「ゴールデンタイム」イ・ソンミン“チェ・イニョク?かっこよく見せようとは思っていなかった”

10asia |

俳優イ・ソンミンは、MBCドラマ「ゴールデンタイム」のチェ・イニョク医師に似ていた。光もまともに入らない小さな部屋で、いつかまともに用意される重症外傷センターを辛抱しながら待つ「ゴールデンタイム」のチェ・イニョクのように、イ・ソンミンも35歳という若くない歳に、家族に申し訳ないという思いを押し切って大学路(テハンノ)に足を踏み入れ、一段一段着実に役者としての階段を上ってきた。10月8日、SBS「ヒーリングキャンプ~楽しいじゃないか~」に出演したイ・ソンミンはソウルに上京することを決心した理由に対して「俳優として自らを検証してみたくて、大きな舞台で実際にぶつかりながら、自分がどこまで来ているのかチェックしたかった。3年だけ、ふんばろうと思った」と語った。チェ・イニョクがどれだけ凄絶に重症外傷センターの設立を望んでいたのか、誰もが知っていたのは、切迫というものが何なのか分かっている俳優が演じたおかげだった。そんな悪条件の中でも良き先輩であり、心温かい医者であることを諦めなかったチェ・イニョクはセジュン病院の中で唯一大人であった。大人の演技がしたいと思っていた時、MBC「キング~Two Hearts」と「ゴールデンタイム」に出会ったというイ・ソンミンはどんな気持ちでイ・ジェガンとチェ・イニョクを演じたのだろう。「キング~Two Hearts」からより渋くなった容姿と温かな容貌と和やかな微笑みでイケメン中年の仲間入りをしたイ・ソンミンに会った。

「『ゴールデンタイム』の撮影現場はうんざりするほど怖かった」

―「ゴールデンタイム」の制作発表会で「初めての主演なので、もしドラマがうまくいかなかったら、申し訳ないと思うかもしれない」と言ったが、同じ時間帯のドラマの中で、1位という高視聴率を記録してドラマが終了した。感想はどうなのか。

イ・ソンミン:本当に良かった。1~2話の時は思ったより視聴率が出なくて大変だった。私のせいなのかもしれないと思うくらいだった。助演として出演した時は、軽い気持ちで自分の役だけに献身的だった。「ゴールデンタイム」でも主役ではなかったけど、とにかく主演は誰もができることではない。責任も取らなければならないし、もし私がミスをすると、皆に迷惑をかけるかもしれないので、常に緊張感を緩めずに、私の出演分もそうだが、医療ドラマの後半には手術のシーン、処置するシーンがとても多かった。中年の体力に限界がきた。ドラマの中盤ぐらいになった時は、体力的に限界がきた。路上で患者のパク・ウォングクを発見するシーンでは、クラクラしてめまいがした。

―「パスタ~恋が出来るまで~」のクォン・ソクチャン監督との2度目の作品だ。「パスタ~恋が出来るまで~」のソル・ジュンソク社長と正反対のキャラクターだったが、どのようにしてキャスティングされたのか。

イ・ソンミン:最初は少し当惑した。メインキャラクターがいるのに私を選んだこともそうだし、自分のドラマでソル・ジュンソク社長を演じた人にチェ・イニョク役をやらせたことも凄い選択だった。明らかに無難な切り札ではなかった。でも、うまくやれると励ましてくれた。それに、常にかっこよくなければならないと思い、かっこよく演じられるか確認した。それが一番心配になったようだ。チェ・イニョクという人物が主流の人間ではないことが演出の意図だったので、常に主役を演じてきた俳優がその役を演じるより、主流ではない俳優がその役をやった方がチェ・イニョクというキャラクターとも似合うと思っていたようだ。いわゆるスターと呼ばれるイケメンでカッコいい俳優がチェ・イニョクを演じたならば、そうでない俳優を使う時より切迫感が足りないかもしれないと事前に計算していたようだ。新鮮な演出意図であって、だから私が選ばれたようだ。監督にとっても、私にとっても冒険であり挑戦だった。今まではこのような役が回ってこなかったのでできなかった(笑)

―すでに一度一緒に作品を撮ったことのある監督なのでコミュニケーションにおいては特に問題はなかったと思う。

イ・ソンミン:クォン・ソクチャン監督の最大の美徳は、現場でのディスカッションを通じてシーンを作りあげるという点だ。それが上手にできる俳優がイ・ソンギュンで、私は少々のことは監督の意見に従う方だ。でも「ゴールデンタイム」の撮影現場はうんざりするほど怖かった。

―どうして?(笑)

