【ドラマレビュー】「オフィスの女王」ミス・キムの焼酎1杯、この冷酷な社会を変えられるだろうか

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食べて生きていくには、最低どれくらいのお金が必要なのだろうか。1ヶ月の給料が88万ウォン(約7万8千4百円)なら、果たしてどの程度の生活ができるのだろうか。非正規社員が増え続けるこの時代だからこそ、抱かずにはいられない疑問である。

このような不安定な未来に不安を抱く人々が増えている中で、KBS 2TV月火ドラマ「オフィスの女王」は、派遣社員と正社員の葛藤と和解をうまく描いて好評を得ている。だが、ドラマの中の感動が果たして現実のものになることができるのだろうか。

写真=KBS

“システム”に振り回される私たちの悲しい自画像

「オフィスの女王」の派遣社員と正社員の姿は、様々な面から比較してもさほど大差ないようだ。もちろんチャン・ギュジク(オ・ジホ)のような“厳しい”正社員のせいで悲しい思いをするシーンは引き続き表現されているが、お互いに悲しみや喜びを共有する姿は、それなりに“耐えることができる”ことを示している。

派遣社員を強く代弁するミス・キム(キム・ヘス)のチャン・ギュジクに対する仕返しは、日増しに爽快感を増し、気さくな性格の正社員ム・ジョンハン(イ・ヒジュン)は、派遣社員チョン・ジュリ(チョン・ユミ)のミスをいつもかばってくれる。

もし、このストーリーが現実世界のことならどうだろうか? 正社員と派遣社員を切り分ける非情なシステムは、ただのシステムで終わることができるのだろうか? みんなが同じ組織のメンバーだと認識することさえできれば、そう難しいことではないだろう。

しかし、悲しいことに私たちの日常は、常にその“システム”に振り回されている。私たちを支配するのが我々自身の“意志”ではなく、別のものである可能性があるということは衝撃的なことだが、それに、すでに順応している限り、どちらにしろ受け止めるのはそれほど難しいことではない。


ミス・キムの“焼酎1杯”、システムへの亀裂の始まりになるのか?

パク・ボンヒ(イ・ミド)とク・ヨンシク(イ・ジフン)は密かに社内恋愛をしていたが、バレてしまう。派遣社員のパク・ボンヒは契約更新を控えているが、妊娠をしていて将来が不透明な状況である。チャン・ギュジクは、それを上長に報告しようとし、ミス・キムは彼らを助けようとする。二人は社内運動会で相撲大会を開いたが、チャン・ギュジクがわざと負けたため、結局、事件はなかったことになる。

二人の暗黙の合意が一組のカップルを失意の底から救ったが、実は、ミス・キムとチャン・ギュジクの二人のやったことは、最初から誰が正しい正しくないと言えるものではない。ただ、それぞれの立場でやるべきことをやっただけのことだ。厳密に言うと、会社の社内規定に基づいて行動した人は、チャン・ギュジクである。

ドラマでは、その機械的な態度に一時の“人情”を加えて視聴者に感動を与えたが、現実ではチャン・ギュジクの態度のほうが好まれる可能性が高い。普段は優しい人であっても、いざ自分の領域が派遣社員などの問題で侵害されるとなると誰もが“むっと”するのではないだろうか。たとえ、今は仏様のようなム・ジョンハンであってもだ。

“感情移入”がそのまま“利他主義”(自己の利益よりも、他者の利益を優先する考え方)につながるわけではない。私たちがミス・キムの活躍に泣いたり笑ったりして、チョン・ジュリのつらい立場を同情し、妊娠したパク・ボンヒが絶対クビにならないことを望むのは、ただドラマのストーリーに感情移入しているだけで、現実ではそう簡単に適用させることができないというわけだ。

「オフィスの女王」は、弱肉強食のジャングルのような社会的システムに束縛されて生きている我々の自画像である。意志はどこかに忘れたまま、システムによって作られた差別的な地位を慎ましく適用して暮らしている我々の姿なのだ。

すべては“食べて生きていくため”だけのことなのに、どうしてこうも複雑なのだろうか。ドラマの中での出来事は、ただの他人事であって、感動は見ているその瞬間だけで終わるものだろうか。20代の95%が非正規社員になって、”88万ウォン世代“(韓国で平均給与額が88万ウォンである大卒の非正規労働者を示す)になるかもしれないという誰かの言葉は、それによってより一層悲しく聞こえてくる。

相撲対決でわざと負けた後、屋台で寂しくお酒を飲んでいたチャン・ギュジクにミス・キムが近付いていき、「焼酎もう一本!」と叫ぶ彼に何も言わず自分が飲んでいた焼酎を注いでから立ち去る。チャン・ギュジクは感動するが、すぐにミス・キムが自分の飲み代も支払わずに去って行ったことに気付き、彼女の背中に向かって大声で叫ぶ。

だが、この“焼酎1杯”は大きな流れにつながる象徴的な出来事になった。派遣社員のミス・キムと正社員のチャン・ギュジク、二人の敵対的かつ対照的な関係に小さな“ひび”ができたのである。これからは、それが二人だけのことではなく、この冷酷な社会システムに対し、大きな意味を投げかけることになることを望む。

記者 : ハン・ギョンヒ