「火車」キム・ミニ ― “Uターンするつもりはない。強い覚悟で挑んだ”

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写真=キム・ジェチャン
風邪を引いたという女優キム・ミニはコンコンと咳をしていたが、予想以上にたくさんの話をしてくれた。全てのシーンに誠意を込めたという印象を受けた映画「火車」(監督:ピョン・ヨンジュ)の公開前の前売り率がトップを記録しているためであろうか。キム・ミニに「火車」の話はいい処方箋のようだった。キム・ミニは親しい先輩であるコン・ヒョジンの映画「ラブフィクション」と競争することになったという話に、「ジャンルが違うからあまり心配していない。『火車』には最低でも300万人を超える観客に観に来てほしい」と言った。7日のキム・ミニは、コンディションはよくなかったもののエネルギーだけは最高潮だった。

◆「血だらけの怪物を演じたシーンは、私が見てもぞっとする」

―キム・ミニってこんなに演技ができる女優だったっけ、とみんな驚いている。しかし、過小評価されたという話にもなる。恨めしくなかったか。

「これまで興行作、代表作がなかったからだと思う。よそ見もせず頑張ってきたのに、“再発見”という表現までされると、少し残念な気持ちになった。『モビーディック』も思ったほど興行できず、ドラマも注目されなかったからだ」

―「お熱いのがお好き」で、百想芸術大賞の女優主演賞を受賞した。

「それはもう4年前のことだ。作品を選択する基準があまりにも高いのではないかと時々言われるが、そんな話を聞くと悔しい。シナリオがこんなに入らないこともあるんだねと言うほど、誘いがなかった(笑) 所属事務所の代表に、私あてに入ってくる台本は選別せずにそのまま持ってきてくださいと言ったくらい。それでも私の手元に届く台本はあまりなかった」

―読み終わったシナリオは捨てるのか。

「勝手に捨てると流出の恐れがあるので、会社に返す。コピー用の裏紙に使えるからと言って、喜ばれた(笑)」

―もしキム・ミニがまだ知られていないチリのような国で「キム・ミニフェスティバル」が開かれるとしたら、どんな映画を出品したいのか。3つの作品を選ぶと?

「まず『火車』と『お熱いのがお好き』、そしてまったく異なる感じの『女優たち』を出品したい。昨日、『女優たち』のイ・ジェヨン監督が『火車』を観にきてくれて、久しぶりに再会した」

―素足で走るシーンがあった龍山(ヨンサン)駅でのシーンがすごかった。監督が「身持ちの悪い女、淫らな女のように走れ」と注文したと聞いたが。

「龍山駅での撮影が許された期間がたった3日だった。劣悪な状況だったため、もっと強い集中力と、没頭する能力を必要とした。お陰でエスカレーターでのシーンとデパートを走るシーンなど、重要なシーンをワンテイクで撮影することができた。足首が痛くて足をひきずって歩いている私に、いきなり監督が「幻を見たソニョンが罪悪感を持つシーンを一つ追加しよう」と言って途方に暮れた記憶がある。でも後で映画を観たら、エンディングとつながる重要なシーンだった。監督に感謝した」

―普段もそんなに勇気のある性格なのか。

「もともとは怖がり屋だけど、演技する時は変わる。演技をきちんと学んだ経験はないが、集中力だけは自信がある。演技もテクニックよりは配役に馴染むスタイルで、「キム・ミニの演技はどこに跳ねるか分からない」という話を聞くたびに、それとなく痛快で気持ちよくなる(笑)」

―相手役の俳優のリアクションなしに、一人で演技するシーンが多いからか、より引き立っていたように思う。

「寂しかったけど、まるで昔からそれを求めてきたかのような気持ちで楽しく撮影した。下着姿で血だらけになる問題のシーンも、最初はいろいろ悩んだが、ぶつかるしかなかった。家で血だらけになって練習できるわけでもないし(笑) 後でモニターで確認する時に、「本当にあれが私なのか」と思えるほど不慣れな感じだった。ところが、そこからすごくぴりぴりとした快感が感じられた。強い覚悟で挑んだシーンだった」

―演技だけど、下着姿でスタッフの前に立った感想は?

