THE BACK HORN「悲惨な世の中で、音楽は大切なもの」 ― 韓国初ライブ ―

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ドーン。まるで重い鈍器で殴りつけるようだ。ヒュッ。まるで鋭い剣で切り裂くようだ。ロックバンドTHE BACK HORNが聞かせてくれるサウンドは心臓を殴りつけるように重く、歌詞は首を刈り取るかのように鋭い。爆走するサウンドと絶叫する歌声で歌を歌う結成14年目のバンドTHE BACK HORNを最もよく代弁する単語は、“正面突破”だろう。死と孤独に関するストーリーに集中してきた彼らの世界観はもちろん、“live”という単語を全身で表現するように歌って演奏するこの4人の男たちは、自分たちを巡る世界と目の前の観客たちに裸でぶつかって来た。2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響をそのまま刻み込んだ、9thアルバム「リヴスコール」のツアーの一環として、韓国で初めての単独ライブを行うTHE BACK HORN。公演が始まる直前、彼らに会った。インタビューで、初めて出会う観客の前なので「力を入れ過ぎないようにしようと思っている」と話したにも関わらず、公演では観客たちを狂わせるようなライブを披露し、観客たちに深くて鋭い傷跡を残した。そしてそれは、長い間残るだろうと思える気持ちのいい痛みだった。

「『リヴスコール』は生きていくということに対し、焦点が合わせられた曲が多い」

―韓国での初ライブだ。ロックフェスティバルには参加せず、単独公演から行うことになるが、今回のライブを決めたきっかけはあったのか?

松田晋二:以前から韓国でライブをやってみないかという提案を何度か受けていた。そして、6月に発売した9thアルバム「リヴスコール」のツアースケジュールで台湾公演が決まっていた。それなら、韓国も含め、日本以外のアジアの国でライブをやってみようと思い、韓国まで来ることになった。

―THE BACK HORNの一部のアルバムが韓国で発売されているが、ライブはそれとはまた違う経験だと思う。他の言語を使う国でライブを行うのはどんな気持ちなのか?

山田将司:僕の場合は、日本語で歌い続けているので、歌詞がどんな意味なのか分からない観客もいるだろうなと思う。でも、リズムや音、雰囲気のようなものがあるので、言葉は分からなくてもメロディーと僕たちがステージの上で演奏する姿を見て、何かを感じてほしいと思う。

菅波栄純:僕も観客に僕たちのエネルギーを感じてほしい。

―みなさんが韓国で初めて知られたのは、黒沢清監督の映画「アカルイミライ」の主題歌だった「未来」がきっかけだった。それから、約10年ぶりに韓国のファンに会うことになる。

菅波栄純:そんなに前から僕たちを知っていったの?

松田晋二:あ、その曲、ライブでやればよかった。そういう情報がなかったから、セットリストには入れていない。

菅波栄純:残念。知らなかった。(メンバーたちに)やる?

一同:やってもいいんじゃない?

―「未来」はその頃のTHE BACK HORNの音楽とは少し違うカラーの曲だ。

松田晋二:当時、僕たちがあまりやったことのないテーマだった“これから先”ということについて、これからどんなふうに歌っていけばいいのかを考えるきっかけになった。映画のために作った曲だけど、結果的に僕たちにとっても新しい一歩というか、未来を切り開いた曲でもある。

左から岡峰光舟(ベース)、菅波栄純(ギター)、山田将司(ボーカル)、松田晋二(ドラム)
―THE BACK HORNの音楽は、激しく重いサウンド、ドラマチックなメロディー、それに「人は皆 万物の寄生虫」(グレイゾーン)とか「シブヤはまるで肉の海だ」(孤独な戦場)のような独特の歌詞が印象的だ。以前は作詞のほとんどを菅波さんが書いていたと思うが、「リヴスコール」では全員が作詞に積極的に参加した。

岡峰光舟:歌詞を書く方法はみんなそれぞれ違うと思う。松田の場合は、歌詞を先に作ってそれに合わせてみんなが一緒に曲を作ったことがある。でも、僕は曲が先で、その曲から感じる風景の印象を歌詞に書いたり、頭の中で考えていることを盛り込んだりした。山田が書いた「超常現象」は、曲と歌詞が一緒にできた。楽器を演奏しながら同時に歌詞ができた曲だ。

―「リヴスコール」のアルバムのジャケットは、鉄で作られた艦船の写真だ。それはどんな意味を持つのか?