イ・ソンミン:クォン・ソクチャン監督は俳優の台詞が上手く言えたかどうかは関係なく、すべてマスターショットで撮影する。27時間も手術シーンを撮影すると目から狂気が感じられる。赤い血を見ると、私たち俳優も狂い、監督も狂う。おそらく他のドラマでは「ゴールデンタイム」以上の手術シーンは出ないだろう。手術シーンの新たな基準を設けた。まさにクォン・ソクチャン監督がチェ・イニョクなのだ。監督にMBC放送局のチェ・イニョクと言った。最終回でイ・ミヌ(イ・ソンギュン)、カン・ジェイン(ファン・ジョンウム)を見送るチェ・イニョクの後ろ姿は、一見クォン・ソクチャン監督のようだ。それとなく自分を投影して撮影したのではないのかな(笑) そして、クォン・ソクチャン監督は私の運命、私の人生を変えた人でもある。ドラマのクランクアップの時、監督と抱擁した時は、感動で胸がいっぱいになった。

―チェ・イニョクは飾らない、非主流の医者であるが、一目見た時、とても渋い雰囲気が漂っていた。特に気を遣った部分があったのか。

イ・ソンミン:かっこよく見せようとしたわけではない。重症外傷センターのイ・ジョングク教授のドキュメンタリーを見たけど、凄く痩せていた。そうだ、あのようにストレスが溜まる医者は太りたくても太れないと思った。私にできる最低限のことは減量だった。もともと好きだった肉も何ヶ月前からか一切食べず、野菜だけを食べた。食事の時、食べれる料理があまりなかった。朝は禅食(穀物など20種類をパウダーにしたもの)を食べて、お昼にはいつもムルフェ(水刺身:たっぷりのコチュジャン汁に刺身を浸したもの)を食べた。手術シーンを撮影する前には炭水化物を補充するために麺を食べた。実際にボサボサの髪型で、ヒゲも剃らずに、いつも疲れ果てて、足も真っ赤だった。外見の姿よりキャラクターが持つ魅力があったから、皆にそのように見えたようだ。それをかっこいいとは言えない(笑) おそらく他の誰かがチェ・イニョクの役をしてもかっこよかったと思う。

―シン・ウナ(ソン・ソンミ)に時々恋心を表現する姿も一役買ったようだ。男女の同僚の間をぎりぎりに行き来するシン・ウナとチェ・イニョクの関係を表現するのは簡単ではなかったと思う。

イ・ソンミン:シン・ウナとラブストーリーを繰り広げるつもりはなかったけど、役を演じていたら、視聴者たちがそのように扇ぎ立てた。チェ・イニョクとシン・ウナの関係は仕事で結ばれた関係で、最も重要なことは、二人は奥まった日陰で気の毒にもあくせくと生きる虫のような存在だということだ。どうにかそんな現実に立ち向かおうとするその空間で、シン・ウナはチェ・イニョクに対し一番長い間我慢してきた人であり、唯一チェ・イニョクをコントロールし、大声で怒鳴れる人だ。同じ信念を持っており、誰よりもチェ・イニョクのことを知っている女性だからチェ・イニョクが手術室から追い出された時、涙を流したことは十分に理解できる。

―しかし、シン・ウナの婚約者の前でワインを2杯も一気飲みしたのは、同僚以上の感情のように見えた。

イ・ソンミン:突然シン・ウナがカナダに行くと言うからチェ・イニョクの気持ちが素直に反映されたのだと思った。頭では彼女を行かせるしかないと思っているが、本当はそれが嫌なのだ。だからワインを飲んで、お酒も飲んで声を張りあげて怒鳴った。その時点で脚本家が二人の関係を恋愛模様が展開されるように描いていたなら、二人は確実に結ばれたと思う。私たちも想像してみた。コーヒーショップでただ簡単に一度手を握れば、それで結ばれると(笑) ところが、脚本家の方が、そんなふうには意図していなかったので、私たちも恋愛物語ではないように演技をした。それに撮影を始めた時、ソン・ソンミさんと話し合ったけど、シン・ウナはチェ・イニョクだけのことを考えて病院に残る女性ではない。

「一番愛情を感じるキャラクターは『大王世宗』のチェ・マルリ」

―前作のMBC「キング~Two Hearts」のイ・ジェガンに引き続き、チェ・イニョクも良い大人としての手本をみせてくれた。二つのキャラクターを演じながら、良い大人とは一体何なのかを考えさせられた役だったと思う。