「初めは最少人員で撮影したが、時間が経つとほぼすべてのスタッフが現場に入ってきていた(笑) 怪物になったソニョンをどのように表現すればいいのか悩んだが、いざ撮影が始まると、私の体が自然に動いていた。恥ずかしいと思う暇はなかった。当時の私の精神状態はすでにある一定の線を越えていた」

―もし生き返ったソニョンと会えたら、何を話したい?

「悲しくて涙を流すと思う。憐憫や恨みよりも複雑な感情になって、ずっと何も言わずに互いを見つめると思う。どうかもう少し楽に幸せになってほしい」

―映画には人生を破滅させる借金の話が出てくる。消費者金融を利用した経験は?

「当然ない。そんなはずもないけど、もしそのような会社の広告依頼が入っても絶対しない。女優はイメージが重要だから」

◆30歳になったら、むしろ心が楽になった

―映画を観た人々が、後に「火車」についてどんな内容を話すと思うか?

「無関心と借金、個人破産で絶望する周りの人々、クレジットカードの使い回しなど様々な話が出ると思う。最近、SBSの「それが知りたい」である女性を殺害し、自分の身分を彼女に変えた女性の話が放送され、びっくりした。映画のような事件が本当に現実で起きるだなんて、驚いた。」

―映画の中でイ・ソンギュンが「捕まるな」と言う。そのセリフは愛なのか同情なのか。

「愛だと信じている。唯一ソニョンを理解し、かばってくれたのがムノ(イ・ソンギュン)だ。親に捨てられ、離婚の経験もあるソニョンを愛してくれた、たった一人の男だ」

―本人の演技を自ら評価すると?

「“個性的で独創的だ”という評価を聞きたい。100%満足するわけではないけど、限りなく近づいたような気がする。俳優が自分の演技に確信を持てないことは、観客に対する冒涜だと思う。そのような点で私は自分に対する信頼と自信がある」

―この映画のために参考にした作品はあるのか。

「『火車』のためにモニターした作品は特にない。個人的には『Black Swan』みたいな映画が好き」

―配役からうまく抜け出すことができるほうか。

「本当にうまく抜け出す方だ(笑) 元気だからか、早く没頭し、早く抜け出すタイプだ。地方での撮影が多かったが、ほぼ毎日スタッフと一緒にチキンとビールを楽しんだ。部屋に一人でいてもすることがない。そうすると、いつの間にか私のことをヌナ(お姉さん)と呼ぶスタッフが多くなっていた(笑)」

―地方のロケに行く時、必ず持っていくものは?

「アロマキャンドル以外に、特に持っていくものがない。服も寝巻き、ジャージだけを持っていた。監督に『君が本当にファッショニスタなのか』とからかわれた(笑)」

―「火車」の観客は何万人くらいだと思う?

「さあ……300万人くらい?(笑) コン・ヒョジン先輩の「ラブフィクション」もうまく行っているけど、ジャンルが違うからいい競争になると思う」

―デビュー後、初めて女性監督と一緒に仕事をした感想は?

「現場で一度も怒鳴ったことがないほど、コミュニケーションがよく取れている監督だった。私も敏感で気難しいタイプではないので、互いにすぐ適応したと思う」

―幸せとは何かを考えさせられる映画だ。「人間キム・ミニ」の幸福指数は?

「幸せは私たちの周りにたくさんあって、それは発見する者が得られるのだと思う。欲張りは死ぬ瞬間まで『もう少し』を叫ぶだろうし、欲を捨てた人は毎日幸せを満喫して生きることができると思う。そのような面で私は欲のない女だ」

―欲がないなんて、ありえるのか。

「モデルとしてデビューした10代は、ある程度の反抗期があった。20代にはその年に相応しい混乱も味わった。ところが、30代になるとむしろ心が楽になる。年を取るのがもう怖くない」

記者 : キム・ボムソク