスポーツは苦手である。一人で自分との戦いを楽しむスタイルといった感じだ。

―恋人はいるのか?

チェ・ギュファン:恋人はいるが、結婚よりもやりたいことを優先したい。とりあえず今は一人の男としてではなく、俳優として認められたい。

―今後の予定は?

チェ・ギュファン:世間が思う僕のイメージは、真剣、鋭いなどだが、実際の僕は、非常に突拍子のない面白い人間だ。これからは僕の意外な一面を沢山見せていきたい。今回の「ローラーコースター」では僕のそのような姿を見ることが出来ると思う。そして何より“皆さんにお会いしたい”ということが今の僕の最大の願いだ。それから、映画やドラマ、舞台などで色んなキャラクターを演じてみたい。それに、もうすぐ他の映画「使徒」も公開を控えている。キム・イングォンさんが主演を演じた作品で北朝鮮の地下教会を題材にしており、僕は脱北者たちを容赦なく処罰する冷徹な役を演じている。

―最後に、今回の映画「ローラーコースター」について一言。

チェ・ギュファン:この映画のタイトルは当初、「人間と台風」という少し無茶のあるタイトルだった。ところで、ローラーコースターといえば何を思い浮かべる?乗る前は期待を膨らませ、乗ってからは後悔と緊張で恐怖に震えるような状況を感じると思う。そしてローラーコースターが次第に上がっていき、頂点で止まった瞬間、あらゆる雑念が走馬灯のように頭を駆け巡る。「降りたら頑張って生きよう」「親孝行しよう」などだ。

その後、降下する時は何にも考えることができずに気が抜けて、ローラーコースターが停止後、席から降りながら、自分に何が起こったかも忘れたかのように日常に戻り、「何食べる?どこに行こうか?」と言うではないか。今回の映画「ローラーコースター」も、皆さんが遊園地でローラーコースターに乗る心境と似ていると思う。飛行機に乗っている時、台風に逢い、自分自身を振り返って反省をし、また本来の自分に戻るという点。それがハ・ジョンウ監督からのメッセージだ。

これは僕だけでなく、皆さんにも共感してもらえたらと思う。監督と俳優だけの映画ではなく、皆さんと僕達の映画だ。だから見たければ見て、見たくなかったら見なくてもいい。しかし、見なければ後悔するだろう!

記者 : パク・ホンジュン、写真 : イ・ハンホン、イ・ジョンミン、(株)DOKIエンターテインメント