菅波栄純:アルバムを作っている途中で悲しいことがたくさん起こり、これからも色んなことが起こるだろうなと思った。僕たちはそういうことをすべて受け止め、これからもみんなが力を出せるような音楽を作っていくという意志の表明だと言える。このように色んな考えを乗せて、一緒に頑張って前に進もうという意味だ。

―デビュー前から、死や戦争、平和、縁のような、比較的に重くて暗い世界観を主に歌ってきたが。

菅波栄純:僕たち4人で音楽活動をしているうちに、ただ自然にそのようなテーマの曲ができたのだと思う。わざと、こんな曲を作ろうとしたことはないし、演奏をしているうちに、そのような考えと向き合うようになった。でも、僕たちの曲をあえて生と死に分けるとしたら、「リヴスコール」の場合は生の方だと思う。生きていくということに焦点が合わせられた曲が多いから。

―確かに、THE BACK HORNならではの雰囲気ではあるが、以前より多様になったという印象を受けた。それはおそらく2011年3月11日に起きた東日本大震災を経験したためではないか?

菅波栄純:もちろん、震災の影響を受けた。アルバムを作り始めた頃に地震が起きた。それで、僕たちが作った音楽を聞いて人々に元気を与えたいという考えがとても強くなった。だから、そのようなことをたくさん感じられるライブが好きだ。聞いてくれる方々がみんな笑顔で手を上げて歓呼したり楽しんでいる姿を見たら、僕たちも元気をもらえるし、お互いに力を出しているのだろうと感じることができる。

―大きな悲劇を経験し、自分には何ができるのかと考えるようになったと思うが、みなさんにとってはそれが音楽だったと思う。そして、震災の直後、シングルで先に発表した「世界中に花束を」やアルバムの最後のトラックである「ミュージック」が、みなさんが出した結論ではないかと思った。

松田晋二:僕たち自身にとってはもちろん、聞いてくれる方々にとっても音楽はとても大切なものだ。様々なことが起こる世の中。自分にとって大変なことだけではなく、世界中で起きる悲惨なことがある時、それについてみんなはそれぞれ違う立場を持ち、感じる距離感も違うはずだ。そのため、そんな時、色んなことを分かって理解することはかなり難しいと思う。それでも、人はみんな幸せになりたいと思うし、いい方向に進むように望むのではないだろうか。そんな気持ちを心の中に持っているだけでも、また言葉では表現できないとしてもそんな気持ちを胸の中に抱えて生きていくだけでも、前向きな方向に進められるんじゃないかという考えから始まった曲である。そんな音楽がそばにあれば、少しでも良くなるはずだと思っているから。僕自身も音楽が背中を押してくれて前に進むことができた時期があったので、そのような望みを込めて「ミュージック」というタイトルに決めた。

「心配をかけてはいけないが、そんなことまで考えるとライブはできない」

―一方、「星降る夜のビート」は聞く楽しさがある曲だ。“グルーヴ”と“ドライブ”が一緒に存在するサウンドや、曲の中での変奏が多彩だ。

山田将司:THE BACK HORNとしてこれまでやったことのないことをやってみたいと思った。アルバムを作る時、そのような曲があれば、刺激にもなる。色んなモチーフを混ぜて作ったパズルのような曲だ。色んなものをすべて揃え、最終的に楽しかったらそれでいいと思った曲だ。

―新しいチャレンジの結果に満足しているのか?

菅波栄純:僕も好きな曲だ。チャレンジすることができたし、結果的にも前向きな雰囲気を持つ曲になったので、本当に嬉しかった。

―ハードロック系のバンドの中でも、みなさんほど激情的なステージを披露するバンドは珍しいと思う。山田さんが歌う姿を見ていたら、ステージで倒れてしまうのではないかと心配になるぐらいだ。

山田将司:観客に心配をかけてはいけないと思ってはいるけど(笑) そんなことまで考えるとライブはできない。ただ、温かく見守ってほしい。僕は大丈夫だから。

―パワフルに体を動かしている間、頭の中では何を考えているのか?

山田将司:色んなことを考えている。意外に冷静な気分にもなれるし、観客たちの表情を見たり、僕がここでもう少し力を入れないと観客たちが付いて来ないかもしれないと思ってより拍車をかけたりもする。そのうち、気を取り戻したら、本当に変な状態になっていたこともある(笑)

―数枚のアルバムを発売しベテランバンドになったが、山田さんの声は最初とあまり変わっていない。依然として少年のような感じがある(笑)

山田将司:そう?僕ももう34歳だけど(笑) 歌を歌うことに対して近づく方法自体が、最初とあまり変わっていないからだと思う。これについては僕自身も説明が上手くできないが、どうしてこんなに叫ぶようになるんだろうと思ってみても、ただそうしたいと思う自分がいること以外、よく分からない。

―今回のライブでの演奏を通じて表現したいと思うことは?