イ・ソンミン:もう45歳だから、大人っぽい演技をする時が来たと思った。それが具体的に演技に適用されたわけではないが、「キング~Two Hearts」の時は、王というキャラクターが優先でなく、優しい兄が優先になるキャラクターを演じ、「ゴールデンタイム」の時は、私が病院に行った時、こんな医者がいたらな良いなと思った部分を反映した。患者といる時は彼らの目線で会話する医者、イ・ミヌやカン・ジェインといる時は、孔子が弟子たちと会話する時の姿を見せたいと思った。弟子の質問にいつも満足して、どんな質問でも親切に答えてくれる師匠と弟子の関係を考えていた時「ゴールデンタイム」に出会った。イ・ミヌとカン・ジェインがチェ・イニョクに意地を張って質問しても、チェ・イニョクはそれを叱らずに優しく聞いてくれる。漠然と考えていたことを今回の作品で表現することができた。

―皆が現実に存在してほしいと思っているリーダー像がドラマで具現化されたわけだ。

イ・ソンミン:演技をする時は「こんなことは現実にはない」ではなく、「どこかにこんな素晴らしい医者がいるかもしれない」と思いながら演技をした。役作りの相談にのってくださるお医者様からもそのように言われた。

―チェ・イニョクと正反対のキャラクター、KBS「ブレイン 愛と野望」のコ・ジェハク科長を演じた時も同じだったのか。

イ・ソンミン:コ・ジェハクは迷惑な医者だったけど、手術のシーンだけには真面目に臨みたかった。撮影する時もコ・ジェハクは悪党ではあるけど、医者という点を強調した。人の命でふざけてはいけない。コ・ジェハクに実力がないから治せないが、治療しながら患者を死なせる人ではない。せめてその職業は尊重しなければならない。

―コ・ジェハク科長とソル・ジュンソク社長が悪役に見えなかった理由も、彼らの職業に対する情熱だけは誰よりも熱かったからだ。

イ・ソンミン:ソル・ジュンソク社長は一生をラスペラに捧げた人で、コ・ジェハク科長はとても余裕がない人だ。切実に望んでいることに対してアプローチする方法の違いの差である。チェ・イニョクは正直に勝負をする人で、コ・ジェハクは少し卑劣な人として表現した。そういえば、本当の悪党はあまり演じたことがない。常に哀れな悪党を演じてきた(笑)

―相対的に悪役のキャラクターを演じる時も、自分で納得をした上で演じることができるタイプなのか。

イ・ソンミン:少しそうだと思う。どうしてこの人がこうなったのか、この人がどんな状況にあるのかを考える方だ。そのため、キャラクターに2つの面が共存するようになる。

―一番悩んで納得することが必要だったキャラクターは、KBS「大王世宗」のチェ・マルリだと思うが。

イ・ソンミン:ドラマを本格的に始めた時、演じることになった役だった。そして、最も愛情を持っているキャラクターでもある。チェ・イニョクよりもっと難しい役だった。世宗と対立するためには名分が必要だが、その名分というものが、視聴者が見る時、説得力を持ち、緊張感も維持しなければならないと思った。でも、台本にチェ・マルリは反対をし続けるばかりで、世宗は正しいことだけを言っているので、負けるのが当然な会話の中でどのように緊張感を維持すればいいのかと悩んだ。これは俳優の技量が必要だと感じた。俳優が持つ信頼度によって、チェ・マルリの反対が説得力を持つか持たないかが決まるということ自体が大変に感じられた。今、もう一度演じることができたら、本当にうまく演じる自信がある。

―そのような悩みがあったので、すべてのキャラクターが本当に生きている人物のように感じられるのではないだろうか.?

イ・ソンミン:慣性通りに行くより、その方が面白いと思った。チェ・イニョクも手術を行う時、救急状況である時、患者を連れてくる時、ウナに接する時、すべて違う姿を見せる。最初、クォン・ソクチャン監督とドラマ序盤に、チェ・イニョクが行った手術で患者が1人死ななければならないと思うという話をした。患者たちがチェ・イニョクに手術されれば生き返ると?それはあり得ないことだ。チェ・イニョクが完璧な医者、ファンタジーのように見えたら絶対いけないと思った。

「シットコムでみんな一緒に思いっきり遊んでみたい」

―「『キング~Two Hearts』のイ・ジェガンを通じて私が見せることができるのは平凡さ」だと語っていたことがある。俳優にとって平凡さということはどんな意味なのか。

