「悪いやつら」チェ・ミンシク“妻に今回は良かったと言われた”

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写真=キム・ジェチャン
彼は相変わらずKT&G(韓国のタバコ会社)の顧客であった。
50分のインタビューの間、タバコ「ザ・ワン」を4本も吸った。最後の1本を吸い切ると、スタッフに「これ一箱買ってきてもらえますか」と頼んだりもした。
フィルターのギリギリ、端っこの1cmまでニコチンを吸い込む彼の姿には、映画「悪いやつら」のチェ・イクヒョンが重なって見えた。
チェ・ミンシク(49)は映画「酔画仙」でカンヌ国際映画祭に参加した際に筆者と経験した小さな思い出を覚えていた。まずはベーシックな質問からしてみようか。


釜山(プサン)弁、「なめていた。恥ずかしい」

―公開前から反響が熱い「悪魔を見た」よりも優れているという評価だ

チェ・ミンシク:韓国の1980年代を経験していない人でも、男なら、特に家長なら共感できる内容だ。ただ、序盤の興行成績の鍵は20代女性なので、そこが少し気になる。タイトルのせいで、ゴロツキの親分と刑事のありきたりな対決を描いた映画だと誤解されるのではないかと、心配になる。

―この映画を選んだのは、相棒とも言えるハン・ジェドクプロデューサー(PD)のためなのか

チェ・ミンシク:違う。ハンPDが加わる前に、シナリオが送られてきた時から決めていた作品だ。雰囲気やジャンルはこれまでの作品と似ていても、個性的で、やったことのないキャラクターだったので気に入った。主体性のある作品だったし、だからといってトレンドを意識しすぎた内容でもなく、新鮮だった。

―権力の甘汁に慣れていく主人公であるということから、映画「われらの歪んだ英雄」を思い出した

チェ・ミンシク:見方によっては、そうなのかもしれない。観客と会話をしていると、本当に思ってもいなかった発想と解釈が出てくるし、その度に驚かされる。映画も受容の美学が重要なジャンルだから。多様な解釈が出るほど気持ち良いものもない。

―どんどん悪者になっていくイクヒョンが、ぐっすり寝ている息子の頭をそっと撫でるシーンが印象的だった

チェ・ミンシク:草稿にはなかった内容だ。イクヒョンの父性愛は、俗っぽい言葉で言うと「なぜこんなに必死になってバカな真似をしているのか」を見せる必要があり、そのために追加されたシーンだった。個人のためなのか、それとも家族を守りたいという使命感からなのかを、そんなふうに途中にシーンを入れて見せたかった。

―劇中でイクヒョンとヒョンベ(ハ・ジョンウ)は、慶州(キョンジュ)チェ家忠烈公(チュンリョルコン)派の子孫だという設定だが

チェ・ミンシク:僕は、実は全州(チョンジュ)チェ家の者だ(笑) 向こう(慶州チェ家)から抗議されなければ良いが… フィクションであることは知られているし、観客の認識も高くなっていると信じるしかない。

―セットでの撮影は10%未満だったと聞いている。行商人のように歩き回る撮影だったのか

チェ・ミンシク:取調室のシーンを除けば、90%以上の撮影が屋外で行われた。時間の流れ順に撮影することもできなかったので、ロケーションハンティングチームと演出チームがとても苦労をした。

―極限の感情を噴出するチェ・ミンシクなりの演技の秘訣があるのか。後半のために感情を抑えるとか

チェ・ミンシク:そのようなテクニカルなものではない。与えられた状況の中で与えられた人物に最善を尽くす、これが僕のやり方だ。強弱の問題ではない。今この瞬間、この人物の感情が爆発するのかが先だ。俳優という楽器は、その瞬間出すべき音を正確に出すことが重要だ。

―多くの新人俳優が、演技の際に「手」をどうすればいいのか分からないと言っている

チェ・ミンシク:結局まだキャラクターと密着できていないという話だ。僕も昔はそうだった。手が役に溶け込んでおらず、アクセサリーのように感じられた。舞台だとさらに目立つ。稽古を積み重ねるしかない。手や視線をどうすればいいのか分からないというのは、その分稽古が足りないということだろう。だから、僕は演劇の舞台に立つことをアドバイスすることもある。物理的な稽古をいくらしても、心がリラックスできていないと、意味がないから。

