「僕の妻のすべて」ミン・ギュドン監督“女性の抗うつ薬になってほしかった”

OhmyStar |


コメディの裏にある熾烈さ…ミン・ギュドン監督が語る「僕の妻のすべて」

この映画は、オスたちが以前から出しておくべき反省文だと思っていた。そういう旨のレビューを書いてネットユーザーから叱咤されたこともある。「なぜ女子は女子で、男子はオス呼ばわりするのか」と責められた。むしろそのような反応に感謝した。韓国の健康なオスの方々の反応だったからだ。

映画「僕の妻のすべて」は転げまわるほどの面白さや、聞き流せないメッセージが盛り込まれていた。映画の完成度云々を言う前に、キャラクターたちの、身震いするほどの寂しさがひしひしと伝わった。

映画を演出したミン・ギュドン監督がぽんと投げた言葉もやはり「寂しい」だった。その言葉を聞いて「やっぱり」と思った。そう、寂しい人じゃないとこのような映画は作れないと思ったのだ。

今回のミン・ギュドン監督とのインタビューに、過剰な感情が見えたりするかもしれないが、前もって断っておきたい。寂しい者同士で映画話を口実に“怪しいおしゃべり”をしたためだ。

「僕の妻のすべて」は実は2、30代の女性のための映画だった

―まず、おめでとうございます。観客動員数200万人突破を予想しましたか?「建築学概論」より5日早い記録ですが、この際、更に欲が出そうな気もしますが。

「まったく予想できませんでした。投資会社が原稿を読んで投資すると言い出したとき、おかしいなと思ったりもしました……(笑) 最初は小さな映画を考えていました。もちろん、そう観せないためにロケもしたし、視覚的な部分にも気を配りましたが、大きな岩のような作品と言うよりは、ゴマをかけたような細やかな味と言いますか。顕微鏡で覗いた日常を表現するつもりだったので、観客動員数150万人を突破すれば良いと考えていましたが……」

―「オスの反省文」というレビューを書いて、ネットユーザーから叱咤されました。監督の意図もそのような次元ではなかったでしょうか?

「正しく理解されたと思いますか?(笑) 映画のセリフにもオスという言葉が出てきます。映画を制作するにあたって、理由やテーマがはっきりしているべきだと思います。2時間の間、現実を忘れさせるとか、感受性を充電させるとか、その短い時間の中で、観客との接点を探さなければなりません。
この映画を制作するときは2、30代の女性の“抗うつ薬”のような映画になれば良いと思っていました。僕も寂しがりやで憂鬱になりがちなほうです。生きながらだんだん魅力を失っていると感じるし、興味もなくしています。『僕の妻のすべて』は特に女性を寂しくさせる男性を表現するために努力したつもりです」

イ・ソンギュン、リュ・スンリョンそして、イム・スジョンの新しい面を引き出す

―僕も常に寂しいです。この話は後にすることにして、今回の作品では既存の俳優をキャスティングしたにも関わらず、彼らがお互いに違う、新しい面を見せてくれたのが特徴だったと思います。どういう意図でしたか?

「映画の戦略でもありますが、この映画のストーリーは単純です。これでどうすれば緊張と感動を与えられるかを考えたところ、その答えは俳優の演技だと思いました。イム・スジョンさんは『あなたの初恋探します』(注:当時ミン・ギュドン監督は制作を担当した)のとき、隣で見てはいましたが、常に物足りない感じがしました。スジョンさんが持っているようで、まだ見せていない姿があると思っていたからです。

破る先入観が多くて、エネルギーになると思いました。映画の頭に露出が多いじゃないですか。10分以内にイム・スジョンがジョンインに見えるようにしないと、後の方で失敗するかもと思いました。『イム・スジョンが屁をこいて、小便もすると?』観客がこの部分で『はっ』と驚き、そのときのマイナスな印象を映画の後半で挽回する形を取りたかったです」

―リュ・スンリョンさんやイ・ソンギュンさんは、イム・スジョンさんとはまた別の戦略があったと思いますが。

「リュ・スンリョンさんは他の映画ですでに会ったことがあります。みんな彼を、強くてマッチョで暴力的なイメージの演技がうまい俳優だと思う傾向がありますが、僕はこの人にも、今まで観客が探せなかった姿があると思いました。実際会ってみると本人はとても面白く、女性らしく、繊細な面もあります。また女たらしのような雰囲気がありませんか?(笑) 典型的な浮気者ではないことで、さらにたくさんのものを引き出すことができると考えました。

『アンティーク~西洋骨董洋菓子店~』と『キッチン~3人のレシピ~』のときにチョン・ヘジンさんと一緒でした。イ・ソンギュンさんとチョン・ヘジンさんは夫婦じゃないですか。女優と暮らしていることをすごいと思いました。女優は普通の人とは違うアンテナを持つ人だと思います。彼女の夫として感じる色んな感情があるはずです。なので映画ではイ・ソンギュンらしい演技をして欲しかったです。イ・ソンギュンさんに、映画を現実に結び付ける役割をしてほしかったです。

3人の俳優を並べて見てみると、とても異質じゃないですか。映画ではそのような異質さが妙なバランスを生みました。彼らの呼吸が大変良く合ったんですが、これは運だったと思います」

―イ・ソンギュンさんも言っていましたが、ソンギ(リュ・スンリョン)は、この世の人ではないように思えます。神と言いますか?ソンギに対する意図は何でしたか?

