【コラム】「黄金の帝国」怪物の時代に ― カン・ミョンソク

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SBS「黄金の帝国」は二つの軸を中心に動く。縦軸には身分の上昇を夢見るチャン・テジュ(コ・ス)がいて、横軸にはソンジングループの後継者を巡って対立する会長の家族たちがある。2つの軸はチャン・テジュがソンジングループの副会長であるチェ・ソユン(イ・ヨウォン)と政略結婚を選択することで一つになる。チャン・テジュはソンジングループを支配する機会を得て、チェ・ソユンは経営権を防御する。そして新しい家族が誕生する。

チャン・テジュは家族と一緒にミルミョン(小麦粉の麺を使った冷麺)屋でもしようと不動産投機に手を出す。チェ・ソユンは父親でありソンジングループ会長のチェ・ドンソン(パク・グンヒョン)から会社と家族を上手く導いてほしいと頼まれ、経営に参加した。だが、皮肉にも彼らが至ったところは、家族の崩壊だった。チャン・テジュは自身の罪によって家族と別れることになり、チェ・ソユンの家族も後継者を巡って分裂する。その代わりに欲望だけの新しい家族が誕生する。チャン・テジュとチェ・ソユンが結婚し、チェ・ドンソンの甥チェ・ミンジェ(ソン・ヒョンジュ)は心から愛する妻を捨て、銀行の頭取の娘と政略結婚をする。

家族を守ろうとした彼らが家族を捨てた

チェ・ミンジェは父親のチェ・ドンジン(チョン・ハンニョン)に、「好きだし理解はするが、父さんのように生きたくない」と話す。彼は父親の言葉に逆らい、ソンジングループの経営権争いに加わる。同じ言葉を言ったチャン・テジュも正直に生きてきた父親とは正反対の道を歩む。父親の意を受け継ぐのはチェ・ソユンだけだ。しかし、その父親の意とはグループのためなら家族を捨てることだった。彼は弟を追い出し、末っ子の甥を死に至らせた。「黄金の帝国」は、3人の父親のうち一番非情で罪の多い父親の遺訓が、最終的に全員の生き方となる時代を見せてくれる。


3人の父親と3人の子。だが、欲望は一つ

「素手だからほこりも土も血もついた」チェ・ソユンの参謀パク・ジンテ(チェ・ヨンミン)がチェ・ドンソンの行動の言い訳として言った言葉である。また、チャン・テジュは二人の元大統領に関する記事を見て「成功したクーデターは罰せられない」という言葉で自身の罪を正当化する。貧乏だった時代、成功のために仕方なく罪を犯したと言った。社会は成功した者に責任を問わなかった。チェ・ドンソンの時代にはチェ・ドンソンだけが家族を、周りの人を追い出した。しかし、チェ・ドンソンの子供世代は、皆がチェ・ドンソンのように生きる。チェ・ソユンの兄嫁のチョン・ウンジョン(コ・ウンミ)は、夫チェ・ウォンジェ(オム・ヒョソプ)の数多くの不倫関係で離婚を決心した。しかし、ソンジングループの百貨店を手に入れる機会が訪れると夫にチェ・ソユンを裏切ることを要求し、結婚生活を維持する。「黄金の帝国」は、これがIMF(1997年に起こった韓国の経済危機)の時代だったという。家族が家族を裏切り、一般人の息子チャン・テジュは財閥の娘チェ・ソユンと欲望だけで結ばれた。

チャン・テジュは頻繁に“ミサイルボタン・シンドローム”について話す。ただ座ってミサイルのボタンを押す人は犠牲者を直接見ることがないため、罪悪感を感じることもできないということだ。彼はチェ・ソユンとチェ・ミンジェのような人を非難するためにこの話をしたが、自身もいつの間にか同じような人間になっていた。それでも土とほこりを被った親の世代は、家族間の情を守ろうとした。しかし、チャン・テジュとチェ・ソユンはチェ・ドンソンの生き方が完全に内面化され、怪物が誕生した。欲望のためなら血も涙もない怪物。

ドラマにできることは何か

家族を養うため仕事を始めた。しかし、欲望は果てしなく大きくなり、時代はチャン・テジュの言葉通り「勝者が全てを奪う(The winner takes it all)」となる。その過程で家族と一緒にご飯を食べる些細な日常を失ってしまい、家族と喧嘩し、愛する恋人と妻まで捨てた。いくら上がっても欲望は満たされず、頂点に立った人間は誰とも心を分かち合えない。主要キャラクターの中で罪を犯していない人はおらず、彼らは誰も信じない。主人公がいくら成功しても幸せにはなれずに、成功は逆に主人公の首を絞めていく。そこから逃れようとして全てが終わったと思った瞬間、身悶えしながらまた次のステップへと移っていく。「黄金の帝国」は成功神話を扱った従来のドラマを覆し、富を得る代わりに人間性を失っていく話で対立とサスペンスを作っていく。「黄金の帝国」で引用したロシアの文豪ドストエフスキーの作品のように、時代と人間の本質に近づこうとする試み、あるいは具体的なレポートを通じて描き出した人間に対する寓話。難しくて複雑だ。しかし、キャラクターの限りない欲望が引っ張っていくドラマは強烈で、一話が終わる度に人間の本質を考えさせる。このドラマは過去の文学が示したことを代わりに見せてくれている。

文:カン・ミョンソク(ウェブマガジン「ize」編集長)

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記者 : カン・ミョンソク