イ・ソンミン:平凡ということは……ただ、街で見かけることができるおじさん?兄?のような姿だと思う。それが私にはあると思う。私は個性が目立つ俳優でもないし、キャラクターが強い俳優でもない。カリカチュア(似顔絵)で描くことが難しい俳優という話も聞いたことがある。最初、映画を始めた時はそれが不満であった。スクリーンに出る印象を観客たちの頭の中に刻まなければならないのに、それができなくて悩んだ。俳優がキャラクターを持つことは大変だと考えたこともあった。そんな中で、私の競争力は何だろうと自分自身に聞いてみた。そして、結論は、ただ何もないということだった。それで、イ・ジェガンを演じる時は、王ではあるが兄や普通の人間のような姿を見せたらどうかと思った。

―それでも同じ俳優が演じたとは信じられないほど、各キャラクターのインパクトが強い。台本に出ていること以上に、俳優自信が悩む部分が多かったと思うが。

イ・ソンミン:ある瞬間、これを着てもできるし、あれを着てもできるような立場になった。コ・ジェハクのようにパーマをかけたらコ・ジェハクのように見えて、イ・ジェガンのように行動したらイ・ジェガンのように見えることができた。今、考えると、むしろ良かったと思う。毎回、キャラクターを探し、キャラクターに出会い、ある地点で私自身と交差することを経験するが、その地点が過ぎるとキャラクターが固くなり、終わったらまた名残惜しく思う。毎回、感じる難しい過程である。特に、チェ・イニョクは胸の中にたくさん残っている。私と非常に似ていることもあり、他のキャラクターよりももう少し夢中になってチェ・イニョクに出会った。釜山(プサン)にずっといたため、ドラマばかり考えて俳優たちに会ってもドラマの話だけをし続けた。

―どんな部分が似ているのか。

イ・ソンミン:対人関係があまりよくなく、お酒も飲めない部分が似ている。若い頃はどうにかしてその場にいようとしたが、年を取ってからもお酒を飲まなかったら人々が連絡してくれなくなった。私の人生の中で私が先に友達になろうとしたことは一度もない。そのため、仕事がない時はほとんど家から出ない。

―俳優にとって最も重要なことは演技だが、それ以外に人々と付き合わなければならない部分もあると思う。だとしたら、性格とあまり合わない部分もあるのでは?

イ・ソンミン:俳優として知名度を得ることによって起こる様々なことにまだ慣れていない。でも、仕方ないことだと思う。俳優であり、芸能人でもあるということを自分で認識しなければならない時だ。人々が関心を持ってくれることについて気重に感じることなく、私が少し不便でも受け入れなければならない部分だと思う。

―それでも自分の性格上、これだけは絶対にできないということがあるとしたら?

イ・ソンミン:まだ、演技以外で人々の前に立つことが苦手だ。映画の試写会に行ったらフォトタイムがあるが、写真を撮られる時、まだ心臓がドキドキする。

―だとしたら、俳優イ・ソンミンが最も恐れるものは?

イ・ソンミン:今現在である。ドラマ一つでこれほど注目されるようになったことにまだ戸惑っているし、記者たちを集めてインタビューをする今もまだどんな状況なのかよく分からない。昨日も眠れなかった。演技をしながら適正のレベルを維持してきたのに、ある日、突然、大きな役を演じることになり、私が作っておいたラインから抜け出た感じがする。そのラインをもう一度取り戻さなければならないが、私が思う安定的なラインに戻ることができるかが心配だ。みんな、次の作品はどんな作品をするのかと聞いてくるが、それについてはまだ考えていない。もう脇役はできないのではないかと言われるが、「どうして?脇役をしたらいけないのか?」と思っている。私は別に構わない。いつも同じだから。必要とされたらどこにでも行ける。

―ドラマが終わり、演劇「そこ」に合流することになった。

イ・ソンミン:私の本来の居場所に帰ったような感じがして、非常に慰められている。パンにバターを塗って食べていたが、もう一度ご飯とキムチを食べるような気分である。演劇は今の私にとって、肉芽ができるようにしてくれるものだ。

―「ゴールデンタイム」のおかげで選べる作品の幅が広くなったと思うが、これから演じてみたい作品があるとしたら?

イ・ソンミン:シットコム(シチュエーションコメディ:一話完結で連続放映されるコメディドラマ)をいつかやってみたいと思う。(私が)正劇をシットコムのように演じるという話も聞いたことがあるので、私と少し似ている部分もあると思うし、即興的な演技をしてみたい。シットコムで、みんなで一緒に思いっきり遊んでみたい。シットコムは大変だと聞いたが、「ゴールデンタイム」もやったのに他にできないことなんてないと思う。ハハ。「ゴールデンタイム」に出演してからは、ほとんどのドラマができそうだという自信がついた。

記者 : イ・ガオン、写真 : チェ・ギウォン、編集 : イ・ジヘ、翻訳 : チェ・ユンジョン