「天使だと思いました。西部劇に例えると、シェーンのような存在?問題が発生するとパッと現れ、問題を解決し、後ろ姿を見せながら、いつかまた帰って来ると言う存在!人間を深く理解している人物を描きたかったです。特に欧州型の女たらしを作りたかったです。そっちの話の中に、詩で女性を気絶させる男が出てくるじゃないですか。心を征服することが女性を征服すること!

またソンギは単純な征服欲の持ち主ではありません。ガールフレンドを失ったことがあるという人物設定にしました。インドネシアでガールフレンドが津波に巻き込まれる姿を見たという設定です。ソンギは泳げないので助けられず、その後は幸せな女性を傷つけながら自分の傷を癒すのです」

波の上でサーフィン中、ミン・ギュドン監督は選手だった

映画の話で夜を明かす勢いだった。ソンギの話だけでも、時間が過ぎるのに気づかず、ミン・ギュドン監督は話を続けていた。

なぜか映画の中の各キャラクターに、監督の内面が少しずつ分けて入れられたような感じがした。映画のソンギともっとも似ているような気がすると言ったら、「ソンギ?恐れ多い。僕はとにかく詫びるタイプ」だと、全力で否定していた。しかし地球の反対側で起きた戦争の話に涙ぐむというところでは、きっと彼は感受性の豊かな人だろうと思った。それだけ、他人に対しても理解が深いということだ。

ところが、監督の携わった作品たちと今回の作品を比べてみると、その違いが大きい。ミン・ギュドン監督自らも「自分の枠を全部なくして撮影した。未だ自分の映画でないような気がする」と語った。自分の枠を強調するよりは、俳優たちが存分に遊べる映画を考えたという。

「俳優たちに新しいことを要求するとき、僕のスタイルに合わせようとするのは望ましくないと思いました。なので、俳優たちも演じながら首をかしげたり、僕を信頼できない様子を見せたりもしました。そのようなエネルギーがハーモニーをなして良い効果が出たと思います。コメディ映画ですが、その過程はコメディではありません。俳優たちも変身することに対して敏感でした。神経を尖らせていたと思います」

今までの、人と物事を真剣に探求する彼の気質が、今回の映画ではコメディ性と商業性が出会い、妙な化学反応を起こしたのではないだろうか。社会と政治問題に興味があると知られていたので、今回の映画のヒットを機に、本当に“ミン・ギュドン監督らしい”映画を観たいと期待することも事実だ。

「僕の映画の歴史は定まっていないですよね?(笑) 僕の意思ではなかったと思います。監督もまたスタッフと同様、雇用された人だと思います。ある監督はスリラーが上手いにも関わらず、コメディ映画の巨匠になりました。僕の映画が、僕の好みでない一部を含んでいますが、改めて観るとそれが自分の人生、自分の映画のような気がします。簡単に言うとアイデンティティの定まらない監督といいますか。

ウディ・アレンのように、一つの物語を自由自在に変える監督がいれば、その反対の監督もいます。僕はホラー映画があまり好きじゃないですが、それでデビューし、普段あまり面白くないですが、コメディ映画を撮りました……(笑)」

次の作品について尋ねると、昔から彼が精を尽くしているシナリオがいくつかあるらしい。それらは6本もあり、すべて韓国社会に根強く残る問題を取上げた内容だった。青少年犯罪の問題、日本従軍慰安婦の問題、開放直後の韓国の時代像など。

「ホロコースト(ドイツがユダヤ人などに対し組織的に行った大量虐殺)を取りあげた映画だけで20万本が作られたそうです。しかし韓国の歴史を取りあげた作品は何本あるでしょう?(作られないのが)おかしいのです。歴史的再現は意味がないと思いますし、本当に上手く作る必要があります。僕がすべき、喚起すべき部分を探しています。観る立場からは面白くなければいけないわけじゃないですか」

仁川(インチョン)で生まれ、慶尚南道(キョンサンナムド)浦項(ポハン)近くの田舎で幼少時代を過ごした後、大学はソウル、留学はパリと、波乱万丈の人生を送っているミン・ギュドン監督。自ら一つの場所に定着せず、色々な場所を転々とする運命だと話すミン・ギュドン監督は、自身を「大きな波に乗ってサーフィンする人」と例えた。期待してみてもよさそうだ。彼は熟練した選手だから。

記者 : イ・ソンピル