―釜山弁への自身の評価は

チェ・ミンシク:正直に言って恥ずかしい。最初は一生懸命練習すれば良いと思っていたが、そうではなかった。1年は釜山で暮らすべきだった。舐めていたとも言えるが、仕上がった映画を見て本当に恥ずかしかった。言葉は習慣であるし、意識をしなくても出てくるように、自分の中に浸透していなければならないが、一夜漬けの勉強のように台詞を暗記していた跡が残っていた。これは認める。


「悪魔を見た」を見た妻、「尋常ではない」

―心の中で、期待している観客の反応があるとしたら

チェ・ミンシク:「あぁ、これ誰が見ようと言ったの?」といった不満さえ出なければ良い(笑) 男性の観客はあまり心配していないが、女性の観客が気になる。幸い、試写会に来た女優のチョン・ドヨンやキム・ソナ、ソ・ユジンなどの後輩に遠慮なく言って欲しいと言ったら、「面白い、ヒットする」と話してくれたのでホッとした。

―重いストーリーではあるが、程よい笑いとブラックコメディ的な要素がよく混ざっていた

チェ・ミンシク:難しい話を難しくするのは誰でもできる。重要なのはそれをどうやって易しく伝えるのかだ。ユン・ジョンビン監督は非常に才能がある。例えば、組織のボスであるヒョンベがライバルのパノを意識して「ケンカだと俺が勝つ」と言うのもとても面白い。面子を重んじる正義の味方というやつが、1対1だと勝つと幼稚にケンカが強いことを自慢するなんて。

―鏡の中の自分に拳銃を向けるシーンは、映画「タクシードライバー」のロバート・デ・ニーロのオマージュだった

チェ・ミンシク:監督がカッコつけてみろというので、やってみた(笑) 実は色んなバージョンで撮ったが、最も悲壮で硬い表情のカットが使われた。

―宗親会(同じ姓を持つ家系の組織)を動員する圧力団体のイクヒョンの姿も風刺的なものがあった

チェ・ミンシク:例えば、親や子供が重い病気にかかったとしたら、誰もが最も良い病院に知り合いがいないか探してみるだろう。権威のある医者に診察してもらおうと、あらゆる手段を使うかもしれない。他の人には迷惑になるだろうけど、人生ってこんなもんだと自分に言い聞かせるはずだ。イクヒョンの虚勢や世渡りもそのような哀れなところがある。人は誰もが弱くて寂しい。だから何か繋げてくれるものを求め、それに頼って生きている。本当に強い人は一人でも生きていけるだろうが。

―その中でも韓国人が特に「絆やコネ」に弱い理由は何だろうか

チェ・ミンシク:韓国には宗親会や同窓会、会社の集まり、軍隊など、数え切れないほどの絆やコネがある。「歩兵学校○○期の集まり」などもある(笑) でも、そういうのを見ていると可愛いというか、哀れなところを感じる。寂しくて弱くて不安だから連帯意識を盾にしているんだ。僕も含めて、韓国の男は、実は寂しくて哀れな存在だ。

―もしチェ・イクヒョンと飲む機会があったら何を話したい?

チェ・ミンシク:まずは息子さんが司法試験に合格したことを祝ってあげたい(笑) 快く焼酎でも一杯やりながら、「これからは余裕を持って、人に善を施しながら生きていこう」と励ましたい。「いつかは死ぬ人生だ。何の栄華のためにそんなに必死に生きてきたのか」と責めてもみたい。

―作品の数が少ない特別な理由があるのか

チェ・ミンシク:平均して1年に1作ぐらいやっているが、足りないとは思っていないし、後悔もない。「忘れかけた時に出てくる」と言う人もいた(笑) 作品の選択は、フィーリングに合わないとダメだ。惹かれるのもがなければ、やらないのが正解だ。少しずつかじるようなことはしたくない。

―最後に、映画を見た奥さんの反応は?

チェ・ミンシク:面白かったと言ってくれたので、ホッとした。「悪魔を見た」の時は怒られた。友達と映画を見てきた妻が、家に帰ってきたとたん「映画を撮ったのかと思ったら、とんでもないことをしていた」と僕を責めた。友達も映画を見ながら「ご主人、どうしたの?」と言っていたらしく、傷ついたと。「悪いやつら」は妻に面白いと認められた映画だ。

記者 : キム・ボムソク