松田晋二:「リヴスコール」のツアーで来たので、取り敢えずアルバムに収録されている曲に夢中になって僕たちの世界観をよく作って演奏したい。

岡峰光舟:力を入れすぎないようにしようと思っている。

―力を入れるのではなく?

岡峰光舟:力が入ったら気持ちは良くなるかもしれないけど、演奏が硬くなる。初めて来た場所で、初めて会う観客の前なので、油断したら気分があまりにも良くなって肩に力が入ってしまいそうだ。

菅波栄純:うん。それは大事なことだ。僕は本当に伝えたいことがたくさんあるけど、今日はやはり歌詞では伝えることができないと思う。だけど、そういうことを乗り越えて、演奏だけで僕たちが伝えたいと思っているメッセージが伝わったらいいと思う。

「ライブがしたいから曲を作っているんだと思う」

―インディーズ時代から14年間、共にバンド活動をしているが、それぞれにとってTHE BACK HORNの一員として音楽をするということはどの様な意味を持つのか?

松田晋二:これについては菅波がちゃんと話して(笑)

菅波栄純:僕は少し考えるので、先に思いついた人から話して。

松田晋二:僕にとってTHE BACK HORNはやはり音楽をする場所だ。一人では何もできないのに、4人が集まったことで生まれる巨大な力がある。それがバンドの意味だと思う。まあ、当たり前な話だけど(笑)

山田将司:やっぱり。考えていることがまったく一緒。バンドを結成する前はただ音楽を聞くことが好きで、聞いているだけで力をもらっていた。だが、THE BACK HORNを結成してから、僕が演奏する立場にいても力をもらうことができるということに気づいた。ライブで観客たちの笑顔や歓声に励まされることが今まで多かった。観客たちの嬉しそうな顔を見たら僕も嬉しくなって、もっと頑張ろうと思うようになる。

岡峰光舟:僕の場合、THE BACK HORNはライブができて嬉しいバンドだ。僕たちは曲を作ってアルバムを出すことだけでは成立しないバンドなので、ライブがしたいから曲を作っているんだなと思うほど、ライブができること自体が本当に嬉しい。ステージで得たものをその次のアルバムに盛り込んだこともある。やはり、THE BACK HORNはライブが軸になっているバンドだ。

―菅波さんは考えがまとまったのか?(笑)

菅波栄純:やっぱり、青春……かな。

一同:最後に恥ずかしいことを言うつもり?(笑)

菅波栄純:このようにメンバーに出会って冒険をすることが、僕にとっては青春だ。僕は内気な性格なので、もし僕一人だったら、こんなにライブをたくさん開催したり韓国に来ることはできなかったと思う。やっぱり、青春です(笑)

―数年前のあるインタビューで菅波さんが「アーティストという人は、世の中に対して違和感を抱いており、それを表現したがる人だ」と話していたことが頭に残っている。今、最も違和感があることの中から一つだけ変えることができるとしたら、それは何か?

松田晋二:一つだけということはやはり難しい。たくさんあるから。取り敢えず、かなり曖昧な話なのかもしれないけど、僕たちを含め、人々がもう少し楽しくなったらいいなと思う。みんな色んな環境におかれているし、色んな考えを持っているので、ただ単純に楽しいと思うことってかなり難しいと思う。でも、楽しいとか幸せと感じる人が多く増えたら、それが大きな波になり、全体的にそのような雰囲気が広まっていくような気がする。

岡峰光舟:僕も使っているし、とても便利だとは思うけど、パソコンやインターネットがない方が良かったかもしれないと思う。約10年前はそれらがなくてもまったく不便じゃなかった。先週行った台湾や今のように韓国に来た時、言葉は通じないけれど外に出て街の人々の顔を見る方が、インターネットで見るよりさらにリアリティがある。もちろん、仕方ないことだけど、もしそれらがなかったら、もう少し違う方法で面白い世の中になったんじゃないかと思う。

―確かに、違う面白味があったかもしれない。山田さんはどう思うのか?

山田将司:みんなと同じ考えだ。

一同:僕たち1人1人がみんな違うのに、どうして同じ考えになるんだよ!(笑)

山田将司:音楽を聞いてくれる人々に新しい一歩を踏み出せる力を与えたいという気持ちを常に持っている。音楽は1人1人の行動や心を少しでも変えられる力を持っていると信じているので、やはりそれがしたい。

菅波栄純:僕は……変えることができるとしたら、やはり僕自身かな。僕の顔?(一同、笑)

岡峰光舟:未だに違和感があるの?

記者 : キム・ヒジュ、写真 : イ・ジンヒョク