【CLOSE UP】ソン・サムドン「僕はソン・サムドンと申します」

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彼との会話は、適度に緩やかな雰囲気があり気楽でさっぱりとしていたため、彼の話にじっと聞き入っていた。彼のとりわけ軽やかな声と言葉遣いのせいだったのだろうか。昨夏、映画「サウスバウンド/南へ走れ」の撮影のため、南にある3つの島を回って撮影した思い出について、「ものすごく暑かった。でも、それは仕方のないことだし、その他には苦労という感じはまったくなかった。本当に楽しかった」と話すソン・サムドンの言葉は、よくある短い感想ではなく、その夏の日々を過ごした島とその時間を、聞き手の目の前にありありと描き出してくれた。自身について話す時も、彼は少しも誇張しなかった。「僕は少し引っ込み思案なほうで、うまいと言ってもらえるとよりうまくできるタイプだ」と紹介し、クィア映画(性的マイノリティを扱った映画)「REC」に出演する前まで「(同性愛に対して)少し嫌悪感のようなものを感じていたけど、映画を撮ってからそういう偏見がなくなった。それがその映画で学んだ最も大きなことだった」と率直に話す彼の姿に、嬉しいとその嬉しさが顔にたっぷりと込められて描かれた素朴なクォン巡査がそのまま重なった。

「実は、僕は“あることだけやろう”主義」

「実は、僕は“あることだけやろう”という主義だ。その役の分だけちょうどよくやった方がいいと思っているから。アドリブもあまりしない」。ドラマティックな要素が重要になる場合もある韓国の映画界で、少し退屈に見えるような演技でも現状のままを優先するという俳優は珍しい。それなのに、それについて淡々と話す彼からは確信が感じられた。「サウスバウンド/南へ走れ」でクォン巡査は、数人の助演たちの中の一人に過ぎないかもしれない。しかし、トゥル島(映画の中に登場する島)に行けば本当にいそうな地味な格好をして、人々に「刺身は食べましたか?」と聞いたり、自分のバイクに人々を乗せて家まで送るなど、島の隅々にまで気を使う彼は、ちょうどそのくらいの存在感で、観客たちの頭の隅っこに残るのだ。温かくて正義ある人だが、それを自慢しようと少しも思わない純粋なクォン巡査が、映画の中のキャラクターというより本当にいそうな人の姿になったのは、実際に島に行って出会った巡査を見て、「これだ。この人のようになろう」という彼の考えがそのまま実現されたということになる。

彼がクォン巡査になった方法は、自分が進んでいける道を察し、その中から自分にできる方法を選び、常に一歩ずつ前進してきたソン・サムドンのこれまで通ってきた時間と無関係ではない。大学で環境工学を勉強していたが、突然演技をしようと決心した彼は、「演技を専攻したわけでもなく、身長や顔で人々の注目を集めるようなタイプでもなかった」。自分にできるたった一つの方法として、経験を積むことに専念した。初心者に対して最も開かれているという理由で児童劇を選択し全国を歩き回りながら、独立映画(配給会社を通さず、制作者が直接映画館に売り込む映画)サイトを毎日のように訪問し「ソン・サムドンと申します」と絶えず自分自身を売り込んだ。そのようにしてきた9年の間でチャンスを手に入れ、演劇3作品と独立映画80作品に出演した。映画「昼間から呑む」のように彼を「あ、『昼間から呑む』のソン・サムドンだ!」と世間の記憶に刻みこませた作品にも出会えたが、これを人生のチャンスだと思って感傷に浸るより、「シナリオが本当に素晴らしかった。だけど、ずっと『昼間から呑む』だけで世間から覚えられていたので、『もっと何か見せなければならない』と思った」と話した。大学を卒業し就職して、結婚し子供を産む、みんなと同じような人生を送ってほしかった親の希望に逆らって、いろんなアルバイトをしながら、ひたすらこの道を歩いてきた明白なひたむきさが輝いた瞬間だった。

ソン・サムドンの“ある瞬間”

常にこの道を夢見てきたソン・サムドンだが、長い間夢中になってきた演技に対する考えは単純である。「演技とは、もともとそのふりをすることで、嘘をつくことだと思う。ただし“嘘を本当のことのようにすること”だ」オーディション運があまりないという最近の悩みに対し「とにかく自分に問題があると思う。頑張らないと。頑張らないと」と繰り返し決意した彼の言葉はまっすぐであり、彼が歩んできた日常の中の一歩である。しかし、自分の力を発揮できるだけ発揮し、再度やり遂げることで自分自身を成長させてきた彼ではないか。長い時間ずっと夢を見ながら固められてきたソン・サムドンの時間は、ちょうどその分だけ純粋で堅固なものであるため、彼の日常が積み重なって“ある日”になる瞬間を共に夢見ながら、期待するのに十分である。

記者 : イ・ギョンジン、写真 : チェ・ギウォン、編集 : イ・ジヘ、翻訳 : ナ・ウンジョン